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来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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ハルカとミリアンの誘拐【4】

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 不安で怯えた猫のようになっている筈、とクラインが過剰な心配をしているハルカは、元が粗食にも長時間労働にも耐性のある貧乏学生で、劣悪な住環境(すきま風吹き込みまくりのボロアパート)でも風邪も引かず熟睡出来るという、実生活に裏打ちされた丈夫な人間だったため、拐われ縛られて舗装されてない道をガコンガコン揺れながら走る馬車の中でも、意外に熟睡出来ていた。
 
 そりゃ、いくらお気楽と自認しているハルカとは言え、理由も解らず拐われたら怖いし不安もよぎる。

 でも、理由も判明したし、別にミリアンも自分も殺される心配もなさそうだし、それなら「とりあえずまあいいか」という結論になるのは致し方ない。(ないのか?)


 ミリアンはもう1台の馬車に乗ってるようで、顔が見えないのが気になるが、2日位したら港に着くのでそしたら会わせてやると言われたので我慢しましょうか。

 一度目覚めた時に、


「先にお伝えしておきますが、フライングでもしミリアンに怪我させたり悪さしたら、私はどんな暴れ方するか分かりません。転生者の魔力は膨大なので、暴走したら自分でも止められるか不明です。そちらの国がうっかり滅びたらすみません」

 と元はイケメン風のハンプティダンプティのような体型のお兄さんに伝えたところ、わわわ分かったとコクコクして一旦馬車を止めてもう1台の馬車に急いで移動してたので、ミリアンには手を出すようなバカな真似はしないでしょうし。


 馬車の御者席には何人か人は乗っているようだが、閉じ込められてる馬車の中はハンプティダンプティが移動したので一人である。


「さて、と」


 精霊さんズを呼び出し、いい加減痺れてきた手足の縄をほどいてもらう。
 別にすぐほどいてから眠っても良かったのだが、あのむちむち兄さんがどっか御者席にでも行ってくんないかなーと待ってる内に睡魔に負けただけである。

 ミリアンのこともあるし、いきなり

「すみません縄とか何の役にも立ちません」

 とばらしてムダに警備が強化されるのも少々鬱陶しいし。

「やれやれ、と。お腹すいたなぁ………」


 自分の腹時計を確認すると、大体昼過ぎ位だろうか。

 確実に紅茶飲んでから半日以上は軽く過ぎてるやないかい。

 アイテムボックスからカツ丼と味噌汁を取り出し、精霊さんズにはマーブルクッキーを渡す。

「ハルカ、どうするの?」
「やっちゃう?あの兄弟。護衛もミリアンも今のところ無事だし。もう大事な奇跡の手がロープで縛られて青アザ出来てるじゃない!」
「そうよ大事なハルカにこんなひどい扱いするとか許せないわ!」

「いやいや、私自身はともかく、ミリアンに何かあると大変だからここは穏便に」

 なんですか奇跡の手とか。

 スイーツやご飯作るだけで奇跡の手扱い止めてもらえます?
 ある程度の成人は料理は大概出来ますからね日本では。

 まあ趣味レベルなんで普通よりは色々と作れるだけですからね。

 むしろ綺麗な絵が描けたり細かいプラモデル組み立てたりとか箱庭とか作れる人の方が、個人的にはすごいと思うけども。

 精霊さんズを話し相手に食事を済ませ、一息つくとようやく頭が働き出す。

 あーしかし、飲み物出すわけでもなく食べ物くれる訳でもなく。長いこと馬車で運ばれてる割りにはトイレ休憩もないぞおい。

 ミリアンもお腹空いてるだろうし、ノンストップで走る馬車の人もご飯食べてないんだろうなぁと思うと、仮にも妻にしようとする人間と友人と部下に対して扱い酷くねえっすか坊っちゃん?と思う訳です。

 これは拐われた理不尽さとは別にしてだけどね。あの人と結婚する気は全くないですし。
 人に思いやりを持てない人間には好意を持ちようがないのだ。

 ………しょうがないなぁ。

 馬だって疲れるだろうし。

 ハルカは軽く息をついた。



「あのーーー、すみませーん」

 御者さんの辺りで声をかけると、なんか話す声が聞こえ、ちょっとして馬車が止まった。

「なんですか、今は森の魔物多い場所なのでトイレはもう少し待って………って何で縄解いてるんだよっ!!」

 顔を覗かせた騎士っぽい兄ちゃんが、慌てて入ってきた。

「ちっとばかり痛かったので?大丈夫ですよ逃げないですから。人質もいますし。
 ………ところで皆さんお腹空かないですか?一休みしてご飯でも食べません?ミリアンにも食べさせたいしずっと働かせっぱなしは馬にもキツいと思いますよ。
 ミリアンには会えなくとも渡して貰えるだけでいいですからお願いできませんか」

 出来立て保存のウナーギ丼や焼肉丼などを取り出してハルカはにっこり微笑んだ。
 精霊さんズが気を利かせたのかふんわり香りを漂わせる。にくいねこの。


「………いや、でも、止まるのは魔物が………」

 ヨダレが垂れてるのに気づいてない騎士さん。見ないことにする。

「あー。大丈夫ですよ、私が結界張りますから問題ないです。腹が減ってはなんとやらと言うじゃないですか」

 ハルカは温かいお茶もアイテムボックスから取り出した。

「30分や1時間位休憩したところで目的地到着に大して影響ないですよ。あ、食後のオヤツでシュークリームとかもありますけど?」

「………ちょっと待っててくれ。上に聞いてくる。本当にもう一人と会わせなくても、その、飯とかをくれるんだな?」

「ミリアンにもちゃんと食べさせてくれるなら喜んで」

 嘘ついたらすぐ分かるんだよ的オーラを出して微笑む。本当は全く分かんないけど。
 ほら、なんか転生者ってなんでも出来そうなイメージだから。

「………少し待っててくれ」

 騎士さんが仕切りの布の向こうに消えていった。



 待つこと10分ほど。



「上からOKが出た。とりあえず向こうの馬車に持ってく飯を出してくれるか?」

「何人ですか?」

「イアン様とボリス様と同僚三人、あと物凄く暴れてうるさいお宅の友達が一人」

 主犯の名前さらっと出てますけど大丈夫ですか。

 あのむちむちさんの弟はボリスというんだな。頭の中でメモしておいた。

「6人、と。じゃメニュー何にします?海鮮丼とかカツ丼とかチキン南蛮丼なんかもありますけど。あー、肉野菜炒めとご飯なんかもご用意出来ますね。あとスイーツなんですが、シュークリーム以外に大学芋と芋羊羹、パウンドケーキにプリン、フルーツゼリーがありますが」

「ちょちょっ、ちょっと待て。書き留めるから。………マーミヤ商会はそんな大容量の時間経過の遅い携帯用アイテムボックス持てるのか。いやぁ、すごいな!」

「………ええまあ………」

 時間経過遅いってより、ないですけど。
 いや、ありなし分けられますけど。
 セルフアイテムボックスですから。

 金持ち扱いされとくと、こういう時にちょいちょい便利なので否定はしない。

 ついでに馬車2台の周囲を結界で覆っておく。旅生活でこの辺の作業は慣れたものである。

 メモした紙をもってイソイソと出ていく騎士を見送りつつ、ハルカは

(………なんだか、今の騎士さんは悪い人には見えないんだけどなー。やっぱり、上がああいう人だと色々としがらみや苦労も多いのかしらねぇ。お新香もつけたげるかな)

 などと少し同情してしまうのだった。





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