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ボスマダーイはていすてぃー。

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「………ボスマダーイをぶつ切りに………」

 私たちが無事ピノの町に戻ってくると、そのまま商業ギルドに向かった。

 ギルマスであるザギールがジェイソンの話を聞いて飲んでいたコーヒーのカップを落下させた。

「いやぁ俺もビックリしたよ!空から切り身になったボスマダーイがひゅんひゅん飛んでくるからよ、必死で網から出しては水槽に投げ込んでよ。いやもう驚いたのなんのってよー」

「いやいや本当に今回はプルちゃん一人が頑張ってくれたというか、もう私なんてただボスマダーイにぱっくり呑まれただけですからねぇ。持つべきものは強い友人でございましてね、えぇ全く」

 ハルカは港に着く前に、アイテムボックスにボスマダーイの切り身を嬉しそうに詰め込んで、ついでに普通サイズのマダーイもぽいぽい仕舞い込んだ。
 普通サイズといっても50センチから1メートル位の結構な大きさばかりである。

 それでも大漁だったので沢山残っていたが、あとはジェイソンさんの経費と取り分と言うことで、貰いすぎだと言うジェイソンさんにまた何かあった時に協力を求めるからと押し切った。


「相変わらず無茶苦茶ですねハルカさんは」

「いやー強さが無茶苦茶なのは仲間でして、私は本当にもう雑魚レベルで、皆に助けてもらって辛うじてランクが上げられたなんちゃって冒険者でしたからーあははははっ」

 クラインは横目でハルカを見る。

 未だに異世界人である事を知られないよう無意識に自分を弱くて料理するしか取り柄のないダメ人間押しをしているが、ここまで大きくなったマーミヤ商会のトップがそんなダメ人間な訳なかろう、と誰もが内心思っている事には気づかないところがハルカの抜けているところだ。そこが面白くて可愛いのだが。

「………討伐報酬は弾んでやれよジェイソン」

「勿論さ!これでみんなも安心して漁に出られるしな」

「いや、別に討伐報酬は………むしろボスマダーイの切り身がご褒美というか」

 ハルカが断るが、ジェイソンが首を振る。

「それは駄目だハルカ。正当な報酬を貰わない事で、周りの人間が報酬を貰いにくいような流れになる。
 冒険者達が逆に暮らしにくくなるから、変に遠慮されても困るんだよ」

「………そうか、そうですね。それじゃ頂きます。でも私の名前は出さないように、プルちゃんとクラインの名前でお願いします」

「ん、分かった。引退した冒険者があまりでしゃばった感じになるのもアレだろうしな」

「いや、俺様は冒険者登録してないぞ。ただのレストランのチーフだし」

「俺ももうすぐ公爵位になるし、結婚前にあまり派手な事は避けたいな」

「クライン様は、元から剣の腕には定評ありますし、今回はハルカさんとの結婚の為に頑張ったー、と言うことで。
 プルさんも一介の接客業が簡単に倒せる奴じゃないですからね?ボスマダーイなんて。登録しておかないと揉め事の元になりますから」

「………仕方ないなー」

《ワシはワシは》

「ラウールさん聖獣なのに冒険者になってどうするんですか。ランク付けられないですよ畏れ多くて!!依頼も出せないでしょうが!」

 ザギールさんがキレた。

「ハルカさん達は本当に行動パターンが読みきれなくて困るんですよ!
 いえ助かるんですけどね、帳尻合わせが大変なんですよ色々と!!」

「………怒りながら感謝されてもなー」

 とハルカが呟いて、まあでもハルカのところが割と特殊なのは間違いないので、

「何だかすみません色々とお手数かけまして」

 と謝った。

 そして、笑顔になり、

「お腹空きませんか?お腹空いてるとより機嫌が悪くなりますから、ご飯でも食べませんか?ボスマダーイで」

 と尋ねる。朝早く出てから現在、昼を既に過ぎている。クロノスは帰りのガソリン補充で海に出ずに黙々と食事をしていたが、ハルカ達はもうペコペコである。

「………ご相伴にあずかっても?」

 ザギールがずれた眼鏡をくいっと直す。

「いやだな勿論ですよ!ジェイソンさんも食べますよね?」

「もちろん食うに決まってるだろう!」

「じゃあ、どこかキッチン貸して下さい」



※  ※  ※


 考えてみたら、これからオープンする『はちべえ』のキッチン使えばいいか、と言うことでゾロゾロと店舗に向かうと、ちょうど中では内装工事が一段落したところのようだった。

「………あれ、ハルカさんじゃないっすか」

 ハルカがんん?と見ると、いつもお世話になってるピーターさんのところで働いていたお兄ちゃんだった。
 自宅の方でも仕事してくれていた覚えがある。

「あら、こちらに出張仕事ですか?」

「そうなんすよ、今うちの職場みんなあちこちに飛んでまして。マーミヤ商会の仕事一手に引き受けてるもんで、各町の繋ぎも兼ねてっすねぇ」

 ハルカはペコペコと頭を下げた。

「すみませんねえいきなり急ぎの仕事押し付けてしまって」

「何いってんすか。マーミヤ商会のお陰でうちの会社も儲けさせてもらってますし、社長も『楽しい仕事が多くて面白い』って感謝してますよ!」

「それはそれは………ん?これからお昼ご飯ですか?」

「え?あー、キリのいいとこまでってみんなでやってたらちょっと遅くなりまして。はははっ」

 ハルカは気づかれないようにそっとみんなのご飯を見たが、丸いフランスパンみたいなのと飲み物だけだ。体力仕事なのに質素すぎるではないか。

「ちょうど良かった!私たちもお昼ご飯なんですよ。皆さんの分も用意しますので一緒に食べましょうよ。キッチン使えますか?」

「え?使えますけど。………マジっすか?おーい、みんな、マーミヤ商会で昼飯用意してくれるらしいから持ってきたのしまえー」

「おーっ、やったーマーミヤ商会の飯だーっ!」

「ほんとか?今日はいい日だなー!ありがとうございますー!!」

 口々に笑顔になるオイチャンや兄さん達に、

「今日はマダーイが大漁でしたからねー。生物ダメな方居ますかー?………うん、いないみたいですね。それじゃ、少しだけ待ってて下さいね~!」

 クライン達に移動食堂で使っていたテーブルと椅子を取り出し設置してもらうよう頼むと(ここは立ち食い店だから椅子がないのだ)、ハルカはキッチンに入り、内部が見えないよう結界を張る。

「精霊さんズや、お仕事お願いしますー」

 出てきた精霊さんズに1メートル四方のボスマダーイの切り身を取り出し、鱗を取ってもらう。

 そしてでかい土鍋を幾つかアイテムボックスから出すと、米を洗い、ネット通販で買っておいた昆布をポイポイと入れた。ショーユや酒、だしの素などを入れて適当な大きさに切ったボスマダーイを贅沢に放り込む。

 火魔法でボスマダーイ飯を炊いている間に、刺身を作る。白身なのに脂が程よく乗っており、ハルカは思わずヨダレが落ちそうになった。ワサビも目一杯盛り付ける。

 マダーイ漁で引っ掛かっていたホタテのようなパパリン貝とイセビーエ(伊勢海老もどき)もついでに刺身にして、残ったボスマダーイは半分ずつに分け、片方は一口サイズに切り分けて唐揚げに、もう片方はシンプルに塩焼きにした。

「お待たせしましたーー!」

 テーブル席に座って待っていた職人やジェイソン、ザギール、クライン達が運ぶのを手伝ってくれた。

「うわー………豪華だなぁ………」

「匂いだけで飯が食えそう………」

 ふははは、そうであろう。海の美味キング様の鯛だからな。

 ハルカは高笑いをしそうなほどテンションが上がったのを抑えつつ、

「マダーイ飯はよくかき混ぜて食べて下さいねー。あと唐揚げはお好みでマヨネーズつけるかレモーン絞って下さい。刺身はショーユとお好みでワサビを。
 それでは、いただきまーす!」

「「「いっただっきまーす」」」

 みんなで手を合わせ、早速唐揚げを頬張ったハルカは、

「………うまーっ!!ボスマダーイったらジューシーで超美味しいっ」

 これマヨネーズ絶対合うわ、と呟きながら更にマヨネーズもつけたものをモグモグ食べた。

「ヤバいわ、ちょっとプルちゃんマヨネーズ付けると激うまよ」

「マジか」

 すごい勢いでボスマダーイ飯をウマウマ食べていたプルが、マヨネーズを付けた唐揚げを口に放り込んだ。

「ッッッ!!うっまーーっ」

「ね?ね?クラインもほら、あーん」

「………もぐっ………うん、美味いな」

 顔を赤くしているクラインに、ごめんね、熱かった?、などと見当違いな事を言っているハルカは、食べ物に対してはやたらと積極的な行動を取っている事に気づいていない。

「でしょでしょ?ラウールはどう?」

 足元で塩焼きを食べていたラウールは、

《うむ。生もワサビとショーユ付けると生臭くなくてエエのぅ。だが塩焼きと唐揚げの方が好みじゃな。脂も乗ってるし、弾力があって美味いの。この身がうまく混ざってる飯も好きじゃなぁ》

 ともっしゃらもっしゃら食べまくっている。

 職人やザギール、ジェイソンも満足しているようで、

「信じられないぐらいウメーっ」

「………こんな食べ方があったのか………マダーイを炊き込み飯にするとは………」

「唐揚げマヨネーズ堪らんっ!酒が欲しいぐらいだ。絶対合うと思うんだがなー」

「塩焼きもいつものマダーイと違って味が濃厚なのが分かるぞ。流石にボスマダーイだな」

 など口々に誉め称えながらみるみる皿を空にしてくれた。



 食後、《ワシも少しは働くぞ》と携帯用のアイテムボックスをくわえると、森の方へ果物を採りに走っていった。


 やー満足満足、とみんながてれてれとお礼に商業ギルドでお茶でも、というザギールについていくと、ギルドの前でクロノスが泣きそうな顔で待っていた。

[お嬢たち酷いじゃんかっ!俺ほったらかして何処いってたんスか………あ、なんか美味そうな匂いしてるし]

「だって、クロノス寝てただろうが。いくら呼んでも起きなかったし」

 クラインはぺしりと頭を叩いた。
 クロノスは食料を補給してギルドの庭で爆睡していたので、仕方ないから放置したのだ。

「お昼ご飯食べてただけだよ。ちゃんとクロちゃんの分取ってあるから、食べれるなら私たちがお茶飲んでる間に食べる?ボスマダーイの唐揚げとご飯。
 帰ってからでもまた沢山作れるからね」

[お嬢ありがとう!勿論食べるっスよ!ゆっくりお茶して来ていいっスよ]

 ハルカから大きな弁当箱を受け取ると、早速ガツガツ食べ始めた。

 ウマ、ウマ、と聞こえるので、クロノスも気に入ったのだろう。


 ハルカたちはのんびりと紅茶を飲みながら、高額討伐報酬を見て冷や汗をかき、切れ味のいい包丁が欲しいと言うハルカの買い物にクラインが付き合い、ラウールが戻って来るのを待って夕方リンダーベルに戻ったのだった。




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