運命とは強く儚くて

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Ⅱ -8

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「行ってきます!」

「行ってらっしゃい、失礼のないようにね。気をつけて」

ラマール領へと出向く馬車に乗り込むデニスを抱きしめる。
これから1週間、ジュダとデニスはラマール領へと滞在し、鍛錬に励むことになる。

護衛に関してはさすがはラマール領、腕の良い護衛が何人も着いてくれた。
教育係のアッシアも楽しそうだ。

「…初めての一人旅だな」

「そうですね、可愛い子には旅をさせよと言いますけれど…少し心配です」

「大丈夫だ、俺もラマールは信頼している」

だんだんと遠ざかっていく馬車を見送り、帰ろうと踵を返すと少しお腹が張る。

いよいよ本格的にお腹が大きくなってきて、しんどい。
立ち止まると陛下が「大丈夫か」と心配しては抱き上げてくれた。

「重くないですか」

「お前は元々軽いからな、なんてことは無い」

陛下は武術の心得もあるからな、なんて思いながらそっと体に触れてみる。
硬い…自分とは大違いだ。

「なんだ?誘っているのか」

「違いますよ…陛下の体はたくましいなと」

「流石に今の時期にはしない。…体を動かすことは好きだったからな、その名残りかもしれない」

「動けるようになったら僕も馬に乗りたいです」

「その時は俺が教えてやろう。…だから頼むから…お前もこの子も無事でいてくれ」

心配そうな表情で額をこつんとぶつけてくる陛下の頬を優しくつつみ「大丈夫」と言い聞かせる。
正直、大丈夫は根拠はないのだが、経験のある人も近くにいて手伝ってくれる。

怖いと言えば嘘だ。本当に怖い。
痛いのも苦しいのも怖いし、お腹の子も自分も死ぬかもしれない。
自分が頑張らなくてはと言い聞かせながら何とかやっているほとだ。

ベッドへと運ばれ、また去ってしまいそうな陛下の腕をそっと引く。

「もう少しだけ、ここにいてくれますか」

「…そう可愛く強請られては断れないな。すぐ戻るから、少し待っていてくれ」

渋々頷くと、言った通り、紙束とペンを持った彼がすぐに戻ってくる。


陛下もベッドに入り、そこで仕事をしてくれるようだ。

あたたかい日差しにカリカリと響くペンの音、陛下の匂いと体温。

自分で言い出したのはなんだが、あまりの心地良さに冷静になってしまう。

「…すみません、こんなところで公務させてしまって」

「いや、お前が強請るのは珍しいから俺が嬉しかったのだ。…お前といると仕事が捗る、気にするな」

頭を撫でられ微笑む陛下を上目に見て軽く目を閉じる。

「…陛下は、乳母に育ててもらったんですか」

「ああ、母は元から体が弱かったし父もあまり構ってはくれなかったからな。…乳母は優しかった…が世話係はどうも苦手でな、何でもこと細かく口を挟んでくる」

うげ、と嫌そうに口真似をする陛下に思わず笑ってしまう。

「…乳母は…付けますか」

「そうだな…お前が付けたいのならつけるべきだが…デニスと同じように自分たちの手で育てたいとも思う」

「僕もそう思います。…けど僕は母乳がよく出るか分からないので」

色々な人に聞けば、出る人は十分に出ると言うし、全く出ない人もいる。
人によるらしい。

たしかにここ数ヶ月、胸が張ったりはするし少し膨らんだような気もする。
が、女性のような膨らみは全くないし、はたして出るのか分からない。
お腹を空かせたくは無いし、母乳が出ないのならそこは乳母にお願いした方が良いだろう。

「なるほど。…ではもし足りないようだったら乳母を雇って必要な時に手を借りるということにすれば良い」

「だがまずは2人とも元気でいてくれ」と頬を擽られた。

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