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前語り
書籍化記念SS/拭えぬ不安【side アストリア】
しおりを挟む王城の図書館には様々な魔法書がある。
王太子妃教育のあと、ここに寄るのが私の日課となっていた。
様々な言葉を組み合わせ想いの力を乗せて紡がれる魔法を編み出すのが好きな私は様々な知識を詰め込んでいた。
アイデアと魔力が噛み合ったときの嬉しさは格別で、つい試してみたくなったり。
自分は、本来なら沢山の魔法が使えるのにそれができないもどかしさもあって、新たな魔法ができたとき無力さが少しだけ消えた気がした。
「アス、やっぱりここにいたのか」
「クリス様」
柔らかな笑みを浮かべたクリス様がゆっくりと近寄ってくる。
お気に入りのソファに座っていた私の隣に腰掛けると、髪を一房取られて口付けられた。
「……辺境の魔物の数が増えているみたいなんだ」
数カ月前に発生した魔物は、既に騎士団が派遣された。その報告を聞いてクリス様はもどかしそうにしているのには気付いている。
国王陛下に直訴して自らも戦力として行きたいと言ったが、一人息子であることで反対されたらしい。
「こんなとき何もできないのは歯がゆいね」
「待つ場所を作るのも務めではないでしょうか」
クリス様は悔しげに顔を歪められた。
彼には行ってほしくない国王陛下の言葉も納得できる。
けれど、クリス様も行きたい気持ちを抑えているのが分かる。
「……そうだね」
――教会から聖女が派遣されたと知ってから落ち着かないのも分かっている。
けれど、このまま会わなければ。
なにも起こらずに何事もなかったように。
けれど、諦められなかったクリス様は教皇派に人気を傾けない為にも自らが行く必要があると国王陛下を説得を続けた結果、遂に陛下が折れてしまった。
なぜだろう。
漠然とした不安が私の周りにこびりついている。
「クリス様……」
「大丈夫だよ、アス」
行かないでほしい。そばにいてほしい。
嫌な予感はまとわりついて離れない。
縋るように見ても、クリス様の心はどこか遠くにあるようだった。
「無事に戻ってきてくださいね」
「……うん。帰って来たら結婚式だ」
クリス様が頬に触れ、私の額に口付けた。
(本当は……)
不意に湧き起こる感情に恥ずかしくなり顔が赤らんでしまう。
どうか私の赤茶の髪で隠してほしい。
「アス、愛しているよ。ちゃんと戻って来るから待ってて」
柔らかに笑むクリス様。
どうか、彼を守ってほしい。
何事もなく、無事に帰ってきてほしい。
私は願いを込めて祈った。
「ご無事で……」
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