死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます

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第二章/ユリアーナの幸せ

27.夜会


 王宮主催の夜会に出席するため、私(とカールハインツ)は馬車に乗って王城へ向かった。

 あらかじめ注文していたらしいお揃いのドレスは、黄色に近い淡い金地に銀の刺繍が刺してある、独占欲丸出しの恥ずかしいものだった。
 対するカールハインツは、紺地に赤と紫の差し色で、「きみとユリアーナなんだ」と頬を染めていたので、「嬉しいですわ」と答えた私の顔が無表情になってしまったのは仕方がないことだ。

 ユリアーナすらこっそりと「私の将来の旦那様は気持ち悪くない人がいいです」と付け加えていたから、よほどのことだろう。
 本格的に離婚を考えてもいいのかもしれない。だが、ユリアーナは両親が揃っている方がいいと言っていた。私の気持ちだけでその願いは叶う。
 堂々巡りの思考に囚われ、悶々としてしまっていた。

「マリーは久しぶりの夜会だな」
「……そうですね。毎度一人で参加でしたから、嫌味をよく言われて次第に行かなくなりましたが」
「なんて言われていたんだ?」

 頭痛を堪えながら今まで言われたことを全て伝えた。私が思い違いをしていたとしても仕方がないだろう。
 伝えたあとで、カールハインツは言葉を失っていた。

「本当に……すまなかった」
「今さらだわ」

 これ以上聞きたくなくて、ずっと窓の外を見ていた。
 馬車が停車場に止まると、カールハインツが先に降りて手を差し出してきた。

「お手をどうぞ、我が妻よ」

 いちいちキザったらしい仕草と言葉に反応して粟立つ肌を宥めながら手を取る。
 地面に降り立つと、すかさず腰に手を回してきたので、とりあえず叩いておいた。

 王宮内へ入ると、ホール内には既に人が集まって談笑していた。
 不自然にならない程度に目配せをすれば、カールハインツの愛人モドキがちらほら目に映る。
 隣の彼を見上げると、私の視線に気づいたのか甘い目をして微笑まれた。途端に辺りがざわつき出す。
「あら」とか「まあ」とかの他に黄色い悲鳴も混ざり、女性たちを中心にしてカールハインツに注目が集まっているようだ。

「マリー、前を向いて。きみは……美しいから」
「はぁ?」

 服の下に隠された肌が粟立つ。
 大真面目な顔をして言われても、返答に困る。

「今日は大多数の貴族たちが来ている。俺のことは嫌いでも、せめて取り繕ってほしい。ユリアーナに……不仲だと伝わってしまうかもしれない」

 ~~~~っ、最近思うが、何でもユリアーナを持ち出せば私が文句を言えないのが分かっていて外堀を埋めるのは卑怯だと思う。

「さて、マリー。きみに俺の愛人だと言ってきた婦人は誰か覚えているかい?」

 何をする気だろう? と顔を見上げれば、とてもいい笑顔を浮かべているのに、目はちっとも笑っていないカールハインツがいた。

「『朝まで離さなかった』とか言われたんだったか? 大体の予想はつくが……」

 彼が周りを冷徹に見渡せば、愛人モドキたちがビクッと肩を震わせた。

「マリー、俺は宰相をやっている。その中で……まあ、口では言えないようなこともしなくてはならない」
「……はぁ」
「おそらく、その関係者だろう。『朝まで離さなかった』は、『朝まで仕事をしていた』という意味だ」

 思わず目が瞬いた。

「え、と、では『きみとの時間の方が有意義だ』は……」
「それも仕事だな。俺は今まで仕事しかしていなかった」

 これはきっと深く考えてはいけなかったやつだわ。
 私が今まで思い違いしていたなんて信じたくない。だが、そもそもカールハインツが家に寄り付かなすぎたのが原因だ。
 本当に下らなすぎて、前回の私が浮かばれない。

「誤解はとけただろうか……?」
「そうですね。解けましたが、下らなすぎてもうどうでもよくなりました」

 脱力して言えば、今はむしろ、真にしてもらっても構わないとも思っている。
 ああ、ユリアーナ、母はどうしたらいいか分かりません。人目がなければこの男に拳を差し上げたいくらいだわ。
 するとカールハインツは何を思ったのか跪き、私に手を差し出した。

「マルレーネ、我が妻よ。私が愛するのはあなただけだ。他のどんな女性も目に入らない。どうか私の愛を疑わないでほしいと願っている」

 ぎょっとして見てみれば、それはまるで騎士の忠誠の誓のようだった。

「ちょっと、何を考えているのよ」

 周りの視線が気になって、慌てて立たせようとしたが、カールハインツの口が「ユリアーナ」と動く。
 ~~~~ああ、もう、腹が立つ。外堀埋めようって魂胆ですか、そうですか。
 仕方なく私は差し出された手に、己の手を重ねた。

「うけいれましょうだんなさまもうにどとわたくしをはなさないでくださいませ」
「ああ、もう二度と、過ちは犯さないよ」

 何と言う茶番劇、何と言うパフォーマンス。
 私の手に誓の口づけを授けると、カールハインツは立ち上がった。
 もう既に帰りたい気持ちが勝ったが、愛人モドキたちは悔しそうにその場から立ち去った。
 少しは効果があったと思いたい。そうじゃなきゃ浮かばれないわ。
 深いため息をこぼし、気を取り直して再度挨拶回りを再開することにした。

「これはこれは……」

 向かいから歩いて来たのはヴァイス様だ。

「ヴァイス様、ご機嫌うるわしゅう存じます」
「堅苦しい挨拶はなしだよ、マリー」

 と言いつつカーテシーをした私に、胸に手を当て律儀にお辞儀を返してくれるヴァイス様はできた男だ。
 見たところお一人のようだから、奥様はまだ療養中なのだろう。
 お加減を聞いてみたいが、目が合うとにっこりと笑顔で牽制された気がした。

「マリー、すっかり元気になったみたいでよかった。一時期は病的に痩せていたからね。心配していたんだ。子どもたちのお茶会で、ユリアーナ嬢に話は聞いていたんだが、今は普通に生活できているようで安心したよ」

 ヴァイス様は相変わらずカールハインツにチクチクとげのように刺してくる。気がする。
 心なしか、カールハインツから冷気が漂ってくるようで、内心どっきどきだ。面倒な事にはしないでほしい。

「おかげさまで、すっかり妻は回復いたしました。以後、ノワール公爵殿にご心配はおかけしないことを約束しましょう」

 カールハインツも負けじと言い返す。
 一触即発の空気にハラハラしながら助け舟を求めるが、周りの人は興味津々に私たちを見るだけで当てにはならなそうだ。

「先程のパフォーマンスを拝見いたしました。その誓いを破ることのないようにお願いしたいですね」
「誓いを破る愚かな男がこの世にいるのでしょうか」
「婚姻の誓いを平気で破る男はごまんとおりますから。ああ、あなたのことではありませんよ」

 二人は握手を交わしながらにこやかに戦っている気がする。私は蚊帳の外である。
 いつ終わるともしれない二人の攻防から目をそらすと、視界の端にある人の影をとらえた。

「旦那様方はつもる話もあるでしょうから、ごゆっくりなさってください。私も友人と会って参ります」
「えっ? どこへ?」
「ヴァイス様、古くからの友人にご挨拶に行きますので失礼いたしますわ」
「ああ、ごゆっくり」

 離れようとする私を引き止めたいのか、カールハインツに声をかけらるたが、追いかけては来ないところを見るとヴァイス様が制してくれたようだ。

 それに安心して遠慮なく進む。
 一際華やいだ場所の中心となっている人物をめがけて。

「アルビーナ様」

 声をかけると、アルビーナ様は明るく華やかに笑った。






~~~~~~~~~~
【お詫びと訂正】
12話等で、現在リュディガーとイルゼは国王陛下、王妃殿下と記載しておりましたが、正しくは、「王太子殿下」と「王太子妃殿下」です。
無能のカールが宰相って何か変だな、と違和感がありながら書いておりましたが、時が戻って若返ったので、まだ宰相補佐でございます。
作者の思い違いで混乱させてしまいましたことをお詫び申し上げます。
随時、訂正して参りますので、ご容赦ください。
また、引き続き、作品をお楽しみいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。


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