【完結】王太子は、婚約者の愛を得られるか

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本編の補足と後日談の番外編

成婚一年経過の課題

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「あー、あー、こちら王太子、緊急事態発生、緊急回避する、どうぞ」

「了解した。プランポラリスを実行せよ」

「い、いいい行きます!」

 バタン、と扉が開く。

「不敬である!狼藉者を捕らえよ!」

 ケアレが叫ぶ。と同時に扉の外に待機していたグレゴリーが素早く俺の前にいたナニカに飛び掛り、縄をかけた。

「ミッション達成、プランナロウペに移行する」


 ……あぁ、皆のもの、申し遅れた。
 オウタイーシ・オスカーである。
 冗談はさておき。
 今俺は、大変な危機を脱したところだ。

「もう!王太子殿下に子がいないから来てあげたのに!」

 グレゴリーに縄で括られた女は床に這いつくばり芋虫のようにクネクネしながら喚いている。
 俺はそれを絶対零度の眼差しで見下ろした。

「俺の妻はただ一人。俺の子を産むのもただ一人だ。勝手に夜這いかけておきながら来てあげたのに、などと上から目線は笑止、片腹痛いわ。
 グレさん、トリさん、こらしめてやりなさい」

「「はっ!」」

 きーきゃー甲高い声で叫びながら、芋虫女は二人に担がれていった。


「災難でしたね。ご無事で何よりです」

「ケアレか。あんなのにみすみす侵入を許すとか警護どうなってんの」

「申し訳ございません。見直す事に致します」

 一礼して退室したケアレを目で追った後、夜も遅い執務室のソファに力無く腰を下ろし、溜息を吐いた。

 執務室で仮眠していたのだが、背筋が寒くなるような気配を感じて目を開けたら、先程の芋虫女が俺の1m程先ににじり寄って来ていたのだ。
 どこから入ったんだ?という疑問はあるが、ギラギラした目に恐怖感を覚え、助けを呼んだわけである。


 結婚から約一年が経過した。
 アカデミーを卒業後、本格的に王太子としての執務が始まると、周りの者たちの優秀さもあってかヴァレリアとの夜のイチャイチャがまともにできない事態になっていた。
 同じベッドで寝はするのだ。

 …………寝るだけ。

 妻が寝たあと、執務から解放された俺はもそもそとベッドに入り込み、艶やかな唇と俺を誘ってやまない身体に未練をタラタラさせながら眠りにつくのだ。

 ちなみに白い結婚では無いぞ。
 それはもう、初夜はムフフであった。
 愛しい者を腕に納めた時の充足感は何とも言い難い幸せを感じたものだった。

 新婚休暇は一ヶ月貰った。
 アイザックは渋っていたが、「お前も結婚する時はそれくらい取るだろう?」と説き伏せた。
 まあ、それでも王宮にいるから時折捕まってはいたが。かくれんぼは楽しかったな。

 あの頃に戻りたい。
 バルコニーから身を投げ出せば戻れるだろうか。

 フラフラと近付いて微かに開いたバルコニーに続く扉に手をかけた瞬間。

「オスカー様、早まらないで下さいませ!!」

 突如背中に感じるぽよんとした感触。
 俺のお腹にまわされた白い華奢な手。

 振り返ると月の光に照らされた我が愛しき妻の姿があった。

「ヴァレリア……?もう休んだのでは…」

「女性の叫び声で目が覚めてしまいまして…」

「……そうか。すまない、起こしてしまったようだな」

 ヴァレリアに向き直り、そっと頬に触れた。
 少し眠たそうな表情の妻は、すり、と俺の手で愛おしげに頬を撫でる。

「おかげでオスカー様にお会いできましたので」

 あああああああ今宵も嫁が可愛いなぁ!

「ならばそこだけはあの芋虫に感謝しないといけないな」

「芋虫?ですか?」

 きょとんとするうちの嫁が可愛すぎる件について、一晩中語り明かしたい。

「ああ、いいんだ。さあ、今夜はもう寝ようか」

「……はい」

 少し寂しそうな顔をして、ヴァレリアは俯いた。素直に同意したが俺の服の裾を掴んで離さない。

「ヴァレリア?」

 顔を俯けたまま、ヴァレリアは顔を赤くし、何かを決心したかのようにがばっと俺に抱き着いてくる。そして顔を俺の胸に埋めたまま、か細く何かを呟いた。
 それは俺の耳によく響いた。
 俺でなければ聞き逃しちゃってたね。

 二つ返事でそれを了解して、妻を横抱きにして寝室に向かった。



 朝告げ鳥がチュンチュン鳴いている。
 目を覚ますと隣には愛する妻が寝息をたてている。
 今、側近の誰かに出会ったら「ゆうべは お楽しみでしたね」とか言われそうだ。

 朝起きて、誰かが隣に寝ているとしたら、それはヴァレリアが良い。
 夜寝る前に誰かの姿を映すとしたら、それもヴァレリアが良い。
 互いにやる事は沢山あるし夜は疲れもあってか無理はさせられない。

 だが、成婚から一年。
 昨夜のような事態にならない為にも、俺は決めた。


「本格的に世継ぎを設ける期間に入る」

 机の上に肘をつき、顔の前で手を組む。俺の表情は真剣そのものである。

「正気ですか、殿下」

「ああ、そろそろ限界だ」

「アイザック殿が黙っちゃいませんよ」

「アイザックの戯言など聞いている場合ではない。これは国の存続に関わる重要事項だ」

「第一子を設ける作戦……か」

「俺とヴァレリアでしか成り立たんよ」


 成婚から一年、子がいない。
 将来国王になる俺は、成婚から二年経過しても子がいなければ側妃を娶る話が出てくる。
 だがそれは断固阻止せねばならない。


「構いませんよ」

「えっ」

「むしろ今のうちですよ、殿下。俺もそろそろ結婚しますからね。
 結婚したら新婚休暇、妻を愛でる休暇、妻の好きなもの探し休暇、妻とイチャイチャする休暇、育児休暇を取らないといけませんし」

「何かおかしな休暇が混ざってるぞ?」

「そうですか?足りないくらいですよ。
 まぁ細かい事は良いので、ぜひ妃殿下と励んでくださいね」

 アイザックはいつになく上機嫌である。
 これは何かいい事があったに違いない。
 今なら何でも言う事聞いてくれそうな気もする。
 そうだ、俺は一人ではないんだ。
 もう、アイザックなんか、怖くない!

「アイザック、俺も妻を愛でる休暇が欲し」
「あ、こちらの書類、今日までです殿下」

 バサリと机に落とされる書類。
 誰だよ、アイザックなんか怖くないとか言った奴は。

「大丈夫ですよ、殿下ならやれます!」

 世界中の女性を魅了しそうないい笑顔を見せるアイザック。こいつ俺の思考すら読めるのかよ!?

「こ、の……
 俺にも妻を愛でさせろバカアイザックー!!」


 今日も執務室に叫びがこだまする。

 その後、アイザックの采配によるものなのか執務は思いの外捗り。


 成婚二年目を迎える前に娘が産まれ、1つ年を置いて息子が産まれたので、側妃問題は無事回避できたのだった。


 ちなみに芋虫はバルコニーから侵入したらしい。
 虫除けのハーブを吊るし、ついでに影も配置しておいた。
 その後侵入者は現れていない。

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