無双不可能な能力だって、世界を救うことくらいできますよ?

宇治を愛する抹茶

文字の大きさ
5 / 10
Another Future

4th 剣の雨

しおりを挟む
入学してから3日目。俺は衝撃の事実に気づいてしまった。俺の斜め前の席にいる、入学した日からずっとアイドルか何かだろうかと思っていたあの可愛い子。名前はわからないが、あの子はたぶん男だ。俺のクラスの席順は男子の斜め前は必ず男子になるはずなので、位置的にもそうだとしか考えられない。男の友達が陽星しかいない俺としては、是非友達になりたい。だが、自己紹介をろくに聞いていなかったので、話しかけようにも名前がわからない。仕方がないので、陽星に聞いてみようか。

「陽星、あそこの席の子の名前分かるか?」

そう言ってあの子の席を指さすと。

「由季、あいつ狙ってんのか?悪い事は言わない。あいつはやめとけ」

そのセリフ、お前が笑星狙ってるときにそっくりそのまま言いたいんだが…

「違う、多分あの子男だろ?」

「なんだ、分かってるのかよ。あいつは剣崎 玲。れっきとした男の子だ」

話しかけてみたいが、まだほぼ初対面に等しいので、なかなか一歩を踏み出せない。こういう時は陽星の出番だ。しかし陽星は、俺が頼むより先に、あの男の子に話しかけていた。

「おはよう剣崎!今日の放課後、時間ある?」

このコミュ力は素直に尊敬する。俺にはとても真似できない。

「おはよう、浜村くん。今日はちょっと用事があるから無理なんだ、ごめんね…。あっ、でも、明日なら空いてるよ!」

「じゃあ明日、9時に甘城駅前集合な!遅れんなよ!」

ちょっと待て、すごい速さで約束が進んでないか?俺の都合も聞かずに…まぁ遊ぶ相手も他にいないし、暇なのだが。すると、陽星がニヤニヤしながらこっちへ戻ってきた。

「由季、今日の放課後俺にスタンバ奢りな」

放課後俺が真っ先に帰宅したのは言うまでもない。




土曜日。俺は駅前に来ていた。9時5分を回るが2人はまだ来ていない。まぁ駅前とはいっても広いからな、ちょっと探してみよう。

10分後。まだ2人は見つからない。流石におかしいと思ったので、陽星に電話をかけてみた。しかし圏外の表示が出ただけで、電話が繋がることはなかった。陽星は電車通学なので、学校に通うのに必然的に駅を使う。迷ったとは考えにくい。と思考を巡らせていると、聞いたことのある声がした。

「お待たせしました!!ごめんなさいボク、この駅あんま来ないんで迷っちゃって…」

剣崎さん、いや剣崎くんか。私服がとても女の子らしい…というかスカートじゃないか。

「大丈夫だけど、何でスカート履いてるんだ?」

「えっと…ボクが男の子の格好してるの見られると、一緒に歩いてるキミが変な目で見られちゃうんだよね…」

そうか。確かに、剣崎くんは一見女…いや、女の子にしか見えない。ならば、一緒に歩いている俺が、女の子に男装させている変質者と間違われるのは当然だ。これは彼なりの配慮ということか。

「あと、伝言なんだけど、浜村くんは熱が出て来れないみたいだよ」

ということは、俺と剣崎くん二人だけということか。相手は男子なのに、なぜかすごく緊張してきた。改めて見ると、本当に人形みたいだ。周りからも、その可愛さはわかるようで…

「うおっ、可愛い!写真撮っとこ」
「アイドルかなんかじゃね?」
「てか隣の男誰だし」
「財布じゃね?かわいそ」

散々な言われようだ。こいつらは剣崎の性別知ったら驚くだろうな。

「あの…ここいても何もないし、とりあえず行こっか!」

流石剣崎くん。フォローも完璧だ。確かにここにいても何もないので、近くにある巨大ショッピングモールに行くことにした。そのモールは『あまぎWALK』という。今日のような休日には、結構な人で溢れかえる。甘城市民なら、誰でも訪れたことがあるだろう。

「御島くんってどんな能力なの?っていうか、なんて呼べばいい?」

「由季でいいよ、陽星もそう呼んでるしな。俺の能力は【可能性の目】と言って…」

そこから俺の能力の説明が随分と続いた。

「由季の能力って難しいんだね…全く理解できそうにないよ…」

俺自身しかこの能力は理解できないと思う。複雑な能力だが、視覚的にはわかりやすいので、俺の視点で見れば1発で理解できる。

「それから、ボクのことは玲って呼んでくれるかな?せっかく友達になったことだしね。それと、ボクの能力はね」

そう言いかけたところで玲が止まった。視線の先を追うと何やら目立つ服装の人がいた。

「ふぉぉぉぉぉお!閲注戦隊ジコセキニンジャーのチノレッドだ!あっちにはチッソクブルーもいるよ!」

戦隊モノか。高校生にもなって戦隊モノなんてダサい、なんて野暮なことは俺は言わない。俺だってたまに見ることがあるからな。だがそれにしても、名前グロ過ぎないか?

「玲ちゃん、応援ありがとう!必殺モザイク・パニック!!」
「ふおおおおおお!」

レッドがイキイキしながら玲に必殺技らしきものを見せつけている。絶対下心があると思うんだが、玲が楽しんでいるのでそんな横槍はできない。そうして一通り赤青黄色ピンク白とふれあったあと、俺たちはスタンドバック・コーヒーに行った。学生やOLに大人気の店で、略称はスタンバ。昨日陽星が俺に奢らせようとしたのはおそらく新商品のグレープフルーツティーだろう。俺も今日はそれを飲もうとしていた。だがスタンバに入ると、見知った顔がいた。

「あらこんにちは御島くん。今日は彼女とデートかしら?」

瀧川さんだ。あまりしゃべったことがないので、話しかけられたのは意外だった。

「あ、違います、こいつ男ですよ」

そう普通に返したつもりだった。でも瀧川さんはそれを必死の言い訳だと思い込んだのか、「やっぱデートなのね~」とかいいながらニヤニヤして去っていった。グレープフルーツティーを受け取りながら。

「さっきの人、知り合い?」
「あぁ、部活が一緒なんだ」

もう一人変なのがいるが、そいつのことは言わなくてもいいだろう。

「うちの学校なんだ。なら、多分あの人かな?」
「何がだ?」

「いや、さっきから強い才能を感じるんだよね。ちょっと不穏な感じがしたから警戒してたんだけど、あの子だったのかなと思って」

『才能を感じる』これはいわゆる『気』みたいなもので、能力を持つ者が近づいたりすると察知できるのだ。俺も能力を使っているうちに、段々察知できるようになってきた。つまりは、俺もさっきから感じる強い才能には気づいていた。

「まぁ、あの人の能力結構すごいからな。多分あの人だろ」

その後しばらく色々なところを回って、時刻は四時をまわった。

「そろそろ帰るか?」
「そうだね、あんまり遅くなってもね。今日はもう帰ろうか!」

そうしてモールから駅まで戻ってきて、それぞれ帰途につこうとした。
だがその時、俺たちの前に人影が立ち塞がった。

「チッソクブルー…?」

立っていたのはさっきモールにいたチッソクブルーだった。だが、何か様子がおかしい。

「助け…て…ァ」

咄嗟に異変に気づいた俺は、チッソクブルーに駆け寄った。しかしもう遅かった。ブルーの体は砕け散り、血や肉塊が周囲に飛び散った。
当然ながら駅前は騒然となった。逃げ惑う人々、写真を撮る人々。だがそれに紛れることなく、俺の視界にはそいつがしっかりと映っている。

「チノレッド、お前何をした!!」

人混みから出てきたチノレッドが微笑を浮かべていることは、仮面の上からでもわかる。

「いやこの青がさァ、ピンクちゃんといい感じになってたんだよね~。だ、か、ら、俺が主役だってわからせてあげました♡」

ダメだ、こいつは話が通じないタイプだ。実力行使で行くしかない。でも、ひとつ問題なのは、俺には能力による攻撃手段がないということだ。相手はさっきのを見る限り攻撃系の能力の持ち主だ。まともに戦っても勝ち目はないか…

「まぁ君は殺されちゃうんだけどねぇ♡」

と、素早い動きで距離を詰められる。繰り出される拳を間一髪のところでかわす。
最近分かったことだが、【可能性の目】は相手の攻撃を避けるのにも使える。見えたところと逆側に動けばいいのだから。

「上手く避けられてる…なんて思ってない?残念、君はもう終わりだよ♡」

そして次にくる拳を避けようとすると、右腕から大量の血が噴出した。
「ガッ…」
よく目を凝らしてみると、細い鋼の糸が俺の全身の周りに張り巡らされている。少しでも動けば即腕切断のような状態なので、まともに身動きが取れない。

「俺の能力はknitting【編み物】。俺の編んだ鋼糸でお前はブルーみたいに切り刻まれるのさ♡」

そして段々鋼の糸が俺にくっついてきた。しかし俺は全く動じなかった。なぜなら、俺には地面に転がる俺の肉片が見えたからだ。よく考えればわかることだ。俺が死ぬ可能性。それと逆の可能性が起こるということは…

「Sword rain【剣の雨】!!!!!」

こういうことだ。きっと玲が助けてくれると信じていた。玲の飛ばした剣状のものが俺の鋼糸を切ってくれた。どうやら、【剣の雨】は、威力が低めの剣を無数にとばす能力みたいだ。あまり相手が怯んだ様子はないが、確実にダメージは加えられている。

「1000発が限度なんだ!打ち終わったら2分はリロードにかかる!それまでに何か策を!」

あと30秒ほど。それさえあればこいつを倒せる。おそらくあと5百発は残っている。心配は要らないだろう。
玲が剣を射出している間に、俺は【可能性の目】を使って相手の気づかない方向から背後に回る。そして玲が1000発打ち終わると同時に。

「うおああああああああああ!!!」

玲の打ち出した剣の一つを赤い腹部に突き刺した。威力が低いとはいえ、それは射出する力が弱いだけで、人力をもってすれば十分に破壊力を生み出せる。

チノレッドはその場に倒れ込んだ。血は少ししか出ていないため、致命傷になる傷はついていないようだ。仮面を剥ぐと、お世辞にもかっこいいとは言えないような顔が出てきた。どうやらうちの学校の生徒ではないが、倒れながらもまだ微笑んでいるところに少し恐怖を覚えた。
チノレッドは警察に運ばれ、もう一度さよならを言ってそれぞれ帰途についた。

そして次の日、俺と玲は校長室に呼び出され、表彰された。今回は玲も一緒ということで、クラスでざわつきは起こらなかった。表彰のあと、校長からはこう言われた。

「使い方を段々把握しているようだな。今後も期待している」

とりあえず一歩前進できただろうか。






ー浜村家ー
夜十二時をまわった浜村家の一室で、一人の男の子がうずくまっていた。
「ついに今日か…」
男の子こと浜村 陽星はとても憂鬱な顔をしていた。
「もう始まったのか」
そうつぶやく彼の手は、徐々に黒くなっていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...