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Another Future
3rd 監視カメラ(後)
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次の日の朝。目覚めると部屋の中にモノが散乱していた。洋服なども床に散らかっていて、面倒なことになっている。よく見ると昨日閉めたはずの窓も開いていた。
「いや強盗だろコレ…」
状況を見れば明らかに察しがつく。とりあえず無くなっている物はないか確認してみたが、特に何もなくなってはいないようだ。では、これは何のために行われたのだろうか。理由としては二つ考えられる。一つは、ただ何かをめちゃくちゃにしたかっただけ、つまり無差別的な犯行だということ。二つ目は、俺に個人的な恨みを抱いていて、俺の嫌がることをしたかっただけということ。どちらにせよ、これは警察に届けた方がいいのか…。だが、警察に届け出たら、学校にもこの事は伝わるのではないか。色々面倒くさいことになりそうなので、ここはひとまずやめておいた。
両親から早く学校に行けと急かされ、家を出て電車に乗った。すると、見覚えのある顔があった。
「おはよう、早霧さん」
自分から挨拶してみたものの、返事が返ってこない。
隣に座って顔を覗き込んでみると、気持ちの良さそうな顔で寝ていた。長いまつげに真っ白い肌、そしてなにより頭の下にある大きな膨らみが存在感を放っている。色々な意味で高校生にはとても見えない外見だ。
「ん、む…ふぁぁ」
マズい。起きてしまった。早急に元の体勢に戻ろうとするが、既に遅かった。
「ちょ、由季くんなにしてるの!?」
この後めちゃくちゃ怒られた。こんな事が周りの生徒にバレたら俺の学園生活が終わってしまう。かといって言い訳もできないし、実際少しいかがわしい気持ちを抱いていたのも確かなので、これは自業自得か…。
「まったくもう、何であんなところでするかなぁ…」
何やらブツブツ言っているが小さすぎて何も聞こえない。恐らく悪口だろう。
電車を降りて2分くらいで学校に着いた。まだ新学期気分が抜けるはずもなく、校内の至る所で部活勧誘などが見られた。だが、その中でも特に異彩を放っている集団がいた。
「今年度生徒会役員。2名募集中。希望者は生徒会室まで」
しきりにそれだけを言い続けるロボットのような美少女と、その周囲にいる数人の男女。他の部活より人数こそ少ないが、明らかに他とは違う雰囲気を醸し出していた。俺達は生徒会と敵対する立場にいる、というようなことを昨日校長が言っていたからな、むやみに関わらない方がいいだろう。早霧さんにも諭して過ぎ去った。
「そういえば、家に強盗が入ったみたいなんだ」
話をしていてつい口走ってしまったが、これは言わない方が良かったかもしれない。まぁ早霧さんには関係ないことだし別にいいか。
「物騒だね~。部屋とか片付けるの大変だろうね~」
物騒どころかいつ殺されてもおかしくない状況だ。早霧さんも充分に注意してもらわなければ。そんなことを考えていると、一番会いたくないやつが来た。
「おはよ由季君!!」
やはり会話を広げたくないので、おはようとだけ返し逃げようとした。だが、そう上手くいくはずもなかった。早霧さんは2組、俺と笑星は4組なので否が応でも俺と笑星だけになってしまうのだ。
「由季あんたさぁ、友達できたんだ?」
…こいつまさか俺の友達になにかする気か?
「できたけど、それがどうした」
ガツンと一発「お前には関係ないだろ」と言えればいいのだが、俺にそんなことができるはずもなく。
「別に、気になっただけ。あっ、おはよ~!」
友達が来るとすぐ、元のニコニコ顔に戻って走っていった。そのままでいれば普通にいい人なんだがな。
いつからあんな風になってしまったのだろう。
「よう、由季。今日も笑星ちゃん可愛いなぁ!」
そしてコイツが笑星に告白するのをどうやって止めようか…。
「おはよう、陽星。お前それだけはやめとけって…」
何も知らない友達がみすみす女王様の罠にかかっていくのは嫌だ。だが当の本人が人の話を全く聞かないので困っている。
「よし。ホームルーム始めるぞー」
今日も授業はなく、簡単な自己紹介などをやった。俺以外にも使い道がほぼない能力を持っている奴が何人かいたが、ちゃんと自分なりのやるべきことを把握している。俺も自分の能力を使える場所を見つけなくてはな。
放課後になり、俺はまた校長に呼び出された。昨日とは違って、担任から言い渡される形だったため、クラスの人から哀れみの目を向けられることもなかった。
校長室に行くと、何やらソワソワしている早霧さんがいた。
「あ、由季くん!なんか、部室がもらえるらしいんだけど…」
「お前が御島か?」
早霧さんの話を遮ったのは、高身長の女の人だった。
「1年4組 御島 由季です。よろしくお願いします。」
教師だと思うので、礼儀正しく挨拶した。
「うむ、礼儀正しいやつは好きだ。さっき来たコイツみたいに礼儀がなってないやつばかりだったら部室の使用を禁止しようと思っていたが…よかろう。今回は特別に部室の使用を許可する」
早霧さんが無礼な事をしたのか?そんなことするはず…ありそうだが。
「それでは案内しよう。入口で固まってるやつもついてくるように」
すると、入口から瀧川さんが顔を覗かせた。この先生も【知る】系の能力なのか?どうしても気になったため、移動途中に聞いてみた。
「失礼ながら、先生はどういった能力の持ち主なんでしょうか。教えて頂けますか?」
「残念だが、私の能力を君に教えることは出来ないな。それと、私のことは真島先生と呼びたまえ。今日から君たちの顧問になるのだからな」
能力を教えてもらえないのは意外だった。何か特別な事情でもあるのだろうか。まぁこの人は怒らせると怖そうなので深くは聞かない方がいいだろう。
そんな会話をしているうちに部室に着いた。予想外の広さだった。そしてなにより、ベッドやキッチンなどが完備されていることに驚いた。何のためにあるのかは知らないが、おそらく『夜も仕事をしなければいけない』ということなのだろう。
「君たちにはここで活動してもらう。主な活動内容を話すから、よく聞いておいてくれ」
この先生、異常に話が長かったので簡潔にまとめると。
まず一番大事な活動は、生徒が能力を暴走させたり、誤った使い方をしているとき、それを止めること。そして、生徒からの悩み相談なども受け付けること。以上のことについて、何か大変なことや困ったことがあったら、必ず真島先生に相談すること。
「お前たちにはまだ正式な部費が出ていない。しかし、校長先生から直々に1万円の部費をもらった。これの使い道を決めよう。」
この部活で部費を使う事なんてあまり無いと思うのだが。
「まず一つ。私の生活費にあてるか。そして二つ。私の婚活費にあてるか」
今出てきた選択肢はギャグと捉えていいのだろうか。目が本気なので判断が難しい。
「そして最後。私と君たちで山分けするか。さぁ!選ぶといい!」
この後、俺の財布は2500円分重くなった。
昨日と同じく、早霧さんと電車に乗って帰った。家に着くと、不思議なことに朝散らかっていたものが片付けられていた。両親が共働きなので、こんなことがあるはずないのだが…。
まさか、また強盗が?いや、強盗が物を片付けていくか?と思いつつ窓を見た。すると、今日は窓が開いていなかった。怖くなって、まだ八時も回っていないのに、制服のままベッドの中にもぐり込んだ。だが思ったように眠れない。なので、気分転換に外へ出てみることにした。
制服のままというのも苦しいので、私服に着替えよう。そう思ってクローゼットを開けた途端、俺は思わず腰が抜けてしまった。
中に入っていたのは早霧さんだった。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
だが、よく見てみるとそれは早霧さんではなかった。いや、正確に言うと早霧さんなのだが。
「これ、もう1人の早霧さんじゃないか…」
選ばなかった方の選択肢、のほうの早霧さんだ。これは何の選択肢によるものなのか…
そして次の瞬間。さらに俺は驚いた。
なんと、早霧さんがクローゼットの中に現れたのだ。これは本物の早霧さんで間違いないだろう。
「「ぎゃぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
驚いたのは早霧さんも一緒のようで、思わずのけぞった。
「な、何で早霧さんが俺のクローゼットに!?」
「いや、何となくクローゼットが欲しいな~と思ってたんだよ!ホントだよ!?」
すごく苦しい言い訳をしてくる。
「正直に言ってくれ」
「実はあたしね、能力を二つ持ってるの」
能力というものは一人につき一つと思っていたが、そうではないようだ。
「元々あたしの妹の能力だったんだけどね、叶美ちゃん病気だからね、あたしにあげるって言ったの」
能力は移行することができる…だったら、人為的に最強の人間を作ることも可能なわけだ。
「それで、どうして俺のクローゼットに?」
「叶美ちゃんの能力は、stalking【尾行】っていう能力なの。一度見た場所に1日3回まで移動できるっていう…」
なるほど。元々の早霧さんの能力【監視カメラ】で俺の部屋を見たあと、【尾行】を使って俺の部屋に来たと…?
「なんでよりによって俺の部屋なの?」
「だって受験の日、リストバンド一生懸命探してたでしょ?あの日からあたし、何か体がムズムズしてるの。でも、ここにくるとムズムズが収まっちゃうんだよね。だから、昨日もここにきて」
「おい」
昨日もってことは、アレは強盗じゃなくて早霧さんの仕業ってことか?だとしたら。
「全部片付けてから帰ってくれ」
ひとまず、強盗(?)事件は無事解決できた。今日は安心して眠ることができる。さっきのもう一人の早霧さんは、恐らく「朝、俺の家から帰らなかった」方の早霧さんだろう。それならもう一人の早霧さんを学校で見なかったのも納得できる。ヤンデレとか関わったら死ぬとか色々考えることはあったが、ひとまず疲れたので思考を巡らせるのはやめた。とりあえず寝ようと思ったが、隣を見てそうも言っていられなくなった。
「うぐっ…ひぐ…」
早霧さんが泣いていた。俺のせいだろうか。
「なんで泣いてるの」
「ぅ…だってもうあたしのこと嫌いでしょ?」
あぁもう面倒くさくなってきた。
「早霧さん、今お金ある?」
「え?部費しかないけど…」
それだけあれば充分だ。
「ちょっと出かけようか」
そういって出かけた先は近所にある飲み屋だった。ここは色々と馴染みがあるんだが…。
「こんにちわ~」
「おう、由季くんいらっしゃい!おい小春ー!!由季くん来たぞー!」
そう、ここは笑星家。「居酒屋 白雪姫」という、不釣り合いなネーミングの店だ。笑星父とは昔から気が合い、一緒に釣りをしたこともあった。
「いらっしゃい!ご注文はお決まりですか?」
だが、笑星は相変わらず両親の前でも猫をかぶっている。
「いつものやつ2人分お願い」
と注文をすると、さっきからずっと黙っている早霧さんに向き合う。
「あの…」
「実はさ、早霧さんを最初に見たとき、もう一人の早霧さんが見えたんだよ」
俺の能力は早霧さんも知っているはずだ。
「その早霧さんは、ずっと泣いてた。校長の話が終わったあと、電車に乗ってる時も。それは多分、妹から能力を受け継がなかった早霧さんだと思うんだ」
きっとそうだ。いや、そうであってほしい。早霧さんは…きっと、妹から力を奪ってしまったという自責の念に覆われていたんだと思う。
「わかんない…そんなのあたしにはわかんない!!叶美はあたしに力をくれた!だけどあたしは叶美に何もしてあげられない!だから…」
「だから、力を使うんだよ」
「え…」
「妹にしてあげられないなら、その分他の人を助けてやればいい!力を、みんなのために使えばいい!そうすれば、妹も喜ぶんじゃないのか!?早霧さんには人を幸せにする力があるんだ!」
早霧さんは泣いていた。
「お父さんもお母さんも叶美しかみてなくって…あたしには何も言ってくれなかった。由季くんは…ちゃんとあたしを見てくれてるんだね。でも、あたしに幸せにすることなんてできないよ…」
すると、丁度いい所で料理が運ばれてきた。
ここの看板メニュー『笑う星』である。中に野菜炒めが入ったコロッケで、食べると口の中、いや体全体が不思議ととても温かくなる。早霧さんに食べることを促し、俺もひと口食べた。
「うぅ…っ……!」
早霧さんはさっきよりも涙を流していた。
「これ笑星が作ったんだよ。あいつ、性格はあんなだけど、めちゃくちゃ料理上手いだろ?」
「すごい…おいしい」
俺が作った訳じゃないが、そう言ってもらえると嬉しい。
「あたし、頑張ってみる。みんなを幸せにする。それで、あたしも叶美も幸せになる。」
これで本当に一件落着…かもしれないな。
店を出てすぐ早霧さんは能力を使って家に飛んでいった。
「ちょっとはいいことするんだね?」
笑星にそんなことを言われたが、ちょっとどころじゃないと思うのは俺だけだろうか。
今日は本当に疲れたので、家に帰ってすぐ眠ってしまった。
朝目覚めると、学校に遅刻寸前の時間だった。急いで支度をし、制服を着ようとクローゼットを開けた。すると中に小さなメモ用紙が落ちていたので覗いてみた。そこには「ありがとう」と可愛らしい字で書いてあった。
「いや強盗だろコレ…」
状況を見れば明らかに察しがつく。とりあえず無くなっている物はないか確認してみたが、特に何もなくなってはいないようだ。では、これは何のために行われたのだろうか。理由としては二つ考えられる。一つは、ただ何かをめちゃくちゃにしたかっただけ、つまり無差別的な犯行だということ。二つ目は、俺に個人的な恨みを抱いていて、俺の嫌がることをしたかっただけということ。どちらにせよ、これは警察に届けた方がいいのか…。だが、警察に届け出たら、学校にもこの事は伝わるのではないか。色々面倒くさいことになりそうなので、ここはひとまずやめておいた。
両親から早く学校に行けと急かされ、家を出て電車に乗った。すると、見覚えのある顔があった。
「おはよう、早霧さん」
自分から挨拶してみたものの、返事が返ってこない。
隣に座って顔を覗き込んでみると、気持ちの良さそうな顔で寝ていた。長いまつげに真っ白い肌、そしてなにより頭の下にある大きな膨らみが存在感を放っている。色々な意味で高校生にはとても見えない外見だ。
「ん、む…ふぁぁ」
マズい。起きてしまった。早急に元の体勢に戻ろうとするが、既に遅かった。
「ちょ、由季くんなにしてるの!?」
この後めちゃくちゃ怒られた。こんな事が周りの生徒にバレたら俺の学園生活が終わってしまう。かといって言い訳もできないし、実際少しいかがわしい気持ちを抱いていたのも確かなので、これは自業自得か…。
「まったくもう、何であんなところでするかなぁ…」
何やらブツブツ言っているが小さすぎて何も聞こえない。恐らく悪口だろう。
電車を降りて2分くらいで学校に着いた。まだ新学期気分が抜けるはずもなく、校内の至る所で部活勧誘などが見られた。だが、その中でも特に異彩を放っている集団がいた。
「今年度生徒会役員。2名募集中。希望者は生徒会室まで」
しきりにそれだけを言い続けるロボットのような美少女と、その周囲にいる数人の男女。他の部活より人数こそ少ないが、明らかに他とは違う雰囲気を醸し出していた。俺達は生徒会と敵対する立場にいる、というようなことを昨日校長が言っていたからな、むやみに関わらない方がいいだろう。早霧さんにも諭して過ぎ去った。
「そういえば、家に強盗が入ったみたいなんだ」
話をしていてつい口走ってしまったが、これは言わない方が良かったかもしれない。まぁ早霧さんには関係ないことだし別にいいか。
「物騒だね~。部屋とか片付けるの大変だろうね~」
物騒どころかいつ殺されてもおかしくない状況だ。早霧さんも充分に注意してもらわなければ。そんなことを考えていると、一番会いたくないやつが来た。
「おはよ由季君!!」
やはり会話を広げたくないので、おはようとだけ返し逃げようとした。だが、そう上手くいくはずもなかった。早霧さんは2組、俺と笑星は4組なので否が応でも俺と笑星だけになってしまうのだ。
「由季あんたさぁ、友達できたんだ?」
…こいつまさか俺の友達になにかする気か?
「できたけど、それがどうした」
ガツンと一発「お前には関係ないだろ」と言えればいいのだが、俺にそんなことができるはずもなく。
「別に、気になっただけ。あっ、おはよ~!」
友達が来るとすぐ、元のニコニコ顔に戻って走っていった。そのままでいれば普通にいい人なんだがな。
いつからあんな風になってしまったのだろう。
「よう、由季。今日も笑星ちゃん可愛いなぁ!」
そしてコイツが笑星に告白するのをどうやって止めようか…。
「おはよう、陽星。お前それだけはやめとけって…」
何も知らない友達がみすみす女王様の罠にかかっていくのは嫌だ。だが当の本人が人の話を全く聞かないので困っている。
「よし。ホームルーム始めるぞー」
今日も授業はなく、簡単な自己紹介などをやった。俺以外にも使い道がほぼない能力を持っている奴が何人かいたが、ちゃんと自分なりのやるべきことを把握している。俺も自分の能力を使える場所を見つけなくてはな。
放課後になり、俺はまた校長に呼び出された。昨日とは違って、担任から言い渡される形だったため、クラスの人から哀れみの目を向けられることもなかった。
校長室に行くと、何やらソワソワしている早霧さんがいた。
「あ、由季くん!なんか、部室がもらえるらしいんだけど…」
「お前が御島か?」
早霧さんの話を遮ったのは、高身長の女の人だった。
「1年4組 御島 由季です。よろしくお願いします。」
教師だと思うので、礼儀正しく挨拶した。
「うむ、礼儀正しいやつは好きだ。さっき来たコイツみたいに礼儀がなってないやつばかりだったら部室の使用を禁止しようと思っていたが…よかろう。今回は特別に部室の使用を許可する」
早霧さんが無礼な事をしたのか?そんなことするはず…ありそうだが。
「それでは案内しよう。入口で固まってるやつもついてくるように」
すると、入口から瀧川さんが顔を覗かせた。この先生も【知る】系の能力なのか?どうしても気になったため、移動途中に聞いてみた。
「失礼ながら、先生はどういった能力の持ち主なんでしょうか。教えて頂けますか?」
「残念だが、私の能力を君に教えることは出来ないな。それと、私のことは真島先生と呼びたまえ。今日から君たちの顧問になるのだからな」
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そんな会話をしているうちに部室に着いた。予想外の広さだった。そしてなにより、ベッドやキッチンなどが完備されていることに驚いた。何のためにあるのかは知らないが、おそらく『夜も仕事をしなければいけない』ということなのだろう。
「君たちにはここで活動してもらう。主な活動内容を話すから、よく聞いておいてくれ」
この先生、異常に話が長かったので簡潔にまとめると。
まず一番大事な活動は、生徒が能力を暴走させたり、誤った使い方をしているとき、それを止めること。そして、生徒からの悩み相談なども受け付けること。以上のことについて、何か大変なことや困ったことがあったら、必ず真島先生に相談すること。
「お前たちにはまだ正式な部費が出ていない。しかし、校長先生から直々に1万円の部費をもらった。これの使い道を決めよう。」
この部活で部費を使う事なんてあまり無いと思うのだが。
「まず一つ。私の生活費にあてるか。そして二つ。私の婚活費にあてるか」
今出てきた選択肢はギャグと捉えていいのだろうか。目が本気なので判断が難しい。
「そして最後。私と君たちで山分けするか。さぁ!選ぶといい!」
この後、俺の財布は2500円分重くなった。
昨日と同じく、早霧さんと電車に乗って帰った。家に着くと、不思議なことに朝散らかっていたものが片付けられていた。両親が共働きなので、こんなことがあるはずないのだが…。
まさか、また強盗が?いや、強盗が物を片付けていくか?と思いつつ窓を見た。すると、今日は窓が開いていなかった。怖くなって、まだ八時も回っていないのに、制服のままベッドの中にもぐり込んだ。だが思ったように眠れない。なので、気分転換に外へ出てみることにした。
制服のままというのも苦しいので、私服に着替えよう。そう思ってクローゼットを開けた途端、俺は思わず腰が抜けてしまった。
中に入っていたのは早霧さんだった。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
だが、よく見てみるとそれは早霧さんではなかった。いや、正確に言うと早霧さんなのだが。
「これ、もう1人の早霧さんじゃないか…」
選ばなかった方の選択肢、のほうの早霧さんだ。これは何の選択肢によるものなのか…
そして次の瞬間。さらに俺は驚いた。
なんと、早霧さんがクローゼットの中に現れたのだ。これは本物の早霧さんで間違いないだろう。
「「ぎゃぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁあ!!!」」
驚いたのは早霧さんも一緒のようで、思わずのけぞった。
「な、何で早霧さんが俺のクローゼットに!?」
「いや、何となくクローゼットが欲しいな~と思ってたんだよ!ホントだよ!?」
すごく苦しい言い訳をしてくる。
「正直に言ってくれ」
「実はあたしね、能力を二つ持ってるの」
能力というものは一人につき一つと思っていたが、そうではないようだ。
「元々あたしの妹の能力だったんだけどね、叶美ちゃん病気だからね、あたしにあげるって言ったの」
能力は移行することができる…だったら、人為的に最強の人間を作ることも可能なわけだ。
「それで、どうして俺のクローゼットに?」
「叶美ちゃんの能力は、stalking【尾行】っていう能力なの。一度見た場所に1日3回まで移動できるっていう…」
なるほど。元々の早霧さんの能力【監視カメラ】で俺の部屋を見たあと、【尾行】を使って俺の部屋に来たと…?
「なんでよりによって俺の部屋なの?」
「だって受験の日、リストバンド一生懸命探してたでしょ?あの日からあたし、何か体がムズムズしてるの。でも、ここにくるとムズムズが収まっちゃうんだよね。だから、昨日もここにきて」
「おい」
昨日もってことは、アレは強盗じゃなくて早霧さんの仕業ってことか?だとしたら。
「全部片付けてから帰ってくれ」
ひとまず、強盗(?)事件は無事解決できた。今日は安心して眠ることができる。さっきのもう一人の早霧さんは、恐らく「朝、俺の家から帰らなかった」方の早霧さんだろう。それならもう一人の早霧さんを学校で見なかったのも納得できる。ヤンデレとか関わったら死ぬとか色々考えることはあったが、ひとまず疲れたので思考を巡らせるのはやめた。とりあえず寝ようと思ったが、隣を見てそうも言っていられなくなった。
「うぐっ…ひぐ…」
早霧さんが泣いていた。俺のせいだろうか。
「なんで泣いてるの」
「ぅ…だってもうあたしのこと嫌いでしょ?」
あぁもう面倒くさくなってきた。
「早霧さん、今お金ある?」
「え?部費しかないけど…」
それだけあれば充分だ。
「ちょっと出かけようか」
そういって出かけた先は近所にある飲み屋だった。ここは色々と馴染みがあるんだが…。
「こんにちわ~」
「おう、由季くんいらっしゃい!おい小春ー!!由季くん来たぞー!」
そう、ここは笑星家。「居酒屋 白雪姫」という、不釣り合いなネーミングの店だ。笑星父とは昔から気が合い、一緒に釣りをしたこともあった。
「いらっしゃい!ご注文はお決まりですか?」
だが、笑星は相変わらず両親の前でも猫をかぶっている。
「いつものやつ2人分お願い」
と注文をすると、さっきからずっと黙っている早霧さんに向き合う。
「あの…」
「実はさ、早霧さんを最初に見たとき、もう一人の早霧さんが見えたんだよ」
俺の能力は早霧さんも知っているはずだ。
「その早霧さんは、ずっと泣いてた。校長の話が終わったあと、電車に乗ってる時も。それは多分、妹から能力を受け継がなかった早霧さんだと思うんだ」
きっとそうだ。いや、そうであってほしい。早霧さんは…きっと、妹から力を奪ってしまったという自責の念に覆われていたんだと思う。
「わかんない…そんなのあたしにはわかんない!!叶美はあたしに力をくれた!だけどあたしは叶美に何もしてあげられない!だから…」
「だから、力を使うんだよ」
「え…」
「妹にしてあげられないなら、その分他の人を助けてやればいい!力を、みんなのために使えばいい!そうすれば、妹も喜ぶんじゃないのか!?早霧さんには人を幸せにする力があるんだ!」
早霧さんは泣いていた。
「お父さんもお母さんも叶美しかみてなくって…あたしには何も言ってくれなかった。由季くんは…ちゃんとあたしを見てくれてるんだね。でも、あたしに幸せにすることなんてできないよ…」
すると、丁度いい所で料理が運ばれてきた。
ここの看板メニュー『笑う星』である。中に野菜炒めが入ったコロッケで、食べると口の中、いや体全体が不思議ととても温かくなる。早霧さんに食べることを促し、俺もひと口食べた。
「うぅ…っ……!」
早霧さんはさっきよりも涙を流していた。
「これ笑星が作ったんだよ。あいつ、性格はあんなだけど、めちゃくちゃ料理上手いだろ?」
「すごい…おいしい」
俺が作った訳じゃないが、そう言ってもらえると嬉しい。
「あたし、頑張ってみる。みんなを幸せにする。それで、あたしも叶美も幸せになる。」
これで本当に一件落着…かもしれないな。
店を出てすぐ早霧さんは能力を使って家に飛んでいった。
「ちょっとはいいことするんだね?」
笑星にそんなことを言われたが、ちょっとどころじゃないと思うのは俺だけだろうか。
今日は本当に疲れたので、家に帰ってすぐ眠ってしまった。
朝目覚めると、学校に遅刻寸前の時間だった。急いで支度をし、制服を着ようとクローゼットを開けた。すると中に小さなメモ用紙が落ちていたので覗いてみた。そこには「ありがとう」と可愛らしい字で書いてあった。
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