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1 後悔なんて
記念日のディナーの帰り道。街灯に照らされた冬の歩道。
とっくに人の波は引いているような時刻だった。
街路樹に巻き付けられてある青い電飾が、ペカペカとやけに寂しく光ってる。
しんと静まり返った幹線道路を、走り過ぎる車もほとんどない。往来を見張っている交差する信号機も、すでに赤と黄色に点滅している。
店の閉じられたシャッターがいくつも横並ぶ歩道を、私はヒールの音を高鳴らせて帰路についていた。
歩きながら見上げた空には、冬の澄んだ空気の中で輝くオリオン座。
ほかの星座はよくわからない。でも、星たちの瞬きは本当に綺麗で。
今度は目線を、自分の首元に持ってゆく。
そこにあるのは、とある彼から貰ったダイヤモンドのネックレス。指で触れてみると、石の冷たさと硬さが伝わってきて、ダイヤがそれなりの大きさのものだとわかる。
何の記念日なのかはよく覚えてないけれど多分、年に十回ほどはある私への誕生日プレゼント。思わず口元も緩んでしまう。
これ欲しかったのよねー。もう少し、おねだりしてもよかったかな? ううん、この辺りが妥当。行き過ぎたおねだりは怪しまれちゃう。
胸元で光るダイヤのネックレスと、今日の為に新調していたコート下のワンピースの裾を揺らしながら、気分よく歩いてた。
本当に気分がよかったのに。
☆
「君は、君はっ……詐欺師、だろっ」
目の前にある角を曲がれば、自宅マンションが見えてくる距離だった。
電信柱からいきなり出てきた黒い影が、目の前を塞いだかと思うと、叫びと同時に腹部に硬い何かがドスリとぶつかって来た。
驚く間もなく、その勢いに体が大きく揺れる。
ぶつかった腹が熱を持ち、例えようのない違和感が急激に湧き上がる。
え?
そう思った次の瞬間、人生で味わったことのない黒板を爪で引っ搔くような、キイィッと高い音の痛みが一気に全身を駆け巡る。
何が起きたか理解するより早く、私の世界は崩れていく。
「がっ……あぁっ!……あ、っ……がぁっ!!」
凄まじい激痛が全身を焼き、瞬時に視界が真っ黒に塗りつぶされる。
目は開いているハズなのに、何も見えない。
叫ぼうとした喉は瞬時に詰まり、直後、視界が真っ赤に反転した。
網膜の裏側に、どろりとした赤が直接ぶちまけられたような暴力的な色彩。
脳が激しく揺れる。全身の力が抜け膝から崩れ落ち、コンクリートの冷たさが頬を打つ。が、その痛みはもはや感じない。
苦しみと激痛が、ほんの少しだけ遠のいてゆく。
そして、徐々に目の前の風景がぼんやりと、目の中に入って来た。
苦しい中、どうにか息を吸おうとする鼻や口から、鉄の匂いと味がした。
血? どこから?
そこで漸く、自分の腹部に突き刺さった安っぽい木の柄が視界に入った。
あれ……私、もしかして……刺された?
肺が潰れるような圧迫感。
苦しい……息が……
ゆっくりと視線だけを上げた先。そこには見覚えのある一人の男が、茫然と立っていた。
なぜか手を震わせて、泣いているようにも見える。
その男は私にゾンビみたいに手を伸ばしながら、フラフラと再び近づいて来た。
「結婚するって……そう、君は言ったじゃないか。君みたいな悪女……刺されて当然、だよね」
嗚咽交じりに、なにかを言う男。
顔はぐちゃぐちゃに見えた。
……そんな話、したっけ。
誰とだったかな。
身体に刺さったナイフ。
そっか、これもギフト……か
刺されてから、光が消えるまでの数十秒。
私は、泣き崩れる男の声を聴きながら、命最後の破片を拾い上げ、
どうにか声を絞り出し、言葉にしてみる。
「これ、あなた、から、の……いいよ、もらって……あげ……」
が、最後まで、言えなかった。
まぁ、いっか。
そこで私の世界は、暗闇に堕ちていった。
とっくに人の波は引いているような時刻だった。
街路樹に巻き付けられてある青い電飾が、ペカペカとやけに寂しく光ってる。
しんと静まり返った幹線道路を、走り過ぎる車もほとんどない。往来を見張っている交差する信号機も、すでに赤と黄色に点滅している。
店の閉じられたシャッターがいくつも横並ぶ歩道を、私はヒールの音を高鳴らせて帰路についていた。
歩きながら見上げた空には、冬の澄んだ空気の中で輝くオリオン座。
ほかの星座はよくわからない。でも、星たちの瞬きは本当に綺麗で。
今度は目線を、自分の首元に持ってゆく。
そこにあるのは、とある彼から貰ったダイヤモンドのネックレス。指で触れてみると、石の冷たさと硬さが伝わってきて、ダイヤがそれなりの大きさのものだとわかる。
何の記念日なのかはよく覚えてないけれど多分、年に十回ほどはある私への誕生日プレゼント。思わず口元も緩んでしまう。
これ欲しかったのよねー。もう少し、おねだりしてもよかったかな? ううん、この辺りが妥当。行き過ぎたおねだりは怪しまれちゃう。
胸元で光るダイヤのネックレスと、今日の為に新調していたコート下のワンピースの裾を揺らしながら、気分よく歩いてた。
本当に気分がよかったのに。
☆
「君は、君はっ……詐欺師、だろっ」
目の前にある角を曲がれば、自宅マンションが見えてくる距離だった。
電信柱からいきなり出てきた黒い影が、目の前を塞いだかと思うと、叫びと同時に腹部に硬い何かがドスリとぶつかって来た。
驚く間もなく、その勢いに体が大きく揺れる。
ぶつかった腹が熱を持ち、例えようのない違和感が急激に湧き上がる。
え?
そう思った次の瞬間、人生で味わったことのない黒板を爪で引っ搔くような、キイィッと高い音の痛みが一気に全身を駆け巡る。
何が起きたか理解するより早く、私の世界は崩れていく。
「がっ……あぁっ!……あ、っ……がぁっ!!」
凄まじい激痛が全身を焼き、瞬時に視界が真っ黒に塗りつぶされる。
目は開いているハズなのに、何も見えない。
叫ぼうとした喉は瞬時に詰まり、直後、視界が真っ赤に反転した。
網膜の裏側に、どろりとした赤が直接ぶちまけられたような暴力的な色彩。
脳が激しく揺れる。全身の力が抜け膝から崩れ落ち、コンクリートの冷たさが頬を打つ。が、その痛みはもはや感じない。
苦しみと激痛が、ほんの少しだけ遠のいてゆく。
そして、徐々に目の前の風景がぼんやりと、目の中に入って来た。
苦しい中、どうにか息を吸おうとする鼻や口から、鉄の匂いと味がした。
血? どこから?
そこで漸く、自分の腹部に突き刺さった安っぽい木の柄が視界に入った。
あれ……私、もしかして……刺された?
肺が潰れるような圧迫感。
苦しい……息が……
ゆっくりと視線だけを上げた先。そこには見覚えのある一人の男が、茫然と立っていた。
なぜか手を震わせて、泣いているようにも見える。
その男は私にゾンビみたいに手を伸ばしながら、フラフラと再び近づいて来た。
「結婚するって……そう、君は言ったじゃないか。君みたいな悪女……刺されて当然、だよね」
嗚咽交じりに、なにかを言う男。
顔はぐちゃぐちゃに見えた。
……そんな話、したっけ。
誰とだったかな。
身体に刺さったナイフ。
そっか、これもギフト……か
刺されてから、光が消えるまでの数十秒。
私は、泣き崩れる男の声を聴きながら、命最後の破片を拾い上げ、
どうにか声を絞り出し、言葉にしてみる。
「これ、あなた、から、の……いいよ、もらって……あげ……」
が、最後まで、言えなかった。
まぁ、いっか。
そこで私の世界は、暗闇に堕ちていった。
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※AI不使用です。