【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

文字の大きさ
66 / 155
2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と

絆は血よりも濃い

しおりを挟む
「レンジ」

 始めに口を開いたのはガルム。俺は寝転がったまま次の言葉を待っている。

「さっきの……ジルの振る舞いについて謝らなければならないと思ってな」

 慎重に、言葉を選びながら……どう言ったらいいのか分からないのだろうな。ガルムはそのまま麦酒ギールを一気に口に含む。

「あれはまたジルの悪い癖が出てしまった結果でなぁ。フィオナは全く気付いていなかったが、お前にも申し訳ないことをした。親として謝らねばならぬ。すまない」

 ガルムは俺に軽く頭を下げる。

「やめろって別に気にしちゃいねぇよ」

俺は首を左右に振ってガルムに頭を上げさせた。

「いつからジルはああなってしまったのか、子供の頃はとても素直でいい子でな。特にうちの死んだ女房にはとても懐いていてな」

 亡くなった奥さんか。確か死に際に間に合わなかったって言っていたよな。
 遠くを見る様な、昔を思い懐かしむようなガルムの声。俺は特にガルムに話を返す事はしない。たぶん……俺にというより自分に対して話しているんだと思うからだ。ただ聞いて欲しい時って誰にでもあるだろ。

「女房が死んでからなんていうか色々あってな……ジルとはうまくいっていない。昔は言えたことが、今は上手く伝えられないもどかしさと言えばいいのか。どうやって接したら良いのか正直測りかねているのだ。それはジルも一緒なのだろう」

 俺は早くに両親を無くしてしまったからあれだけど、気持ちはわかる。特に父親との気持ちのすれ違いってあるよな。自分だって短い間だったけど無かったわけじゃない。

「ファルナート王国と獣人の国ダーザルヒルムには、お互いに登用制度があるという話をしたのは覚えているか? 」

 …そうだっけか? 俺の一瞬思考が止まったような表情を横目で見やると、呆れた様な声をガルムは出した。

「全くお前というやつは! まぁいいさ。その制度の一環として、お互いの国の身寄りのない孤児を養子として受け入れ、次世代に『絆』を受け継いでいくという方策がとられていてな。それでうちにやってきたのがジルだったというわけだ」

 なるほどそういうことか。獣人であるガルムと、フィーム族のジルベニスタが親子関係というのが結構違和感を感じたんだ。これでようやく疑問がすっきりしたぞ。
 ガルムはやはり引っ掛かっていたのかという表情をすると、残った麦酒ギールをガっと飲み干した。

「ダーザルヒルムには『絆は血よりも濃い』という考え方が古来よりあってな。獣人は元々数が少ないうえに、多数の部族が居て種族が違うと子を成すことが難しいという側面があるんだ。それ故に生まれた思想なのだと思っている」

 へぇ…それってすごい考え方じゃないのか。血縁とか種族ってどうしても絶対視されがちだし、時には争いの火種になっちまうだろ。差別とか偏見とかさ。良い方向に働いているうちはいいんだろうけど。地球の時だってイデオロギー的な話はよくニュースで流れていたからな。異世界でもそんなところは一緒なんだな。

「いいんじぇねぇの。なんだか俺はその考え方好きだな。『絆』とか『縁』とかさ、そういうのって時にはとても大事なんだよ」

 そう言いながら俺は自分の師匠の怒った顔を思い浮かべた。そうだよ。師匠との縁、寿司を通じた絆。

『蓮司。繋がるのは心だ。上っ面だけ繋がっていたってダメだ。全部バレちまう』

 そう言って俺の頭を意味もなく叩いていたっけ。全くこの異世界に来てから師匠の言葉ばかりを思い出しちまうなぁ。
 ガルムはそんな気持ちを知ってか知らずか、微笑むように俺の横顔を眺めていた。

「ははっ! お前に共感してもらえるとは思わんかったわ。この手の話題を話すには少し勇気がいることなのでな。なかなか……特に王都の連中にはあまり実感の湧かない話の様で共感されたことは殆どない」

 少し寂しそうにガルムが呟いた。色々あったんだなガルムは。俺は起き上がるとガルムと真っ直ぐ視線を合わせて頷いた。

「俺は両親に突然死なれて、その後師匠と呼べる人に出会って色々救われた。ジルベニスタも今は分からねぇけど、少なくともガルムの奥さんには懐いていたんだろ。それだったら決して悪い事ばかりじゃなかったんじゃねぇかな」

 ガルムの目から熱いものが溢れる。まったくよぉ。歳取ると涙腺が弱くなるって本当なんだな。そういえばガルムって年はいくつなんだろうか。

「すまんな。年は取りたくないもんだ。少々酔っぱらっているんだろう。気にするな」

「気にはしないさ。こういう話をガルムとできるって事が嬉しいのさ。腹を割って話すっていうことはそんな簡単なことじゃない。それこそ上辺だけではすぐバレちまう」
 
 なんか師匠の真似をしたような言葉に、俺はなんだか小さく笑う。
 ガルムは目から流れ出る涙を片手で拭うと話を続けた。

「あのジルはちょっと母性に対する憧れと言えばいいのか、そういう想いが強い気がするのだ。多数の女性と浮名を流している噂はよく聞くんだが逆に長くも続かん。父としてはやはり心配なのさ」

 フィオナは……完全なる天然系だからな。まぁあれはあれで、ちょっと問題なのかもしれないんだが。俺はきょとんとしているフィオナを思い出し苦笑いを浮かべた。

 しかし厄介な相手だったわけだ。騎士団団長というぐらいだから腕が立つのは見ればわかる。その上イケメンで王都での影響力が強い。更にマザコンときてる。三拍子どころか三々七拍子ってところじゃねぇか。困ったなぁ。俺の王都での寿司計画をまさか邪魔してこないよなアイツ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

ショボい人生のやり直し?!絶対に消えたくないので真逆の人生でポイント貯める

亀野内アンディ
ファンタジー
「佐藤さんはお亡くなりになりました」 「え?」 佐藤竜、独身リーマン。ビルの倒壊で享年(40)案内役に連れられ天へと向かうが⋯⋯⋯⋯ 「佐藤竜はさぁ、色んな世界でも特に人気の高い地球の日本に産まれて一体何を成し遂げたの?」 「え?」 「五体満足な体。戦いの無い安全な環境で育ち、衣食住は常に満たされて、それで何をしたの?」 俺は恵まれた環境であまりにもショボい人生を送っていたらしい。このままでは⋯⋯⋯⋯ 「はぁ。どうしようかな。消すかな」 「な、何をですか?!」 「君を」 「怖いです!許して下さい!」 「そう?消えれば無に還れるよ?」 「お、お願いします!無は嫌です!」 「う~ん。じゃあ君は佐藤と真逆の人生を歩ませようかな?そこで人生経験ポイントを佐藤の分まで貯めなよ?佐藤とこれから転生する君の二人分の体験だよ?失敗したら今度こそは無にするからね」 「はい、死ぬ気で頑張ります!!」 ここから真逆の人生で経験ポイント貯める佐藤の戦いが始まる?!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...