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2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と
絆は血よりも濃い
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「レンジ」
始めに口を開いたのはガルム。俺は寝転がったまま次の言葉を待っている。
「さっきの……ジルの振る舞いについて謝らなければならないと思ってな」
慎重に、言葉を選びながら……どう言ったらいいのか分からないのだろうな。ガルムはそのまま麦酒を一気に口に含む。
「あれはまたジルの悪い癖が出てしまった結果でなぁ。フィオナは全く気付いていなかったが、お前にも申し訳ないことをした。親として謝らねばならぬ。すまない」
ガルムは俺に軽く頭を下げる。
「やめろって別に気にしちゃいねぇよ」
俺は首を左右に振ってガルムに頭を上げさせた。
「いつからジルはああなってしまったのか、子供の頃はとても素直でいい子でな。特にうちの死んだ女房にはとても懐いていてな」
亡くなった奥さんか。確か死に際に間に合わなかったって言っていたよな。
遠くを見る様な、昔を思い懐かしむようなガルムの声。俺は特にガルムに話を返す事はしない。たぶん……俺にというより自分に対して話しているんだと思うからだ。ただ聞いて欲しい時って誰にでもあるだろ。
「女房が死んでからなんていうか色々あってな……ジルとはうまくいっていない。昔は言えたことが、今は上手く伝えられないもどかしさと言えばいいのか。どうやって接したら良いのか正直測りかねているのだ。それはジルも一緒なのだろう」
俺は早くに両親を無くしてしまったからあれだけど、気持ちはわかる。特に父親との気持ちのすれ違いってあるよな。自分だって短い間だったけど無かったわけじゃない。
「ファルナート王国と獣人の国ダーザルヒルムには、お互いに登用制度があるという話をしたのは覚えているか? 」
…そうだっけか? 俺の一瞬思考が止まったような表情を横目で見やると、呆れた様な声をガルムは出した。
「全くお前というやつは! まぁいいさ。その制度の一環として、お互いの国の身寄りのない孤児を養子として受け入れ、次世代に『絆』を受け継いでいくという方策がとられていてな。それでうちにやってきたのがジルだったというわけだ」
なるほどそういうことか。獣人であるガルムと、フィーム族のジルベニスタが親子関係というのが結構違和感を感じたんだ。これでようやく疑問がすっきりしたぞ。
ガルムはやはり引っ掛かっていたのかという表情をすると、残った麦酒をガっと飲み干した。
「ダーザルヒルムには『絆は血よりも濃い』という考え方が古来よりあってな。獣人は元々数が少ないうえに、多数の部族が居て種族が違うと子を成すことが難しいという側面があるんだ。それ故に生まれた思想なのだと思っている」
へぇ…それってすごい考え方じゃないのか。血縁とか種族ってどうしても絶対視されがちだし、時には争いの火種になっちまうだろ。差別とか偏見とかさ。良い方向に働いているうちはいいんだろうけど。地球の時だってイデオロギー的な話はよくニュースで流れていたからな。異世界でもそんなところは一緒なんだな。
「いいんじぇねぇの。なんだか俺はその考え方好きだな。『絆』とか『縁』とかさ、そういうのって時にはとても大事なんだよ」
そう言いながら俺は自分の師匠の怒った顔を思い浮かべた。そうだよ。師匠との縁、寿司を通じた絆。
『蓮司。繋がるのは心だ。上っ面だけ繋がっていたってダメだ。全部バレちまう』
そう言って俺の頭を意味もなく叩いていたっけ。全くこの異世界に来てから師匠の言葉ばかりを思い出しちまうなぁ。
ガルムはそんな気持ちを知ってか知らずか、微笑むように俺の横顔を眺めていた。
「ははっ! お前に共感してもらえるとは思わんかったわ。この手の話題を話すには少し勇気がいることなのでな。なかなか……特に王都の連中にはあまり実感の湧かない話の様で共感されたことは殆どない」
少し寂しそうにガルムが呟いた。色々あったんだなガルムは。俺は起き上がるとガルムと真っ直ぐ視線を合わせて頷いた。
「俺は両親に突然死なれて、その後師匠と呼べる人に出会って色々救われた。ジルベニスタも今は分からねぇけど、少なくともガルムの奥さんには懐いていたんだろ。それだったら決して悪い事ばかりじゃなかったんじゃねぇかな」
ガルムの目から熱いものが溢れる。まったくよぉ。歳取ると涙腺が弱くなるって本当なんだな。そういえばガルムって年はいくつなんだろうか。
「すまんな。年は取りたくないもんだ。少々酔っぱらっているんだろう。気にするな」
「気にはしないさ。こういう話をガルムとできるって事が嬉しいのさ。腹を割って話すっていうことはそんな簡単なことじゃない。それこそ上辺だけではすぐバレちまう」
なんか師匠の真似をしたような言葉に、俺はなんだか小さく笑う。
ガルムは目から流れ出る涙を片手で拭うと話を続けた。
「あのジルはちょっと母性に対する憧れと言えばいいのか、そういう想いが強い気がするのだ。多数の女性と浮名を流している噂はよく聞くんだが逆に長くも続かん。父としてはやはり心配なのさ」
フィオナは……完全なる天然系だからな。まぁあれはあれで、ちょっと問題なのかもしれないんだが。俺はきょとんとしているフィオナを思い出し苦笑いを浮かべた。
しかし厄介な相手だったわけだ。騎士団団長というぐらいだから腕が立つのは見ればわかる。その上イケメンで王都での影響力が強い。更にマザコンときてる。三拍子どころか三々七拍子ってところじゃねぇか。困ったなぁ。俺の王都での寿司計画をまさか邪魔してこないよなアイツ!
始めに口を開いたのはガルム。俺は寝転がったまま次の言葉を待っている。
「さっきの……ジルの振る舞いについて謝らなければならないと思ってな」
慎重に、言葉を選びながら……どう言ったらいいのか分からないのだろうな。ガルムはそのまま麦酒を一気に口に含む。
「あれはまたジルの悪い癖が出てしまった結果でなぁ。フィオナは全く気付いていなかったが、お前にも申し訳ないことをした。親として謝らねばならぬ。すまない」
ガルムは俺に軽く頭を下げる。
「やめろって別に気にしちゃいねぇよ」
俺は首を左右に振ってガルムに頭を上げさせた。
「いつからジルはああなってしまったのか、子供の頃はとても素直でいい子でな。特にうちの死んだ女房にはとても懐いていてな」
亡くなった奥さんか。確か死に際に間に合わなかったって言っていたよな。
遠くを見る様な、昔を思い懐かしむようなガルムの声。俺は特にガルムに話を返す事はしない。たぶん……俺にというより自分に対して話しているんだと思うからだ。ただ聞いて欲しい時って誰にでもあるだろ。
「女房が死んでからなんていうか色々あってな……ジルとはうまくいっていない。昔は言えたことが、今は上手く伝えられないもどかしさと言えばいいのか。どうやって接したら良いのか正直測りかねているのだ。それはジルも一緒なのだろう」
俺は早くに両親を無くしてしまったからあれだけど、気持ちはわかる。特に父親との気持ちのすれ違いってあるよな。自分だって短い間だったけど無かったわけじゃない。
「ファルナート王国と獣人の国ダーザルヒルムには、お互いに登用制度があるという話をしたのは覚えているか? 」
…そうだっけか? 俺の一瞬思考が止まったような表情を横目で見やると、呆れた様な声をガルムは出した。
「全くお前というやつは! まぁいいさ。その制度の一環として、お互いの国の身寄りのない孤児を養子として受け入れ、次世代に『絆』を受け継いでいくという方策がとられていてな。それでうちにやってきたのがジルだったというわけだ」
なるほどそういうことか。獣人であるガルムと、フィーム族のジルベニスタが親子関係というのが結構違和感を感じたんだ。これでようやく疑問がすっきりしたぞ。
ガルムはやはり引っ掛かっていたのかという表情をすると、残った麦酒をガっと飲み干した。
「ダーザルヒルムには『絆は血よりも濃い』という考え方が古来よりあってな。獣人は元々数が少ないうえに、多数の部族が居て種族が違うと子を成すことが難しいという側面があるんだ。それ故に生まれた思想なのだと思っている」
へぇ…それってすごい考え方じゃないのか。血縁とか種族ってどうしても絶対視されがちだし、時には争いの火種になっちまうだろ。差別とか偏見とかさ。良い方向に働いているうちはいいんだろうけど。地球の時だってイデオロギー的な話はよくニュースで流れていたからな。異世界でもそんなところは一緒なんだな。
「いいんじぇねぇの。なんだか俺はその考え方好きだな。『絆』とか『縁』とかさ、そういうのって時にはとても大事なんだよ」
そう言いながら俺は自分の師匠の怒った顔を思い浮かべた。そうだよ。師匠との縁、寿司を通じた絆。
『蓮司。繋がるのは心だ。上っ面だけ繋がっていたってダメだ。全部バレちまう』
そう言って俺の頭を意味もなく叩いていたっけ。全くこの異世界に来てから師匠の言葉ばかりを思い出しちまうなぁ。
ガルムはそんな気持ちを知ってか知らずか、微笑むように俺の横顔を眺めていた。
「ははっ! お前に共感してもらえるとは思わんかったわ。この手の話題を話すには少し勇気がいることなのでな。なかなか……特に王都の連中にはあまり実感の湧かない話の様で共感されたことは殆どない」
少し寂しそうにガルムが呟いた。色々あったんだなガルムは。俺は起き上がるとガルムと真っ直ぐ視線を合わせて頷いた。
「俺は両親に突然死なれて、その後師匠と呼べる人に出会って色々救われた。ジルベニスタも今は分からねぇけど、少なくともガルムの奥さんには懐いていたんだろ。それだったら決して悪い事ばかりじゃなかったんじゃねぇかな」
ガルムの目から熱いものが溢れる。まったくよぉ。歳取ると涙腺が弱くなるって本当なんだな。そういえばガルムって年はいくつなんだろうか。
「すまんな。年は取りたくないもんだ。少々酔っぱらっているんだろう。気にするな」
「気にはしないさ。こういう話をガルムとできるって事が嬉しいのさ。腹を割って話すっていうことはそんな簡単なことじゃない。それこそ上辺だけではすぐバレちまう」
なんか師匠の真似をしたような言葉に、俺はなんだか小さく笑う。
ガルムは目から流れ出る涙を片手で拭うと話を続けた。
「あのジルはちょっと母性に対する憧れと言えばいいのか、そういう想いが強い気がするのだ。多数の女性と浮名を流している噂はよく聞くんだが逆に長くも続かん。父としてはやはり心配なのさ」
フィオナは……完全なる天然系だからな。まぁあれはあれで、ちょっと問題なのかもしれないんだが。俺はきょとんとしているフィオナを思い出し苦笑いを浮かべた。
しかし厄介な相手だったわけだ。騎士団団長というぐらいだから腕が立つのは見ればわかる。その上イケメンで王都での影響力が強い。更にマザコンときてる。三拍子どころか三々七拍子ってところじゃねぇか。困ったなぁ。俺の王都での寿司計画をまさか邪魔してこないよなアイツ!
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