音速の少女が蒼穹にシュプールを描きミサイルで飽和攻撃している時、少年兵にはどこからか悲しい歌が聞こえていた

へちゃ

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歌姫は舞う

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 しばらく、海岸沿いを南下していると、人気の無い無人灯台と付随する小さな小屋を2人は見つけた。
「今日はさー、ここに泊まろうよ。久しぶりの屋根だ」と、柊奏良ひいらぎそらが、伸びをしながら言う。
「小さくてもいいから発電機があるといいわ」
と、「音速の少女」、戦場の歌姫と呼ばれる、つむぎ=ノーラン、女子高生の制服みたいな服を着た美しい少女は答える。
「少なくとも、灯台にはありそうだから
大丈夫じゃないかな?」
「そう、なら、早く中に入って、ご飯というのを
食べましょう」
「ふふふ、もう、食いしん坊ちゃんになって
しまったんだね」
「キッチンがあるといいな、僕の得意な料理
作ってあげるよ」
と、奏良。
 二人は小屋に入っていった。探索すると、キッチンもあって、瓶や缶詰の食品も結構あった。混合燃料とそれを動かす発電機もあって、奏良はかなりほくほく顔をしていた。
 発電機に、混合燃料を入れると、
「さぁ、君は、電子系を充電していて」
「僕は、夕飯を作るよ」
奏良は、発電機に僅かな電力を使う白熱球を接続して、キッチンのコンロに薪をくべた。
「そうね、そうさせてもらうわ」
と、紬。
奏良は、バジルペーストとチーズとトマト缶と刻みニンニクを探し出し、トマトソースのパスタを作り始めた。
「トマトソースパスタは安く簡単に作れて、とてもおいしいんだ。僕が子供の頃、忙しい母さんの代わりに小さい弟達に作ってあげてたんだ」
と、奏良は、刻みニンニクを炒めながら言う。
部屋は、香ばしいニンニクの匂いでいっぱいだ。

 紬は、奏良のおしゃべりを聞きながら、小さくハミングしていた。それは安らぎからでもあったが、支援量子コンピューター天之御中主アメノミナカヌシの特権モードへのアクセス権を得る為の脳波パターンを歌で色々変えて試していたのだ。

 バジルの香りが漂ってきた頃、奏良は、
「さぁ出来たよ!パスタは、アルデンテが命。すぐ食べ始めてね。粉チーズもあるよ」と、言った。
 紬は、奏良のフォークでくるくる巻いて食べる様子を観察して、真似てみた。
ちゅるちゅるちゅる、つるる。
「あら、料理の美味しさは、まだストックが足りないから詳しく説明出来ないけど、これは、美味しいの項目にファイリングして置くわ」
「トマトとバジルは良く合うのね」と、紬。
「まぁ、僕の腕もあるんだよ。全部、缶詰とかの保存食料だったからね」と、奏良。
微妙に自慢し、はにかんで。
食後に二人、小屋にあったティバッグの紅茶でぬくぬくしてると、紬が。

「奏良、お願いしたいことがあるの。さっき、天之御中主アメノミナカヌシへの特権モードでのアクセスに成功したの」
「私が量子論理ゲートの変更と初期値の改ざんを終えたら、取り出して欲しいの」と、紬。
「取り出すって、何処から?」と、奏良。
「首の脊髄の後ろよ」と、紬。
「あわわわ、どうやって?」
「切開するのよ」
「ひえぇぇ!でも、やるよ。必要なんでしょ」
妹達シスターズの敵味方識別アルゴリズムを撹乱出来る可能性があるの」
と、明日のご飯の献立でも考えるように、紬。
 やがて、穏やかな、初恋の思い出のような夜は更けていって。

      ***


 朝。
「奏良!起きて頂戴。妹達シスターズがやって来るわ。ジャミングが始まったわ」
 明け方の空には、まだ、朝日以外何も見えなかったが、やがて、地平線から小さな点が大きくなっていき。
「奏良。取り外した天之御中主アメノミナカヌシを灯台のビーコンに繋いで来て。より強い電波が必要なの」
「分かった!240秒待って」

やがて、オープンチャンネルで。

妹達シスターズ、私は、あなた達の脅威には、ならないわ。引退して、静かに暮らしたいだけなの」と、紬。
「あら、私たちに定年なんてあったかしら?歳も取らないのに」と、次女。
「私達は、兵器。心は、兵器としての精度向上の為だけにあるの」と、3女。
「だから、それに関係ない想いは抹消されるべきなの、個体も」と、4女。
「早く、戻ってきて。一緒に暮らしましょう」
と、それが、次女の姉妹へのトリガー。
 妹達シスターズのミサイルポッドが一斉に開き、ミニミサイルが発射される。

 紬は蒼穹を高機動でランダム回避運動をしつつ、最適な回避経路を量子アルゴリズムで解き、フレアを発射したりした。また、閉鎖系のシスターズの兵装AIにハッキングを試みる。

そろそろか。

奏良が灯台のビーコンと天之御中主アメノミナカヌシの接続を終え、天之御中主アメノミナカヌシとエンタングル状態にした紬の歌を増幅し、発射した。
妹達シスターズの編隊がみだれ、同士討ちをしそうになって、
シスターズの危険忌避系統システムが、兵装システムの使用を禁じた。
紬はP90で妹達の首の後ろを単発で射撃し、支援量子コンピューターだけを破壊した。


「ねぇ、お姉様の勝ちだわ。何の力なの?人間達には愛というのがあるらしい。それに負けたの?」と、次女。
「私たちも2/3は人間よ。あなた達にもこういう出会いが来るかも知れない。兵器にも愛が芽生えることもあるの。もし、突然、胸の高鳴りが鳴った時に、自分に聞いてみればいい」と、紬。

 日が沈みそうな刻限。
 青と夕陽が混ざった複雑な空の色と海。
 月の奏でる穏やかな波。
「何か、今日は、大変だったね。
僕は、君を守りたかったんだけど、
ただ、それだけだったんだけど…」
 紬が言葉をさえぎって、奏良にキスした。
「発情した時は、こうするんでしょ!ハッピーエンドはここじゃないわ。サッカーチームよ」
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