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第三話
しおりを挟むそれからのオリスと過ごす日々は楽しかった。他愛のないことで笑い合い、愛欲の時間も持ち、順風満帆な交際をしていた。
今世ならきっと二人で幸せになれると思っていた、その矢先のことだ。また、あの知らせが届いた。オリスの訃報だ。
今度は街の川で溺れた子どもを助け、代わりに亡くなったのだという。リュアは再び泣き崩れた。
もっと先の海水浴場で溺死するルートさえ回避できたら、二人で幸せな未来を迎えられるはずだったのに。それなのに、どういうことだ。
しばらく、ファンタジー書籍を読み漁った。タイムリープものだ。なぜ、前の時間世界で起こらなかったことが起きたのか、原因をさぐった。
すると、やがて一つの仮説に辿り着く。
「……そうか。確率論だ」
この世界には、いくつものルートが存在する。分岐点を変えたら、未来も変更されるのだ。
つまり、リュアがこれから起こす行動すべてが、過去世界とは異なる事象を生む。未来は常に変化していく。
そのことに気付き、リュアは思った。ーーそもそも、オリスと自分は結ばれるべきではなかったのでは。
自分さえ傍にいなければ、オリスは生きて幸せになれるかもしれない。きっと、自分は……オリスの未来を奪う死神だから。
「……やり直そう。もう一度」
再び魔導具を開発して、リュアはやり直す。五年前にまた意識だけ戻り、オリスと交際するルートを断念した。ミュゼルと別れた後も、友人として関わり続けた。すべては、オリスの幸せな結婚を願って。
けれど、それでもオリスは死んでしまった。二十代という若さで。
また失敗してしまった。
「どうしたら、オリスの命を救うルートになるんだろう……」
悩み、考え抜いた結果……ある結論に至らざるを得なかった。ルートは分岐しても、未来自体は変えられないのではないかと。つまり、オリスは若くして死ぬ運命なのだ。
それが分かった時、リュアは決意した。未来は変えられなくても、そこに至る道筋を変えることはできる。ならば、オリスの人生を幸せいっぱいにしてあげよう。
再び魔導具を作って、また五年前に魂だけを飛ばす。今度こそ、オリスを幸せにするのだ。
「リュア?」
気付くと、リュアのことを気遣わしげに覗き込むオリスの顔がある。十八歳の時だ。一緒に大衆浴場の休憩室で歓談してる時の。
リュアは、にこりと微笑んだ。
「ごめん、ごめん。ちょっと、ボーッとしてた。なんの話だっけ?」
「大学の話だよ。お前、友達はできたのか? 昔から誤解されることが多いんだから」
オリスの表情は、ちょっと心配そうだ。そっちこそ、昔から心配性だろとツッコミたくなる。
今のリュアにとっては、オリスがすべてだ。友達なんかいらないし、そもそももう精神年齢が合わない。オリスさえ、幸せにできたらそれでいい。そのために、自分は過去に舞い戻ったのだから。
「大丈夫だよ。あんまり気が合わないから、友達付き合いしてないだけだから」
「そういうところがリュアの悪いところだろ。気が合わない相手とだって仲良くする必要は、いつか出てくる。毛嫌いするのはやめておけって」
リュアは曖昧に笑った。ずっと昔、似たようなことを言われたことがある。オリスはやっぱり変わらない。
「それよりもさ、オリス。……恋人とはどう?」
そろりと窺うと、オリスは言い淀む。
「な、なんだよ。急に。関係ないだろ」
「関係ある。俺も……オリスのことが好きだから」
「……え?」
ぽかんとするオリスを、リュアはじっと見つめた。ミュゼルではなく、自分を選んでほしい。その一心で。
オリスの左手に、そっと手を重ねる。誘うように握りしめると、オリスの指がびくついた。
「リュ、リュア。やめろって」
引っ剥がそうとするオリスの唇を、強引に奪った。目を見開くオリスから顔をゆっくりと離し、目を伏せる。
「本気で好きなんだ。だから……俺と付き合ってほしい」
思い切って告白すると、オリスは息を呑んだ。逡巡した末にこくりと頷いた。
「……分かった。ミュゼルとは別れる。付き合おう」
「うんっ」
奪い取ってしまうことになったが、なりふり構っていられなかった。それにどうせオリスのことを何度も裏切る相手だ。オリスを幸せにできるわけがない。
傲慢な思いかもしれないが、オリスのことを幸せにできるのは自分だけだ。きっと。
ここから始まった。オリスとの三度目の人生が。ループ三度目の人生で彼を幸せにする。絶対に。
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