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アイヴィが負けた!?

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「ノー。ソーシャルディスタンスだよレックス君」

「悪いけどしばらくアタシ達に近づかないでね」

「え……なに?」

 レックスは学校から家に帰ると、マスクをしたメイド2人に明確に『近づかないで』と言い渡された。
 レックスが一歩踏み出すと、ヴァネッサとサフィアも同時に一歩下がる。いつもは帰ってくるなりレックスにべったりな二人は、普段と異なる反応を見せていた。

「レックス君。きちんと手を洗ってうがいもしてね?」

「部屋の各所に消毒液が置いてあるから、部屋を使ったりしたらきちんと消毒してね」

「何なの? ボクが学校行っている間に何があったの?」

 戸惑うレックスを尻目に、二人はスプレーで玄関ホールにある装飾などへ消毒液をかけていく。
 いつもの笑顔で迎える彼女達ではなく、レックスすら警戒対象に入っているその姿は異様だった。

「詳しくはお母様から聞いて? 私達、屋敷の消毒作業をしなきゃいけないから……」

「はぁ。旦那様は朝から騎士たちの訓練視察とかの仕事に行って、夜まで帰ってこないし……お兄ちゃんだけが頼りかぁ」

「え、なんなの? いったいなんなの?」

 何やら不穏なことを言い残し、他の部屋へと二人は行ってしまった。こうなったら母に聞くしかないと、レックスはとりあえず洗面所で手洗いうがいをしてから母を探す。

 母親を探して書斎に入ると、柔らかい革製のソファーの上に、先程の二人と同じようにマスクをしたマーガレットの姿。彼女は腕を組んで悩ましくうんうんと唸っていた。

「むぅ、困った……」

「ただいま。母さん、なんかヴァネッサとサフィアが変なんだけど」

「おお、お帰りレックス。実はアイヴィが感染症にかかってな……お前が学校に行っている間に発症した」

「感染症!? 大変じゃないか。すぐに医者に診てもらうか、母さんが調合する薬で治療しないと」

「むぅ、医者に頼むのはなぁ。というより、妾達で解決しないと大変なことになる病なのだ」

「診せられない? アイヴィはどんな病気になったんだ? もしかしてそれほど大変なやまいなの?」

 やはりレックスにとってアイヴィは大切な存在なのだ。ソーシャルディスタンスは保ちつつ、身を乗り出しそうな勢いでマーガレットに問い詰める。
 彼女は告げるべきか告げないべきか難しい顔でひとしきり悩んだ後、アイヴィが発症したという感染症の名前を口にした。

「病名は『イン・フルエンザ』だ」

「なんて?」

イン・フルエンザだ」

「ふざけてるの? 真面目なの?」

「大真面目だ。この病気は魔族のみが発症する特殊な病気でなぁ。ほれ、アイヴィは剣術に優れ、領地に出た魔物を討伐したりするだろ? その時に病原菌を貰ってしまったみたいなのだ」

「で、症状は?」

「淫乱になる。いつもと比べて、ひじょ~に淫乱になる。妾もかかったことがあるが、あの状態は物凄く辛い」

「だいたいいつものサキュバスじゃないか」

「たわけ、軽口を叩いてられるものでないぞ。淫乱になりすぎて同性まで襲いかねない。下手をするとヴァネッサとサフィアがアイヴィの餌食になりかねん。無論、妾もな。そうなるとどんどん感染していく」

 それはそれで、ボクは病気の間楽にできるのでは? とレックスは考えた。
 しかし、その分アイヴィが自分の望まない行為をするだろうということに胸がちくりと痛む。そして、感染していくとやはり自分は危ないのではとも。

「マスターを呼び戻して相手をさせれば問題はないと思うのだがなぁ。だがアイヴィは強情で、お前が相手じゃないと絶対に嫌だと言って聞かん」

「まさかボクに病気の間に相手をしてもらうと……? アイヴィを部屋にいさせるためにボクを生け贄にしようと?」

「今回は非常事態だ。妾も滋養強壮剤を可能な限り調合してサポートする。あと、アイヴィが治った後もしばらく家族間でもソーシャルディスタンスを保てよ? もし妾かヴァネッサが発症すれば……この領地終わりかねんぞ」

 最悪の事態を考え、ぞっとする。サキュバスクイーンであるマーガレットがかかれば、領地全体の人間が餌食となるだろう。また、ヴァネッサがかかればその魔眼でカオスな状況になる。
 それに、アイヴィがそんなに苦しい状態であることをレックスは放っておくことができなかった。

「わかった、ヤるよ。相手すればいいんだろ? 薬とかのサポートお願い」

「うむ、頼む。だが今のアイヴィはお前への愛が深すぎてヤバイ状態だ、くれぐれも気を付けろよ? 本当にマズい場合はすぐにマスターを呼び戻す。わがままを聞いてられない状況だ」

 ふうっとため息をつき、マーガレットは腰を上げて自分専用の調合室に向かう。
 レックスは自分がやるしかないんだ、アイヴィを助けてあげなきゃならないんだと意気込んでアイヴィの部屋に向かった。

 ドアをノックし、返事も待たずにレックスはアイヴィの部屋へ入り込む。その瞬間、むせかえるようなフェロモンが鼻孔を刺激した。
 まだベッドの上でうずくまるアイヴィを視界にとらえただけだというのに、レックスの心臓はどくどくと早く動き出し、下半身へ血液を大量に送り込む。

「入ってきたのは、レックス様ですか?」

「そ、そうだよアイヴィ。その、辛い状況だっていうから看病しに来た」

「よかった……旦那様だったらどうしようかと思いました。もう、我慢できなくなる寸前でしたので……」

 苦しそうにうずくまっていたアイヴィが上半身を上げた。そして、閉ざされていたその目がゆっくりと開かれる。
 桃色の瞳に、普段はないはずの赤いハートマークが描かれていた。その情欲を秘めた目に見つめられるだけで、レックスの呼吸がフーッ、フーッと獣のようになる。

 完全にアイヴィの淫気にあてられた。ゆらゆらとレックスはアイヴィが座るベッドに歩いていき、その前で止まって無言になる。

 お互いに顔は赤く染まっており、頭から病気のことなどすっぽりと抜け落ちていた。ただお互いが相手を気持ちよくさせたい、捧げたいと願い、下半身が愛し合うための準備を始める。

「ごめんなさい、レックス様。もう駄目です、今日は本気で交わりましょう。レックス様を、地獄テンゴクへ連れていって差し上げます。愛しています、好き、好き、大好き……ごめんなさい、私を許してください。もう駄目なんです、愛しくて愛しくてこの思いが止まらない……!」

「あ、あ、アイヴィ……」

「きて、レックス様」

 瞳で強い魅了チャームの魔法をかけられた瞬間、レックスはアイヴィが病人だということも忘れて覆いかぶさるように襲いかかった。
 


 一度目。ディープキスの快楽に耐えきれず。

 二度目。激しく口で吸われた。

 三度目。大きな胸で扱われた。

 四度目。乳首を吸われながら手で扱われた。

 五度目。滋養強壮剤で強化されるも、交わってすぐに。

 六度目、七度目、八度目、九度目、十度目……。交わりは長く甘く蕩けるように続く。
 レックスの思考は真っ白で、ただ低い喘ぎ声を出し続ける人形と化していた。アイヴィすらも快感で思考回路が麻痺しており、二人してただ気持ちよくなるために更に動く。

 十一度目、十二度目、十三度目…………。

 優しい甘イキや激しく深い絶頂を繰り返す。アイヴィの下腹部に描かれた淫紋がぽわりと淡く光っている。アイヴィの目は完全に獲物を絞り殺すという妖しさを秘めていた。レックスはただ獣のような声を上げながら精をアイヴィに捧げるのみ。

 やがて、行為を終えて疲れ果てた二人はキスを交えつつ抱き合いながら深い眠りについた。

 後に目覚めたレックスは、家族とソーシャルディスタンスを取りながら語ったという。「今回は助けたのでノーカン。負けてない」と。
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