ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

文字の大きさ
103 / 539

第103話 そして、最後の一人が。 at 1995/7/5

しおりを挟む
「なるほどね……。いや、結構プライベートなことまで話してくれてありがとう。助かるよ」


 ひとしきり話が終わった頃合いを見計らって、僕は一つうなずいて笑顔とともにそう告げた。『電算論理研究部』の部室に集まった面々もまた、今まで止めていたことを忘れていたかのように、ふぅ、と息を吐き出す。

 一旦は落ち着いたとはいえ、水無月さんの口はさほど軽くなったわけでもなくって、壁掛け時計に目をやると、ここに集まってからすでに二時間近く経っていたようだ。それでも僕らは水無月さんのペースに合わせ、急かすことも横槍を入れることもなく、ただ黙って聞いていた。


 水無月さんは、小学校の高学年になった頃から体調を崩してしまった。


 それまでは周りの子どもたちとさほど変わらなかったが、二次性徴期のおとずれとともにそれははじまった――カラダのだるさ、微熱、体重の減少――といった形で。複数の病院で診察を受けたものの、原因と病名は一向にわからず、やがてそれらは水無月さんの日常とすり替わっていった。慢性的な症状と化して彼女を苦しめ弱らせ、外界から切り離し遠ざけて、閉じ込めてしまったのだった。

 なにも小山田や吉川が特別だというわけではなく、似たような鋭利な言葉の槍が水無月さんの心を幾度も傷つけてきた。それを耳にしていきどおった僕たちに、水無月さんが苦々しい顔でこう告げる――『あ、あたしだって、逆の立場ならそうした……かもしれません……から』。


 今の姿が、不格好で、不気味で、気色悪いことくらいは自分でもわかっている。
 でも、変わりたくっても変えたくっても、肝心な『変わり方』がわからない。


 ずっと暗いシェルターのような部屋の中にこもりきりだった。だから、他人との距離がわからない。何を話せばいいのかわからない。伸びっぱなしの幽霊のような長い髪もどう切ったらまともに見えるのかわからない。もう何年も切っていなかった。やせ細った貧相なカラダに何を纏えば女の子らしく見えるのかわからない。白く不健康なカラダには原因不明の青痣がいくつもあって鏡を見るのも嫌になっていた。友達? もうそう呼べる人なんてどこにもいない。





 そう、水無月さんには何もなかったのだった。





「……」


 僕らは、水無月さんの話が終わってからもしばらく黙ったままだった。

 今『電算論理研究部』の部室にいるのは、僕を含めた正部員の四名、そして、純美子と咲都子とロコの女子三人だ。どうしてこんな面子なのかというと、前回同様、勉強会参加者全員で再集合し、答え合わせとわからなかった問題のおさらいをすることになっていたからだった。


「で……どうする気なの、ケンタ?」

「うん。とりあえずなんだけど、水無月さんにはウチの部に入ってもらおうと思ってる」

「はぁ? こんな機械オタクだらけの地味部に?」

「地味ってのは大きなお世話だよ、ロコ。そ、そりゃ否定はできないけど……」


ロコのからかい混じりのセリフに少しむっとする。しかし、ようやく部屋の中を見回す余裕ができたらしい水無月さんは、何かに気がついたらしく、あっ、と小さな叫びを漏らした。


「あ……あれ……? も、もしかしてあそこに置いてあるのって、……ですか?」

「そうだけど……って、水無月さん、『キューハチ』がなんだかわかるの!?」

「わ……わかります。ウ……ウチにもあります……から……」


 僕たち男四人の正部員は思わず顔を見合わせる。その中でただひとり、五十嵐君だけはうっすらと笑みを浮かべていることに僕は気づいた。


「ひょっとして……ハカセ、何か知ってたんじゃないの? こうなるってことを、さ?」

「ハハハ。さて、どうでしょうね」


 ハハハ、じゃないってば、五十嵐君。
 あいかわらず掴みどころのない奴だ。

 意外と、五十嵐君が『時巫女・セツナ』の正体だったりするんじゃないの? 変声機程度なら作れそうなくらいには十分怪しい『ハカセ』キャラだし。

 僕は再び水無月さんの方へ顔を向け、たちまち落ち着かなげになった彼女に尋ねてみた。


「もしかして……プログラムの知識、あったりする?」

「プ……プログラム、ですか……? えっと……N88-日本語BASIC(86)なら少し」

「あははは! その名称フルで言えるだけで、もう十分すぎるほどくわしいんだってわかるよ」

「つまり……どういうこと、モリケン?」

「つまりだ」


 僕は大きくうなずくと水無月さんの手を握る。


「彼女が僕たちの五人目の仲間さ」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

処理中です...