136 / 539
第135話 夏休み初日だから気分はラッキーー! at 1995/7/22
しおりを挟む
「……あ……あの……。おはよ……ござい……ます……」
次の瞬間、部室にいた僕と渋田と五十嵐君の動きが完全に制止した。
なぜなら、ロコに背中を押されるように歩み出てきたのは見たことのない少女だったからだ。
ゆるやかに、繊細なカラダの線をなぞるように腰あたりまでうねり流れていく長い黒髪。前髪は眉下あたりで揃えられ、その下には長く黒々とした下睫毛が印象的な細く長い目が――あるのだけれど、きょときょとと落ち着きがなく、すぐに逸らされてしまった。
服装はもちろん僕らと同じ制服なのだけれど、スカートの裾から白いフリルが覗いていた。ふんわりとシルエットが膨らんでいるところを見ると、バレエの衣装でよく見るパニエか何かを重ね履きしているらしい。すらりと細い脚は黒タイツ。その足先には見慣れた上履きが――。
「え――!? もしかして……ツッキー!?」
驚いた僕が一段階上のトーンで叫ぶと、びくっ、とカラダを震わせながら、こくこく、とうなずいている。改めて水無月さんのよく見えるようになった顔を観察すると、うっすらメイクされているらしい。それもあいまって、いくぶん血色も色艶も改善された人形のような端正な顔立ちが、縮こまって済まなそうにうつむいているさまが妙なアンバランスさを生み出していた。
「もーっ、もっと胸張って! 猫背になんないの! しゃきっとしてればかわいいんだから!」
「か――っ! か、かわいい、とか……ないです……!」
「なくないっ! ほら、見てみなさい、男どももツッキーの変身っぷりに見とれてるじゃん!」
ロコに背中のど真ん中を押された水無月さんは、仕方なしに曲がっていた背を伸ばし、僕たち三人の表情を窺うように上目遣いで盗み見た。僕は慌ててがくがくと何度もうなずく。
「い、いや、ビックリだよ! ホント、見違えちゃった。似合ってるじゃん、ツッキー!」
「ホント、ホント! 背が低くて細いから、まるでお人形さんみたいだね!」
「変われば変わるものなのですね……。よくお似合いだと思いますよ、ツッキー」
ひとりずつ順番に感想を述べたところで、その場のひとりを除いた全員が、ん!? と表情を変えて振り返った。その視線の圧力に耐えかねたかのように、注目を浴びたまま彼は言う。
「な――なんですか。どうかなされましたか?」
「今……ハカセ、『ツッキー』って呼んだよね? 僕の聞き間違い……じゃないよね?」
「よ……呼んだかもしれませんが……。それはみなさんと同じようにしてみたまでで――」
はじめてかもしれない。
五十嵐君のトレードマークとも呼べる、あのアルカイックスマイルに異変が生じたのは。冷静沈着、何事にも動じないはずの五十嵐君が頬をわずか赤くしていた。
今日までに五十嵐君が部員の誰かを、いや、それこそクラスの特定の誰かを名前で呼んだことは一度たりともなかったはずだ。ましてや、ニックネームなんてものとは無縁だったはずだ。
「と、とにかく。今は僕のことより、水無月さんのことでしょう?」
状況を察した僕と渋田とロコは、口元に笑みを浮かべたまま目くばせをしてうなずきあった。
「そうだったそうだった。うん。いいじゃん、『自分じゃない自分になる』第一歩成功だね!」
「でしょー? あたしがいつもいく美容院のお兄さんにお願いして、超かわいくしてね、って」
「そ、そう……です……か? あたしが……かわいい……? うれしい……」
水無月さんは小さな声で繰返しそう言っては、もじもじとカラダをゆすり、五十嵐君の方にそっと控えめな視線を向けていた。五十嵐君は、目をパチパチしばたたかせながらうなずく。
なかなかいい雰囲気だぞ、五十嵐君と水無月さん。
身長的にも釣り合いが取れていて、結構お似合いかもしれないな。
しばらくして、五十嵐君は僕を見つめてこう言った。
「僕がなぜ突然『夏期合宿をやろう』と言い出したのか、古ノ森リーダーはわかりますか?」
そういえば――?
僕が答えに窮して眉を上げて続きを促すと、五十嵐君はこう告白する。
「僕は、部活に入ったことがありません。ましてや合宿など未体験なのです。そして――」
「……そして?」
「そんな僕と同じ境遇の『ある人』にも、その『楽しさ』を感じてもらえればと思ったのです」
次の瞬間、部室にいた僕と渋田と五十嵐君の動きが完全に制止した。
なぜなら、ロコに背中を押されるように歩み出てきたのは見たことのない少女だったからだ。
ゆるやかに、繊細なカラダの線をなぞるように腰あたりまでうねり流れていく長い黒髪。前髪は眉下あたりで揃えられ、その下には長く黒々とした下睫毛が印象的な細く長い目が――あるのだけれど、きょときょとと落ち着きがなく、すぐに逸らされてしまった。
服装はもちろん僕らと同じ制服なのだけれど、スカートの裾から白いフリルが覗いていた。ふんわりとシルエットが膨らんでいるところを見ると、バレエの衣装でよく見るパニエか何かを重ね履きしているらしい。すらりと細い脚は黒タイツ。その足先には見慣れた上履きが――。
「え――!? もしかして……ツッキー!?」
驚いた僕が一段階上のトーンで叫ぶと、びくっ、とカラダを震わせながら、こくこく、とうなずいている。改めて水無月さんのよく見えるようになった顔を観察すると、うっすらメイクされているらしい。それもあいまって、いくぶん血色も色艶も改善された人形のような端正な顔立ちが、縮こまって済まなそうにうつむいているさまが妙なアンバランスさを生み出していた。
「もーっ、もっと胸張って! 猫背になんないの! しゃきっとしてればかわいいんだから!」
「か――っ! か、かわいい、とか……ないです……!」
「なくないっ! ほら、見てみなさい、男どももツッキーの変身っぷりに見とれてるじゃん!」
ロコに背中のど真ん中を押された水無月さんは、仕方なしに曲がっていた背を伸ばし、僕たち三人の表情を窺うように上目遣いで盗み見た。僕は慌ててがくがくと何度もうなずく。
「い、いや、ビックリだよ! ホント、見違えちゃった。似合ってるじゃん、ツッキー!」
「ホント、ホント! 背が低くて細いから、まるでお人形さんみたいだね!」
「変われば変わるものなのですね……。よくお似合いだと思いますよ、ツッキー」
ひとりずつ順番に感想を述べたところで、その場のひとりを除いた全員が、ん!? と表情を変えて振り返った。その視線の圧力に耐えかねたかのように、注目を浴びたまま彼は言う。
「な――なんですか。どうかなされましたか?」
「今……ハカセ、『ツッキー』って呼んだよね? 僕の聞き間違い……じゃないよね?」
「よ……呼んだかもしれませんが……。それはみなさんと同じようにしてみたまでで――」
はじめてかもしれない。
五十嵐君のトレードマークとも呼べる、あのアルカイックスマイルに異変が生じたのは。冷静沈着、何事にも動じないはずの五十嵐君が頬をわずか赤くしていた。
今日までに五十嵐君が部員の誰かを、いや、それこそクラスの特定の誰かを名前で呼んだことは一度たりともなかったはずだ。ましてや、ニックネームなんてものとは無縁だったはずだ。
「と、とにかく。今は僕のことより、水無月さんのことでしょう?」
状況を察した僕と渋田とロコは、口元に笑みを浮かべたまま目くばせをしてうなずきあった。
「そうだったそうだった。うん。いいじゃん、『自分じゃない自分になる』第一歩成功だね!」
「でしょー? あたしがいつもいく美容院のお兄さんにお願いして、超かわいくしてね、って」
「そ、そう……です……か? あたしが……かわいい……? うれしい……」
水無月さんは小さな声で繰返しそう言っては、もじもじとカラダをゆすり、五十嵐君の方にそっと控えめな視線を向けていた。五十嵐君は、目をパチパチしばたたかせながらうなずく。
なかなかいい雰囲気だぞ、五十嵐君と水無月さん。
身長的にも釣り合いが取れていて、結構お似合いかもしれないな。
しばらくして、五十嵐君は僕を見つめてこう言った。
「僕がなぜ突然『夏期合宿をやろう』と言い出したのか、古ノ森リーダーはわかりますか?」
そういえば――?
僕が答えに窮して眉を上げて続きを促すと、五十嵐君はこう告白する。
「僕は、部活に入ったことがありません。ましてや合宿など未体験なのです。そして――」
「……そして?」
「そんな僕と同じ境遇の『ある人』にも、その『楽しさ』を感じてもらえればと思ったのです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる