178 / 539
第177話 頼みもしないのに滞在中の特別顧問 at 1995/8/9
しおりを挟む
「こうすると――だな? そうそう――ふむ。おお! ――なかなか筋がいい、サトチン君!」
「うわ……! ホントだ……あたしにもできた……! ありがとうございます、せりコーチ!」
部室の隅っこに、ででーん! と鎮座まします、佐倉君のお姉さん・せりさんが持ち込んできた巨大な姿見を前に盛り上がり中の二人を、むすり、とした顔で睨みつけるシブチンが言う。
「……今日も来てるの、あの人?」
「あ、ああ。うん」
「……もう三日連続だよ? その間、僕、ぜんぜんサトチンと話せないんだけど……もー……」
僕らの後ろで様子を窺っていた佐倉君はその不機嫌なセリフを聞いてぺちんと手を合わせた。
「ご! ごめんなさい、ウチのお姉ちゃんが……!」
「べ、べっつにかえでちゃんのせいじゃないんだけどさー……」
哀しげにうるうる潤んだ佐倉君の瞳で見つめられたとたん、不満げに口をとがらせていた渋田もたちまちしどろもどろになった。すぐ隣に身内がいるんじゃ文句も言いづらいのだろう。
「でもさ? でもだよ? サトチンは、あの人から何を教わる必要があるって言うんだろう? みんなは知らないかもだけど、サトチンは髪とか肌とかのメイク、とっても上手なんだよね」
「確かに……。でも、ほら。咲都子が得意なのは男そ――い、いやいやいや!」
あっぶねえ!
つい、ぽろっと余計な言葉が口から出かけた!
まだこの頃は潜在的な才能が眠っている状態で、実際に自分自身でコスプレなんてしたことはないはずなのだ。そもそもコミケのような規模のイベントに参加する中学生なんてごくわずかだ。
……待てよ?
そもそも僕は咲都子がいつ頃から本格的に『腐った』のか、つまり腐女子になったのかを知らない。イベント会場でしょっちゅう顔を合わせるけれど、きっかけについては何も知らない。『幽遊白書』のファンだってことはもうこの頃には知っていたけれど、当時は毎週土曜日にアニメが放映されていて、結構な数の同級生が観ていたはずだ。とりわけおかしな点なんてない。うーん……でも、今聞いてみたところで意味ないしなー。
ともかくだ。
ここは、不思議そうな顔してる渋田にもう少しまともな回答をしてやらないと。
「た、たぶん、いろいろ技術があるんだろ。咲都子が得意と言っても、まだまだ学ぶ点は多い」
「ふーん……。別にいいのになー、サトチンは今のままでもさー」
あいかわらず渋田がぶすりとした顔で呟いていると、咲都子が部屋を見回し、渋田を見つけて珍しく嬉しそうに駆け寄ってきた。それでも、一度へその曲がった渋田の機嫌は直らない。
「おー、いたいた! ね? ね? 凄くない!? ほら、アンタも見てみなさいよ?」
「い、いいよー、僕はー……って! ちょちょちょ、ちょっとぉおおお!!」
意地になっている様子の渋田の注意をなんとしてでも引こうとした咲都子は、驚くことに突然ひとつずつワイシャツのボタンを外しはじめた。これにはさすがの渋田も慌てて止めに入る。
「なっ――何してんの、サトチン! 頭、おかしくなっちゃったの!? やめてよぅ!!」
「なに変な想像してんのよっ! これを見てみなさいってば!」
ついに、すべてのボタンを外し終えた咲都子は、マントをひるがえすようにワイシャツを脱ぎ払った。ふわり、ふわり、とワイシャツが揺らめき落ちていったあとの咲都子の姿は――。
上半身白いタンクトップ一枚の姿は、まるで『漢の中の漢!』という雄々しさだったのだ。
「お……おいおいおい。お前……まさか、男だったのか!?」
「んなわけないでしょ、モリケン……。それとも、割と本気で言ってるなら容赦しないけど」
ぽきぽきと指を鳴らす真似をしながら咲都子は笑顔を引き攣らせる。しかし、僕には実際にそう見えていたのだ。そう、あの……女の子なら当然あるべきものが……ない、のである。
「あははは! 騙された?」
気迫のこもった厳めしい表情をへにゃりと崩し、咲都子は悪戯っ子のようにけたけた笑った。
「このせりコーチはね、美大に通ってた頃、アルバイトでSF映画の特殊メイクのお手伝いしてたんだって! その時に学んだ技術をちょっぴり教えてもらったってわけ。凄いでしょー?」
「はぁー、なるほど! こりゃ凄いなー。だから、佐倉君にも胸があったんだな……って!?」
「サトチンは……実は男だった………………きゅう(気絶した)」
「うわ……! ホントだ……あたしにもできた……! ありがとうございます、せりコーチ!」
部室の隅っこに、ででーん! と鎮座まします、佐倉君のお姉さん・せりさんが持ち込んできた巨大な姿見を前に盛り上がり中の二人を、むすり、とした顔で睨みつけるシブチンが言う。
「……今日も来てるの、あの人?」
「あ、ああ。うん」
「……もう三日連続だよ? その間、僕、ぜんぜんサトチンと話せないんだけど……もー……」
僕らの後ろで様子を窺っていた佐倉君はその不機嫌なセリフを聞いてぺちんと手を合わせた。
「ご! ごめんなさい、ウチのお姉ちゃんが……!」
「べ、べっつにかえでちゃんのせいじゃないんだけどさー……」
哀しげにうるうる潤んだ佐倉君の瞳で見つめられたとたん、不満げに口をとがらせていた渋田もたちまちしどろもどろになった。すぐ隣に身内がいるんじゃ文句も言いづらいのだろう。
「でもさ? でもだよ? サトチンは、あの人から何を教わる必要があるって言うんだろう? みんなは知らないかもだけど、サトチンは髪とか肌とかのメイク、とっても上手なんだよね」
「確かに……。でも、ほら。咲都子が得意なのは男そ――い、いやいやいや!」
あっぶねえ!
つい、ぽろっと余計な言葉が口から出かけた!
まだこの頃は潜在的な才能が眠っている状態で、実際に自分自身でコスプレなんてしたことはないはずなのだ。そもそもコミケのような規模のイベントに参加する中学生なんてごくわずかだ。
……待てよ?
そもそも僕は咲都子がいつ頃から本格的に『腐った』のか、つまり腐女子になったのかを知らない。イベント会場でしょっちゅう顔を合わせるけれど、きっかけについては何も知らない。『幽遊白書』のファンだってことはもうこの頃には知っていたけれど、当時は毎週土曜日にアニメが放映されていて、結構な数の同級生が観ていたはずだ。とりわけおかしな点なんてない。うーん……でも、今聞いてみたところで意味ないしなー。
ともかくだ。
ここは、不思議そうな顔してる渋田にもう少しまともな回答をしてやらないと。
「た、たぶん、いろいろ技術があるんだろ。咲都子が得意と言っても、まだまだ学ぶ点は多い」
「ふーん……。別にいいのになー、サトチンは今のままでもさー」
あいかわらず渋田がぶすりとした顔で呟いていると、咲都子が部屋を見回し、渋田を見つけて珍しく嬉しそうに駆け寄ってきた。それでも、一度へその曲がった渋田の機嫌は直らない。
「おー、いたいた! ね? ね? 凄くない!? ほら、アンタも見てみなさいよ?」
「い、いいよー、僕はー……って! ちょちょちょ、ちょっとぉおおお!!」
意地になっている様子の渋田の注意をなんとしてでも引こうとした咲都子は、驚くことに突然ひとつずつワイシャツのボタンを外しはじめた。これにはさすがの渋田も慌てて止めに入る。
「なっ――何してんの、サトチン! 頭、おかしくなっちゃったの!? やめてよぅ!!」
「なに変な想像してんのよっ! これを見てみなさいってば!」
ついに、すべてのボタンを外し終えた咲都子は、マントをひるがえすようにワイシャツを脱ぎ払った。ふわり、ふわり、とワイシャツが揺らめき落ちていったあとの咲都子の姿は――。
上半身白いタンクトップ一枚の姿は、まるで『漢の中の漢!』という雄々しさだったのだ。
「お……おいおいおい。お前……まさか、男だったのか!?」
「んなわけないでしょ、モリケン……。それとも、割と本気で言ってるなら容赦しないけど」
ぽきぽきと指を鳴らす真似をしながら咲都子は笑顔を引き攣らせる。しかし、僕には実際にそう見えていたのだ。そう、あの……女の子なら当然あるべきものが……ない、のである。
「あははは! 騙された?」
気迫のこもった厳めしい表情をへにゃりと崩し、咲都子は悪戯っ子のようにけたけた笑った。
「このせりコーチはね、美大に通ってた頃、アルバイトでSF映画の特殊メイクのお手伝いしてたんだって! その時に学んだ技術をちょっぴり教えてもらったってわけ。凄いでしょー?」
「はぁー、なるほど! こりゃ凄いなー。だから、佐倉君にも胸があったんだな……って!?」
「サトチンは……実は男だった………………きゅう(気絶した)」
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜
136君
青春
俺に青春など必要ない。
新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!?
絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく…
本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ!
なろう、カクヨムでも連載中!
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601
なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる