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第177話 頼みもしないのに滞在中の特別顧問 at 1995/8/9
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「こうすると――だな? そうそう――ふむ。おお! ――なかなか筋がいい、サトチン君!」
「うわ……! ホントだ……あたしにもできた……! ありがとうございます、せりコーチ!」
部室の隅っこに、ででーん! と鎮座まします、佐倉君のお姉さん・せりさんが持ち込んできた巨大な姿見を前に盛り上がり中の二人を、むすり、とした顔で睨みつけるシブチンが言う。
「……今日も来てるの、あの人?」
「あ、ああ。うん」
「……もう三日連続だよ? その間、僕、ぜんぜんサトチンと話せないんだけど……もー……」
僕らの後ろで様子を窺っていた佐倉君はその不機嫌なセリフを聞いてぺちんと手を合わせた。
「ご! ごめんなさい、ウチのお姉ちゃんが……!」
「べ、べっつにかえでちゃんのせいじゃないんだけどさー……」
哀しげにうるうる潤んだ佐倉君の瞳で見つめられたとたん、不満げに口をとがらせていた渋田もたちまちしどろもどろになった。すぐ隣に身内がいるんじゃ文句も言いづらいのだろう。
「でもさ? でもだよ? サトチンは、あの人から何を教わる必要があるって言うんだろう? みんなは知らないかもだけど、サトチンは髪とか肌とかのメイク、とっても上手なんだよね」
「確かに……。でも、ほら。咲都子が得意なのは男そ――い、いやいやいや!」
あっぶねえ!
つい、ぽろっと余計な言葉が口から出かけた!
まだこの頃は潜在的な才能が眠っている状態で、実際に自分自身でコスプレなんてしたことはないはずなのだ。そもそもコミケのような規模のイベントに参加する中学生なんてごくわずかだ。
……待てよ?
そもそも僕は咲都子がいつ頃から本格的に『腐った』のか、つまり腐女子になったのかを知らない。イベント会場でしょっちゅう顔を合わせるけれど、きっかけについては何も知らない。『幽遊白書』のファンだってことはもうこの頃には知っていたけれど、当時は毎週土曜日にアニメが放映されていて、結構な数の同級生が観ていたはずだ。とりわけおかしな点なんてない。うーん……でも、今聞いてみたところで意味ないしなー。
ともかくだ。
ここは、不思議そうな顔してる渋田にもう少しまともな回答をしてやらないと。
「た、たぶん、いろいろ技術があるんだろ。咲都子が得意と言っても、まだまだ学ぶ点は多い」
「ふーん……。別にいいのになー、サトチンは今のままでもさー」
あいかわらず渋田がぶすりとした顔で呟いていると、咲都子が部屋を見回し、渋田を見つけて珍しく嬉しそうに駆け寄ってきた。それでも、一度へその曲がった渋田の機嫌は直らない。
「おー、いたいた! ね? ね? 凄くない!? ほら、アンタも見てみなさいよ?」
「い、いいよー、僕はー……って! ちょちょちょ、ちょっとぉおおお!!」
意地になっている様子の渋田の注意をなんとしてでも引こうとした咲都子は、驚くことに突然ひとつずつワイシャツのボタンを外しはじめた。これにはさすがの渋田も慌てて止めに入る。
「なっ――何してんの、サトチン! 頭、おかしくなっちゃったの!? やめてよぅ!!」
「なに変な想像してんのよっ! これを見てみなさいってば!」
ついに、すべてのボタンを外し終えた咲都子は、マントをひるがえすようにワイシャツを脱ぎ払った。ふわり、ふわり、とワイシャツが揺らめき落ちていったあとの咲都子の姿は――。
上半身白いタンクトップ一枚の姿は、まるで『漢の中の漢!』という雄々しさだったのだ。
「お……おいおいおい。お前……まさか、男だったのか!?」
「んなわけないでしょ、モリケン……。それとも、割と本気で言ってるなら容赦しないけど」
ぽきぽきと指を鳴らす真似をしながら咲都子は笑顔を引き攣らせる。しかし、僕には実際にそう見えていたのだ。そう、あの……女の子なら当然あるべきものが……ない、のである。
「あははは! 騙された?」
気迫のこもった厳めしい表情をへにゃりと崩し、咲都子は悪戯っ子のようにけたけた笑った。
「このせりコーチはね、美大に通ってた頃、アルバイトでSF映画の特殊メイクのお手伝いしてたんだって! その時に学んだ技術をちょっぴり教えてもらったってわけ。凄いでしょー?」
「はぁー、なるほど! こりゃ凄いなー。だから、佐倉君にも胸があったんだな……って!?」
「サトチンは……実は男だった………………きゅう(気絶した)」
「うわ……! ホントだ……あたしにもできた……! ありがとうございます、せりコーチ!」
部室の隅っこに、ででーん! と鎮座まします、佐倉君のお姉さん・せりさんが持ち込んできた巨大な姿見を前に盛り上がり中の二人を、むすり、とした顔で睨みつけるシブチンが言う。
「……今日も来てるの、あの人?」
「あ、ああ。うん」
「……もう三日連続だよ? その間、僕、ぜんぜんサトチンと話せないんだけど……もー……」
僕らの後ろで様子を窺っていた佐倉君はその不機嫌なセリフを聞いてぺちんと手を合わせた。
「ご! ごめんなさい、ウチのお姉ちゃんが……!」
「べ、べっつにかえでちゃんのせいじゃないんだけどさー……」
哀しげにうるうる潤んだ佐倉君の瞳で見つめられたとたん、不満げに口をとがらせていた渋田もたちまちしどろもどろになった。すぐ隣に身内がいるんじゃ文句も言いづらいのだろう。
「でもさ? でもだよ? サトチンは、あの人から何を教わる必要があるって言うんだろう? みんなは知らないかもだけど、サトチンは髪とか肌とかのメイク、とっても上手なんだよね」
「確かに……。でも、ほら。咲都子が得意なのは男そ――い、いやいやいや!」
あっぶねえ!
つい、ぽろっと余計な言葉が口から出かけた!
まだこの頃は潜在的な才能が眠っている状態で、実際に自分自身でコスプレなんてしたことはないはずなのだ。そもそもコミケのような規模のイベントに参加する中学生なんてごくわずかだ。
……待てよ?
そもそも僕は咲都子がいつ頃から本格的に『腐った』のか、つまり腐女子になったのかを知らない。イベント会場でしょっちゅう顔を合わせるけれど、きっかけについては何も知らない。『幽遊白書』のファンだってことはもうこの頃には知っていたけれど、当時は毎週土曜日にアニメが放映されていて、結構な数の同級生が観ていたはずだ。とりわけおかしな点なんてない。うーん……でも、今聞いてみたところで意味ないしなー。
ともかくだ。
ここは、不思議そうな顔してる渋田にもう少しまともな回答をしてやらないと。
「た、たぶん、いろいろ技術があるんだろ。咲都子が得意と言っても、まだまだ学ぶ点は多い」
「ふーん……。別にいいのになー、サトチンは今のままでもさー」
あいかわらず渋田がぶすりとした顔で呟いていると、咲都子が部屋を見回し、渋田を見つけて珍しく嬉しそうに駆け寄ってきた。それでも、一度へその曲がった渋田の機嫌は直らない。
「おー、いたいた! ね? ね? 凄くない!? ほら、アンタも見てみなさいよ?」
「い、いいよー、僕はー……って! ちょちょちょ、ちょっとぉおおお!!」
意地になっている様子の渋田の注意をなんとしてでも引こうとした咲都子は、驚くことに突然ひとつずつワイシャツのボタンを外しはじめた。これにはさすがの渋田も慌てて止めに入る。
「なっ――何してんの、サトチン! 頭、おかしくなっちゃったの!? やめてよぅ!!」
「なに変な想像してんのよっ! これを見てみなさいってば!」
ついに、すべてのボタンを外し終えた咲都子は、マントをひるがえすようにワイシャツを脱ぎ払った。ふわり、ふわり、とワイシャツが揺らめき落ちていったあとの咲都子の姿は――。
上半身白いタンクトップ一枚の姿は、まるで『漢の中の漢!』という雄々しさだったのだ。
「お……おいおいおい。お前……まさか、男だったのか!?」
「んなわけないでしょ、モリケン……。それとも、割と本気で言ってるなら容赦しないけど」
ぽきぽきと指を鳴らす真似をしながら咲都子は笑顔を引き攣らせる。しかし、僕には実際にそう見えていたのだ。そう、あの……女の子なら当然あるべきものが……ない、のである。
「あははは! 騙された?」
気迫のこもった厳めしい表情をへにゃりと崩し、咲都子は悪戯っ子のようにけたけた笑った。
「このせりコーチはね、美大に通ってた頃、アルバイトでSF映画の特殊メイクのお手伝いしてたんだって! その時に学んだ技術をちょっぴり教えてもらったってわけ。凄いでしょー?」
「はぁー、なるほど! こりゃ凄いなー。だから、佐倉君にも胸があったんだな……って!?」
「サトチンは……実は男だった………………きゅう(気絶した)」
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