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第179話 僕と、カノジョの、距離。 at 1995/8/11
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「………………ダメ、だよ……ケンタ君……」
――ぎゅっ。
かろうじて上半身を支えている僕の腕を、純美子は仰向けになった体勢で見上げながら少し汗ばんだ手で握りしめた。とたん、僕の腕からはチカラが抜けていく。もう、支えられない。
どくん。
どくん。
湧きたつような血潮が、耳を聾するばかりにビートを刻んでいる。しん、と鎮まった部室の空調の音が低くうなりをあげていた。そこにあるのは、二人の鼓動と、二人の息と匂いと――。
その時だった。
――がたん!
廊下側から唐突に響いた音に驚かされた僕たちは、夢から醒めたかのように互いを引き離す。
「――っとっと」
壁一枚隔てた向こう側から、ごそごそ……と何かを探り当てようとする物音と、誰かの呟きが聴こえてきた。そして、扉が開いた。
「あー! やっぱりいたいた! 誰か来てるんじゃないかって思ってたのよねー!」
「あ……うん。今日は僕だけだよ。い、今さっき、スミちゃんがさ……」
僕は部室の中央に置かれたちゃぶ台の右端からこたえた。声が震えていないか、それだけが心配だったけれど、彼女の表情を見る限り大丈夫だったようだ。その顔が困ったように笑った。
「あー、ごめんごめん。忘れ物、しちゃったと思って寄っただけだから。すぐ、帰るってば」
「え、えっと……ロ、ロコちゃん……?」
「あはは……そんなに部活、疲れたの? 寝っ転がっちゃってさ。じゃあ……あたし、帰るね」
声が震えているのは。
ロコの方だった。
僕たちに目を合わせようともせず、ロコはそれだけを溜息のように吐き出すと、くるり、と背を向けて青いスポーツバッグを、ぎゅっ、と胸にきつく抱きしめたまま一気に走り出した。
――ばたん。
遅れて部室のドアが閉まる。
ぱたぱた……という足音が徐々に、徐々に遠ざかっていく。
「お、おい! 待てよ、ロ――!」
立ち上がろうとした僕の胸元に、さっき取り上げられたばかりの紙切れが押しつけられた。
「ケンタ君は来ないで! あたしがロコちゃんと話したいの! お願いだから、来ないで!!」
「ス、スミちゃん……? え……あっ!?」
ひらり――支え手を失った紙切れが舞い落ちる動きに、反射的に僕が手を伸ばし再び起き上がった時にはもうすでに、純美子はテニスバッグを拾い上げて両肩に背負っているところだった。
「……ごめんね、今日はもう帰るから! また来週ね、ケンタ君!」
純美子はそう言って優しく微笑み、僕の言葉も表情の変化も置き去りにして、ドアを開ける。
――ばたん。
遅れて、再び部室のドアが閉まった。
ぱたぱた……という足音が徐々に、徐々に遠ざかっていく。僕ひとりをその場に残して。
「……まいったな。これ、僕、どうしたらいいんだよ……」
さっきまで純美子が寝ていた温もりが消えてしまうまで寝転がった僕は天井を見つめていた。
――ぎゅっ。
かろうじて上半身を支えている僕の腕を、純美子は仰向けになった体勢で見上げながら少し汗ばんだ手で握りしめた。とたん、僕の腕からはチカラが抜けていく。もう、支えられない。
どくん。
どくん。
湧きたつような血潮が、耳を聾するばかりにビートを刻んでいる。しん、と鎮まった部室の空調の音が低くうなりをあげていた。そこにあるのは、二人の鼓動と、二人の息と匂いと――。
その時だった。
――がたん!
廊下側から唐突に響いた音に驚かされた僕たちは、夢から醒めたかのように互いを引き離す。
「――っとっと」
壁一枚隔てた向こう側から、ごそごそ……と何かを探り当てようとする物音と、誰かの呟きが聴こえてきた。そして、扉が開いた。
「あー! やっぱりいたいた! 誰か来てるんじゃないかって思ってたのよねー!」
「あ……うん。今日は僕だけだよ。い、今さっき、スミちゃんがさ……」
僕は部室の中央に置かれたちゃぶ台の右端からこたえた。声が震えていないか、それだけが心配だったけれど、彼女の表情を見る限り大丈夫だったようだ。その顔が困ったように笑った。
「あー、ごめんごめん。忘れ物、しちゃったと思って寄っただけだから。すぐ、帰るってば」
「え、えっと……ロ、ロコちゃん……?」
「あはは……そんなに部活、疲れたの? 寝っ転がっちゃってさ。じゃあ……あたし、帰るね」
声が震えているのは。
ロコの方だった。
僕たちに目を合わせようともせず、ロコはそれだけを溜息のように吐き出すと、くるり、と背を向けて青いスポーツバッグを、ぎゅっ、と胸にきつく抱きしめたまま一気に走り出した。
――ばたん。
遅れて部室のドアが閉まる。
ぱたぱた……という足音が徐々に、徐々に遠ざかっていく。
「お、おい! 待てよ、ロ――!」
立ち上がろうとした僕の胸元に、さっき取り上げられたばかりの紙切れが押しつけられた。
「ケンタ君は来ないで! あたしがロコちゃんと話したいの! お願いだから、来ないで!!」
「ス、スミちゃん……? え……あっ!?」
ひらり――支え手を失った紙切れが舞い落ちる動きに、反射的に僕が手を伸ばし再び起き上がった時にはもうすでに、純美子はテニスバッグを拾い上げて両肩に背負っているところだった。
「……ごめんね、今日はもう帰るから! また来週ね、ケンタ君!」
純美子はそう言って優しく微笑み、僕の言葉も表情の変化も置き去りにして、ドアを開ける。
――ばたん。
遅れて、再び部室のドアが閉まった。
ぱたぱた……という足音が徐々に、徐々に遠ざかっていく。僕ひとりをその場に残して。
「……まいったな。これ、僕、どうしたらいいんだよ……」
さっきまで純美子が寝ていた温もりが消えてしまうまで寝転がった僕は天井を見つめていた。
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