ラブ×リープ×ループ!

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)

文字の大きさ
181 / 539

第180話 ピオニー・ヴァイオレット at 1995/8/14

しおりを挟む
 週が明けて月曜日だ。

 新暦・八月十三日の盆の入りから、同じく八月十六日の盆明けまでの四日間は、世間一般的に『お盆休み』と呼ばれる期間にあたる。それもあってこの年の八月第三週は、中学生の親世代にもつかの間の休暇が与えられることとなり、実家に帰省したり、旅行にでかけたりと、皆様お忙しそうである。


 だが、僕らのような「団地っ子」たちにとっては、それは決して多数派ではないってことだ。


 カタカタカタタタタ――。


「ねー? モリケン? モリケンのウチは、実家帰ったりしないのー?」

「いやいや、そういうシブチンのところこそどうなんだよ? ウチは千葉と栃木で近いからさ」

「近いから……なんなのさ?」


 カタ――。
 たしかに。タイピングする手を止め考えてみる。でも、僕に親父やお袋の考えはわからない。


 カタカタカタタタタ――。


「なんかさ、いまさら? ってことらしい。なにも、こんな混雑する時期じゃなくても、って」

「へー。しょちゅう帰ってるからってこと? でもさ、お盆だからこそ、帰るんじゃないの?」

「だ・か・ら。僕の考えじゃないんだって……。それより、シブチンの方こそどうなんだよ?」

「ウチは佐渡と沖縄だからねー。どっちも遠いじゃん?」

「遠いから……なんなんだよ?」


 カタ――。
 旅費がかかるから? 確かにシーズン真っ盛りだと、飛行機も新幹線も高いからかな?


 カタカタカタタタタ――。


「……ま、いっか。僕ら子供にオトナたちの事情はわからないし、出かけなくてもいいしな」

「ところでさ……なんかあった、モリケン?」





 カタ――。





「どうしてそう思うんだよ? 僕はいつもどおりだぜ?」

「そこだよ、そ・こ」


 渋田は軽く肩をすくめてみせると、迷うことなく緑っぽいモニターの一点を指さした。


「『ENT』って書いてる。そのスペルミス、もう三回目だよ? モリケンらしくないね」

「あ……ホントだ」


『ENT』と綴るべきが『ENT』と最後があべこべになっていた。いやあ、僕のはクイーンズ・イングリッシュだからさ、と強がる気にもなれず、タイプの手を休めて僕は溜息をはいた。


「はぁ……。シブチンの言うとおりさ。先週の金曜日、ちょっとね……」

「ふーん。だから、スミちゃんもノハラさんも、来てないってことなんだ」

「………………え?」


 さすがにこの僕でも、ぎょっ、とした。
 慌ててその場を取り繕おうとしたが、それより早く口を開いたのは渋田だった。


「いや、さ。……ここだけの話だよ? スーパー『三徳さんとく』で、頼んでおいた段ボールを、サトチンと受け取りに行った帰り道にね、僕たち、見ちゃったんだよ……二人が言い争ってるとこ」

「え……!? ど、どこで? どこで見たんだ!!」

「ちょ――ちょっと! く、苦しいってば! キリスト教病院の前あたり! 夕方頃だって!」


 バス通りの上にかけられた木曽根団地と咲山団地とをつなぐ連絡橋。その下の咲山団地センターバス停の奥の方にあるのがこの近隣唯一の総合病院、キリスト教病院だ。その建物の前にはちょっとした緑地とベンチがあって、そこで二人は興奮した様子で話していたのだと言う。


「け、けほっ! な、なんなのさ、モリケン……。一体どうしたんだよ、慌てすぎだってば」

「ご、ごめん……。で、でもだな? 言い争い、ってのは見間違いなんじゃ――?」

「間違いないよ。長い付き合いのサトチンが、『あんなに怒ってるスミ、見たことない』って」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...