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第181話 彼女たちのいない夏の日 at 1995/8/15
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ゴンゴン――。
もう三度目になるこもった金属音が静けさに吸い込まれて消えた頃、ようやく上ノ原家全員が不在であるという認めざるを得ない事実を受け入れることにした僕は、がくりと肩を落とした。
「いないんじゃあ仕方ないか……。たぶん、お盆で里帰りしてるんだ、ロコのウチみんなで」
お父さんが山形出身で、お母さんが秋田の生まれだったはずだ。
こうして直接ロコの家を訪ねるなんて、小学生以来一度もしたことがなかったっけ。昔はそれこそ、毎日朝早くからどちらかがどちらかの家に訪ねていって、一日中遊んでいたものだ。
よその家に遊びに行ってドアが開くと、その家独特の匂いがふわりと漂ってくる。ロコの家の匂いは、学校の花壇に植えてあった黄色いフリージアの香りに似ていた。甘くフルーティーな香り。こうして団地の武骨なスチールドアの前に立っているだけで、その香りが漏れてくる。
その懐かしさが、余計に僕の気持ちをブルーにさせていた。
「ホントに……喧嘩、しちゃったのかな……スミちゃんと」
なんでそんなことになってしまったのだろう。
いや、僕の頭の中には一つだけ可能性が浮かび上がっていた。思い上がりだ、と鼻で笑われるかもしれない。身のほどを知れ、そう嘲笑し、叱咤する人もいるだろう。けれど僕は、あの忘れがたい『告白失敗デート』の後の、ロコの変化がどうしても気になってしまっていたのだ。
(……話しがあるんだけど、スミ)
でも、結局ロコは純美子にその『話』をすることはなかった。僕が先約として純美子と話し、そのあと自分の番になったものの、『もう、いい』と話すこと自体をやめてしまったのだ。いや、それだけではない。それ以来、ロコは自分から純美子に話しかけようとしなくなったのだ。
(じゃあ……あたし、帰るね)
あの震えた声。
僕も純美子も、ロコに対してなんらやましいことはしていない。
恥ずべきことなんて、たったひとカケラもない。
けれど。
あのまま、もしロコが現れていなかったら、と考えると、僕は何も言えなくなってしまう。
(ケンタ君は来ないで! あたしがロコちゃんと話したいの! お願いだから、来ないで!!)
どうして純美子は、あんな風に言ったんだろう。
わざわざ僕を遠ざけるような言葉を。
僕が一緒の方が、ロコを納得させるにはより有利だったはずなのに。ロコの考えることなんて手に取るようにわかる僕がいれば、喧嘩なんてせずに済んだはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こっちもか……だよなぁ……」
結局僕は、頭の中でさんざん堂々巡りをしたあげく、純美子たち一家の暮らすハー12号棟まで訪ねていき、三回目になるノックを済ませて、はぁ、と重くじめついた溜息を吐き漏らしていた。
「ま、冷静に考えたら、純美子じゃない誰かとご対面しちゃう方がやばかったかもしれないな」
ついつい気になってここまで押しかけてしまった僕だけれど、純美子のご両親とはお会いしたことがなかったし、そもそも純美子だって僕のことをどう説明したらいいのか迷うだろう。
彼氏? ただの友だち?
それとも、部活の人?
最後のだけは、さすがにココロが折れる……。
この日の僕は、さすがに部活に顔を出す気にもなれず、そのまま家路についたのだった。
もう三度目になるこもった金属音が静けさに吸い込まれて消えた頃、ようやく上ノ原家全員が不在であるという認めざるを得ない事実を受け入れることにした僕は、がくりと肩を落とした。
「いないんじゃあ仕方ないか……。たぶん、お盆で里帰りしてるんだ、ロコのウチみんなで」
お父さんが山形出身で、お母さんが秋田の生まれだったはずだ。
こうして直接ロコの家を訪ねるなんて、小学生以来一度もしたことがなかったっけ。昔はそれこそ、毎日朝早くからどちらかがどちらかの家に訪ねていって、一日中遊んでいたものだ。
よその家に遊びに行ってドアが開くと、その家独特の匂いがふわりと漂ってくる。ロコの家の匂いは、学校の花壇に植えてあった黄色いフリージアの香りに似ていた。甘くフルーティーな香り。こうして団地の武骨なスチールドアの前に立っているだけで、その香りが漏れてくる。
その懐かしさが、余計に僕の気持ちをブルーにさせていた。
「ホントに……喧嘩、しちゃったのかな……スミちゃんと」
なんでそんなことになってしまったのだろう。
いや、僕の頭の中には一つだけ可能性が浮かび上がっていた。思い上がりだ、と鼻で笑われるかもしれない。身のほどを知れ、そう嘲笑し、叱咤する人もいるだろう。けれど僕は、あの忘れがたい『告白失敗デート』の後の、ロコの変化がどうしても気になってしまっていたのだ。
(……話しがあるんだけど、スミ)
でも、結局ロコは純美子にその『話』をすることはなかった。僕が先約として純美子と話し、そのあと自分の番になったものの、『もう、いい』と話すこと自体をやめてしまったのだ。いや、それだけではない。それ以来、ロコは自分から純美子に話しかけようとしなくなったのだ。
(じゃあ……あたし、帰るね)
あの震えた声。
僕も純美子も、ロコに対してなんらやましいことはしていない。
恥ずべきことなんて、たったひとカケラもない。
けれど。
あのまま、もしロコが現れていなかったら、と考えると、僕は何も言えなくなってしまう。
(ケンタ君は来ないで! あたしがロコちゃんと話したいの! お願いだから、来ないで!!)
どうして純美子は、あんな風に言ったんだろう。
わざわざ僕を遠ざけるような言葉を。
僕が一緒の方が、ロコを納得させるにはより有利だったはずなのに。ロコの考えることなんて手に取るようにわかる僕がいれば、喧嘩なんてせずに済んだはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「こっちもか……だよなぁ……」
結局僕は、頭の中でさんざん堂々巡りをしたあげく、純美子たち一家の暮らすハー12号棟まで訪ねていき、三回目になるノックを済ませて、はぁ、と重くじめついた溜息を吐き漏らしていた。
「ま、冷静に考えたら、純美子じゃない誰かとご対面しちゃう方がやばかったかもしれないな」
ついつい気になってここまで押しかけてしまった僕だけれど、純美子のご両親とはお会いしたことがなかったし、そもそも純美子だって僕のことをどう説明したらいいのか迷うだろう。
彼氏? ただの友だち?
それとも、部活の人?
最後のだけは、さすがにココロが折れる……。
この日の僕は、さすがに部活に顔を出す気にもなれず、そのまま家路についたのだった。
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