186 / 539
第185話 インタールードⅣ at 1995/8/19
しおりを挟む
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
『……おや? 今日は土曜日、部活は休みではなかったのかね、古ノ森健太?』
「ああ、時巫女・セツナか。昨日、荻島センセイに許可をもらったんだ。午前中だけ、ってね」
ほら、君だってその場にいたろ? 知ってるくせに――そう問いたい気持ちを抑え、僕は手を休めることなく動かし続けながら、文机の上に置いたスマホに向けて話しかけた。
『なにもわざわざ……。部の他の連中に頼ればいいのではないか? データ入力、何人分だ?』
「おかげさまで回収率が良くってね。ざっと一三〇〇人分、ってところかな?」
僕は大袈裟に目玉を回しながら、わざと陽気にうそぶいた。なにせ、三学年分きっちりあるのだ。ピークを過ぎたとはいえ、伊達に『消えた第三次ベビーブーム』と呼ばれてはいない。
『……やれやれ』
「呆れないでくれよ。さすがに僕だって、みんなに内緒で、ひとりで全部入力する気はないさ」
『さすがにそこまで阿呆ではない、ということか。それはなによりだ! ククク……』
この『リトライ』の黒幕じゃないことはバレたんだし、そろそろその芝居がかった口調やめにしたら? という皮肉っぽいセリフを飲み下してから、代わりに僕はこう尋ねることにする。
「……なあ? 僕を笑うために電話してきたわけじゃないんだろ、時巫女・セツナ?」
『おっと、失礼。ククク……』
それでもなお響く含み笑いに閉口していると、僕の忍耐力が切れてしまう前に彼女は言った。
『……戯言はこのくらいにして、そろそろ本題に入ろう。お前の興味をひく情報を入手したぞ』
「いやに自信ありげだな? 無駄にハードル上げると転ぶハメになるぞ?」
『はン? それは意趣返しのつもりかね? ……まあ、まずは聴いてみたまえよ、古ノ森健太』
仕方なく口を閉じて待つ。それを肯定の意と受け取った時巫女・セツナはこう言った。
『なに、私も少し実証実験をしてみるかと思ったのだ。それで判明した事実は……意外だった』
「おいおいおい。なにをやったんだ、時巫女・セツナ?」
『あ――あの、だな……か、過去には決して起こりえなかった選択をしてみたのだ』
……ん?
あの、いつも他人を見下したように話すはずの時巫女・セツナの口調がやけにたどたどしい。
「それ……どういう意味だ?」
『え、ええい! うるさいうるさいっ! お、お前が知る必要なぞない! それよりも、だ!』
理由はわからないがすっかり取り乱した彼女が何かを叩く音が聴こえ、セリフはこう続いた。
『現実乖離率を変動させることができるのはどうやらお前だけらしい、それがわかったのだよ』
「え……!?」
思わず僕の手が止まる。慌ててスピーカーフォンにしていたスマホを取り上げて耳に当てた。
「それはおかしいんじゃないのか? だって、君だって『リトライ者』のはずじゃないか!?」
『ま――待て待て待て!』
理解不能な出来事を前に、口調が荒々しくなった僕を時巫女・セツナは急いでたしなめる。
『ならばこの理屈だって理解できるだろう? そのはずだからこそ、私も戸惑っているのだと』
「あ……」
彼女が冷静に事実を告げる声が、僕の頭にのぼった血をすみやかに冷やしてくれていた。
「そう、だよな……ごめん……」
『わ、わかればいい。わかればいいさ――』
時巫女・セツナは最後に僕へ、こう告げた。
『もう私たちには未来を変えることができないらしい。変えることができるのは、お前だけだ』
『……おや? 今日は土曜日、部活は休みではなかったのかね、古ノ森健太?』
「ああ、時巫女・セツナか。昨日、荻島センセイに許可をもらったんだ。午前中だけ、ってね」
ほら、君だってその場にいたろ? 知ってるくせに――そう問いたい気持ちを抑え、僕は手を休めることなく動かし続けながら、文机の上に置いたスマホに向けて話しかけた。
『なにもわざわざ……。部の他の連中に頼ればいいのではないか? データ入力、何人分だ?』
「おかげさまで回収率が良くってね。ざっと一三〇〇人分、ってところかな?」
僕は大袈裟に目玉を回しながら、わざと陽気にうそぶいた。なにせ、三学年分きっちりあるのだ。ピークを過ぎたとはいえ、伊達に『消えた第三次ベビーブーム』と呼ばれてはいない。
『……やれやれ』
「呆れないでくれよ。さすがに僕だって、みんなに内緒で、ひとりで全部入力する気はないさ」
『さすがにそこまで阿呆ではない、ということか。それはなによりだ! ククク……』
この『リトライ』の黒幕じゃないことはバレたんだし、そろそろその芝居がかった口調やめにしたら? という皮肉っぽいセリフを飲み下してから、代わりに僕はこう尋ねることにする。
「……なあ? 僕を笑うために電話してきたわけじゃないんだろ、時巫女・セツナ?」
『おっと、失礼。ククク……』
それでもなお響く含み笑いに閉口していると、僕の忍耐力が切れてしまう前に彼女は言った。
『……戯言はこのくらいにして、そろそろ本題に入ろう。お前の興味をひく情報を入手したぞ』
「いやに自信ありげだな? 無駄にハードル上げると転ぶハメになるぞ?」
『はン? それは意趣返しのつもりかね? ……まあ、まずは聴いてみたまえよ、古ノ森健太』
仕方なく口を閉じて待つ。それを肯定の意と受け取った時巫女・セツナはこう言った。
『なに、私も少し実証実験をしてみるかと思ったのだ。それで判明した事実は……意外だった』
「おいおいおい。なにをやったんだ、時巫女・セツナ?」
『あ――あの、だな……か、過去には決して起こりえなかった選択をしてみたのだ』
……ん?
あの、いつも他人を見下したように話すはずの時巫女・セツナの口調がやけにたどたどしい。
「それ……どういう意味だ?」
『え、ええい! うるさいうるさいっ! お、お前が知る必要なぞない! それよりも、だ!』
理由はわからないがすっかり取り乱した彼女が何かを叩く音が聴こえ、セリフはこう続いた。
『現実乖離率を変動させることができるのはどうやらお前だけらしい、それがわかったのだよ』
「え……!?」
思わず僕の手が止まる。慌ててスピーカーフォンにしていたスマホを取り上げて耳に当てた。
「それはおかしいんじゃないのか? だって、君だって『リトライ者』のはずじゃないか!?」
『ま――待て待て待て!』
理解不能な出来事を前に、口調が荒々しくなった僕を時巫女・セツナは急いでたしなめる。
『ならばこの理屈だって理解できるだろう? そのはずだからこそ、私も戸惑っているのだと』
「あ……」
彼女が冷静に事実を告げる声が、僕の頭にのぼった血をすみやかに冷やしてくれていた。
「そう、だよな……ごめん……」
『わ、わかればいい。わかればいいさ――』
時巫女・セツナは最後に僕へ、こう告げた。
『もう私たちには未来を変えることができないらしい。変えることができるのは、お前だけだ』
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる