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第221話 『西中まつり』(8) at 1995/9/15
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(まるで泣きはらしたような、あんな赤い目をして……一体どうしたんだ、ロコの奴は……?)
体育館での体操部のステージを終えて応援に駆けつけたロコに追い立てられるようにして受付をあとにした僕は、ついさっき目にした光景で確信していた。しかし、当のロコはツッキーと一緒に受付役を引き受けると言ったきり、何かあったのかどうか一切何も話そうとはしない。
(一生懸命練習してきたダンスのステージ発表が無事終わって、つい感動しちゃって、とか?)
足を止めて振り返りながら、僕は頭に思い浮かべた仮説を打ち消すように何度も首を振った。
(……いやいや。そういうことなら僕らにだってきっと言うはずだ。大成功だったよ! って)
どころか、体操部の発表そのものがなかったかのように、僕にも、その場にいた水無月さんにも、それに関する話題を口に出さなかった。遅れてきた。待たせていた。だからこそ、おかげでこうこうこうだった、と、いつものロコならば感謝の意味も含めて報告するはずなのだ。
(うーん……。ロコといい、さっきのツッキーといい……なんだか妙に胸騒ぎがする……)
壁板で迷路のように入り組んだ構造になった視聴覚室の、さらに奥の奥が僕ら裏方の指定席であり、戦場であり、ひとときの休憩場所だ。なかでもナレーションを担当する純美子専用の席は、技術工作部から借りてきたマイクロフォンが雑音を拾わないよう密閉空間になっていた。
そこから這うように出てきた純美子は、僕の姿を見るなりちょっぴり心配そうに尋ねてきた。
「……どうかしたの、ケンタ君?」
「あ、スミちゃん。ご、ごめん、ちょっとぼーっとしてたみたいだ。なんでも――ないよ」
「ならよかった。……ふぅ」
ただでさえ風通しが悪く、蒸し暑い視聴覚室の中で、さらにおひとり様専用のミニサイズの部屋にこもっているのだ、体操服姿の純美子は思わず同情するくらい大粒の汗をかいていた。
「凄い汗だね……。スミちゃんにそんな大変な役を押しつけるつもりはなかったんだけどな」
「ホントだよ! ……って、冗談冗談。案外この方が役に没頭デキていいのかも。……はい」
「あ、うん。……うん!?」
なにげないやりとりの延長で、純美子が真っ白いもこもこタオルを手渡し、僕に背を向けてから体操服を、ぺろり、と捲り上げたのだ。ほんのり赤みのさした白く透き通った肌と、シンプルな白のブラジャーのバックベルトとホック部分が僕の視覚に飛び込んできて網膜を焼き焦がす。
「ほ……ほら、早く。みんなに見られちゃうから……。ケンタ君が、その、拭いてくれない?」
「え――えええー……」
確かに思うように手が届かないだろうし、こんなに汗をかいていたら不快でたまらない。冷えたら風邪をひいてしまうだろう。そんな一通りの理屈は理解できても、僕にやってだなんて。
「ふ……っ、ち、ちょっと強い、よ……。優しく……優しくして。お願い、そっと……」
自分のは臭くて不愉快なだけなのに、汗まみれの純美子のカラダからは、まるで産毛の生えた薄皮を剥いた水蜜桃のような、ほのかに甘くてみずみずしい香りが立ち昇っていた。はじめてのことでチカラ加減のわからない僕のひと拭きひと拭きごとに純美子はカラダを震わせた。
「あー……うん。たぶん……大体拭けたんじゃないかな……。たぶん、だけど……」
「ありがと、ケンタ君。ふぅ、ちょっとすっきりした」
さすがに恥ずかしいことを頼んだ自覚はあるようで、背を向けたままの純美子の耳たぶは熟したトマトのように赤い。そのまま体操服を元に戻して身なりを整えている。そんな夢のような光景によほど見とれてぼーっとしていたのか、僕は無意識のうちに手にしたタオルを――。
――すん、すん。
「ありがとね……って!? なんでタオルの匂い嗅いでるのよ……! やめてよぅ……!!」
「………………え? うわっ! ちちち違うって! なんか自然に、気づいたらっていうか」
「嬉しい気持ちもするけど……でも、やっぱりなんか嫌だよ……。もう、ケンタ君のえっち」
その時。
なんの前触れもなく、入り口前の受付の方から耳をつんざくような悲鳴が聴こえた。
体育館での体操部のステージを終えて応援に駆けつけたロコに追い立てられるようにして受付をあとにした僕は、ついさっき目にした光景で確信していた。しかし、当のロコはツッキーと一緒に受付役を引き受けると言ったきり、何かあったのかどうか一切何も話そうとはしない。
(一生懸命練習してきたダンスのステージ発表が無事終わって、つい感動しちゃって、とか?)
足を止めて振り返りながら、僕は頭に思い浮かべた仮説を打ち消すように何度も首を振った。
(……いやいや。そういうことなら僕らにだってきっと言うはずだ。大成功だったよ! って)
どころか、体操部の発表そのものがなかったかのように、僕にも、その場にいた水無月さんにも、それに関する話題を口に出さなかった。遅れてきた。待たせていた。だからこそ、おかげでこうこうこうだった、と、いつものロコならば感謝の意味も含めて報告するはずなのだ。
(うーん……。ロコといい、さっきのツッキーといい……なんだか妙に胸騒ぎがする……)
壁板で迷路のように入り組んだ構造になった視聴覚室の、さらに奥の奥が僕ら裏方の指定席であり、戦場であり、ひとときの休憩場所だ。なかでもナレーションを担当する純美子専用の席は、技術工作部から借りてきたマイクロフォンが雑音を拾わないよう密閉空間になっていた。
そこから這うように出てきた純美子は、僕の姿を見るなりちょっぴり心配そうに尋ねてきた。
「……どうかしたの、ケンタ君?」
「あ、スミちゃん。ご、ごめん、ちょっとぼーっとしてたみたいだ。なんでも――ないよ」
「ならよかった。……ふぅ」
ただでさえ風通しが悪く、蒸し暑い視聴覚室の中で、さらにおひとり様専用のミニサイズの部屋にこもっているのだ、体操服姿の純美子は思わず同情するくらい大粒の汗をかいていた。
「凄い汗だね……。スミちゃんにそんな大変な役を押しつけるつもりはなかったんだけどな」
「ホントだよ! ……って、冗談冗談。案外この方が役に没頭デキていいのかも。……はい」
「あ、うん。……うん!?」
なにげないやりとりの延長で、純美子が真っ白いもこもこタオルを手渡し、僕に背を向けてから体操服を、ぺろり、と捲り上げたのだ。ほんのり赤みのさした白く透き通った肌と、シンプルな白のブラジャーのバックベルトとホック部分が僕の視覚に飛び込んできて網膜を焼き焦がす。
「ほ……ほら、早く。みんなに見られちゃうから……。ケンタ君が、その、拭いてくれない?」
「え――えええー……」
確かに思うように手が届かないだろうし、こんなに汗をかいていたら不快でたまらない。冷えたら風邪をひいてしまうだろう。そんな一通りの理屈は理解できても、僕にやってだなんて。
「ふ……っ、ち、ちょっと強い、よ……。優しく……優しくして。お願い、そっと……」
自分のは臭くて不愉快なだけなのに、汗まみれの純美子のカラダからは、まるで産毛の生えた薄皮を剥いた水蜜桃のような、ほのかに甘くてみずみずしい香りが立ち昇っていた。はじめてのことでチカラ加減のわからない僕のひと拭きひと拭きごとに純美子はカラダを震わせた。
「あー……うん。たぶん……大体拭けたんじゃないかな……。たぶん、だけど……」
「ありがと、ケンタ君。ふぅ、ちょっとすっきりした」
さすがに恥ずかしいことを頼んだ自覚はあるようで、背を向けたままの純美子の耳たぶは熟したトマトのように赤い。そのまま体操服を元に戻して身なりを整えている。そんな夢のような光景によほど見とれてぼーっとしていたのか、僕は無意識のうちに手にしたタオルを――。
――すん、すん。
「ありがとね……って!? なんでタオルの匂い嗅いでるのよ……! やめてよぅ……!!」
「………………え? うわっ! ちちち違うって! なんか自然に、気づいたらっていうか」
「嬉しい気持ちもするけど……でも、やっぱりなんか嫌だよ……。もう、ケンタ君のえっち」
その時。
なんの前触れもなく、入り口前の受付の方から耳をつんざくような悲鳴が聴こえた。
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