251 / 539
第250話 とある少女の帰還 at 1995/9/29
しおりを挟む
「ご……ご心配おかけしました。あ、あと……お見舞い、来ていただいて、嬉しかったです」
「そんなにかしこまるなって、ツッキー。ともかく元気になって良かったよ」
結局、水無月さんが再び学校に来るようになったのは、その週の金曜日になってからだった。
水無月さんは、『西中まつり』の後、都合二週間もの期間、学校を休んでいたことになる。もちろん、その休みの間にも授業は粛々と進められていて、まずは遅れた分を取り戻さなければならない。それに加えて、十月の第三週、運動会の翌週には早くも中間テストがやってくる。
それもあって、僕ら『電算論理研究部』の部員たちは、放課後部室に勢揃いしていた。
「じゃあ、お休みしていた間の授業のおさらいをしなくちゃね。……ハカセ、頼めるよね?」
「ええ。もちろんですとも。お任せください」
にこり、と五十嵐君は微笑み、どこから来たのかはもう考えるのをやめたホワイトボードと向き合って、黒のマーカーのキャップを、きゅぽん、と開けた。
僕たちは、それぞれが、それぞれなりのやり方で、水無月さんの抱える病気と向き合うことにしたのだった。だから、あえて全員でその向き合い方を共有するようなことはしなかった。
どうであれ、それを天運と受け入れるか。
はたまた、到底受け入れがたいと憤り、なんとか助けられる道を探すのか。
それとも、カノジョの気持ちを想ってこそ、知らぬふりで通すのか。
いろいろな考え方があるだろう。
そのどれもが正しいが、どれが正解というわけでもない。
ただひとつ言えるのは、彼女の笑顔が絶えることのないようベストを尽くす、ということだ。
(一番フォローしてあげないといけないのは、きっとハカセなんだと思うんだけど……でも)
このところ、なんとなく明るく社交的になったように感じる五十嵐君は、軽いジョークを交えながら、水無月さんが休んでいた間に行われた授業のダイジェスト版を披露していた。
あの時巫女・セツナの言ったことが正しければ、五十嵐君は水無月さんに思いを打ち明け、二人は両想いの恋人同士になったはずだ。しかし、ようやっと見つけた『自分のもう半分』の余命がいくばくもない、と知らされた時、五十嵐君は一体どう感じたのだろうか。
絶望? 悲観? 神をも呪う激しい怒りと憎しみ?
いや、きっとどれでもないはずだ。
僕らは、今まで何度も彼の口からこう語られるのを聴いているはずだ――無論可能です、と。だから僕らの頼れるハカセは、絶対にあきらめないだろう。きっとそうなのだ。
こん、こん――がちゃり。
ノックの音も慌ただしく、白衣を着こんだ見慣れた童顔がひょこりを部室を覗き込んでいた。
「おやおや? 心配になってちょっと寄ってみましたが、私の出る幕はなさそうですねぇ」
「あ。荻島センセイ。どうしたんです?」
「ハハハ。特になにか用事ってわけじゃないんですがね――おっと! そうだ、ちょうどいい。ちょっとこの前の『西中まつり』の件なのですが……古ノ森部長、ちょっといいですか?」
僕はうなずき、荻島センセイの顔が引っ込んだドアから上履きに履き替えて廊下に出る。もしやと予想していたが、僕を迎えるなり荻島センセイは無言でドアを閉めるように合図した。
「センセイにしては用心深いですね……。みんなに聞かれるとマズいことですか?」
「君から聞いた『例の件』を調べてみたんですよ。聞きたいでしょう?」
「……ええ。もちろんです」
「先に言っておきます。あまり気持ちのいい話ではありませんよ? 覚悟してくださいね――」
そうしてから、荻島センセイは急ぐことなくゆっくりと息継ぎをしながら、ひとつひとつを刻みつけるように語りはじめた。合槌を打つことも忘れ、ひたすら無言ですべてを聴き終えた僕の胸に去来したのは、たとえようのない虚しさと切なさだった。最後に僕はこう告げる。
「やっぱりそうだったんだ……つまり、こうですよね。水無月さんはいじめにあっていた、と」
「そんなにかしこまるなって、ツッキー。ともかく元気になって良かったよ」
結局、水無月さんが再び学校に来るようになったのは、その週の金曜日になってからだった。
水無月さんは、『西中まつり』の後、都合二週間もの期間、学校を休んでいたことになる。もちろん、その休みの間にも授業は粛々と進められていて、まずは遅れた分を取り戻さなければならない。それに加えて、十月の第三週、運動会の翌週には早くも中間テストがやってくる。
それもあって、僕ら『電算論理研究部』の部員たちは、放課後部室に勢揃いしていた。
「じゃあ、お休みしていた間の授業のおさらいをしなくちゃね。……ハカセ、頼めるよね?」
「ええ。もちろんですとも。お任せください」
にこり、と五十嵐君は微笑み、どこから来たのかはもう考えるのをやめたホワイトボードと向き合って、黒のマーカーのキャップを、きゅぽん、と開けた。
僕たちは、それぞれが、それぞれなりのやり方で、水無月さんの抱える病気と向き合うことにしたのだった。だから、あえて全員でその向き合い方を共有するようなことはしなかった。
どうであれ、それを天運と受け入れるか。
はたまた、到底受け入れがたいと憤り、なんとか助けられる道を探すのか。
それとも、カノジョの気持ちを想ってこそ、知らぬふりで通すのか。
いろいろな考え方があるだろう。
そのどれもが正しいが、どれが正解というわけでもない。
ただひとつ言えるのは、彼女の笑顔が絶えることのないようベストを尽くす、ということだ。
(一番フォローしてあげないといけないのは、きっとハカセなんだと思うんだけど……でも)
このところ、なんとなく明るく社交的になったように感じる五十嵐君は、軽いジョークを交えながら、水無月さんが休んでいた間に行われた授業のダイジェスト版を披露していた。
あの時巫女・セツナの言ったことが正しければ、五十嵐君は水無月さんに思いを打ち明け、二人は両想いの恋人同士になったはずだ。しかし、ようやっと見つけた『自分のもう半分』の余命がいくばくもない、と知らされた時、五十嵐君は一体どう感じたのだろうか。
絶望? 悲観? 神をも呪う激しい怒りと憎しみ?
いや、きっとどれでもないはずだ。
僕らは、今まで何度も彼の口からこう語られるのを聴いているはずだ――無論可能です、と。だから僕らの頼れるハカセは、絶対にあきらめないだろう。きっとそうなのだ。
こん、こん――がちゃり。
ノックの音も慌ただしく、白衣を着こんだ見慣れた童顔がひょこりを部室を覗き込んでいた。
「おやおや? 心配になってちょっと寄ってみましたが、私の出る幕はなさそうですねぇ」
「あ。荻島センセイ。どうしたんです?」
「ハハハ。特になにか用事ってわけじゃないんですがね――おっと! そうだ、ちょうどいい。ちょっとこの前の『西中まつり』の件なのですが……古ノ森部長、ちょっといいですか?」
僕はうなずき、荻島センセイの顔が引っ込んだドアから上履きに履き替えて廊下に出る。もしやと予想していたが、僕を迎えるなり荻島センセイは無言でドアを閉めるように合図した。
「センセイにしては用心深いですね……。みんなに聞かれるとマズいことですか?」
「君から聞いた『例の件』を調べてみたんですよ。聞きたいでしょう?」
「……ええ。もちろんです」
「先に言っておきます。あまり気持ちのいい話ではありませんよ? 覚悟してくださいね――」
そうしてから、荻島センセイは急ぐことなくゆっくりと息継ぎをしながら、ひとつひとつを刻みつけるように語りはじめた。合槌を打つことも忘れ、ひたすら無言ですべてを聴き終えた僕の胸に去来したのは、たとえようのない虚しさと切なさだった。最後に僕はこう告げる。
「やっぱりそうだったんだ……つまり、こうですよね。水無月さんはいじめにあっていた、と」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる