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第286話 二人だけにしたら終わり at 1995/10/20
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「うぉう! ダッチよぉ! ひひっ、うひひひひっ!」
「毎日毎日……くそっ! うぜぇんだよ、てめぇっ!」
結局、運動会直後から再燃したタツヒコと小山田の、暴言と恫喝と、時に暴力を交えた極めて物騒な小競り合いは、中間テスト最終日である今日まで続いたのだった。
「……はぁ」
おかげで、僕ら二年十一組のクラスメイトたちはみな憔悴しきっていた。
なにより肝心な、目の前のテスト問題にも集中できない有様だ。
二人の無益な闘争は、決まってタツヒコの登場シーンからはじまった。要するに、タツヒコさえ何も仕掛けてこなければ、いくら『札付きのワル』と称される小山田だろうが、むやみやたらに暴れ回るわけではないのだ。逆に言えば、その、むやみに、やたらに、神出鬼没で無益で意味不明な行動を躊躇なくとれるのが、この『タツヒコ』という特異な少年だった。
はじめは冷静に対応する小山田を、タツヒコはたったひとことふたことで崩すことができる。
それは天性の才でもあった。
「お前たち、いい加減にしろ! 来い!」
「はぁい、梅田のおっさーん。待ってたぜぇ」
「くそっ……なんで俺まで……放せって!」
そして今日も、ようやくタツヒコの居所を突き止めた梅田センセイと磯島センセイに羽交い絞めにされて、二人はお決まりの、職員室の隣にある進路指導室へと連行されていく。タツヒコは、いつものことだとまるで気にかけるそぶりはない。一方の小山田は憮然とした顔つきだ。
ようやく二人の姿と声が届かなくなってから、純美子は溜息とともにそっと告白する。
「……もう。毎日こうだと、ちょっとしたことでびくびくしちゃうよ……怖くって……」
「まあ……そうだよね」
「? あ、あの……ケンタ君は怖くないの?」
「い、いやいやいや! そりゃ怖いよ、怖いに決まってるじゃん。あ、あはははは……」
僕だって、暴力に慣れているわけではないし、嫌いだ。
けれど――やはり気になってしまっていたのだ。小山田のことが。
(ダッチは、なるべくなら争いたくない、そう思っているみたいなんだよな……けれど)
小山田が痺れを切らすきっかけは、必ずといっていいほど自分に対する悪口や暴言ではなかった。それは吉川のことだったり、桃月のことだったり、サッカー部のことだったりした。それをまるで見透かしたかのようなタツヒコの悪意に満ちたひとことのせいで爆発するのだった。
(けどみんなは、タツヒコもダッチも、似たような人種だと考えてる……違うと思うんだけど)
いずれにせよ、タツヒコの執着心が並外れているのは周知の事実だ。このままでは、二学期の終わりまで小山田にちょっかいをかけるのをやめないだろう。つまり、僕らの安寧は遠い。
(せっかくスミちゃんともいいカンジになれたってのに……。これじゃあ、台無しだよ……)
誰かの影に怯えながら、こそこそと過ごすんじゃあまったく意味がないのだ。
なんのために、時巫女・セツナ=コトセに向かって『好き勝手にやらしてもらう』宣言をして『あの頃できなかったこと全部』やると決めたのかわからない。灰色に塗り潰された過去を七色に輝かせるためには、どうしたってこの問題を避けて通るわけにはいかないのだ。断じて。
と、僕は声に出してこう言った。
「よし……やるだけやってみるか」
「――えっ!? ど、どういう……こと、ケンタ君? な、何をする気なの……?」
「ええと……うーん、ちょっとね?」
「ま、また悪い顔してるよ、ケンタ君……」
「スミちゃんって、ホントに僕の表情読むの下手だよね……ま、悪い、って言えばそうかもね」
もしかすると、今以上に敵を作ることになるかもしれない。
が、その時はその時だ。
「毎日毎日……くそっ! うぜぇんだよ、てめぇっ!」
結局、運動会直後から再燃したタツヒコと小山田の、暴言と恫喝と、時に暴力を交えた極めて物騒な小競り合いは、中間テスト最終日である今日まで続いたのだった。
「……はぁ」
おかげで、僕ら二年十一組のクラスメイトたちはみな憔悴しきっていた。
なにより肝心な、目の前のテスト問題にも集中できない有様だ。
二人の無益な闘争は、決まってタツヒコの登場シーンからはじまった。要するに、タツヒコさえ何も仕掛けてこなければ、いくら『札付きのワル』と称される小山田だろうが、むやみやたらに暴れ回るわけではないのだ。逆に言えば、その、むやみに、やたらに、神出鬼没で無益で意味不明な行動を躊躇なくとれるのが、この『タツヒコ』という特異な少年だった。
はじめは冷静に対応する小山田を、タツヒコはたったひとことふたことで崩すことができる。
それは天性の才でもあった。
「お前たち、いい加減にしろ! 来い!」
「はぁい、梅田のおっさーん。待ってたぜぇ」
「くそっ……なんで俺まで……放せって!」
そして今日も、ようやくタツヒコの居所を突き止めた梅田センセイと磯島センセイに羽交い絞めにされて、二人はお決まりの、職員室の隣にある進路指導室へと連行されていく。タツヒコは、いつものことだとまるで気にかけるそぶりはない。一方の小山田は憮然とした顔つきだ。
ようやく二人の姿と声が届かなくなってから、純美子は溜息とともにそっと告白する。
「……もう。毎日こうだと、ちょっとしたことでびくびくしちゃうよ……怖くって……」
「まあ……そうだよね」
「? あ、あの……ケンタ君は怖くないの?」
「い、いやいやいや! そりゃ怖いよ、怖いに決まってるじゃん。あ、あはははは……」
僕だって、暴力に慣れているわけではないし、嫌いだ。
けれど――やはり気になってしまっていたのだ。小山田のことが。
(ダッチは、なるべくなら争いたくない、そう思っているみたいなんだよな……けれど)
小山田が痺れを切らすきっかけは、必ずといっていいほど自分に対する悪口や暴言ではなかった。それは吉川のことだったり、桃月のことだったり、サッカー部のことだったりした。それをまるで見透かしたかのようなタツヒコの悪意に満ちたひとことのせいで爆発するのだった。
(けどみんなは、タツヒコもダッチも、似たような人種だと考えてる……違うと思うんだけど)
いずれにせよ、タツヒコの執着心が並外れているのは周知の事実だ。このままでは、二学期の終わりまで小山田にちょっかいをかけるのをやめないだろう。つまり、僕らの安寧は遠い。
(せっかくスミちゃんともいいカンジになれたってのに……。これじゃあ、台無しだよ……)
誰かの影に怯えながら、こそこそと過ごすんじゃあまったく意味がないのだ。
なんのために、時巫女・セツナ=コトセに向かって『好き勝手にやらしてもらう』宣言をして『あの頃できなかったこと全部』やると決めたのかわからない。灰色に塗り潰された過去を七色に輝かせるためには、どうしたってこの問題を避けて通るわけにはいかないのだ。断じて。
と、僕は声に出してこう言った。
「よし……やるだけやってみるか」
「――えっ!? ど、どういう……こと、ケンタ君? な、何をする気なの……?」
「ええと……うーん、ちょっとね?」
「ま、また悪い顔してるよ、ケンタ君……」
「スミちゃんって、ホントに僕の表情読むの下手だよね……ま、悪い、って言えばそうかもね」
もしかすると、今以上に敵を作ることになるかもしれない。
が、その時はその時だ。
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