420 / 539
第418話 リトライ世界のゆがみ at 1996/1/1
しおりを挟む
「ああ、こんなことって……。ダ、ダメ、手の震えが止まんない……! 助けてよ、ケンタ!」
「お、おい! 落ち着けって、ロコ!」
すっかりチカラも気力も失って、僕の左腕にそれこそぶらさがるようにしてロコはしがみついていた。顔面は蒼白で、ただでさえ陶磁器のようななめらかですべやかな肌は怖いくらいに真っ白で、赤いリップだけが血のように生々しく見える。
僕はロコの両肩をつかんで見つめた。
「一体何があったってんだよ! ムロはどこだ? くそっ、アイツに何か――されたのか!?」
「ち、違う……そうじゃなくって……違うんだよ……! ム、ムロは……はぐれちゃって……」
「そうじゃ……ない? じゃあ一体――!?」
「アイツが、いたんだ……」
それまで眩しいばかりに輝いていた青白い光――『魔法少女プリティ☆ぷりん』の髪飾りは一瞬にして曇り、濁ってよどんだような闇をたたえた。え――僕の疑問をよそにロコは続ける。
「ア、アイツがこんなところにいるはずがないのに! だって……だって……おかしいよ……」
「ロコ、お願いだから、まずは落ち着いてくれ。ここにいるのが嫌なら、移動してから話そう」
おびえて胸元で祈るようなカタチで震えているロコの手をとり、ひとけの少ない社殿の裏手へと強引に連れて行く。一瞬、ロコは逆らいふりほどくような仕草をしたが、じき手を握った。
「ここなら大丈夫だろう。……何があった?」
「言ったでしょ! アイツが、いたのよ!」
「だから、それだけじゃわかんないって! その『アイツ』って誰のことなんだよ!?」
「お、大月……大輔。あたしの……別れた元旦那」
「え………………っ!?」
そんな――馬鹿な!
まだロコと、そのなんとかってストーカー野郎が出会うには、あまりに早すぎるはずだ!
「ア、アイツの実家、横浜なのに……! こんなところになんているはずがないんだよ……!」
「な――何か、されたか?」
「ううん。あたしが先に気づいたから……」
それでもロコは、その想像をしただけで、ぶるり、とカラダを震わせる。
「それに……向こうはまだあたしのことなんて知りもしないはずだし。でも……目が合ったの」
わなわなとロコの口元が震えて言葉がうまく出てこなくなる。
「も――もちろん、出会った時より若かった。で――でも、でもね? あの、とっても優しい笑顔、忘れない。忘れたくても、忘れられないんだよ……! あたしを見て、笑ってた……!」
「お、おい……!」
「笑うとね、目が細くなるんだ。きゅっ、と一本の糸みたいになって。でも……でもね……?」
「……もういい、ロコ。思い出さなくって」
うわごとのように今しがた遭遇してしまった未来の夫の姿を語り続けるロコのカラダを両腕で包んで、優しく抱きしめてやる。しばらくは何やらつぶやいていたが、やがて静かになった。
「大丈夫だって。そんな未来なんてもう来ないんだ。ロコには幸せになる権利があるんだから。だってそうだろ? 『このロコちゃんの物語は、いつだってハッピーエンド!』なんだからさ」
「うっ、うっ……」
静かにすすり泣くロコのカラダを優しく、とん、とん、とあやすように一定のリズムで叩きながら、僕はひとり推測する。
もしかして――と、
もしかして――歴史が、僕らの本来あるべき『未来』に、無慈悲な『現実』に戻そうとしているのかもしれない、と。今日のこの出来事は、ただのはじまりなのかもしれない、と。
『わずかな変化やズレ、それそのものは大きな変動を生まないかもしれないが、そのゆがみとひずみは着実に蓄積しているのだ。それが一定値まで達すれば――ぽーん、と一気に跳ね返る』
そう言っていたコトセのセリフが、いよいよ現実のものとなってきたのかもしれない。そんなタイミングだった。
「………………おい。そこで何してるんだ、モリケン? ロコに……触るな!」
「お、おい! 落ち着けって、ロコ!」
すっかりチカラも気力も失って、僕の左腕にそれこそぶらさがるようにしてロコはしがみついていた。顔面は蒼白で、ただでさえ陶磁器のようななめらかですべやかな肌は怖いくらいに真っ白で、赤いリップだけが血のように生々しく見える。
僕はロコの両肩をつかんで見つめた。
「一体何があったってんだよ! ムロはどこだ? くそっ、アイツに何か――されたのか!?」
「ち、違う……そうじゃなくって……違うんだよ……! ム、ムロは……はぐれちゃって……」
「そうじゃ……ない? じゃあ一体――!?」
「アイツが、いたんだ……」
それまで眩しいばかりに輝いていた青白い光――『魔法少女プリティ☆ぷりん』の髪飾りは一瞬にして曇り、濁ってよどんだような闇をたたえた。え――僕の疑問をよそにロコは続ける。
「ア、アイツがこんなところにいるはずがないのに! だって……だって……おかしいよ……」
「ロコ、お願いだから、まずは落ち着いてくれ。ここにいるのが嫌なら、移動してから話そう」
おびえて胸元で祈るようなカタチで震えているロコの手をとり、ひとけの少ない社殿の裏手へと強引に連れて行く。一瞬、ロコは逆らいふりほどくような仕草をしたが、じき手を握った。
「ここなら大丈夫だろう。……何があった?」
「言ったでしょ! アイツが、いたのよ!」
「だから、それだけじゃわかんないって! その『アイツ』って誰のことなんだよ!?」
「お、大月……大輔。あたしの……別れた元旦那」
「え………………っ!?」
そんな――馬鹿な!
まだロコと、そのなんとかってストーカー野郎が出会うには、あまりに早すぎるはずだ!
「ア、アイツの実家、横浜なのに……! こんなところになんているはずがないんだよ……!」
「な――何か、されたか?」
「ううん。あたしが先に気づいたから……」
それでもロコは、その想像をしただけで、ぶるり、とカラダを震わせる。
「それに……向こうはまだあたしのことなんて知りもしないはずだし。でも……目が合ったの」
わなわなとロコの口元が震えて言葉がうまく出てこなくなる。
「も――もちろん、出会った時より若かった。で――でも、でもね? あの、とっても優しい笑顔、忘れない。忘れたくても、忘れられないんだよ……! あたしを見て、笑ってた……!」
「お、おい……!」
「笑うとね、目が細くなるんだ。きゅっ、と一本の糸みたいになって。でも……でもね……?」
「……もういい、ロコ。思い出さなくって」
うわごとのように今しがた遭遇してしまった未来の夫の姿を語り続けるロコのカラダを両腕で包んで、優しく抱きしめてやる。しばらくは何やらつぶやいていたが、やがて静かになった。
「大丈夫だって。そんな未来なんてもう来ないんだ。ロコには幸せになる権利があるんだから。だってそうだろ? 『このロコちゃんの物語は、いつだってハッピーエンド!』なんだからさ」
「うっ、うっ……」
静かにすすり泣くロコのカラダを優しく、とん、とん、とあやすように一定のリズムで叩きながら、僕はひとり推測する。
もしかして――と、
もしかして――歴史が、僕らの本来あるべき『未来』に、無慈悲な『現実』に戻そうとしているのかもしれない、と。今日のこの出来事は、ただのはじまりなのかもしれない、と。
『わずかな変化やズレ、それそのものは大きな変動を生まないかもしれないが、そのゆがみとひずみは着実に蓄積しているのだ。それが一定値まで達すれば――ぽーん、と一気に跳ね返る』
そう言っていたコトセのセリフが、いよいよ現実のものとなってきたのかもしれない。そんなタイミングだった。
「………………おい。そこで何してるんだ、モリケン? ロコに……触るな!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる