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第433話 かわいいは正義 at 1996/1/18
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――こん、こん。
「お邪魔しまーす……」
「えっ……!? う、嘘、嘘、嘘ぉっ!?」
もちろんきちんとノックはしたのだけれど、まさかこんな大人数が入ってくるとは思ってもみなかったのだろう。ベッドの上であたふたと慌てながら、なんとか少しでもマシに見えるようにと手で長い黒髪を何度も梳かし、飾り気のない病衣の上にパステルピンクのカーディガンを羽織りながら、シーツのしわを神経質に引っ張っているその姿は、愛らしくてかわいらしい。
最後に、それでも足りないと思ったのか、カーディガンの余った袖で口元を隠してこう言う。
「え、えっと……あ、あの……。そ、そのへんに、ウチのパパ、いました……よね?」
「あー……うん。いたんだけどね――」
僕は着替え途中のドアを開けてしまったような気恥ずかしさに視線を漂わせてこたえる。
「うわぁ!! 琴ちゃんのはじめてのお友だちがこんなにたくさんお見舞いにきてくれるなんて! 僕、感激だよ! さあ、入って入って! 大丈夫、遠慮しなくっていいからね――って」
「も、もうっ! パパの馬鹿……!」
恥ずかしさのあまり頬をピンクに染め上げ、今すぐこの場所から消え去ってしまいたい、と身を縮こませてつぶやいたツッキーのセリフに、五十嵐君がゆっくりと首を振ってみせた。
「お父様もうれしいんですよ。僕らが来たこともそうなのでしょうけれど、何よりツッキーのカラダの具合が、思ったより悪くなかったからでしょう。さきほど先生からうかがいました」
「そ、そうなんだろうけど……で、でも……こ、こんな格好なのに……」
「ツッキーは、いつもと変わらず、ス――ステキでか――かわいいですよ。………………な、なんですか?」
僕らはあわてて一斉に違う方向を向いた。
そんな様子に苦笑しつつ、五十嵐君はこう続ける。
「ここにいるみんな、ツッキーのことが心配でたまらなかったのです。本当は、おとといの夕方にお見舞いに行こうというハナシが出て、それでお父様にご連絡をさしあげたのですが――」
そうなのだ。
結局火曜日の夕方は検査直後だということもあって、面会謝絶になっていたのだった。
一般的に『慢性白血病』の検査は、患者の血液や骨髄を採取して行われる。骨盤の大部分を占める『腸骨』に対して『骨髄穿刺』という方法を使い、骨髄穿刺針で骨に穴をあけて骨髄液を採取することになるのだが、局所麻酔を使用するため、ほとんどの場合は痛みは感じない。
ただし、まれに『骨をゴリゴリと削られる感覚がある』『カラダを吸い上げられるような感じがする』などの独特な不快感を訴えることがある。水無月さんのケースがまさにそれだった。
「け、検査したその日は……なんだかとっても気持ちが悪くなってしまって……。スミマセン」
「いーの、いーの! 病人が遠慮なんかするもんじゃないわよ、ツッキー」
「で、でもぉ……」
しょんぼりと肩を落とした水無月さんを少しでもチカラづけようと、大急ぎでぶんぶんと手を振ってみせるロコ。それでも水無月さんはうかない顔をしてなおうつむく。
だが、ロコは。
「ほーら! ひとまず検査は終わったんでしょ? で、とりあえず大丈夫なんでしょ?」
「う、うん、ロコちゃん……けど……」
「だったらさ! もう退院する準備もかねて、思いっきりオシャレにメイクしちゃわない!? あたしさ! 道具一式持ってきたから! 夏の時より、もっともっとうまくなったからさ!」
「………………え? え!?」
がぜんやる気を見せて腕まくりしはじめたロコを見て、ツッキーはますます慌てるばかり。
「だーいじょうぶだって! お医者さんだって、見るからに元気のない子より、キラキラ輝いてるかわいい子を見た方がうれしいっしょ! ほーらほら! こっち向いて、ツッキー!」
「ロ、ロコ、お前なぁ……」
あきれ声を出しながらも、僕はあえて止めようとはしなかった。ロコは一瞬で何本ものブラシや何枚ものパフを取り出して指の間に挟むと、腕をクロスさせたポーズを決めて叫んだ。
「さあ! とびっきりの美少女に変身する時間だよ、ツッキー! ふふふ。覚悟しなさい!」
「お邪魔しまーす……」
「えっ……!? う、嘘、嘘、嘘ぉっ!?」
もちろんきちんとノックはしたのだけれど、まさかこんな大人数が入ってくるとは思ってもみなかったのだろう。ベッドの上であたふたと慌てながら、なんとか少しでもマシに見えるようにと手で長い黒髪を何度も梳かし、飾り気のない病衣の上にパステルピンクのカーディガンを羽織りながら、シーツのしわを神経質に引っ張っているその姿は、愛らしくてかわいらしい。
最後に、それでも足りないと思ったのか、カーディガンの余った袖で口元を隠してこう言う。
「え、えっと……あ、あの……。そ、そのへんに、ウチのパパ、いました……よね?」
「あー……うん。いたんだけどね――」
僕は着替え途中のドアを開けてしまったような気恥ずかしさに視線を漂わせてこたえる。
「うわぁ!! 琴ちゃんのはじめてのお友だちがこんなにたくさんお見舞いにきてくれるなんて! 僕、感激だよ! さあ、入って入って! 大丈夫、遠慮しなくっていいからね――って」
「も、もうっ! パパの馬鹿……!」
恥ずかしさのあまり頬をピンクに染め上げ、今すぐこの場所から消え去ってしまいたい、と身を縮こませてつぶやいたツッキーのセリフに、五十嵐君がゆっくりと首を振ってみせた。
「お父様もうれしいんですよ。僕らが来たこともそうなのでしょうけれど、何よりツッキーのカラダの具合が、思ったより悪くなかったからでしょう。さきほど先生からうかがいました」
「そ、そうなんだろうけど……で、でも……こ、こんな格好なのに……」
「ツッキーは、いつもと変わらず、ス――ステキでか――かわいいですよ。………………な、なんですか?」
僕らはあわてて一斉に違う方向を向いた。
そんな様子に苦笑しつつ、五十嵐君はこう続ける。
「ここにいるみんな、ツッキーのことが心配でたまらなかったのです。本当は、おとといの夕方にお見舞いに行こうというハナシが出て、それでお父様にご連絡をさしあげたのですが――」
そうなのだ。
結局火曜日の夕方は検査直後だということもあって、面会謝絶になっていたのだった。
一般的に『慢性白血病』の検査は、患者の血液や骨髄を採取して行われる。骨盤の大部分を占める『腸骨』に対して『骨髄穿刺』という方法を使い、骨髄穿刺針で骨に穴をあけて骨髄液を採取することになるのだが、局所麻酔を使用するため、ほとんどの場合は痛みは感じない。
ただし、まれに『骨をゴリゴリと削られる感覚がある』『カラダを吸い上げられるような感じがする』などの独特な不快感を訴えることがある。水無月さんのケースがまさにそれだった。
「け、検査したその日は……なんだかとっても気持ちが悪くなってしまって……。スミマセン」
「いーの、いーの! 病人が遠慮なんかするもんじゃないわよ、ツッキー」
「で、でもぉ……」
しょんぼりと肩を落とした水無月さんを少しでもチカラづけようと、大急ぎでぶんぶんと手を振ってみせるロコ。それでも水無月さんはうかない顔をしてなおうつむく。
だが、ロコは。
「ほーら! ひとまず検査は終わったんでしょ? で、とりあえず大丈夫なんでしょ?」
「う、うん、ロコちゃん……けど……」
「だったらさ! もう退院する準備もかねて、思いっきりオシャレにメイクしちゃわない!? あたしさ! 道具一式持ってきたから! 夏の時より、もっともっとうまくなったからさ!」
「………………え? え!?」
がぜんやる気を見せて腕まくりしはじめたロコを見て、ツッキーはますます慌てるばかり。
「だーいじょうぶだって! お医者さんだって、見るからに元気のない子より、キラキラ輝いてるかわいい子を見た方がうれしいっしょ! ほーらほら! こっち向いて、ツッキー!」
「ロ、ロコ、お前なぁ……」
あきれ声を出しながらも、僕はあえて止めようとはしなかった。ロコは一瞬で何本ものブラシや何枚ものパフを取り出して指の間に挟むと、腕をクロスさせたポーズを決めて叫んだ。
「さあ! とびっきりの美少女に変身する時間だよ、ツッキー! ふふふ。覚悟しなさい!」
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