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第509話 僕のカノジョに手を出すな(1) at 1996/3/17
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「ちょ――ちょっと! そこの君! 待ちたまえ! 入館証を見せなさい!!」
僕は振り向かない。
慌てた様子で警備員室のドアが開き、ばたん、と閉じたが、僕は足を止めるつもりなんてなかった。
「か、勝手に入っちゃいかん! 止まれ! 止まりなさい! 止まれって言って――!!!」
「……お断りです。僕は、カノジョに用があって来たんです」
「か、彼女――!?」
ぐい――加減のないチカラで乱暴に肩に置かれた白手袋が、僕を容赦なく引き留めようとする。けれど僕は、それをはるかに上回る凶暴さと冷徹さで振り払うと、いかつい警備員の顔に、そのあぐらをかいたような鼻先に噛みつくようにこう言い放った。
「じゃあ、止められるものならやってみろ! その代わり、僕も死に物狂いで牙をむくぞ!」
僕の右手の中にあるものを、警備員の眼球の先、数ミリまで一気に突きつける。
太くてゴツくて、いびつなカタチをした、黄色と黒の幅広のカッターナイフだ。
「うっ――!!」
いかに訓練を受けてきたとはいえ、さすがの体格を誇る警備員でも一瞬で委縮したようだ。僕はそのまま鈍色の切っ先を突きつけたまま、警備員の耳元で、小さく、そっと囁いた。
「……誰も傷つけるつもりはありませんから。ただ、カノジョとハナシをさせてくれればいい」
「――っ」
「信じてくれなくてもいい。ただ、邪魔だけはしないで欲しいんだ。そのあとは罰を受けます」
「し、しかし……」
「あなたは脅されて仕方なく連れてこられた……だから、あなたには責任はない。ですよね?」
こく、こく、と目の前の顔がうなずく。びっちりと脂汗が浮いていた。そのまま僕は、警備員のややビール腹の巨躯を盾にするように、手にしたナイフの位置を首先に変えて、中へ進む。
そして――。
「ケ、ケンタ君――!?」
「やあ、スミちゃん。ここにいるって聞いてさ――そこの人が例の、講師の人なんだね?」
「う――うん。講師の浜田山センセイ。なに……してるの!?」
「スミちゃんと、そのセンセイにハナシがあって来たんだ」
講師の浜田山は、四〇代くらいのこぎれいなジャージ姿の男性だった。純美子の前に立ち、胸元で組んでいた腕をほどくと、動揺をあらわにして震える指先で僕をさす。そして言った。
「お、おい! 君は一体――!?」
「あんたか。僕たちが別れれば、次のオーディションで合格できるだろうって言ったヤツは?」
たちまち浜田山の視線が泳いだ。口はつぐんだままだが、この男で間違いないだろう。僕は警備員のそばをゆっくりと離れ、浜田山の前へと一歩ずつ、一歩ずつ、歩み寄った。
「……たしかにそうなんだろうな。でもね? そんな小細工をしなくたって、カノジョはいずれ声優界のスターになる。どうしてかって? 僕は知っているからさ。この先の未来を、ね?」
「なにを馬鹿な――!!」
そりゃそうなんだろう。ナイフを振りかざして乱入してきた頭のおかしいどこにでもいる中学生のセリフには、なんの根拠もないように聴こえるはずだし、そもそも馬鹿げた話だ。
「それにだ! 今日、河東は自分から養成所をやめると言いに来てるんだぞ? そ――そんな脅迫めいたことをしたところで、もうどうにもならないんだよ! じき、警察も来るだろう」
「それ……ホントなのか、スミちゃん?」
「う……うん。ホントのことだよ。だって……だってさ……?」
たちまち気丈に振舞っていた純美子の大きな瞳から涙が溢れ出す。
震える声で純美子は叫んだ。
「あたし……やっぱりケンタ君がスキなんだもん! 一緒にいられないなら意味なんてない!」
「ありがとうな。それから……この前はごめん。僕が馬鹿だった。本当に――」
そう言って僕は、まだ呆けている警備員に手の中のカッターを渡した――刃の入っていない。
僕は振り向かない。
慌てた様子で警備員室のドアが開き、ばたん、と閉じたが、僕は足を止めるつもりなんてなかった。
「か、勝手に入っちゃいかん! 止まれ! 止まりなさい! 止まれって言って――!!!」
「……お断りです。僕は、カノジョに用があって来たんです」
「か、彼女――!?」
ぐい――加減のないチカラで乱暴に肩に置かれた白手袋が、僕を容赦なく引き留めようとする。けれど僕は、それをはるかに上回る凶暴さと冷徹さで振り払うと、いかつい警備員の顔に、そのあぐらをかいたような鼻先に噛みつくようにこう言い放った。
「じゃあ、止められるものならやってみろ! その代わり、僕も死に物狂いで牙をむくぞ!」
僕の右手の中にあるものを、警備員の眼球の先、数ミリまで一気に突きつける。
太くてゴツくて、いびつなカタチをした、黄色と黒の幅広のカッターナイフだ。
「うっ――!!」
いかに訓練を受けてきたとはいえ、さすがの体格を誇る警備員でも一瞬で委縮したようだ。僕はそのまま鈍色の切っ先を突きつけたまま、警備員の耳元で、小さく、そっと囁いた。
「……誰も傷つけるつもりはありませんから。ただ、カノジョとハナシをさせてくれればいい」
「――っ」
「信じてくれなくてもいい。ただ、邪魔だけはしないで欲しいんだ。そのあとは罰を受けます」
「し、しかし……」
「あなたは脅されて仕方なく連れてこられた……だから、あなたには責任はない。ですよね?」
こく、こく、と目の前の顔がうなずく。びっちりと脂汗が浮いていた。そのまま僕は、警備員のややビール腹の巨躯を盾にするように、手にしたナイフの位置を首先に変えて、中へ進む。
そして――。
「ケ、ケンタ君――!?」
「やあ、スミちゃん。ここにいるって聞いてさ――そこの人が例の、講師の人なんだね?」
「う――うん。講師の浜田山センセイ。なに……してるの!?」
「スミちゃんと、そのセンセイにハナシがあって来たんだ」
講師の浜田山は、四〇代くらいのこぎれいなジャージ姿の男性だった。純美子の前に立ち、胸元で組んでいた腕をほどくと、動揺をあらわにして震える指先で僕をさす。そして言った。
「お、おい! 君は一体――!?」
「あんたか。僕たちが別れれば、次のオーディションで合格できるだろうって言ったヤツは?」
たちまち浜田山の視線が泳いだ。口はつぐんだままだが、この男で間違いないだろう。僕は警備員のそばをゆっくりと離れ、浜田山の前へと一歩ずつ、一歩ずつ、歩み寄った。
「……たしかにそうなんだろうな。でもね? そんな小細工をしなくたって、カノジョはいずれ声優界のスターになる。どうしてかって? 僕は知っているからさ。この先の未来を、ね?」
「なにを馬鹿な――!!」
そりゃそうなんだろう。ナイフを振りかざして乱入してきた頭のおかしいどこにでもいる中学生のセリフには、なんの根拠もないように聴こえるはずだし、そもそも馬鹿げた話だ。
「それにだ! 今日、河東は自分から養成所をやめると言いに来てるんだぞ? そ――そんな脅迫めいたことをしたところで、もうどうにもならないんだよ! じき、警察も来るだろう」
「それ……ホントなのか、スミちゃん?」
「う……うん。ホントのことだよ。だって……だってさ……?」
たちまち気丈に振舞っていた純美子の大きな瞳から涙が溢れ出す。
震える声で純美子は叫んだ。
「あたし……やっぱりケンタ君がスキなんだもん! 一緒にいられないなら意味なんてない!」
「ありがとうな。それから……この前はごめん。僕が馬鹿だった。本当に――」
そう言って僕は、まだ呆けている警備員に手の中のカッターを渡した――刃の入っていない。
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