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第523話 ミナツキ包囲作戦(前篇) at 1996/3/30
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『ジジッ……こちら、ハカセ。こちら、ハカセ。これから「オペレーション・M」――「ミナツキ包囲作戦」の作戦内容を、あらためて通達します。各自、再度確認してください――』
耳元の銀色の缶ペンケース型自作トランシーバ―から、ノイズ混じりの五十嵐君の声が聴こえてきた。隣の純美子と目を合わせて、うん、とうなずく。やがて五十嵐君の声が続いた。
『まずは時刻整合を行います……3、2、1、ゼロ。現在十二時〇〇分。よろしいですか?』
僕らは、昨日の『電算論理研究部』でのリハーサルどおりに、腕時計の秒針をリセットする。
『これ以降、毎時〇〇分、三〇分の二回、各自携帯中のトランシーバ―の通話をオンにしてください。なお、なるべく音は拾わないよう注意が必要です。五秒オンにしたら、受信待機です』
呼びかけたり、雑音を拾わないようにするのは、水無月さん――いや、正確には、コトセ側の状況がわからないからだ。可能性は限りなくゼロに近いのだけれど、万が一ツッキーに協力者がいた場合、こちらが捜索して範囲を特定しているという意図がたちまち露見してしまう。
また、ツッキーに知られないことも重要だった。僕とロコだけの『リトライ者』による見解では、ツッキーは今、なるべくコトセにカラダの支配権を奪われないように、睡眠時間を削っているに違いない。意識を失えば、代わりにコトセが意識の表面に出てくることが可能だからだ。
『小山田キャプテンの報告にあった地点から、最大半径二〇〇メートル以内にある建物がターゲットの潜伏地点です。ですが……一回の試行で再び受信できる可能性は低いでしょう』
問題は、コトセが支配権を確保できた時にしか、例の信号音を送ることができない、ということだった。トントントン、ツーツーツー、トントントン――モールス信号で『助けて』と。
しかし、ツッキーだって、しょせんはただのニンゲンだ。
というより、フツーの女の子よりもカラダは弱く、体力も低い。
姿をくらませてからもう十一日目にもおよぶことを考えれば、むしろ限界に近いだろう。
『次回の定時通話までに、各自昨日の作戦会議で決めた位置に移動願います。いずれかのメンバーが受信するまでは、移動はせず、そのまま待機してください。長丁場になりますが――』
『ジジッ……気にすんじゃねぇ、ハカセ。みんなも俺様と同じはずだぜ』
乱暴に、ぶっきらぼうに小山田が割り込む。
僕らも顔を見合わせて、うん、とうなずいた。
『っ……ありがとうございます。それでは「ミナツキ包囲作戦」、ただいまより開始です!』
ハカセらしくもないな――思わず覗いた弱気ゴコロ。でも、誰よりも心配しているのは五十嵐君のはずだ。そして、誰よりも怒っているのも五十嵐君のはずだ。
『――すべて、ですか? 古ノ森リーダー?』
僕ら『電算論理研究部』の部員たちとの日々、五十嵐君と出会ったことも含めて、すべての『記憶』をリセットしてまでタイムリープしようとしているツッキーには怒っているはずだ。
もし僕が五十嵐君の立場だったなら――。
そんな考えに想いを巡らせている時だった。
「ねぇ? ケンタ君――?」
「ご、ごめん! そうだよね、もう行かなきゃ――」
つないだままの手を忘れていて、慌てて放そうとした純美子の手が、僕をぎゅっと捕まえた。
「……聞いてもいい?」
「もちろん。って……急にどうしたの?」
ぎゅっ――純美子の手が、もっと僕を確かめようと、ここに留めようときつく握りしめた。
「遠い未来から来たんだ、ってハナシ……嘘だよね? スミを置いてどこにもいかないよね?」
「――っ。……大丈夫だって。僕は、ずっと、ずうっっっとここにいる。スミちゃんのそばに」
それは。
僕が純美子についた最初で最後の、優しくて世界一サイテーな『嘘』。
耳元の銀色の缶ペンケース型自作トランシーバ―から、ノイズ混じりの五十嵐君の声が聴こえてきた。隣の純美子と目を合わせて、うん、とうなずく。やがて五十嵐君の声が続いた。
『まずは時刻整合を行います……3、2、1、ゼロ。現在十二時〇〇分。よろしいですか?』
僕らは、昨日の『電算論理研究部』でのリハーサルどおりに、腕時計の秒針をリセットする。
『これ以降、毎時〇〇分、三〇分の二回、各自携帯中のトランシーバ―の通話をオンにしてください。なお、なるべく音は拾わないよう注意が必要です。五秒オンにしたら、受信待機です』
呼びかけたり、雑音を拾わないようにするのは、水無月さん――いや、正確には、コトセ側の状況がわからないからだ。可能性は限りなくゼロに近いのだけれど、万が一ツッキーに協力者がいた場合、こちらが捜索して範囲を特定しているという意図がたちまち露見してしまう。
また、ツッキーに知られないことも重要だった。僕とロコだけの『リトライ者』による見解では、ツッキーは今、なるべくコトセにカラダの支配権を奪われないように、睡眠時間を削っているに違いない。意識を失えば、代わりにコトセが意識の表面に出てくることが可能だからだ。
『小山田キャプテンの報告にあった地点から、最大半径二〇〇メートル以内にある建物がターゲットの潜伏地点です。ですが……一回の試行で再び受信できる可能性は低いでしょう』
問題は、コトセが支配権を確保できた時にしか、例の信号音を送ることができない、ということだった。トントントン、ツーツーツー、トントントン――モールス信号で『助けて』と。
しかし、ツッキーだって、しょせんはただのニンゲンだ。
というより、フツーの女の子よりもカラダは弱く、体力も低い。
姿をくらませてからもう十一日目にもおよぶことを考えれば、むしろ限界に近いだろう。
『次回の定時通話までに、各自昨日の作戦会議で決めた位置に移動願います。いずれかのメンバーが受信するまでは、移動はせず、そのまま待機してください。長丁場になりますが――』
『ジジッ……気にすんじゃねぇ、ハカセ。みんなも俺様と同じはずだぜ』
乱暴に、ぶっきらぼうに小山田が割り込む。
僕らも顔を見合わせて、うん、とうなずいた。
『っ……ありがとうございます。それでは「ミナツキ包囲作戦」、ただいまより開始です!』
ハカセらしくもないな――思わず覗いた弱気ゴコロ。でも、誰よりも心配しているのは五十嵐君のはずだ。そして、誰よりも怒っているのも五十嵐君のはずだ。
『――すべて、ですか? 古ノ森リーダー?』
僕ら『電算論理研究部』の部員たちとの日々、五十嵐君と出会ったことも含めて、すべての『記憶』をリセットしてまでタイムリープしようとしているツッキーには怒っているはずだ。
もし僕が五十嵐君の立場だったなら――。
そんな考えに想いを巡らせている時だった。
「ねぇ? ケンタ君――?」
「ご、ごめん! そうだよね、もう行かなきゃ――」
つないだままの手を忘れていて、慌てて放そうとした純美子の手が、僕をぎゅっと捕まえた。
「……聞いてもいい?」
「もちろん。って……急にどうしたの?」
ぎゅっ――純美子の手が、もっと僕を確かめようと、ここに留めようときつく握りしめた。
「遠い未来から来たんだ、ってハナシ……嘘だよね? スミを置いてどこにもいかないよね?」
「――っ。……大丈夫だって。僕は、ずっと、ずうっっっとここにいる。スミちゃんのそばに」
それは。
僕が純美子についた最初で最後の、優しくて世界一サイテーな『嘘』。
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