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本編
俺の番(つがい) sideジーク
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(sideジーク)
*************************
俺には10人の兄弟姉妹がいる。
獣人はたいてい多産なので大家族になることは普通だ。ただ、俺以外の全ての家族が自分の「番」と出会えている。
獣人にとって番とはこの世にただ1人存在する唯一であり全てである。
自分の番に出会える獣人は100分の1の確率と言われているが、どうやら俺の一族は出会いやすいらしい。
家族は皆10歳前後で番に出会っていた。弟なんて同じ時期に生まれた幼なじみが番だった。
そんな環境だったので自分もすぐに出会えるだろうなんて思っていたが、10歳を超えてもその気配はなかった。確率的には出会えなくてもおかしくないのだが、気にするなと言われても無理だろう。
12歳になってすぐに冒険者登録をして歳の違う幼なじみの悪友ラーフとロロとパーティを組み、依頼ついでに国中を巡った。
見つからない番に関しては半ばやけくそ気味に無理やり恋人を作った。見てくれの良さは自覚していたので付き合う相手には困らなかった。
俺の好みは小さくて守ってあげたくなるような子がタイプだったのだが、総じて冒険者活動に理解がなかった。
怪我をして危ないからやめてくれだの、依頼で数日ぶりにくたくたになって帰ったところに、なぜその足で即会いに来ないのかと言われたりと長続きはしなかった。
ならば同じ冒険者なら価値観が合うのではと付き合ってはみたものの、気が強すぎることと付き合うなり他者へマウントを取るような奴ばかりですぐに別れた。
同じ獣人のラーフとロロも番にこだわりはなく、恋人も作るのは面倒だと言ってラーフは娼館で、ロロは酒場でナンパしてきた男を逆に喰って性欲を満たしていた。
何度か恋人を作っては別れを繰り返して次第に面倒になってきて最近では俺も娼館で発散するようになっていた。
冒険者活動のために他国にも足を伸ばすようになったころ、以前一時期拠点にしていた町へ再び訪れた。ここの冒険者ギルドマスターのワグナーは龍人で恐ろしく強い。数年前は全く歯が立たなかったので今回の手合わせが楽しみだ。
ギルドに着くとまず騒がれる。Sランクになってからは特に顕著に浮ついた視線を受けるようになった。ラーフとロロも元々目立つので騒がしさには慣れている。
受付にワグナーを呼んでもらい、しばらく話してとりあえず執務室に移動しようかという流れになったとき、ふと気になって人混みに目線を移した。
一目でわかった。俺の「番」だ。
男だったのは意外だが番に種族や性別などは関係ない。背は高くないがスラリとしたしなやかな身体つきをした彼は、目が合ったと思ったのにそのまま人混みに紛れてしまった。
一瞬思考が止まっていたので慌てて追いかけようとしたところ、ワグナーに「ちょっと待て」と頭を掴まれそのまま汚い執務室に引きずられた。
「ワグナーさっさと離せ。急用ができた。」
「その急用ってのはお前がロックオンした茶髪のチビのことか?」
「なぜわかる?」
「わかるわ!獲物を見つけた獣みたいな顔しやがって。その状態でイオに会わせられるか!」
「彼はイオというのか。良い名前だ。」
「うわ~ジークのそんな顔初めて見た。」
ロロに驚かれたがそんな顔ってどんな顔だ?
「もしかして番を見つけたのですか?」
「ああ、間違いない。あんなに可愛いんだから破落戸どもに絡まれたりしたら大変だ。見失う前に追いかけないと!」
「だから落ち着けって!」
ワグナーに頭を叩かれた。咄嗟に身体強化をかけなかったら首が折れていたぞこの馬鹿力。
「失礼します。お茶をお持ちしました。」
「スピカ久しぶり~。飲みに行こ!」
「皆さんお久しぶりです。ロロ、僕は勤務中だ。仕事が終わってからなら付き合うよ。」
執務室に入ってきたのはロロとやたらと気が合うスピカだった。
「ところでジークさん。イオが番というのは本当ですか?」
「聞いていたのか?ああ、間違いない。だから俺はこのまま失礼す──」
「〘拘束〙」
スピカの固有スキル〘拘束〙が発動した。
イオを追いかけたくて気が急いて反応できなかった。他者の固有スキルの厄介なところはいくら力や魔法に長けていても固有スキルの方が強くて抗えないところだ。強制的にソファに座らされた俺は話を聞くことしか許されなかった。
「ジークさん。イオは"人族"なんですよ?番だとかいきなり言われてもわかるわけがないでしょう?」
獣人における「番」と同じく、エルフには「運命」、龍人には「半身」、ドワーフには「片割れ」がいる。言い方は異なるが違いは特になく、他種族の組み合わせも存在する。
ただし人族は別だ。獣人の番が人族だとしたら、獣人側しか相手を番だと認識することができないのだ。
ということはイオは俺をまだ番だとは知らないということだ。これは大変遺憾である。
さっさと囲い込んで俺が番だと知らしめないと。
「物騒なこと考えんな。」
またワグナーに叩かれた。
「それにいきなりSランクに話しかけられたらCランクのイオは萎縮します。そして周りからどう思われるか考えて下さい。」
それは俺のイオに不当な扱いをする人間がいるということか?即始末してくれよう。
そういえば過去俺と付き合った恋人たちは周りからやっかみを受けていたようだ。それをものともしない気の強い人たちばかりだったが。
「イオは特に人間不信気味なので急に距離を詰めるのはやめて下さい。」
「何か理由でも?」
「ギルマスが評判の悪いパーティにイオが騙されるところを黙って見ていたことがあるんですよ。」
「は?なぜ?」
「勉強だよ勉強。」
「まだ親しい人が誰もいないときにさせる経験ではないでしょう?しかも僕が出張でいないときを狙って。あれのせいでイオは人を避けるようになったし、イオに対して純粋に好意を持っていた人も彼のガードの固さで諦めていったんですよ。」
「なに?それはどこのどいつだ?」
「諦めたって言ってんでしょ。つまり、本当にイオのことを想うなら慎重に行動してさい!」
しっかりと釘を刺されてしまったが、確かに話を聞く限りではいきなり近付くと警戒されそうだ。ゆっくり、ジワジワと距離を縮めて逃げられないようにしよう。
「とりあえず今日は話しかけたりはしないから顔を見に行ってもいいか?」
「⋯ロロ、ラーフさん見張りをお願いします。」
「面白そうですね。いいですよ。」
「え~面倒くさーい。」
「今日の飲みは半分奢るから。」
「喜んでー!」
***************************
人混みだったので匂いもわからず、話をしていないので声もわからない中、探すことは困難なので何とかヒントをくれとスピカに食い下がった。
そしてイオはリュフタケを採取したばかりだと聞き出した。リュフタケは鼻の良い獣人でも運が良くなければ見つけられない物だ。俺の番は優秀だな。
ギルドを飛び出し嗅覚を全力で研ぎ澄ませて微かに残るリュフタケの香りを辿り町へ向かった。
見つけたと思ったらイオが冒険者どもに絡まれている。今日は話しかけないという宣言をしたことを後悔した。
あいつらを黙ってぶっ飛ばしたら話しかけたことにはならないんじゃないか?
「まったく、1人を3人で囲んで恐喝なんて冒険者の風上にもおけませんね。」
「いや~冒険者なんて乱暴者の集まりじゃん?」
同じく様子を見ていたロロとラーフを無視してイオを助けに行こうとしたそのとき、強い光と大きな音がイオの手から発せられた。
目の前でやられた獣人たちにはひとたまりもなかったのか、目と耳を押さえている間にイオは逃げていった。
「何ですか今のは!一瞬で手だけに魔力を集中させて音を拡大させただけではなく光を発する魔法を同時展開させるなんて。なんて器用なんでしょう!」
魔法馬鹿のラーフが興奮してイオの魔法を分析し始めた。こうなったら誰も止められないので放置が正解だ。
俺とロロは未だに目を押さえている獣人たちの元へ向かう。
「お前達。冒険者として恥ずかしくないのか。」
「え!一閃!?いえ、俺たちは後輩に指導していただけです!」
「どうみても恐喝していたけど~?」
「ひぇ、瞬発まで⋯いえ、あいつのような討伐もできない腰抜けにリュフタケは分不相応です。」
「だから?お前らが彼の功績を横取りして儲けてやろうと言うことか?」
「横取りだなんて⋯討伐中心の俺たちには装備品の金も必要になるのでちょうど良いでしょう?」
呆れた。これこそ指導が必要だろう。
俺はふてぶてしい顔を隠そうともしないヒョウ獣人の胸ぐらを片手で掴んで絞め上げた。
「いいか、これは警告だ。今後一切彼に関わるのはやめろ。」
納得していなさそうな顔だったが、Sランクに楯突くような馬鹿ではなかったらしい。渋々と引き下がっていった。
このままイオを追いかけるのは得策ではないと判断して未だに興奮状態のラーフを引きずってギルドに戻り、先ほど出ていったばかりの執務室のドアを開ける。
「ワグナー、スピカ。冒険者の質が下がっているんじゃないか?」
「ノックぐらいしろ。何なんだいきなり。」
「ここのギルドのイオへの評価は?」
「安定して質の良い素材を採取できて依頼主とのトラブルもほとんど無い優秀な冒険者だ。ただ、採取専門という点で他の冒険者に侮られる一因もある。」
「採取に関しては右に出る者はいないほど優秀ですよ。」
ギルドからこう評価されていたとしても周りからの扱いがそれではさぞ窮屈な思いをしているのだろう。
「よし。イオをパーティに入れる。そしていずれここから連れ出すぞ。」
「まてまてまてまて。どうしてそうなった?」
「番が同じ冒険者ならパーティを組むのは当然だろう?」
「そう思ってんのはお前だけだからな?そもそも今思い付いたことでロロとラーフの意見も聞いてないだろ。」
「私は構いませんよ。」
「俺もー。ジークの番なら特に反対する理由もないし。」
「良かった。よし、次に会った時に誘うぞ。」
「良くねーよ!」
***********************
頭を冷やせと依頼を詰め込まれた。
ただ、イオをパーティに入れることは考えてくれると言っていた。
ワグナーは龍人だ。獣人にとっての番がどれほど大きな存在かは充分に理解してくれている。
そして彼も何度忠告してもイオに絡む冒険者が絶えないことに辟易していたらしい。
何日かは忙しすぎてイオに会いにもいけない。まだ彼の声も聞けていないのに。
夜行性の魔物討伐を済ませ、森の出口に差し掛かったところで遠くにイオの姿が見えた。これは偶然を装って話しかけられるチャンスだ。
まだ一度もまともに会えていない俺を哀れんでラーフとロロは快く俺を送り出した。いや、あれはただ単に早く宿に帰って寝たいだけだな。
イオを追いかけようとしてすぐに不審な動きをする2人組を見つけた。あれはこの前イオに絡んでいた冒険者か?確か3人組だったはずなのに2人しかいないな。しばらく様子をうかがっているとやはりイオを尾行しているようだ。
性懲りもなくまた何かしようとしているのだろうか。何か事を起こす前にと2人を捕まえた。
やはりリュフタケが諦めきれなくてイオを尾行していたようだ。しかしこの場にいるのは2人。もう1人はどこだと尋ねると言いづらそうに目をそらす。
「実は⋯俺たちは囮なんです。あのチビは逃げるのが上手いからわざと気配を読ませて別のところから捕まえるつもりで⋯」
そこまで聞いて俺は獣人2人をぶん殴って走り出した。そう遠くないところにいるので気配は見失っていない。
たどり着いた先で頬を腫らしたイオに跨るヒョウ獣人がいて頭が沸騰するほどの怒りを感じた。
「お前、先日の俺の忠告は聞いていなかったのか?」
俺の番に手を出して無事に済むと思うなよ。
************************
イオを追いかけているときに魔道具で連絡をしていたロロとラーフが来たので、ロロにポーションを投げてボロ雑巾のようになっているヒョウ獣人のことは任せた。ヒョウ獣人の仲間の獣人もラーフの横で頬を腫らして大人しくしている。
気絶しているイオの身体をそっと起こして怪我の様子を見る。頬の他に外傷はなく、殴られたときに軽い脳震盪になったのだろう。
痛々しい頬をそのままにしていたくなかったのでポーションを取り出した。
脳を揺らさないように声をかける。
「イオ、イオ。これを飲んで欲しいから少しだけでも起きてくれないか?」
何とかポーションを一口飲ませることができたが、イオの意識は失ったままだった。あっという間に頬の腫れが引き、脳へのダメージもこれで心配はなくなった。
「ちょっとジーク。こっちのポーションもうちょいマシなやつにしなよー。」
ロロが死にかけのヒョウ獣人に雑に飲ませたポーションは味が改変される前のもので、魔法鞄に入れっぱなしのまま忘れていたものだった。効果は変わらないのだがとにかく不味い。のたうち回るほど不味い。ポーションを飲ませてもらえるだけありがたいと思って欲しい。
意識のないイオを抱き上げて蹲っているヒョウ獣人とその仲間に声をかける。
「このことはギルドに報告させてもらう。次はないぞ。」
早くイオを休ませてあげたい。
小さい身体を抱きしめる。
ああ、良い匂いだ。
やはり早くこんな所から連れ出してしまおう。
*************************
スピカはイオのモンペ。
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俺には10人の兄弟姉妹がいる。
獣人はたいてい多産なので大家族になることは普通だ。ただ、俺以外の全ての家族が自分の「番」と出会えている。
獣人にとって番とはこの世にただ1人存在する唯一であり全てである。
自分の番に出会える獣人は100分の1の確率と言われているが、どうやら俺の一族は出会いやすいらしい。
家族は皆10歳前後で番に出会っていた。弟なんて同じ時期に生まれた幼なじみが番だった。
そんな環境だったので自分もすぐに出会えるだろうなんて思っていたが、10歳を超えてもその気配はなかった。確率的には出会えなくてもおかしくないのだが、気にするなと言われても無理だろう。
12歳になってすぐに冒険者登録をして歳の違う幼なじみの悪友ラーフとロロとパーティを組み、依頼ついでに国中を巡った。
見つからない番に関しては半ばやけくそ気味に無理やり恋人を作った。見てくれの良さは自覚していたので付き合う相手には困らなかった。
俺の好みは小さくて守ってあげたくなるような子がタイプだったのだが、総じて冒険者活動に理解がなかった。
怪我をして危ないからやめてくれだの、依頼で数日ぶりにくたくたになって帰ったところに、なぜその足で即会いに来ないのかと言われたりと長続きはしなかった。
ならば同じ冒険者なら価値観が合うのではと付き合ってはみたものの、気が強すぎることと付き合うなり他者へマウントを取るような奴ばかりですぐに別れた。
同じ獣人のラーフとロロも番にこだわりはなく、恋人も作るのは面倒だと言ってラーフは娼館で、ロロは酒場でナンパしてきた男を逆に喰って性欲を満たしていた。
何度か恋人を作っては別れを繰り返して次第に面倒になってきて最近では俺も娼館で発散するようになっていた。
冒険者活動のために他国にも足を伸ばすようになったころ、以前一時期拠点にしていた町へ再び訪れた。ここの冒険者ギルドマスターのワグナーは龍人で恐ろしく強い。数年前は全く歯が立たなかったので今回の手合わせが楽しみだ。
ギルドに着くとまず騒がれる。Sランクになってからは特に顕著に浮ついた視線を受けるようになった。ラーフとロロも元々目立つので騒がしさには慣れている。
受付にワグナーを呼んでもらい、しばらく話してとりあえず執務室に移動しようかという流れになったとき、ふと気になって人混みに目線を移した。
一目でわかった。俺の「番」だ。
男だったのは意外だが番に種族や性別などは関係ない。背は高くないがスラリとしたしなやかな身体つきをした彼は、目が合ったと思ったのにそのまま人混みに紛れてしまった。
一瞬思考が止まっていたので慌てて追いかけようとしたところ、ワグナーに「ちょっと待て」と頭を掴まれそのまま汚い執務室に引きずられた。
「ワグナーさっさと離せ。急用ができた。」
「その急用ってのはお前がロックオンした茶髪のチビのことか?」
「なぜわかる?」
「わかるわ!獲物を見つけた獣みたいな顔しやがって。その状態でイオに会わせられるか!」
「彼はイオというのか。良い名前だ。」
「うわ~ジークのそんな顔初めて見た。」
ロロに驚かれたがそんな顔ってどんな顔だ?
「もしかして番を見つけたのですか?」
「ああ、間違いない。あんなに可愛いんだから破落戸どもに絡まれたりしたら大変だ。見失う前に追いかけないと!」
「だから落ち着けって!」
ワグナーに頭を叩かれた。咄嗟に身体強化をかけなかったら首が折れていたぞこの馬鹿力。
「失礼します。お茶をお持ちしました。」
「スピカ久しぶり~。飲みに行こ!」
「皆さんお久しぶりです。ロロ、僕は勤務中だ。仕事が終わってからなら付き合うよ。」
執務室に入ってきたのはロロとやたらと気が合うスピカだった。
「ところでジークさん。イオが番というのは本当ですか?」
「聞いていたのか?ああ、間違いない。だから俺はこのまま失礼す──」
「〘拘束〙」
スピカの固有スキル〘拘束〙が発動した。
イオを追いかけたくて気が急いて反応できなかった。他者の固有スキルの厄介なところはいくら力や魔法に長けていても固有スキルの方が強くて抗えないところだ。強制的にソファに座らされた俺は話を聞くことしか許されなかった。
「ジークさん。イオは"人族"なんですよ?番だとかいきなり言われてもわかるわけがないでしょう?」
獣人における「番」と同じく、エルフには「運命」、龍人には「半身」、ドワーフには「片割れ」がいる。言い方は異なるが違いは特になく、他種族の組み合わせも存在する。
ただし人族は別だ。獣人の番が人族だとしたら、獣人側しか相手を番だと認識することができないのだ。
ということはイオは俺をまだ番だとは知らないということだ。これは大変遺憾である。
さっさと囲い込んで俺が番だと知らしめないと。
「物騒なこと考えんな。」
またワグナーに叩かれた。
「それにいきなりSランクに話しかけられたらCランクのイオは萎縮します。そして周りからどう思われるか考えて下さい。」
それは俺のイオに不当な扱いをする人間がいるということか?即始末してくれよう。
そういえば過去俺と付き合った恋人たちは周りからやっかみを受けていたようだ。それをものともしない気の強い人たちばかりだったが。
「イオは特に人間不信気味なので急に距離を詰めるのはやめて下さい。」
「何か理由でも?」
「ギルマスが評判の悪いパーティにイオが騙されるところを黙って見ていたことがあるんですよ。」
「は?なぜ?」
「勉強だよ勉強。」
「まだ親しい人が誰もいないときにさせる経験ではないでしょう?しかも僕が出張でいないときを狙って。あれのせいでイオは人を避けるようになったし、イオに対して純粋に好意を持っていた人も彼のガードの固さで諦めていったんですよ。」
「なに?それはどこのどいつだ?」
「諦めたって言ってんでしょ。つまり、本当にイオのことを想うなら慎重に行動してさい!」
しっかりと釘を刺されてしまったが、確かに話を聞く限りではいきなり近付くと警戒されそうだ。ゆっくり、ジワジワと距離を縮めて逃げられないようにしよう。
「とりあえず今日は話しかけたりはしないから顔を見に行ってもいいか?」
「⋯ロロ、ラーフさん見張りをお願いします。」
「面白そうですね。いいですよ。」
「え~面倒くさーい。」
「今日の飲みは半分奢るから。」
「喜んでー!」
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人混みだったので匂いもわからず、話をしていないので声もわからない中、探すことは困難なので何とかヒントをくれとスピカに食い下がった。
そしてイオはリュフタケを採取したばかりだと聞き出した。リュフタケは鼻の良い獣人でも運が良くなければ見つけられない物だ。俺の番は優秀だな。
ギルドを飛び出し嗅覚を全力で研ぎ澄ませて微かに残るリュフタケの香りを辿り町へ向かった。
見つけたと思ったらイオが冒険者どもに絡まれている。今日は話しかけないという宣言をしたことを後悔した。
あいつらを黙ってぶっ飛ばしたら話しかけたことにはならないんじゃないか?
「まったく、1人を3人で囲んで恐喝なんて冒険者の風上にもおけませんね。」
「いや~冒険者なんて乱暴者の集まりじゃん?」
同じく様子を見ていたロロとラーフを無視してイオを助けに行こうとしたそのとき、強い光と大きな音がイオの手から発せられた。
目の前でやられた獣人たちにはひとたまりもなかったのか、目と耳を押さえている間にイオは逃げていった。
「何ですか今のは!一瞬で手だけに魔力を集中させて音を拡大させただけではなく光を発する魔法を同時展開させるなんて。なんて器用なんでしょう!」
魔法馬鹿のラーフが興奮してイオの魔法を分析し始めた。こうなったら誰も止められないので放置が正解だ。
俺とロロは未だに目を押さえている獣人たちの元へ向かう。
「お前達。冒険者として恥ずかしくないのか。」
「え!一閃!?いえ、俺たちは後輩に指導していただけです!」
「どうみても恐喝していたけど~?」
「ひぇ、瞬発まで⋯いえ、あいつのような討伐もできない腰抜けにリュフタケは分不相応です。」
「だから?お前らが彼の功績を横取りして儲けてやろうと言うことか?」
「横取りだなんて⋯討伐中心の俺たちには装備品の金も必要になるのでちょうど良いでしょう?」
呆れた。これこそ指導が必要だろう。
俺はふてぶてしい顔を隠そうともしないヒョウ獣人の胸ぐらを片手で掴んで絞め上げた。
「いいか、これは警告だ。今後一切彼に関わるのはやめろ。」
納得していなさそうな顔だったが、Sランクに楯突くような馬鹿ではなかったらしい。渋々と引き下がっていった。
このままイオを追いかけるのは得策ではないと判断して未だに興奮状態のラーフを引きずってギルドに戻り、先ほど出ていったばかりの執務室のドアを開ける。
「ワグナー、スピカ。冒険者の質が下がっているんじゃないか?」
「ノックぐらいしろ。何なんだいきなり。」
「ここのギルドのイオへの評価は?」
「安定して質の良い素材を採取できて依頼主とのトラブルもほとんど無い優秀な冒険者だ。ただ、採取専門という点で他の冒険者に侮られる一因もある。」
「採取に関しては右に出る者はいないほど優秀ですよ。」
ギルドからこう評価されていたとしても周りからの扱いがそれではさぞ窮屈な思いをしているのだろう。
「よし。イオをパーティに入れる。そしていずれここから連れ出すぞ。」
「まてまてまてまて。どうしてそうなった?」
「番が同じ冒険者ならパーティを組むのは当然だろう?」
「そう思ってんのはお前だけだからな?そもそも今思い付いたことでロロとラーフの意見も聞いてないだろ。」
「私は構いませんよ。」
「俺もー。ジークの番なら特に反対する理由もないし。」
「良かった。よし、次に会った時に誘うぞ。」
「良くねーよ!」
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頭を冷やせと依頼を詰め込まれた。
ただ、イオをパーティに入れることは考えてくれると言っていた。
ワグナーは龍人だ。獣人にとっての番がどれほど大きな存在かは充分に理解してくれている。
そして彼も何度忠告してもイオに絡む冒険者が絶えないことに辟易していたらしい。
何日かは忙しすぎてイオに会いにもいけない。まだ彼の声も聞けていないのに。
夜行性の魔物討伐を済ませ、森の出口に差し掛かったところで遠くにイオの姿が見えた。これは偶然を装って話しかけられるチャンスだ。
まだ一度もまともに会えていない俺を哀れんでラーフとロロは快く俺を送り出した。いや、あれはただ単に早く宿に帰って寝たいだけだな。
イオを追いかけようとしてすぐに不審な動きをする2人組を見つけた。あれはこの前イオに絡んでいた冒険者か?確か3人組だったはずなのに2人しかいないな。しばらく様子をうかがっているとやはりイオを尾行しているようだ。
性懲りもなくまた何かしようとしているのだろうか。何か事を起こす前にと2人を捕まえた。
やはりリュフタケが諦めきれなくてイオを尾行していたようだ。しかしこの場にいるのは2人。もう1人はどこだと尋ねると言いづらそうに目をそらす。
「実は⋯俺たちは囮なんです。あのチビは逃げるのが上手いからわざと気配を読ませて別のところから捕まえるつもりで⋯」
そこまで聞いて俺は獣人2人をぶん殴って走り出した。そう遠くないところにいるので気配は見失っていない。
たどり着いた先で頬を腫らしたイオに跨るヒョウ獣人がいて頭が沸騰するほどの怒りを感じた。
「お前、先日の俺の忠告は聞いていなかったのか?」
俺の番に手を出して無事に済むと思うなよ。
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イオを追いかけているときに魔道具で連絡をしていたロロとラーフが来たので、ロロにポーションを投げてボロ雑巾のようになっているヒョウ獣人のことは任せた。ヒョウ獣人の仲間の獣人もラーフの横で頬を腫らして大人しくしている。
気絶しているイオの身体をそっと起こして怪我の様子を見る。頬の他に外傷はなく、殴られたときに軽い脳震盪になったのだろう。
痛々しい頬をそのままにしていたくなかったのでポーションを取り出した。
脳を揺らさないように声をかける。
「イオ、イオ。これを飲んで欲しいから少しだけでも起きてくれないか?」
何とかポーションを一口飲ませることができたが、イオの意識は失ったままだった。あっという間に頬の腫れが引き、脳へのダメージもこれで心配はなくなった。
「ちょっとジーク。こっちのポーションもうちょいマシなやつにしなよー。」
ロロが死にかけのヒョウ獣人に雑に飲ませたポーションは味が改変される前のもので、魔法鞄に入れっぱなしのまま忘れていたものだった。効果は変わらないのだがとにかく不味い。のたうち回るほど不味い。ポーションを飲ませてもらえるだけありがたいと思って欲しい。
意識のないイオを抱き上げて蹲っているヒョウ獣人とその仲間に声をかける。
「このことはギルドに報告させてもらう。次はないぞ。」
早くイオを休ませてあげたい。
小さい身体を抱きしめる。
ああ、良い匂いだ。
やはり早くこんな所から連れ出してしまおう。
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スピカはイオのモンペ。
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アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
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