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本編
殺人蜂の討伐依頼(後半sideジーク)
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虫の話をしています。
******************************
宿に馬車を預けて徒歩で近くの山に入り、数時間歩いて目的の殺人蜂の巣に到着した。
樹の枝に絡まるように作られた巣は畳1枚分くらいの大きさになっている。大量の殺人蜂の羽音はまるで地響きのようだ。
「イオ、昨日作った物はどうやって使うんだ?」
昨晩作業を手伝ってくれたジークがわくわくしながら聞いてきた。
俺は魔法鞄からベニア板のように薄い木の板を取り出した。1m四方ほどの大きさのその板の表面にはある液体を塗りつけている。
「とりあえずやってみます。」
俺は防御魔法で体を守り、木の板を掲げながら巣の近くを歩き回った。木の板に塗った液体に殺人蜂が触れるとくっついて取れなくなる仕組みである。
俺は殺人蜂の討伐と聞いたときに真っ先に思い浮かべたことがある。現世で蜂の駆除といえばテレビの特番を組まれるほど注目されていた。そこでハンターと呼ばれるスズメバチ駆除の専門家が使っていた道具を真似したものがこれだ。異世界なので著作権は適用されないだろう。
この世界の虫は魔蟲と呼ばれ、魔獣と同じく魔石を核としている。
今住んでいる宿でも壁の隙間から小さい魔蟲が入ってきたりしていた。一応殺蟲剤や蟲除けアイテムのようなものはあるのだが、あまり売っていない上に値段が高い。そもそもこの世界の人たちは虫を気にしない。
魔力持ちは火魔法で即退治できるからなおさらだ。しかし俺はお金と魔力を少しでも節約したかったので試行錯誤して自分で吊り下げタイプのハエ取り紙と魔蟲ホイホイを作った。
粘着材を作るために色々な素材を試してスライムの体液と粘着成分がある野草を混ぜたものが最適だった。2つとも普段の採取依頼のついでに採れるものなので元手はタダだ。
この経験から殺人蜂捕獲のための道具が誕生した。面白がってジーク、ラーフさん、ロロさんも板を振り回してどんどん殺人蜂を捕まえていく。
20枚ほど用意した粘着板は全て使用され、隙間なくびっしりと殺人蜂がくっついている。気持ちわるっ。
それをラーフさんの魔法で一気に燃やすと核である魔石だけが残った。
「これは素晴らしい。殺人蜂は魔石が小さいのでわざわざ集める人はいなかったのですが、このやり方が周知されると殺人蜂討伐の常識が覆されますね。」
板の燃えかすを風魔法で丁寧に飛ばすと魔石が小山のように積み重なった。買い取り価格が楽しみだ。
少し残っている殺人蜂は防御魔法でかわしつつ、巣の回収に向かう。
そのとき、周りの空気が変わった。さっきまで賑やかだった鳥や虫の声がピタリと止まり、大きな魔力の塊が近付いてくるのがわかる。
木の間からのそりと出てきたのは赤毛熊だった。立ち上がった姿は見上げるほどの大きく、裂けるような傷によって隻眼になった顔は餌場を荒らされ怒りに満ちている。
「お前ら、下がってろよ。」
余裕のある笑みを浮かべたジークが前に出て剣を構える。
「〘一閃〙」
言葉を発した瞬間そこには青白い光の残像しかなく、前を見ると赤毛熊が上下に真っ二つになって倒れていた。
「イオ見たか?今のが俺の固有スキル〘一閃〙だ。」
「す、すごいですね。早すぎて見えませんでした。」
「でも直線でしか進めないのが残念だよねー。それに比べてオレの〘瞬発〙は自在に動けるしー。」
「その代わり攻撃力がゴミだろ。」
「なんだと!この直球馬鹿オオカミ。」
「うるさい万年発情ウサギ。」
「醜い争いはやめて下さい。どっちもどっちですよ。」
「「魔法馬鹿シロサギに言われたくない」」
「くっ⋯ふふっ」
「? イオ?」
「あははっもうSランクが規格外すぎて⋯!はははは」
あんなにデカい赤毛熊を前にしたら普通死を覚悟するものなのに、あっさり倒して軽口を言い合う3人の姿に驚きを通り越して笑ってしまった。
「初めて笑ったな。」
「す⋯すみませっふふふ」
「可愛い。」
今なんて?
19歳の男に向かって言わない単語が聞こえた。
「男なんで可愛くないです。」
「ほらほら、さっさと後片付けしますよ。全く、いい格好したいからって赤毛熊を真っ二つなんて毛皮が売れないじゃないですか勿体ない。」
「すまん、魔石は傷付けてないぞ。」
ジークが俺の髪をクシャッと撫でてからブツブツと文句を言うラーフさんを追いかける。
もしや俺のこと子供だと思ってる?
「イオくーん。殺人蜂の魔石集めるの手伝ってー。」
ロロさんと一緒に大きな麻袋に細かい魔石を全て入れると持ち上げられなくなるほど重たくなった。
ロロさんはその袋を軽くヒョイッと持ち上げた。体が小さくても獣人は力持ちだ。
と言っても長身のジークとラーフさんが横にいるから目立たないだけでロロさんは俺よりも背が高い。こっちに来てから測ってないので正確な数値はわからないけど最後に測ったときは169cmだったので今は170cmを超えているはずだ。
それでも筋骨隆々の冒険者の中では小さい方だから舐められるんだろう。小学生のときからずっと陸上でハードルをやっていたから体力には自信があるんだけどな。筋力はどうにもならない。
でもこの世界はそれを補う身体強化の魔法が存在する。ジークたちは3人とも魔力が多いらしいので移動や戦闘のときは常に全身に身体強化の魔法をかけている。俺がそんなやり方をするとすぐに魔力が枯渇するので、必要なときに必要な部分に身体強化をかけている。
それを見たラーフさんに器用だと感心された。いまいち実感できなかったのだが、魔力が多い3人は常に全開で魔法を使うので魔力操作は苦手と聞いて納得した。俺も魔力を節約する方法を見つけるまで時間がかかったからな。
最後の仕上げに殺人蜂の巣をロロさんが樹に登って切り落とした。生き残りの殺人蜂をこまめに火魔法で燃やしていくと、米粒ほどの小さな魔石が草や土の隙間に転がっていく。なるほど確かにこの魔石を拾って集めるのは大変だ。
巣の一部を割ると中にはたっぷりの蜂蜜と蜂の子が詰まっていた。ジークたちの魔法鞄は時間経過を止められる高級品だが、生き物を入れることはできないので、蜂の巣の周りを真空状態にして蜂の子を窒息させた。ついでに皆で蜂蜜を味見。濃厚かつ爽やかな後味で本当に美味しかったのでポーションの空き瓶に蜂蜜を入れて持ち帰ることにした。
この世界は過去の異世界人のおかげで甘味は割と豊富なので、俺も余裕があるときには自分へのご褒美で買っている。今度この蜂蜜を使ってパンケーキを食べてみようかな。
*****************************
殺人蜂討伐に夢中になってすっかり昼が過ぎてしまったので野営に適した場所まで移動し、早めの夕食を取ることになった。
夕食は肉屋に解体してもらったショーンの肉をじっくり火で焼いてケバブみたいに肉を削ぎ、町で買ったパンに挟んで食べた。野営は長引くと食材は現地調達になると教えてもらったが、それは魔獣の解体ができることが必須だ。
2つのテントを組み立てて、魔獣避けの魔道具をテントから少し離れた位置にセットする。
一晩火を絶やさないようにするため、焚き火用の木の枝をみんなで集めたころにはすっかり夜になっていた。
夜の森でもうっすらと周囲が見えるのは月が3つあるからだ。薄い赤、青、黄色の月は現世の月より遥かに大きく、星の明るさも2倍くらい輝いている。地球から見ていた星座の形は1つも存在しない。星があるということはこの世界は惑星なんだろうか。焚き火を囲んで各々武器の手入れなどをしているときに聞いてみると世界の形は誰もわからないと言われた。この国がある大陸は片側には山脈がそびえ立ち、もう片側には海が広がっている。海も山も越えた先に何があるのかは誰も知らない。
作業も落ち着き、夜の見張り番の話が出た。魔獣避けがあると言っても油断はできないし、野党への警戒も必要だ。俺は1人で対処できないが、見張りの経験はしておきたいのでジークと一緒にすることになった。慣れていないからと1番目を勧められたので遠慮せずに甘えさせてもらう。
ラーフさんとロロさんが同じテントに入り、しばらくすると周囲は静寂に包まれる。虫の声や小さな生き物が動く音がたまに聞こえるが危険な魔獣の気配はない。
「見張り番のときはいつも何をしているんですか?」
なるべく声を押さえて向かいにいるジークに話しかける。火に薪を焚べていたジークがさっと立ち上がり俺の横に座った。太い枯れ木を横倒しにして椅子代わりにしているので大きなジークが座るとミシッと音を立てた。
「夜番のときは武器の手入れや個人の魔法鞄の整理をしているな。でも何も考えずに焚き火を見るだけでも意外と時間が過ぎていくもんだ。」
確かにパチパチと木が爆ぜる音を聞きながら、ゆらめく焚き火を見ているといつの間にか時間が経っている。確か焚き火にはリラックス効果もあると聞いたことがある。
ぼんやりしていると木の椅子に置いている手にくすぐったい感触がする。ジークのゆらゆら揺れている尻尾が俺の手を撫でていた。
ついじっと見てしまう。この世界の動物は魔石が核でできている魔獣しかいない。愛玩するような生き物は存在しないのだ。たまにテイマーと呼ばれる魔獣を操る魔法に長けた人はいるが、基本的には野良か家畜魔獣しかいない。
俺は犬が好きだ。家では飼えなかったので近所の知り合いのおばあさん家の柴犬の散歩をたまにさせてもらっていた。
もふもふに飢えていたのだが、獣人の獣部分を触るのはご法度だとこの世界に来てすぐにスピカさんから教わった。
「なんだ尻尾に興味があるのか?触ってもいいぞ?」
そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。ジークから魅力的なお誘いをされた。
ええ、ご法度じゃないの?本当に大丈夫?でもこのフサフサの魅力には抗えない。と、おそるおそる手を延ばす。
フサッ
うわ~もふもふでフサフサでサラサラだ~。ジークの黒い尻尾はたっぷりと毛を蓄えていてすごく触り心地が良かった。つい夢中になって撫でてしまい、しばらくしてからハッとジークを見上げると優しい顔をしてこちらを見ていた。
「すみません、つい夢中に⋯」
「もっと触ってくれてもいいんだがな。あ、でも俺以外には止めておいた方がいいぞ。獣人によって許容範囲は異なるからな。」
「気を付けます。」
もふもふタイム終了である。
気恥ずかしくて温めたお茶をぐびぐびと飲んだ。
「なぁイオ。元の世界を思い出すことは辛いか?」
「⋯どうなんでしょう。もう5年も経ちましたし思い出す暇もなく生きて生活することに必死だったので。」
「もしよければイオの世界のことを教えてくれないか?どんな人と関わりどんなふうに育ってきたのか、イオのことを俺は知りたい。」
この人はなぜ俺と交流を持ちたがるのだろう。最初からやたらと話しかけてくるなとは思っていたけど⋯。
「大した人生を歩んできたわけではないのですが⋯そうですね。家族は父と母と1つ下の弟の4人です。ジークは兄弟はいますか?」
「11人兄弟だ。俺は真ん中だから兄弟姉妹全部いるぞ。」
「11人!?それは賑やかそうですね。うちの弟は俺に似てなくてすごく可愛いくて何でもできて人気者の自慢の弟なんです。」
その後、ポツリポツリと元の世界について話していく。ジークにはわからない言葉ばかりのはずなのに質問を交えながらしっかりと聞いてくれた。学校についての説明をしているときに夜番交代の時間を示す砂時計が空になった。
「少しずつでいいからまた教えてくれるか?」
とちょっと眉を下げて言われた。異世界に興味があるのかな?俺は勿論と答えた。
ジークが次の見張りのラーフさんを起こし、テントに2人で入る。寝るためだけのテントは少しでもスペースを空けるために、背の高い組と低い組で分かれた。予備品の寝袋を貸してもらい、並んで横になる。そしていつもの日課である魔力を体に巡らせる。
「昨日も寝る前にそれをしていたがもしかして毎日やっているのか?」
「はい、寝付けないときの暇つぶしのつもりだったのですが、これをすると魔力コントロールがやりやすくなると気付いてから毎日やっています。」
「イオは偉いな。」
「何ですかいきなり。」
「偉いよ。突然異世界に落とされたのに腐らずに努力家で真面目でいられるのは素晴らしいことだ。」
「落人は俺だけじゃありませんし⋯。」
真っすぐに褒められて照れくさくなったので寝袋に顔まで埋めるとすぐに眠気がやってきた。
その晩、久しぶりに家族の話をしたからか現世の夢を見た。
地味でつまらない僕の日常。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
『一一一くんのお兄さんだって』
『ええ~似てなさすぎでしょ~。』
『でも仲良くしたら一一一くんに会えるかも?』
『え?なんでアイツと仲良いのかって?いや~いつか一一一と知り合えるワンチャン狙ってんだ。紹介してくれなんて皆言ってるだろ?こういうのは興味ないふりして自分から言わせるようにするんだよ。』
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
重たい気分のままふっと目を覚ますと体が動かなくなっていた。なに!?なにごと?と慌てていたらジークが背中側から寝袋ごと俺に巻きついて抱き枕にしていた。昨日は1人ずつのベッドだったからジークの寝相が悪いなんて知らなかった。
抜け出そうとしてもがっしりと太い腕で固定されている。背中から伝わる体温が心地よくてうとうとしてきたので諦めてそのまま寝ることにした。
そこからもう夢を見ることはなかった。
**************************
(sideジーク)
体を巡る魔力が停滞したかと思うと静かな寝息が聞こえてきた。寝る直前まで鍛錬するとは本当に真面目だな。ただ、少々自分を追い詰めすぎる傾向にある。自分に自信がなくて過小評価しがちなのも話に聞いていたクソ野郎共の影響が残っているからだろう。報復してやろうと思ったが早々に別の場所に移動していったらしい。冒険者は拠点を決めて根を張る者と、あちこち移動する者で分かれる。そいつらはいずれ移動するつもりだったからこそ、周囲の冒険者からの評判を気にせずに好き勝手していたのだろう。名前と特徴は聞いておいたので頭の片隅に残しておく。
イオにはもっと気分転換やリラックスできるようなものがあればと思う。
ああ、でも今日は笑顔が見れた。思わず抱きしめそうになったが、ラーフに魔法でこっそり拘束されていたので動けなかった。
俺の尻尾を触っているときも微笑んでいたな。獣人は耳や尻尾などの獣部分は家族や信頼している人以外には触らせない。そもそも、同じ獣人なら触られたくない気持ちがわかるし、獣人以外の種族からは魔獣に似た獣部分は畏怖の対象なので触りたいという酔狂な奴はいない。しかしイオは最初から俺とロロの耳や尻尾をチラチラと羨ましそうな顔で見ていた。
今まで何人か異世界には会ったことはあるが全員が好意的とは言えないが、耳や尻尾に何かしらの興味を持っていた。すると見張り番のときにイオから異世界には獣人はいないという話を聞いた。だから獣人が珍しいのだろうな。人族しか存在しない世界でも肌の色や身体つきや言葉や文字が異なるとは想像もできない。この周辺5カ国は言葉も文字も共通している。だから気軽に他国へ行き来できるのだ。
異世界の話が興味深くてつい色々と質問してしまい、肝心のイオ自身については4人家族ということしか聞けなかった。こちらに背中を向けて寝ているイオをこっちに向かないかなと思いながら眺めていると、イオの体が微かに震え始め、小さな声が口から呻くような声が漏れ出ていた。魘されている?
起こさないようにそっと覗き見ると顔をしかめて涙を流していた。嫌な夢でも見ているのだろうか?それとも故郷を思い出させてしまった?俺はイオを寝袋ごと抱きしめた。
安心してほしい。
憂いは全て俺が払うから。
ずっと傍にいるからずっと一緒にいて欲しい。
愛しい俺の番。
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殺人蜂駆除の道具のモデル=◯ッチーペタペタ
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宿に馬車を預けて徒歩で近くの山に入り、数時間歩いて目的の殺人蜂の巣に到着した。
樹の枝に絡まるように作られた巣は畳1枚分くらいの大きさになっている。大量の殺人蜂の羽音はまるで地響きのようだ。
「イオ、昨日作った物はどうやって使うんだ?」
昨晩作業を手伝ってくれたジークがわくわくしながら聞いてきた。
俺は魔法鞄からベニア板のように薄い木の板を取り出した。1m四方ほどの大きさのその板の表面にはある液体を塗りつけている。
「とりあえずやってみます。」
俺は防御魔法で体を守り、木の板を掲げながら巣の近くを歩き回った。木の板に塗った液体に殺人蜂が触れるとくっついて取れなくなる仕組みである。
俺は殺人蜂の討伐と聞いたときに真っ先に思い浮かべたことがある。現世で蜂の駆除といえばテレビの特番を組まれるほど注目されていた。そこでハンターと呼ばれるスズメバチ駆除の専門家が使っていた道具を真似したものがこれだ。異世界なので著作権は適用されないだろう。
この世界の虫は魔蟲と呼ばれ、魔獣と同じく魔石を核としている。
今住んでいる宿でも壁の隙間から小さい魔蟲が入ってきたりしていた。一応殺蟲剤や蟲除けアイテムのようなものはあるのだが、あまり売っていない上に値段が高い。そもそもこの世界の人たちは虫を気にしない。
魔力持ちは火魔法で即退治できるからなおさらだ。しかし俺はお金と魔力を少しでも節約したかったので試行錯誤して自分で吊り下げタイプのハエ取り紙と魔蟲ホイホイを作った。
粘着材を作るために色々な素材を試してスライムの体液と粘着成分がある野草を混ぜたものが最適だった。2つとも普段の採取依頼のついでに採れるものなので元手はタダだ。
この経験から殺人蜂捕獲のための道具が誕生した。面白がってジーク、ラーフさん、ロロさんも板を振り回してどんどん殺人蜂を捕まえていく。
20枚ほど用意した粘着板は全て使用され、隙間なくびっしりと殺人蜂がくっついている。気持ちわるっ。
それをラーフさんの魔法で一気に燃やすと核である魔石だけが残った。
「これは素晴らしい。殺人蜂は魔石が小さいのでわざわざ集める人はいなかったのですが、このやり方が周知されると殺人蜂討伐の常識が覆されますね。」
板の燃えかすを風魔法で丁寧に飛ばすと魔石が小山のように積み重なった。買い取り価格が楽しみだ。
少し残っている殺人蜂は防御魔法でかわしつつ、巣の回収に向かう。
そのとき、周りの空気が変わった。さっきまで賑やかだった鳥や虫の声がピタリと止まり、大きな魔力の塊が近付いてくるのがわかる。
木の間からのそりと出てきたのは赤毛熊だった。立ち上がった姿は見上げるほどの大きく、裂けるような傷によって隻眼になった顔は餌場を荒らされ怒りに満ちている。
「お前ら、下がってろよ。」
余裕のある笑みを浮かべたジークが前に出て剣を構える。
「〘一閃〙」
言葉を発した瞬間そこには青白い光の残像しかなく、前を見ると赤毛熊が上下に真っ二つになって倒れていた。
「イオ見たか?今のが俺の固有スキル〘一閃〙だ。」
「す、すごいですね。早すぎて見えませんでした。」
「でも直線でしか進めないのが残念だよねー。それに比べてオレの〘瞬発〙は自在に動けるしー。」
「その代わり攻撃力がゴミだろ。」
「なんだと!この直球馬鹿オオカミ。」
「うるさい万年発情ウサギ。」
「醜い争いはやめて下さい。どっちもどっちですよ。」
「「魔法馬鹿シロサギに言われたくない」」
「くっ⋯ふふっ」
「? イオ?」
「あははっもうSランクが規格外すぎて⋯!はははは」
あんなにデカい赤毛熊を前にしたら普通死を覚悟するものなのに、あっさり倒して軽口を言い合う3人の姿に驚きを通り越して笑ってしまった。
「初めて笑ったな。」
「す⋯すみませっふふふ」
「可愛い。」
今なんて?
19歳の男に向かって言わない単語が聞こえた。
「男なんで可愛くないです。」
「ほらほら、さっさと後片付けしますよ。全く、いい格好したいからって赤毛熊を真っ二つなんて毛皮が売れないじゃないですか勿体ない。」
「すまん、魔石は傷付けてないぞ。」
ジークが俺の髪をクシャッと撫でてからブツブツと文句を言うラーフさんを追いかける。
もしや俺のこと子供だと思ってる?
「イオくーん。殺人蜂の魔石集めるの手伝ってー。」
ロロさんと一緒に大きな麻袋に細かい魔石を全て入れると持ち上げられなくなるほど重たくなった。
ロロさんはその袋を軽くヒョイッと持ち上げた。体が小さくても獣人は力持ちだ。
と言っても長身のジークとラーフさんが横にいるから目立たないだけでロロさんは俺よりも背が高い。こっちに来てから測ってないので正確な数値はわからないけど最後に測ったときは169cmだったので今は170cmを超えているはずだ。
それでも筋骨隆々の冒険者の中では小さい方だから舐められるんだろう。小学生のときからずっと陸上でハードルをやっていたから体力には自信があるんだけどな。筋力はどうにもならない。
でもこの世界はそれを補う身体強化の魔法が存在する。ジークたちは3人とも魔力が多いらしいので移動や戦闘のときは常に全身に身体強化の魔法をかけている。俺がそんなやり方をするとすぐに魔力が枯渇するので、必要なときに必要な部分に身体強化をかけている。
それを見たラーフさんに器用だと感心された。いまいち実感できなかったのだが、魔力が多い3人は常に全開で魔法を使うので魔力操作は苦手と聞いて納得した。俺も魔力を節約する方法を見つけるまで時間がかかったからな。
最後の仕上げに殺人蜂の巣をロロさんが樹に登って切り落とした。生き残りの殺人蜂をこまめに火魔法で燃やしていくと、米粒ほどの小さな魔石が草や土の隙間に転がっていく。なるほど確かにこの魔石を拾って集めるのは大変だ。
巣の一部を割ると中にはたっぷりの蜂蜜と蜂の子が詰まっていた。ジークたちの魔法鞄は時間経過を止められる高級品だが、生き物を入れることはできないので、蜂の巣の周りを真空状態にして蜂の子を窒息させた。ついでに皆で蜂蜜を味見。濃厚かつ爽やかな後味で本当に美味しかったのでポーションの空き瓶に蜂蜜を入れて持ち帰ることにした。
この世界は過去の異世界人のおかげで甘味は割と豊富なので、俺も余裕があるときには自分へのご褒美で買っている。今度この蜂蜜を使ってパンケーキを食べてみようかな。
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殺人蜂討伐に夢中になってすっかり昼が過ぎてしまったので野営に適した場所まで移動し、早めの夕食を取ることになった。
夕食は肉屋に解体してもらったショーンの肉をじっくり火で焼いてケバブみたいに肉を削ぎ、町で買ったパンに挟んで食べた。野営は長引くと食材は現地調達になると教えてもらったが、それは魔獣の解体ができることが必須だ。
2つのテントを組み立てて、魔獣避けの魔道具をテントから少し離れた位置にセットする。
一晩火を絶やさないようにするため、焚き火用の木の枝をみんなで集めたころにはすっかり夜になっていた。
夜の森でもうっすらと周囲が見えるのは月が3つあるからだ。薄い赤、青、黄色の月は現世の月より遥かに大きく、星の明るさも2倍くらい輝いている。地球から見ていた星座の形は1つも存在しない。星があるということはこの世界は惑星なんだろうか。焚き火を囲んで各々武器の手入れなどをしているときに聞いてみると世界の形は誰もわからないと言われた。この国がある大陸は片側には山脈がそびえ立ち、もう片側には海が広がっている。海も山も越えた先に何があるのかは誰も知らない。
作業も落ち着き、夜の見張り番の話が出た。魔獣避けがあると言っても油断はできないし、野党への警戒も必要だ。俺は1人で対処できないが、見張りの経験はしておきたいのでジークと一緒にすることになった。慣れていないからと1番目を勧められたので遠慮せずに甘えさせてもらう。
ラーフさんとロロさんが同じテントに入り、しばらくすると周囲は静寂に包まれる。虫の声や小さな生き物が動く音がたまに聞こえるが危険な魔獣の気配はない。
「見張り番のときはいつも何をしているんですか?」
なるべく声を押さえて向かいにいるジークに話しかける。火に薪を焚べていたジークがさっと立ち上がり俺の横に座った。太い枯れ木を横倒しにして椅子代わりにしているので大きなジークが座るとミシッと音を立てた。
「夜番のときは武器の手入れや個人の魔法鞄の整理をしているな。でも何も考えずに焚き火を見るだけでも意外と時間が過ぎていくもんだ。」
確かにパチパチと木が爆ぜる音を聞きながら、ゆらめく焚き火を見ているといつの間にか時間が経っている。確か焚き火にはリラックス効果もあると聞いたことがある。
ぼんやりしていると木の椅子に置いている手にくすぐったい感触がする。ジークのゆらゆら揺れている尻尾が俺の手を撫でていた。
ついじっと見てしまう。この世界の動物は魔石が核でできている魔獣しかいない。愛玩するような生き物は存在しないのだ。たまにテイマーと呼ばれる魔獣を操る魔法に長けた人はいるが、基本的には野良か家畜魔獣しかいない。
俺は犬が好きだ。家では飼えなかったので近所の知り合いのおばあさん家の柴犬の散歩をたまにさせてもらっていた。
もふもふに飢えていたのだが、獣人の獣部分を触るのはご法度だとこの世界に来てすぐにスピカさんから教わった。
「なんだ尻尾に興味があるのか?触ってもいいぞ?」
そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。ジークから魅力的なお誘いをされた。
ええ、ご法度じゃないの?本当に大丈夫?でもこのフサフサの魅力には抗えない。と、おそるおそる手を延ばす。
フサッ
うわ~もふもふでフサフサでサラサラだ~。ジークの黒い尻尾はたっぷりと毛を蓄えていてすごく触り心地が良かった。つい夢中になって撫でてしまい、しばらくしてからハッとジークを見上げると優しい顔をしてこちらを見ていた。
「すみません、つい夢中に⋯」
「もっと触ってくれてもいいんだがな。あ、でも俺以外には止めておいた方がいいぞ。獣人によって許容範囲は異なるからな。」
「気を付けます。」
もふもふタイム終了である。
気恥ずかしくて温めたお茶をぐびぐびと飲んだ。
「なぁイオ。元の世界を思い出すことは辛いか?」
「⋯どうなんでしょう。もう5年も経ちましたし思い出す暇もなく生きて生活することに必死だったので。」
「もしよければイオの世界のことを教えてくれないか?どんな人と関わりどんなふうに育ってきたのか、イオのことを俺は知りたい。」
この人はなぜ俺と交流を持ちたがるのだろう。最初からやたらと話しかけてくるなとは思っていたけど⋯。
「大した人生を歩んできたわけではないのですが⋯そうですね。家族は父と母と1つ下の弟の4人です。ジークは兄弟はいますか?」
「11人兄弟だ。俺は真ん中だから兄弟姉妹全部いるぞ。」
「11人!?それは賑やかそうですね。うちの弟は俺に似てなくてすごく可愛いくて何でもできて人気者の自慢の弟なんです。」
その後、ポツリポツリと元の世界について話していく。ジークにはわからない言葉ばかりのはずなのに質問を交えながらしっかりと聞いてくれた。学校についての説明をしているときに夜番交代の時間を示す砂時計が空になった。
「少しずつでいいからまた教えてくれるか?」
とちょっと眉を下げて言われた。異世界に興味があるのかな?俺は勿論と答えた。
ジークが次の見張りのラーフさんを起こし、テントに2人で入る。寝るためだけのテントは少しでもスペースを空けるために、背の高い組と低い組で分かれた。予備品の寝袋を貸してもらい、並んで横になる。そしていつもの日課である魔力を体に巡らせる。
「昨日も寝る前にそれをしていたがもしかして毎日やっているのか?」
「はい、寝付けないときの暇つぶしのつもりだったのですが、これをすると魔力コントロールがやりやすくなると気付いてから毎日やっています。」
「イオは偉いな。」
「何ですかいきなり。」
「偉いよ。突然異世界に落とされたのに腐らずに努力家で真面目でいられるのは素晴らしいことだ。」
「落人は俺だけじゃありませんし⋯。」
真っすぐに褒められて照れくさくなったので寝袋に顔まで埋めるとすぐに眠気がやってきた。
その晩、久しぶりに家族の話をしたからか現世の夢を見た。
地味でつまらない僕の日常。
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『一一一くんのお兄さんだって』
『ええ~似てなさすぎでしょ~。』
『でも仲良くしたら一一一くんに会えるかも?』
『え?なんでアイツと仲良いのかって?いや~いつか一一一と知り合えるワンチャン狙ってんだ。紹介してくれなんて皆言ってるだろ?こういうのは興味ないふりして自分から言わせるようにするんだよ。』
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重たい気分のままふっと目を覚ますと体が動かなくなっていた。なに!?なにごと?と慌てていたらジークが背中側から寝袋ごと俺に巻きついて抱き枕にしていた。昨日は1人ずつのベッドだったからジークの寝相が悪いなんて知らなかった。
抜け出そうとしてもがっしりと太い腕で固定されている。背中から伝わる体温が心地よくてうとうとしてきたので諦めてそのまま寝ることにした。
そこからもう夢を見ることはなかった。
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(sideジーク)
体を巡る魔力が停滞したかと思うと静かな寝息が聞こえてきた。寝る直前まで鍛錬するとは本当に真面目だな。ただ、少々自分を追い詰めすぎる傾向にある。自分に自信がなくて過小評価しがちなのも話に聞いていたクソ野郎共の影響が残っているからだろう。報復してやろうと思ったが早々に別の場所に移動していったらしい。冒険者は拠点を決めて根を張る者と、あちこち移動する者で分かれる。そいつらはいずれ移動するつもりだったからこそ、周囲の冒険者からの評判を気にせずに好き勝手していたのだろう。名前と特徴は聞いておいたので頭の片隅に残しておく。
イオにはもっと気分転換やリラックスできるようなものがあればと思う。
ああ、でも今日は笑顔が見れた。思わず抱きしめそうになったが、ラーフに魔法でこっそり拘束されていたので動けなかった。
俺の尻尾を触っているときも微笑んでいたな。獣人は耳や尻尾などの獣部分は家族や信頼している人以外には触らせない。そもそも、同じ獣人なら触られたくない気持ちがわかるし、獣人以外の種族からは魔獣に似た獣部分は畏怖の対象なので触りたいという酔狂な奴はいない。しかしイオは最初から俺とロロの耳や尻尾をチラチラと羨ましそうな顔で見ていた。
今まで何人か異世界には会ったことはあるが全員が好意的とは言えないが、耳や尻尾に何かしらの興味を持っていた。すると見張り番のときにイオから異世界には獣人はいないという話を聞いた。だから獣人が珍しいのだろうな。人族しか存在しない世界でも肌の色や身体つきや言葉や文字が異なるとは想像もできない。この周辺5カ国は言葉も文字も共通している。だから気軽に他国へ行き来できるのだ。
異世界の話が興味深くてつい色々と質問してしまい、肝心のイオ自身については4人家族ということしか聞けなかった。こちらに背中を向けて寝ているイオをこっちに向かないかなと思いながら眺めていると、イオの体が微かに震え始め、小さな声が口から呻くような声が漏れ出ていた。魘されている?
起こさないようにそっと覗き見ると顔をしかめて涙を流していた。嫌な夢でも見ているのだろうか?それとも故郷を思い出させてしまった?俺はイオを寝袋ごと抱きしめた。
安心してほしい。
憂いは全て俺が払うから。
ずっと傍にいるからずっと一緒にいて欲しい。
愛しい俺の番。
*******************************
殺人蜂駆除の道具のモデル=◯ッチーペタペタ
1,390
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僕は辺境伯家の嫡男レオン・グレイスフィールド。
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しかし、王家の祝賀の列に並んだその瞬間、僕の運命は思わぬ方向へ。
王族として番に敏感な王太子が、僕を一目で見抜き、容赦なく迫ってくる。
転生者で、元女子大生の僕にはまだ理解できない感覚。
リリアナの隣にいるはずなのに、僕は気づけば王太子殿下に手を握られて……
婚約者の目の前で、運命の番に奪われる夜。
仕事の関係上、あまり創作活動ができず、1話1話が短くなっています。
2日に1話ぐらいのペースで更新できたらいいなと思っています。
契約結婚だけど大好きです!
泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。
そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。
片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。
しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。
イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。
......
「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」
彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。
「すみません。僕はこれから用事があるので」
本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。
この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。
※小説家になろうにも掲載しております
※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
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