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モールデート
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大規模改装が終わったばかりの大型ショッピングモールは多くの人で賑わっていた。この改装の主な出資者が藤堂財閥で、静哉くんが責任者だった。
向かい合わせに並んでいるお店の間は吹き抜けになっていて開放感がある。今日はデートなので手を繋いでうきうきと色んなお店を冷やかしながら見回っていく。人が多いにも関わらずぶつからずに歩けるのは広い通路のおかげだ。雑貨屋で見かけたマグカップは雅によく似たマンチカンの絵柄で、持ち手が尻尾になっていてとても可愛かったので「先輩とお付き合いおめでとう」のプレゼントとして買った。
そして静哉くんとお揃いの物が欲しかったので藤堂家別館で使える部屋履きスリッパとお泊り用パジャマを買った。パジャマは同じデザインのサイズ違い、スリッパは全く同じだと間違えるのでボクは黒柴犬、静哉くんは茶柴犬にした。早く使いたかったので今日はお泊りをおねだりしちゃった。
途中、トイレに寄ると男子トイレが全て個室だったことに驚いた。社会全体のオメガの比率は約1割で、ボクのような男性オメガはその中でも更に少ない割合になっている。そのため男女で分ける必要のある場合は男性側でまとめられる。
アルファ女子は女性側でまとめられるのだが、女子トイレは元々個室で、男子トイレのように見たり見られたりを気にする必要がない。この作りはありがたいと静哉くんに伝えたら「本当は男性オメガ専用トイレを作れたらいいけど、スペースが確保できなかったんだよね」と残念そうに言った。でも集客率と男性オメガの数を考えるとそのスペース分を店舗に当てたほうが良いことも理解できるので仕方がないかなとは思う。
ところでボクのトイレ待ちのために通路の端にいた静哉くんは一瞬で逆ナンされていた。ナンパされている本人はガン無視だけど。見た目にも高位アルファの静哉くんは一見近寄り難いのでよっぽど空気が読めない人しか話しかけられない。つまり、押しの強い肉食系女子にすぐ声をかけられる。そして肉食系女子はすぐボディタッチをしようとするが、静哉くんは実にスマートにそれを避ける。その顔は氷のように冷たい。
その様子をぼーっと見ているボクを目にした静哉くんは、パッと表情を変えて素早く動いた。
「コタ、ごめんね。視界を遮られていた上に香水の匂いがキツくて気分が悪かったよ。」
静哉くんはボクの肩を抱き寄せて項に顔を寄せた。番になったボクらはお互いにしかフェロモンを感じられない。ボクの香りのイメージはお日様らしい。静哉くんは深い森のイメージだ。ボクだけのアルファの香りをしっかり堪能して、そのまま唖然とする肉食系女子を置いて移動した。
お昼は家族連れで賑わうフードコートで食べた。すごい、食べているのはファストフードなのに静哉くんの高貴さでこの机だけ高級レストランに見える。
食事を終え最上階に通じるエレベーターの前まで行くと、よく知る顔が待ち構えていた。
「小太郎~やっほー。」
「舞ちゃん?何でここに?拓司と買い物しにきたの?」
「違うよ。今日はお仕事。静哉さんこんにちは。」
「うん、コタをよろしくね。」
どうやらここからは舞ちゃんの案内になるとのこと。最上階はオメガとベータ女子しか立ち入りを許されないエリアになっている。モール内にあるいくつかの最上階に通じる専用エレベーターは常時案内人が控えていて、バース性を示すものを持っていなければ入ることはできない。
静哉くんにはボクを待っている間に今日の視察のレポートをまとめておくからゆっくりしておいでと言われた。途中から完全に視察を忘れてデートに没頭してしまった。反省反省。最上階の視察は任せて!
性別が書かれた身分証をエレベーター前に控えている案内人に見せて中に入る。
「舞ちゃん、ボクの案内が今日の仕事なの?」
「それもあるけど、一華さんのお店がオープンしたからそこの店員としてバイトしてるのよ。」
そう言えば一華ちゃんの立ち上げた会社はアパレル系だって言ってたな。
「この階は主にオメガの人のためのお店が集まってるんだよ。」
エレベーターを降りると下の階より人口密度は低めだが、それなりに人がいて賑わっている。
「まずはウチのお店からね。」
と言って入ったのはお洒落な服屋だった。下の階にもいくつか若者向けの服屋はあったけれど、ここは男性オメガをメインターゲットとした服や服飾雑貨が売られている。男性オメガ向けとはつまりはユニセックスなものだ。男性オメガが服を選ぶときには毎回男物か女物かで迷うことが多い。ボクは経験したことはないけれど、男物を選べば「オメガのくせに」と言われ、女物を選べば「男のくせに」と言われることは珍しくないらしい。
このお店では男物にも、女物にも見える絶妙なデザインの服や装飾品が並んでいる。それが女性にもウケたようで、店内にはチョーカーを付けているオメガだけではなくベータ女子の姿も見える。
「元々うちの商品はネット販売しかしていなかったんだけれど、今回静哉さんからここの話が来て実店舗を出すことになったのよ。」
「そうだったんだ。じゃあここが1号店?」
「そうなの。実物が見られるって今のところ好評だよ。」
「それにしても一華ちゃんの会社がアパレル系なのは知ってたけれど、男性オメガ向けだなんて知らなかったよ。」
「そうなの?小太郎に似合う服を作りたいって言ってたから色々渡されていると思ってた。」
「ボクの服は全部静哉くんが用意してくれるからなー。」
「それだわ。」
どれ?
アルファは番の服は全部自分で用意したいから?なるほどー。
「実はもう1店舗、別ジャンルのお店があるから後で案内するね。」
*****************************
Q.今までデートをしてこなかった理由。
A.家でイチャイチャして満足していたから。
※静哉経由で一華ブランドの服は渡されています。ただ、小太郎がブランドを聞いてこないのでわざわざ言ってません。
ピンポイントで小太郎に似合う服を用意されるので少し嫉妬が含まれているというアルファの性。
向かい合わせに並んでいるお店の間は吹き抜けになっていて開放感がある。今日はデートなので手を繋いでうきうきと色んなお店を冷やかしながら見回っていく。人が多いにも関わらずぶつからずに歩けるのは広い通路のおかげだ。雑貨屋で見かけたマグカップは雅によく似たマンチカンの絵柄で、持ち手が尻尾になっていてとても可愛かったので「先輩とお付き合いおめでとう」のプレゼントとして買った。
そして静哉くんとお揃いの物が欲しかったので藤堂家別館で使える部屋履きスリッパとお泊り用パジャマを買った。パジャマは同じデザインのサイズ違い、スリッパは全く同じだと間違えるのでボクは黒柴犬、静哉くんは茶柴犬にした。早く使いたかったので今日はお泊りをおねだりしちゃった。
途中、トイレに寄ると男子トイレが全て個室だったことに驚いた。社会全体のオメガの比率は約1割で、ボクのような男性オメガはその中でも更に少ない割合になっている。そのため男女で分ける必要のある場合は男性側でまとめられる。
アルファ女子は女性側でまとめられるのだが、女子トイレは元々個室で、男子トイレのように見たり見られたりを気にする必要がない。この作りはありがたいと静哉くんに伝えたら「本当は男性オメガ専用トイレを作れたらいいけど、スペースが確保できなかったんだよね」と残念そうに言った。でも集客率と男性オメガの数を考えるとそのスペース分を店舗に当てたほうが良いことも理解できるので仕方がないかなとは思う。
ところでボクのトイレ待ちのために通路の端にいた静哉くんは一瞬で逆ナンされていた。ナンパされている本人はガン無視だけど。見た目にも高位アルファの静哉くんは一見近寄り難いのでよっぽど空気が読めない人しか話しかけられない。つまり、押しの強い肉食系女子にすぐ声をかけられる。そして肉食系女子はすぐボディタッチをしようとするが、静哉くんは実にスマートにそれを避ける。その顔は氷のように冷たい。
その様子をぼーっと見ているボクを目にした静哉くんは、パッと表情を変えて素早く動いた。
「コタ、ごめんね。視界を遮られていた上に香水の匂いがキツくて気分が悪かったよ。」
静哉くんはボクの肩を抱き寄せて項に顔を寄せた。番になったボクらはお互いにしかフェロモンを感じられない。ボクの香りのイメージはお日様らしい。静哉くんは深い森のイメージだ。ボクだけのアルファの香りをしっかり堪能して、そのまま唖然とする肉食系女子を置いて移動した。
お昼は家族連れで賑わうフードコートで食べた。すごい、食べているのはファストフードなのに静哉くんの高貴さでこの机だけ高級レストランに見える。
食事を終え最上階に通じるエレベーターの前まで行くと、よく知る顔が待ち構えていた。
「小太郎~やっほー。」
「舞ちゃん?何でここに?拓司と買い物しにきたの?」
「違うよ。今日はお仕事。静哉さんこんにちは。」
「うん、コタをよろしくね。」
どうやらここからは舞ちゃんの案内になるとのこと。最上階はオメガとベータ女子しか立ち入りを許されないエリアになっている。モール内にあるいくつかの最上階に通じる専用エレベーターは常時案内人が控えていて、バース性を示すものを持っていなければ入ることはできない。
静哉くんにはボクを待っている間に今日の視察のレポートをまとめておくからゆっくりしておいでと言われた。途中から完全に視察を忘れてデートに没頭してしまった。反省反省。最上階の視察は任せて!
性別が書かれた身分証をエレベーター前に控えている案内人に見せて中に入る。
「舞ちゃん、ボクの案内が今日の仕事なの?」
「それもあるけど、一華さんのお店がオープンしたからそこの店員としてバイトしてるのよ。」
そう言えば一華ちゃんの立ち上げた会社はアパレル系だって言ってたな。
「この階は主にオメガの人のためのお店が集まってるんだよ。」
エレベーターを降りると下の階より人口密度は低めだが、それなりに人がいて賑わっている。
「まずはウチのお店からね。」
と言って入ったのはお洒落な服屋だった。下の階にもいくつか若者向けの服屋はあったけれど、ここは男性オメガをメインターゲットとした服や服飾雑貨が売られている。男性オメガ向けとはつまりはユニセックスなものだ。男性オメガが服を選ぶときには毎回男物か女物かで迷うことが多い。ボクは経験したことはないけれど、男物を選べば「オメガのくせに」と言われ、女物を選べば「男のくせに」と言われることは珍しくないらしい。
このお店では男物にも、女物にも見える絶妙なデザインの服や装飾品が並んでいる。それが女性にもウケたようで、店内にはチョーカーを付けているオメガだけではなくベータ女子の姿も見える。
「元々うちの商品はネット販売しかしていなかったんだけれど、今回静哉さんからここの話が来て実店舗を出すことになったのよ。」
「そうだったんだ。じゃあここが1号店?」
「そうなの。実物が見られるって今のところ好評だよ。」
「それにしても一華ちゃんの会社がアパレル系なのは知ってたけれど、男性オメガ向けだなんて知らなかったよ。」
「そうなの?小太郎に似合う服を作りたいって言ってたから色々渡されていると思ってた。」
「ボクの服は全部静哉くんが用意してくれるからなー。」
「それだわ。」
どれ?
アルファは番の服は全部自分で用意したいから?なるほどー。
「実はもう1店舗、別ジャンルのお店があるから後で案内するね。」
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Q.今までデートをしてこなかった理由。
A.家でイチャイチャして満足していたから。
※静哉経由で一華ブランドの服は渡されています。ただ、小太郎がブランドを聞いてこないのでわざわざ言ってません。
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