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恙無く暮らして欲しい
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オメガのための施設が集められたこの階には病院まで併設されていた。オメガ専用のバース科で、万が一ショッピングモールやこの近辺でオメガが突発的にヒートを起こしてしまった場合の駆け込み所にもなっている。
そして貧困層のオメガはこの病院で診察すると無料で抑制剤を処方してもらうことができる。その場で飲むことが条件になるが、本当に至れり尽くせりだ。
今ではオメガに対するあからさまな差別は減ったもののまだ根強く残っている。抑制剤も昔より効果が増し値段も安くなっているが、まだまだ抑制剤を買うよりも我慢して発情期を過ごす人もいる。
ここの階ではなんと男性オメガ専用銭湯もあった。男の子が幼児期を越えたら女湯には入れないように、男性オメガと女性アルファは男湯女湯のどちらにも入ることはできない。しかし女性アルファ専用の温泉施設は割とある。それだけ需要があるからだ。対して男性オメガが銭湯や温泉に入りたい場合は宿泊施設の部屋風呂や家族風呂しかない。
この辺りには温泉源がなかったので諦めて日替わりで入浴剤を入れているらしい。ボクも入りたい。修学旅行などは男性オメガと女性アルファは部屋でシャワーになるので人とお風呂に入る経験はしたことがない。今度雅を誘って来ようかな。
*************************
「ここがもう1つのお店だよ。
テーマは"発情期から出産まで"。」
案内されたお店は中が見えない作りになっていた。自動ドアから入ってすぐに目に飛び込んできたのは下着だった。セクシーな物からキュートな物まで揃った下着。更に女性オメガの棚と男性オメガの棚に分けられていた。これはつまり勝負下着か!!
ええ~一華ちゃんってば下着まで作ってボクに着せたかったの?デザインは違う人?
そっかー。
それより気になるのは隅にある販売エリア。周りをぐるりと陳列棚に囲まれていて外からは見えにくくなっている。舞ちゃんに案内されていくと見慣れない商品が並んでいた。しかしボクはこれをよく知っている。オメガ会でオススメされたBL漫画で何度か見たことのある"大人のおもちゃ"だ。
発情期を1人で過ごす場合、抑制剤が効けば良いが中には効きづらかったり副作用が重い人もいる。その場合男も女も自分を慰めるための道具は必須と言われている。
それでもやっぱりお店で買うのは恥ずかしいのでネットで購入が大半だ。それでも手に持って見たいという人のために少人数で商品を見られるスペースを設け、商品を備え付けの袋に入れてバーコードが書かれた札を袋の外に垂らせば中身を見られることなく購入できる方法を用いている。よく考えられている。
最後はマタニティ服エリアだ。可愛らしいデザインからちゃんと男物だとわかるものもある。今のボクには必要のないものなのでさっと見てから店を出る。
他には子供を連れて休めるキッズルーム付き喫茶店もあった。ここは完全にオメガ専用だ。特に一人親の場合はお子様メニューのサービスを受けられる。
本当にここはオメガ、特に男性オメガにとってとても居心地の良い場所になっている。正直に言うと男性オメガは経営を考えると儲けにならない。アルファの番になればアルファが何でも買い与えるけど、番のいないオメガは基本的にお金がない。どんなに能力が高くてもまともな職に就けないからだ。比較すると女性オメガよりも就職難だったりする。
なのになぜこのような施設を作ったんだろう。
お泊りが決まったので藤堂家別館でさっそく買ったばかりのスリッパを出した。最近は肌寒くなってきたのでモコモコの生地が心地よい。
今日は視察だったのでボクは張り切って報告書を書いた。報告書は初めて書くので、教えてもらいながら何度も書き直してやっと合格をもらえた。一息ついたタイミングで静哉くんになぜあの施設を作ったのか聞いてみた。
「男性オメガが苦労することがないように生活して欲しいと思ったことがきっかけかな。」
静哉くんは報告書をテーブルに置いて、ボクの隣の席に移動してきた。そして両手でぎゅっとボクの手を握った。
「昔より改善されたとはいえ未だに男性オメガの世間からの風当たりはキツい。僕らのような上に立つ立場の人ですら⋯いやだからこそオメガを蔑む人もいる。」
それは身をもって体験している。婚約発表をしてからたまにパーティや会食に参加する機会ができたが、必ずといっていいほど何かしら言ってくる人はいる。例えばこの年で番契約をするなんて尻軽なオメガだとか、一般家庭で生まれたオメガなんて藤堂家のアルファには相応しくないなど。
シンプルに「男が妊娠なんて気持ち悪い」もあった。そう述べた不動産屋のドラ息子はその日から2度と顔を見ることはなかった。
「僕はコタには何の憂いもなく恙無く暮らして欲しい。もちろんずっと一緒にね。そのためにはオメガが過ごしやすい世の中にする必要があると思ったんだ。」
静哉くんは学生時代から様々な企業の経営に関わり、利益が出た分だけオメガのためになるような企業に投資していたらしい。抑制剤やネックガードの開発をしている企業もその1つで、今日見た病院で使用されている抑制剤やボクのネックガードはその会社で作られたものだ。
ネックガードなんてボクが小学生のときに貰った物なのに、一体いつからそんなことを考えながら仕事をしていたのだろう。
今までずっと、これからもずっと一緒にいることが当然だと思っていた。ボクは思っていただけなのに静哉くんはこれでもかというほど行動で示してくれた。
言葉が出なかったのでぎゅっと抱きしめると静哉くんは軽々とボクを膝に乗せた。
ボクはこの愛しい人に何ができるだろう。
*****************************
次回最終話です。
そして貧困層のオメガはこの病院で診察すると無料で抑制剤を処方してもらうことができる。その場で飲むことが条件になるが、本当に至れり尽くせりだ。
今ではオメガに対するあからさまな差別は減ったもののまだ根強く残っている。抑制剤も昔より効果が増し値段も安くなっているが、まだまだ抑制剤を買うよりも我慢して発情期を過ごす人もいる。
ここの階ではなんと男性オメガ専用銭湯もあった。男の子が幼児期を越えたら女湯には入れないように、男性オメガと女性アルファは男湯女湯のどちらにも入ることはできない。しかし女性アルファ専用の温泉施設は割とある。それだけ需要があるからだ。対して男性オメガが銭湯や温泉に入りたい場合は宿泊施設の部屋風呂や家族風呂しかない。
この辺りには温泉源がなかったので諦めて日替わりで入浴剤を入れているらしい。ボクも入りたい。修学旅行などは男性オメガと女性アルファは部屋でシャワーになるので人とお風呂に入る経験はしたことがない。今度雅を誘って来ようかな。
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「ここがもう1つのお店だよ。
テーマは"発情期から出産まで"。」
案内されたお店は中が見えない作りになっていた。自動ドアから入ってすぐに目に飛び込んできたのは下着だった。セクシーな物からキュートな物まで揃った下着。更に女性オメガの棚と男性オメガの棚に分けられていた。これはつまり勝負下着か!!
ええ~一華ちゃんってば下着まで作ってボクに着せたかったの?デザインは違う人?
そっかー。
それより気になるのは隅にある販売エリア。周りをぐるりと陳列棚に囲まれていて外からは見えにくくなっている。舞ちゃんに案内されていくと見慣れない商品が並んでいた。しかしボクはこれをよく知っている。オメガ会でオススメされたBL漫画で何度か見たことのある"大人のおもちゃ"だ。
発情期を1人で過ごす場合、抑制剤が効けば良いが中には効きづらかったり副作用が重い人もいる。その場合男も女も自分を慰めるための道具は必須と言われている。
それでもやっぱりお店で買うのは恥ずかしいのでネットで購入が大半だ。それでも手に持って見たいという人のために少人数で商品を見られるスペースを設け、商品を備え付けの袋に入れてバーコードが書かれた札を袋の外に垂らせば中身を見られることなく購入できる方法を用いている。よく考えられている。
最後はマタニティ服エリアだ。可愛らしいデザインからちゃんと男物だとわかるものもある。今のボクには必要のないものなのでさっと見てから店を出る。
他には子供を連れて休めるキッズルーム付き喫茶店もあった。ここは完全にオメガ専用だ。特に一人親の場合はお子様メニューのサービスを受けられる。
本当にここはオメガ、特に男性オメガにとってとても居心地の良い場所になっている。正直に言うと男性オメガは経営を考えると儲けにならない。アルファの番になればアルファが何でも買い与えるけど、番のいないオメガは基本的にお金がない。どんなに能力が高くてもまともな職に就けないからだ。比較すると女性オメガよりも就職難だったりする。
なのになぜこのような施設を作ったんだろう。
お泊りが決まったので藤堂家別館でさっそく買ったばかりのスリッパを出した。最近は肌寒くなってきたのでモコモコの生地が心地よい。
今日は視察だったのでボクは張り切って報告書を書いた。報告書は初めて書くので、教えてもらいながら何度も書き直してやっと合格をもらえた。一息ついたタイミングで静哉くんになぜあの施設を作ったのか聞いてみた。
「男性オメガが苦労することがないように生活して欲しいと思ったことがきっかけかな。」
静哉くんは報告書をテーブルに置いて、ボクの隣の席に移動してきた。そして両手でぎゅっとボクの手を握った。
「昔より改善されたとはいえ未だに男性オメガの世間からの風当たりはキツい。僕らのような上に立つ立場の人ですら⋯いやだからこそオメガを蔑む人もいる。」
それは身をもって体験している。婚約発表をしてからたまにパーティや会食に参加する機会ができたが、必ずといっていいほど何かしら言ってくる人はいる。例えばこの年で番契約をするなんて尻軽なオメガだとか、一般家庭で生まれたオメガなんて藤堂家のアルファには相応しくないなど。
シンプルに「男が妊娠なんて気持ち悪い」もあった。そう述べた不動産屋のドラ息子はその日から2度と顔を見ることはなかった。
「僕はコタには何の憂いもなく恙無く暮らして欲しい。もちろんずっと一緒にね。そのためにはオメガが過ごしやすい世の中にする必要があると思ったんだ。」
静哉くんは学生時代から様々な企業の経営に関わり、利益が出た分だけオメガのためになるような企業に投資していたらしい。抑制剤やネックガードの開発をしている企業もその1つで、今日見た病院で使用されている抑制剤やボクのネックガードはその会社で作られたものだ。
ネックガードなんてボクが小学生のときに貰った物なのに、一体いつからそんなことを考えながら仕事をしていたのだろう。
今までずっと、これからもずっと一緒にいることが当然だと思っていた。ボクは思っていただけなのに静哉くんはこれでもかというほど行動で示してくれた。
言葉が出なかったのでぎゅっと抱きしめると静哉くんは軽々とボクを膝に乗せた。
ボクはこの愛しい人に何ができるだろう。
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次回最終話です。
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