ラブラブハッピーな未来のために頑張るぞ!

ミミナガ

文字の大きさ
17 / 18

恙無く暮らして欲しい

しおりを挟む
 オメガのための施設が集められたこの階には病院まで併設されていた。オメガ専用のバース科で、万が一ショッピングモールやこの近辺でオメガが突発的にヒートを起こしてしまった場合の駆け込み所にもなっている。
 そして貧困層のオメガはこの病院で診察すると無料で抑制剤を処方してもらうことができる。その場で飲むことが条件になるが、本当に至れり尽くせりだ。
 今ではオメガに対するあからさまな差別は減ったもののまだ根強く残っている。抑制剤も昔より効果が増し値段も安くなっているが、まだまだ抑制剤を買うよりも我慢して発情期ヒートを過ごす人もいる。
 ここの階ではなんと男性オメガ専用銭湯もあった。男の子が幼児期を越えたら女湯には入れないように、男性オメガと女性アルファは男湯女湯のどちらにも入ることはできない。しかし女性アルファ専用の温泉施設は割とある。それだけ需要があるからだ。対して男性オメガが銭湯や温泉に入りたい場合は宿泊施設の部屋風呂や家族風呂しかない。
 この辺りには温泉源がなかったので諦めて日替わりで入浴剤を入れているらしい。ボクも入りたい。修学旅行などは男性オメガと女性アルファは部屋でシャワーになるので人とお風呂に入る経験はしたことがない。今度みやびを誘って来ようかな。

*************************

「ここがもう1つのお店だよ。
 テーマは"発情期ヒートから出産まで"。」

 案内されたお店は中が見えない作りになっていた。自動ドアから入ってすぐに目に飛び込んできたのは下着だった。セクシーな物からキュートな物まで揃った下着。更に女性オメガの棚と男性オメガの棚に分けられていた。これはつまり勝負下着か!!
 ええ~一華いちかちゃんってば下着まで作ってボクに着せたかったの?デザインは違う人?
 そっかー。
 それより気になるのは隅にある販売エリア。周りをぐるりと陳列棚に囲まれていて外からは見えにくくなっている。まいちゃんに案内されていくと見慣れない商品が並んでいた。しかしボクはこれをよく知っている。オメガ会でオススメされたBL漫画で何度か見たことのある"大人のおもちゃ"だ。
 発情期ヒートを1人で過ごす場合、抑制剤が効けば良いが中には効きづらかったり副作用が重い人もいる。その場合男も女も自分を慰めるための道具は必須と言われている。
 それでもやっぱりお店で買うのは恥ずかしいのでネットで購入が大半だ。それでも手に持って見たいという人のために少人数で商品を見られるスペースを設け、商品を備え付けの袋に入れてバーコードが書かれた札を袋の外に垂らせば中身を見られることなく購入できる方法を用いている。よく考えられている。
 最後はマタニティ服エリアだ。可愛らしいデザインからちゃんと男物だとわかるものもある。今のボクには必要のないものなのでさっと見てから店を出る。
 他には子供を連れて休めるキッズルーム付き喫茶店もあった。ここは完全にオメガ専用だ。特に一人親の場合はお子様メニューのサービスを受けられる。

 本当にここはオメガ、特に男性オメガにとってとても居心地の良い場所になっている。正直に言うと男性オメガは経営を考えると儲けにならない。アルファのつがいになればアルファが何でも買い与えるけど、つがいのいないオメガは基本的にお金がない。どんなに能力が高くてもまともな職に就けないからだ。比較すると女性オメガよりも就職難だったりする。
 なのになぜこのような施設を作ったんだろう。

 お泊りが決まったので藤堂とうどう家別館でさっそく買ったばかりのスリッパを出した。最近は肌寒くなってきたのでモコモコの生地が心地よい。
 今日は視察だったのでボクは張り切って報告書を書いた。報告書は初めて書くので、教えてもらいながら何度も書き直してやっと合格をもらえた。一息ついたタイミングで静哉しずやくんになぜあの施設を作ったのか聞いてみた。

「男性オメガが苦労することがないように生活して欲しいと思ったことがきっかけかな。」

 静哉しずやくんは報告書をテーブルに置いて、ボクの隣の席に移動してきた。そして両手でぎゅっとボクの手を握った。

「昔より改善されたとはいえ未だに男性オメガの世間からの風当たりはキツい。僕らのような上に立つ立場の人ですら⋯いやだからこそオメガを蔑む人もいる。」

 それは身をもって体験している。婚約発表をしてからたまにパーティや会食に参加する機会ができたが、必ずといっていいほど何かしら言ってくる人はいる。例えばこの年でつがい契約をするなんて尻軽なオメガだとか、一般家庭で生まれたオメガなんて藤堂とうどう家のアルファには相応しくないなど。
 シンプルに「男が妊娠なんて気持ち悪い」もあった。そう述べた不動産屋のドラ息子はその日から2度と顔を見ることはなかった。

「僕はコタには何の憂いもなく恙無つつがなく暮らして欲しい。もちろんずっと一緒にね。そのためにはオメガが過ごしやすい世の中にする必要があると思ったんだ。」

 静哉しずやくんは学生時代から様々な企業の経営に関わり、利益が出た分だけオメガのためになるような企業に投資していたらしい。抑制剤やネックガードの開発をしている企業もその1つで、今日見た病院で使用されている抑制剤やボクのネックガードはその会社で作られたものだ。

 ネックガードなんてボクが小学生のときに貰った物なのに、一体いつからそんなことを考えながら仕事をしていたのだろう。
 今までずっと、これからもずっと一緒にいることが当然だと思っていた。ボクは思っていただけなのに静哉しずやくんはこれでもかというほど行動で示してくれた。
 言葉が出なかったのでぎゅっと抱きしめると静哉しずやくんは軽々とボクを膝に乗せた。

 ボクはこの愛しい人に何ができるだろう。

*****************************

次回最終話です。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Ωだったけどイケメンに愛されて幸せです

空兎
BL
男女以外にα、β、Ωの3つの性がある世界で俺はオメガだった。え、マジで?まあなってしまったものは仕方ないし全力でこの性を楽しむぞ!という感じのポジティブビッチのお話。異世界トリップもします。 ※オメガバースの設定をお借りしてます。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」 全8話

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...