猫と虎のおかしな攻防

ミミナガ

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田舎の猫

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 市内からたった2時間の場所でも限界集落に辿り着ける。僕は若者よりも年寄りの数が多い田舎町で生まれ育った。
 同じ学校には7人しか生徒がいないので友達というより兄弟のように皆と過ごした。

1つ上、力持ちのドンち。
同い年、勉強が得意なレイナ。
    泣き虫の僕、ミャー。
1つ下、本が大好きファーちゃん。
1つ下、足が早いソーマ。
2つ下、背が高いラン。
3つ下、いたずらっ子ショウ。

 賑やかな僕たちは「ドレミ軍団」と呼ばれ、町のどこに行っても声をかけられ、おじいちゃんおばあちゃん達に可愛がられた。
 僕が6年生になると第二次バース健診が行われ、そこで初めて僕はオメガなのだと言われた。

「オメガってなんだっけ?」
「あれだよ、男でも子供が産めるんだろ?」
「ミャーだと全然違和感ないね。」
「黙ってたら可愛いからね。黙ってたら。」

 "黙っていたら可愛い"とはよく言われることで、僕は町1番のイケオジであるおじいちゃんの子供の頃にそっくりらしい。ただし、おじいちゃんは物静かな美少年として大人気で、幼馴染のおばあちゃんは並み居るライバルたちをバッタバッタと薙ぎ倒しておじいちゃんと結婚したとのこと。そんなおじいちゃんに似た僕はいつかきっとおじいちゃんのように格好良くなるに違いないと思っていたら「確かオメガは背が伸びないんじゃない?」というレイナちゃんの残酷な言葉に打ちのめされた。

 ベータしかいない小さな町ではアルファやオメガの存在はテレビや本の中だけの話だ。実際バース性については誰も⋯町医者の徳蔵とくぞうじいちゃんでさえ詳しいことは知らなかった。
 するとその頃すでに市内の高校に下宿先から通っていた兄が色々調べて「俺たちはオメガについてはわからないからバース性専門の病院が近くにあるこっちにミャーだけでも来た方が良い」と両親に提案し、結局おじいちゃんとおばあちゃんを残して家族で引っ越すことになった。畑やニワトリやヤギの世話があるもんね。
 皆と離れることになるのはとても寂しかったので、引っ越しの日に泣きながらお別れを言うと「運命の出会いとかあったらステキ~」とか「金持ちのアルファを捕まえて玉の輿だ!」と言って送り出された。
 みんな俗物的すぎる。

 春休み中に引っ越しを終えて、下宿先で生活していた俊兄しゅんにいも一緒に住むことになった。俊兄しゅんにいが家を出たときにすごく寂しかったから嬉しい!

 僕の家はお父さん、お母さん、俊兄しゅんにい、僕の4人と、田舎にいるおじいちゃんとおばあちゃんが家族だ。僕が皆にミャーと呼ばれているのは小さい頃、名前の「みやび」が発音できなくて「みゃーは」「みゃーがね」と自分で呼んでいたことが由来だ。
 
 暮らしが落ち着いたころ、バース性専門の病院に行くことになった。2駅離れた場所にある病院まで今後定期検診のために1人で通えるように電車に乗る練習から始めた。なんせこちとら家から徒歩1時間の無人駅が最寄り駅の田舎出身だ。電車が数分おきにくるなんて1日4本1車両の地元駅を利用する人が聞いたらびっくりするぞ。

 お母さんと一緒に診察室へ入って説明を聞く。優しそうな男の先生でちょっとホッとした。フェロモン数値を見ると僕の発情期ヒートが起こるのはまだまだ先だと言っていた。それでも念のための抑制剤と避妊薬の説明をされる。必要なことだとわかっていてもどこか他人事のような感覚だ。ベータしかいない町に生まれ、男として育ってきたのでオメガという性質の全てがピンと来ない。
 お母さんも同じようにピンとはきていなかったみたいだけど、突発的な発情期ヒートによるつがい事故の話を聞いて真っ青になっていた。今は緊急抑制剤も普及されていてほとんどなくなったものの、ゼロではないのだ。
 でも病院で支給されるネックガードを選ぶときは随分と楽しそうだった。チョーカーにしか見えないお洒落なデザインで色も豊富で僕の首に当てながら「この色も可愛い~!」とはしゃいでいた。僕は何でもいいよ。
 ピンクはやめてね。

***************************

 中学校に入学し、人の多さにすっかりビビってしまった。1日の間に人より野生動物を見る回数の方が多い田舎者に人との付き合い方を学ぶ機会があるわけがない。入学して最初は誰とも話せずに1人で過ごしていた。

 転機が訪れたのは最初のテスト結果が返却されたときだ。大量の赤点用紙を前にして途方に暮れてしまった。
 小学校のときは成績なんて気にしたことがなかった。なぜなら地元での学校の評価は足が速かったり、一番早くアケビやヤマブドウを見つけた人がヒーローだ。僕はどちらでもなかったけれど。

「勉強苦手なの?」

 話しかけてきたのは同じクラスの春野はるのくんだった。この学校でオメガは1クラスに纏められ、アルファと同じクラスにならないようにされている。僕のEクラスには5人のオメガがいて僕と春野はるのくんが男で、他の3人は女の子だった。
 田舎から出てきてアルファもオメガも本当にいるんだなと感心した。見た目では誰がどのバースなのかはわからないが、オメガは皆ネックガードをしている。一般的にアルファもオメガも美形が多いと言われているが、春野はるのくんはどちらかと言うと"普通"だった。
 でも人懐っこい顔でにこにこと話しかけられると「都会の人」という苦手意識は感じられなかった。

「どうやって勉強したらいいかわからなくて⋯。」
「例えばどこが難しかった?」
「全部。」
「ふーん。ねぇ今日は何か予定ある?」
「?ないけど。」

 今は放課後。いつも真っすぐ家に帰っているのだが、この答案用紙を持って帰るのが嫌で寄り道しようと思っていたくらいだ。

「よし、図書室に行こう。」
「え?なんで?」
「いいからいいから。おーい拓司たくじー!ボク今から図書室行くねー。」

 廊下の外に立っている背の高い男子生徒に一声ひとこえかけて春野はるのくんは僕の腕を掴んだ。ちょっと逃げようと思ったことがバレてる!?
 そのまま図書室で答案用紙の解説をしてもらいながら間違い直しをした。春野はるのくんは意外にも(→失礼)勉強が良くできて、説明も上手だった。でもスパルタすぎて泣きそうになった。

「大丈夫?でもこれだけできたら補習もばっちりだよ!」
「補習あるの?聞いてなかった⋯。」
「ちょっと遅くなったから送っていくよ。あ、弱っちいボクだけじゃなくてそっちの生徒も一緒だから安心して?」

 いつの間にか近くに先ほどの背の高い男子生徒が座っていた。短い黒髪の爽やかなイケメンくんだ。都会の人は格好良いな~。

「終わったのか?初めまして、飯塚いいづかだっけ?隣のクラスの五十嵐拓司いがらしたくじだ。よろしくな。」
「よろしく⋯あの、僕1人で帰れるよ?」
「いや、もう暗くなってるから送るよ。それに小太郎こたろうが前から飯塚いいづかと話したがっていたから付き合ってやってくれ。」
「そうなの?」
「そうだよ!だってクラスで男のオメガってボクたちだけだし、絶対仲良くしたかったけど話しかけられるのが苦手なタイプだったらどうしようかと思っていたらタイミング逃しちゃった。」

 そうだったのか。全然周りが見えていなかったな。そこで自分は田舎出身で環境に慣れなくて緊張していたと話した。じゃあ今日から友達だね、と僕たちはお互いに「小太郎こたろう」「みやび」と呼び合うことになった。

 僕の家まで歩いて20分。沢山話をした。
 この町に来てから買ってもらったスマホの使い方がよくわからないと言えばメッセージアプリのスタンプ機能を教えてくれた。
 地元にいたときは誰もスマホなんて持っていなかった。その辺にいる大人に「◯◯行ってくるー!」と言うと家まで自動的に伝わる田舎クオリティ。

「あ、これみやびに似てる!」

 と言って送ってくれたのは茶色いマンチカンのスタンプだった。

「じゃ僕は小太郎こたろうに似てるこれにする。」

 と黒いコーギーのスタンプを送り返した。
 なにこれ楽しい。

―――――――――――――――

小太郎こたろうはスピンオフ元である「ラブラブハッピーな未来のために頑張るぞ!」の主人公です。

※ドレミ軍団は覚えなくて大丈夫です。
 一応名前だけ考えました。◯→女の子

ドンち 土門正親どもんまさちか
レイナ 加納玲奈かのうれいな
ミャー 飯塚雅いいづかみやび
ファーちゃん 不破和子ふわかずこ
ソーマ 佐藤颯真さとうそうま
ラン 植田蘭うえだらん
ショウ 柳原翔やなぎはらしょう
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