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シーズン1 魔法使いの塔
第四章 12)塔に帰る
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そんなふうに何だか気持ちも新たになって宿に戻ったら、既にプラーヌスも帰っていた。
しかも彼は、また新たな扮装をしていた。
華やかな吟遊詩人の格好から、かなり小汚い、すれ違うものは誰もが避けたくなるような、どんよりした曇り空のような格好。
顔まで隠れる黒いローブだけど、上質な魔法使いのローブとは違う。これはまるで墓穴を掘る雑夫のよう。
「ちょっとした変装だよ。こういう格好も似合うだろ?」
プラーヌスが自分の姿を見せびらかすようにしながら言ってきた。
おそらくこれも、バルザ殿を仲間にするための細工の一つなのだろう。
バルザ殿を仲間にするために、こんなことまでしなくてはいけないのかと呆れたい気分だったが、またそんなことを言ってプラーヌスと揉めるつもりはなかった。
「帰りの準備は出来ているか?」
それにプラーヌスが急くように聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ、荷物はまとめてある」
「よし、だったらすぐ君を塔に送る。僕が帰るのは早くて明後日になるだろう。それまで塔を頼むぞ、シャグラン」
「わかった」
「何だか妙に浮かれていたようだね」
プラーヌスが私の表情の変化にでも気づいたのか、ふと足を止めた。
「えっ? うん、実は街で絵を描いている男性を見掛けてね、僕も久しぶりに絵を描きたくなったんだ。いいだろ、プラーヌス。少しくらい、それに時間を費やしても」
「ああ、君は絵描きなんだ。描きたいときに好きなだけ描けばいい。描けない時間が長過ぎると、禁断症状のようなものを感じたりするものだろ?」
「ああ、そうなんだ、まさにその通り!」
「僕も魔法を長時間、禁止されると、きっと頭がおかしくなるよ」
「同じなんだね」
プラーヌスの予想もしていなかった温かい言葉に触れて、私はちょっとした感動を覚えてしまった。
だって彼のことだから、塔の仕事が終わるまでは、絵筆を握るなと言って来るかもしれないって考えていから。
本当に長い付き合いになるのに、私はプラーヌスの性格をまだまだ理解していなかったのかもしれない。
でもこの旅で彼の印象がどれだけ変わったことか。
さっきの少年の件だってそうだ。一緒に酒を飲んだ時もそうだ。
むしろ偏見を抱いていたのは私の方だった気がする。
私は一般的な魔法使いに対して抱くイメージでもって、友人であるはずの彼を見ていた気がする。
多くの魔法使いは陰鬱で独善的、そして気難しい。
人と楽しく生きるよりも、どれだけ自分の価値を高められるか、それだけ専念するというイメージ。
まあ、確かにプラーヌスにもそういうところがないわけではないのだけど。
しかしそれだけのイメージで収まらないことも事実。
それより何より、まず彼は私の友人なのである。
プラーヌスは私といるとき、素の自分を惜しげもなく見せてくる。
そしてそのときの彼は、かなり魅力的で、楽しい奴である。
私にとって、彼が魔法使いであるかどうかなんて関係ないのだ。
「よし、君を塔に送る。この魔方陣の上に立ってくれ」
私の内心の感動に気づいているかどうか知らないが、プラーヌスが言ってくる。
「この街ともお別れだ。もうやり残したことはないね」
「ああ、楽しい旅だったよ」
「いつか君に、僕の肖像画でも描いて欲しいものだね」
「おお、まさにそんなことを考えていたんだよ」
「そのときを楽しみにしてるよ」
魔法陣というのは、先程、黒猫や鴉を送るときに使った、三角や丸などで描かれた模様である。
私はその魔法陣のほうに向かった。
しかしそれを見て、少し嫌な気分になる。
「さっきの黒猫やカラスみたいに、僕も送られるのかと思うと、良い気分はしないね」
「僕だってこの魔方陣を通って帰る。行きも馬車に乗っていたが、同じ魔法だったんだ。何を今更」
「そうかい」
「じゃあな、シャグラン、また明日後日会おう」
その言葉に返事しようとしたとき、プラーヌスが何か言葉をぶつぶつと唱え出した。
その瞬間、目の前が真っ暗になり、グルグルと振り回されるような感じがしばらく続いたかと思うと、私は塔の前に座り込んでいた。
あっという間に到着したようだ。間違いなくプラーヌスの塔の前である。
しかも彼は、また新たな扮装をしていた。
華やかな吟遊詩人の格好から、かなり小汚い、すれ違うものは誰もが避けたくなるような、どんよりした曇り空のような格好。
顔まで隠れる黒いローブだけど、上質な魔法使いのローブとは違う。これはまるで墓穴を掘る雑夫のよう。
「ちょっとした変装だよ。こういう格好も似合うだろ?」
プラーヌスが自分の姿を見せびらかすようにしながら言ってきた。
おそらくこれも、バルザ殿を仲間にするための細工の一つなのだろう。
バルザ殿を仲間にするために、こんなことまでしなくてはいけないのかと呆れたい気分だったが、またそんなことを言ってプラーヌスと揉めるつもりはなかった。
「帰りの準備は出来ているか?」
それにプラーヌスが急くように聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ、荷物はまとめてある」
「よし、だったらすぐ君を塔に送る。僕が帰るのは早くて明後日になるだろう。それまで塔を頼むぞ、シャグラン」
「わかった」
「何だか妙に浮かれていたようだね」
プラーヌスが私の表情の変化にでも気づいたのか、ふと足を止めた。
「えっ? うん、実は街で絵を描いている男性を見掛けてね、僕も久しぶりに絵を描きたくなったんだ。いいだろ、プラーヌス。少しくらい、それに時間を費やしても」
「ああ、君は絵描きなんだ。描きたいときに好きなだけ描けばいい。描けない時間が長過ぎると、禁断症状のようなものを感じたりするものだろ?」
「ああ、そうなんだ、まさにその通り!」
「僕も魔法を長時間、禁止されると、きっと頭がおかしくなるよ」
「同じなんだね」
プラーヌスの予想もしていなかった温かい言葉に触れて、私はちょっとした感動を覚えてしまった。
だって彼のことだから、塔の仕事が終わるまでは、絵筆を握るなと言って来るかもしれないって考えていから。
本当に長い付き合いになるのに、私はプラーヌスの性格をまだまだ理解していなかったのかもしれない。
でもこの旅で彼の印象がどれだけ変わったことか。
さっきの少年の件だってそうだ。一緒に酒を飲んだ時もそうだ。
むしろ偏見を抱いていたのは私の方だった気がする。
私は一般的な魔法使いに対して抱くイメージでもって、友人であるはずの彼を見ていた気がする。
多くの魔法使いは陰鬱で独善的、そして気難しい。
人と楽しく生きるよりも、どれだけ自分の価値を高められるか、それだけ専念するというイメージ。
まあ、確かにプラーヌスにもそういうところがないわけではないのだけど。
しかしそれだけのイメージで収まらないことも事実。
それより何より、まず彼は私の友人なのである。
プラーヌスは私といるとき、素の自分を惜しげもなく見せてくる。
そしてそのときの彼は、かなり魅力的で、楽しい奴である。
私にとって、彼が魔法使いであるかどうかなんて関係ないのだ。
「よし、君を塔に送る。この魔方陣の上に立ってくれ」
私の内心の感動に気づいているかどうか知らないが、プラーヌスが言ってくる。
「この街ともお別れだ。もうやり残したことはないね」
「ああ、楽しい旅だったよ」
「いつか君に、僕の肖像画でも描いて欲しいものだね」
「おお、まさにそんなことを考えていたんだよ」
「そのときを楽しみにしてるよ」
魔法陣というのは、先程、黒猫や鴉を送るときに使った、三角や丸などで描かれた模様である。
私はその魔法陣のほうに向かった。
しかしそれを見て、少し嫌な気分になる。
「さっきの黒猫やカラスみたいに、僕も送られるのかと思うと、良い気分はしないね」
「僕だってこの魔方陣を通って帰る。行きも馬車に乗っていたが、同じ魔法だったんだ。何を今更」
「そうかい」
「じゃあな、シャグラン、また明日後日会おう」
その言葉に返事しようとしたとき、プラーヌスが何か言葉をぶつぶつと唱え出した。
その瞬間、目の前が真っ暗になり、グルグルと振り回されるような感じがしばらく続いたかと思うと、私は塔の前に座り込んでいた。
あっという間に到着したようだ。間違いなくプラーヌスの塔の前である。
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