私の邪悪な魔法使いの友人

ロキ

文字の大きさ
71 / 91
シーズン1 魔法使いの塔

第七章 11)バルザの章11

しおりを挟む
 その後、バルザは最後の戦いに赴くため、この塔のナンバー2、シャグランに会いに行った。
 塔の主に重要な話しがあるから取り次いで頂きたいと言うと、彼は驚いたような表情でバルザを見つめて言ってきた。

 「ここを去るおつもりなのですか?」

 「相変わらずお察しが早い。あなたには大変お世話になりました」

 バルザは丁寧に頭を下げた。
 確かにこの塔に来たときと同じ、自前の鎧を着こみ、背中には大剣を背負った、完全武装した姿でいるが、それだけでバルザの心の内がわかるとは、彼は以前から何かを察していたのかもしれない。

 「出来れば蛮族が求める女神の謎を解き、それからこの塔を去るべきでしょう。せっかく建築資材を集めようとして頂いたのに、砦の建設に取り掛かることも出来ませんでした。何もかも半ばで放棄して、この塔から逃げ出すなど、騎士にあるまじき男と思われることは覚悟しています」

 「いいえ、そんなこと滅相もない。きっと、何か深い理由があるのでしょう」

 「私が去ったあと、部下たちには蛮族と無理に戦わないように書置きをしておきました。このまま戦いが続けば、いずれ部下たちが敗れること間違いありません。シャグラン殿、彼らが逃げることがあっても責めないで頂きたい。出来ればそのとき、あなたから塔の主に口添えを」

 「わ、わかりました、確約は出来ないかもしれませんが、努力しましょう」

 「有難い、あなたと出会えたことを神に感謝します」

 「なんて勿体ないお言葉」

 バルザはこのまま一礼して、彼の前から速やかに去るべきか迷った。
 しかしこの男を見捨てるのも忍びなかった。バルザは親近感を抱くこの青年に、邪悪な魔法使いの、その邪悪さを教えておきたかった。恐らく彼も被害者なのだ。

 しかし彼が、自分と同様の目に遭わせられているのか確信は持てない。
 確信の持てないことを言って惑わすのは心苦しい。

 「これはあなたにとって、これは余計なお世話なのかもしれないが・・・」

 とはいえ、見過ごすことも出来ない。バルザは躊躇しながらも、懐から手紙を取り出した。

 「もし何か、自分の記憶に深刻な不安が生じるようなことがあった場合、この手紙を読んで下さい。もしかしたらあたなを救うことが出来るかもしれません」

 「き、記憶に不安ですか?」

 「はい、以前、あなたもおっしゃっておられましたよね? 自分の記憶の中に妙な空白があると」

 「はあ、確かにそんなことを言ってしまいました。でも実は、たまにそんな気がするというだけで、それほどたいしたことではないと思っているのですが・・・」

 「何も不安がなければ、この手紙を読む必要はありません。きっとあなたを無暗に惑わすだけですから。しかし自分の存在に何かに疑問を感じたり、周りの人間たちが一切信じられなくなったとき、もしかしたらこの手紙が何かのヒントになるかもしれません」

 「い、いったいどういうことなんですか?」

 シャグランという男は困惑した表情で尋ねてきた。。

 「私も確かなことは言えません。自分のことですら、まだ確信が持てないのですから。とにかくこの塔の中で信じられるのは自分だけだと覚悟されたほうが良いと思います。たとえご友人が相手であっても、心から信頼してはいけません。私から言えるのはそれだけです。それでは失礼」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

処理中です...