どうぶつの楽器屋さん(ファーストシーズン)

@taka29

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くまあらし

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「あら、ごめんなさい。あんまり妹さんがしっかりしてるものですから間違えましたわ。あなたが店主さん?お名前を伺ってもよろしくて?」
オソレさんがこっちを向いて尋ねてきた。
キヌコがニンジャのように来客用のお茶を運んで店の奥に引っ込んでいく。
ムッとしたものの私はオソレさんに
「はい店を預かっているキツナと申します、以後お見知りおきを」と自己紹介をした。特に返答はなし……オッケー!
「早速ですが……」オソレさんが来店した時から大事そうに抱えているケースをテーブルの上に置いた。
蓋を開けて、こちらに中身を見せてくれるようだ、
そこには椋(ムク)の葉の美しい装飾が施されたバイオリンが入っていた。それを手にした途端、なんとも言えない懐かしさが込み上げて来て、鼻先がツンとした。
ーーー
文月堂のショーウインドウには一挺の古いバイオリンが飾られている。愛称は『チュアー』
それは先々代オーナーだった祖父が友人の肉食女子エミサンから譲り受けたものらしい。エミサンは多分トラかワニだ。幸運(?)にも私はエミサンと直接の面識はない。
なんでも彼女が若い頃作った作品の一つだとかなんとか言ってたっけ……。
そして実はこのバイオリン、世にも珍しい双子の楽器なのだ。片方は文月堂、もう片方はオソレさんの手元にある。彼女の言う「妹の方」である。
「……ん~?どうされましたのキツナさん、もしかしなくても感動に打ち震えていらっしゃいますの?えぇわかっておりますわ、わかりますともその美しさに心を奪われてしまわれるのでしょう?」
得意気に語るオソレさんを無視して話を続けることにする、「でも私、まだ弾いたことないんですよ」
私がそういうと彼女は一瞬ポカンとした後すぐに吹き出した。何笑ってんだよこいつと思いながら私は言葉をつづけた。
「祖父の形見として先代が残してくれたものなんですけど……なんだか恐れ多くて」
「恐れ多いってあなた……楽器は楽器、ここは博物館じゃありませんわよ。それにご安心くださいまし、たとえどんなに無銘な出来栄えであろうと、その音色を奏でるにふさわしい方が手に取れば必ず素晴らしい響きを放つものですわ!」
「まぁそうなんでしょうね」
「ふふん、当然でしてよ。……それでキツナさん、もしよろしければその『チュアー』わたくしに譲ってくださらない?もちろん、そちらの言い値で結構でしてよ!」
……いや、いきなりなに言ってくれちゃってるの?全然よくないしそもそも非売品って書いてあるでしょと内心思いつつ私は返答する。
「あの、すみませんけどこれは売り物じゃないんです。うちのオーナー曰く先祖代々伝わる由緒正しい家宝で……」
そこまで話すとオソレさんが急に大声を出した。
「あら?!このわたくしに買えないものをどうしてこんな尻尾が青い子狐が持ってるのかしら?ねぇキツナさん、いくらなら譲っていただけるか教えてくださる?」……こっちこそ意味不明だよ、子狐って……私は21才(※人間換算)だよ!いきなりやって来て自分の価値観を押し付けるなって感じだ。
「あら?どん兵衛の小さい方ね」
いつの間にかオソレさんの背後に回り込んだキヌコがトントン、と彼女の肩をつついた。今日はニンジャスタイルで店の手伝いをしているみたいだ。お前がその設定で行くなら今日はその設定で行こう……
「オソレさんってプロバイオリニストの活動の他にファッションケモ雑誌のモデルもされてますよね?すごーく素敵なお召し物がたくさん載っている特集号を読んだことがあります。素敵だなーと思ってチェック入れてるくらいですから。ちなみにオソレさんが載っている号は全部揃えています。いつか直接お会いできたらいいなーと思っていたんですよ?」
キヌコの言葉を聞いて、オソレさんは目を輝かせ始めた。いいぞっ!キヌコ!そのまま行けぇーッ!!クマの注意を逸らせーッ!!!私は心の中で叫んだ。
キヌコはニコッと笑っておべっかトークを続けた。
「そういえば、オソレさんのバイオリンすごく綺麗ですね。見ただけですっごくいい音が出るって気がします。ちょっと演奏してるとこ見ててみたいなー」
そうか!もう私がバニーガール(狐だけど)の格好で夜の仕事に出たり、出張修理で朝早くから隣町に行かなくてもいいんだ!キヌコ様がオンラインサロンとかで成金に媚びを売って店の商品をセールスすればイインダ!!
次回から新シリーズ、セールスガールキヌコが始まります、乞うご期待!(嘘です!)
「あ、あなた達がわたくしのファンだなんて……。仕方ありませんわね。特別に披露して差し上げてもよろしくてよ?」
嬉々としてケースからバイオリンを取り出すオソレさんを見て私は、ほっとした。よかった、これで一安心……。
すると突然オソレさんの表情が険しくなっていった。どうしたんだろうと思っているうちに彼女の手が小刻みに震え出し、顔色が悪くなっていくのがわかった。
「ど、どうかされたんですかオソレさ……」
オソレさんの身体がぐらりと揺れたかと思うと、その場に倒れ込んでしまった。「きゃあああっ!!」慌てて駆け寄ると呼吸困難を起こしており今にも意識を失いそうだった。
救急車を呼ぶために電話のある店の奥へ向かおうとした私の腕を掴んだのは他でもない彼女だった、「だめ……」消え入りそうな声でそう言う。
「……大丈夫だから……放っといて……」息苦しそうではあるが口調はしっかりしている。だが明らかに様子がおかしいことに変わりはない。
「そんなわけにはいきませんよ。救急隊が来るまで応急処置だけでもしないと」「平気だって言ってるでしょう?あなた達はただ黙って座っていてくださいまし!」
オソレさんはふらつきながらも立ち上がりそう言った。


ーつづくー
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