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くまあらし
参
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雑念雑事に追われて寝食を忘れていましたわ!
わたくしとしたことがなんたる不覚……。
キツナさんに看病されながらわたくしは心底後悔しておりましたの、己の不甲斐なさを。
「……やっぱり、病院に行きましょう、坂の上にある大学病院だコンッ!」
キツナさんの提案にわたくし、首を横に振り続けますの。これ以上の醜態は晒せませんもの。
それでも、やはりわたくしの不調の原因は明らかでしてよ。このわたくしとしたことが……キッカケは何でございまして?……そうだ思い出しましたわ、あの日のことを。あの忌々しい出来事を……!
***
二年ほど前、わたくがとあるコンクールの公開審査を受けていた時のことでございます。
その年最も有望な若手音楽家を選ぶというテーマで行われたものですけれど……。
そもそも審査は3つの段階で区分されていまして、「予備」「一次」「二次」の三段階に分けられますの。
まず「予備」でふるい落とされる獣は話になりませんわ、さっさと人間に撃たれて天国に行って下さいまし。
次に「第一次」では課題曲を弾くことになりますの。
わたくし、この手のものが得意でして。いつものように難なくクリアしたのでしょう。審査員の方からも概ね高評価を受けられましたもの。この時点でわたくし、自分が天才と自惚れていましたわ。
問題は次でしてよ。「第二次」での演奏。自由曲による演奏で、ここで評価されるか否かが本選への分かれ道ですわ。
もちろんこの日のためだけに作曲したオリジナル曲を用意してきましたの。それも自信作。
それ故に「これなら絶対いけるはず」と確信めいたものさえありました。
結果発表までの僅かな時間、私は心臓の高鳴りを抑えられずにいたのを覚えています。ここまでのところはまず間違いなく合格水準に達していると分かっておりましたもの。
……そしてついに運命の結果発表ですわ……!エントリー番号28番クマゾーさん、エントリー番号31番クマネさん……あれ?29、……え?……何で?……どういう……?……ま、まさか……!
その時、私は全身の血が引くような感覚に襲われました。…………落選。……不合格?……どうして?
……私、一体何を間違ってしまったのかしら?……こんなに頑張ったじゃない、これまでずっと練習してきたんだから!……ねえ、教えて神様、どこで間違えてしまったの!?
「あ、ありがとうございました……」その言葉だけは何とか絞り出して、足早に舞台を後に致します。
もう耐えられなかったんです……。涙が溢れてきて止まりませんでした。悔しくて情けなくて、どうしようもなくて……。
それからのことはあまり覚えていません。ただひたすらに泣きじゃくっていたように思います。会場を出てすぐタクシーを捕まえて乗り込み……気が付けば家に帰って来ていたんですの。
しばらく何も手につかず塞ぎ込んでいたものの、数日後、知り合いの審査員の方に電話で落選の理由を尋ねましたの、わたくし、どうしても納得できなかったものですから。
そうしたら、「実はね、君の作った曲が盗作 で は な い か?って声が別の審査員から上がっていたんだよ。それで、みんなちょっと懐疑的になってね……、申し訳ないけど今回はそういう理由で選考からは外させてもらったんだ」
って言われた時は目の前が真っ暗になる想いがしましたもの……。
そこから先は記憶が曖昧な部分があります。わたくしはその日から一週間ぐらい引きこもり続けたみたいんですけれど……。
ベッドで横になっている時でしたかしら、
『オソレや、困った時はクロエの実家に行ってみなさい、スランプ脱出のきっかけが掴めるかも…しれませんよ』と、
お祖父様の声が頭の中に聞こえてきたんですの。
祖父は戦時中、軍艦に乗り込んで戦闘機のパイロットとしてあちこちを転戦したそうですわ。文月堂の創業者、キヌツキさんの妻の父とはその時に知り合ったそうで、今でも時々連絡を取り合っているらしく、祖父の人脈の広さには本当に驚かされますわ。
『いいかい、オソレーー』
わたくしのバイオリン『クロエ』もジュニアコンで大賞を取った折にお祖父様がキヌツキさんの父から贈って頂いたもののようで。
『お前もいずれは世界の舞台で活躍することになるだろう。だがどんなに優れた楽器でも使う者の腕次第では宝の持ち腐れになってしまうこともある。自分の音を信じろ、決して疑うんじゃありませんよ』って……。今にして思えば、この言葉こそが今の私の音楽を支えているものですわよね……。以来10年近く、クロエはわたくしの片腕のような存在になっておりますわ。今更かもしれませんけれども……
あのぉー、ちょっといいですか?……もしもし?」
子狐が何か仰っているようですけれど……わたくし、上の空でしてよ……。
ああそういえばあの日のことを思い出したら急に回想パートに……いけない、わたくしとしたことが。
「お父さんがほとんど話に絡んで来ないんですけお!」
うるさいですわこの小動物め。わたくしの心の中を読むとはなかなかやりますわねあなた。
「……やっぱり病院まで送りyましょうか?」
キツナさんが心配そうな顔でわたくしの顔を覗き込んできます。
「大丈夫だと申しておりますでしょう?しつこいと嫌われますわよ」わたくしはふぅっと息を吐いて心を落ち着けます。
「失礼、少し取り乱してしまいましたわ。ともかくそれ以来キヌツキさんに『クロエ』の調整をお願いしたり、しなかったり……あの方とは特別な関係を築いていますの。わたくし自身の調整も……(ボソッ)きゃあああっ!!」
わ、わた、わたくし、一体何を口走っておりまして!?「え、何ですその反応!?」
「コホンっ……何でもございませんわ。とにかくわたくし、そのコンクール以降人前で弾くのが怖くなりまして、演奏を控えるようになったというわけですの」
「あぁなるほど、そういうことなんですね」……あら、意外とあっさり受け入れられてしまいましたわ。
***
「それで一年ぶりに……そう、少し時期がずれましたけど七夕の織姫のような心地でお店に伺ったら……尻尾の青い小娘が店番をしてたんですわ~!」
(……サ、サイコベアー)
それがあたしの正直な感想だった、だっていきなり豹変するんだもん!……それにしてもこのクマ、親父の愛人か!?なんか全然イメージ違うぞ!!
「……キヌツキさんがどうかなさって?」
なんだ?父の動向が気になるらしい。
「えぇ……あ、はい、すみません、うちの父のことじゃなくて……」
んなこと言ってる場合じゃない……あれ?こういう時はどう対応するのがベストなんだ?
うちは探偵事務所じゃねーぞ?警察(ドッグ)に通報すればいいのか!?それとも適当な理由でお帰り願えばばいいんだろうか?判断に迷って思わずキヌコと顔を見合わせてしまう……
「どうしたんですの、せわしない……」
オソレさんが呆れ顔で注意してくる……どうすんだよこれ……。
その時、オソレさんのバックから携帯の着信音が鳴り響く。……おお、助かった……。
「……はい、……何ですって……!……分かりましたわ、映画の出演以来ぃ!?すぐに向かいますので……。……いえ、ごめんなさい、それはまた後程……。……承知致しましたわ、ではのちほどこちらに……」
オソレさんは通話を終えるとこちらに向き直って、
「申し訳ございませんでした、急用ができましたもので、わたくしお暇させていただきますわ。……キツナさん……でよろしかったかしら?本日はご挨拶に伺った、それだけですので。後日『クロエ』の修理にも参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。ではまた」
と言って帰り支度を済ませて応接ソファーから立ち上がる
「ちょ、ちょっと待ってくださいオソレさん」
必死に呼び止めるも、そのまま彼女は出口に向かって足早に立ち去ってしまう。
「『チュアー』はぜぇったいにもらいますからぁ!!!!」彼女は捨て台詞を残して店を飛び出していった。
「こっちはサインもらってないよおー!」それを追いかけるキヌコ。結構ガッツあるじゃん……。
それにしても……静かでおしとやかな感じの子だと思ってたんだが……。バイオリンのことになると見境無くなるタイプなのか?でもどうして親父にあんなにt執着してるんだろう……まさかとは思うが恋とかいうやつかい?
……まあいいか。そんなことより店の陳列をスッキリさせよう。クマとキヌコが暴れたときに大変だし。
ーつづくー
わたくしとしたことがなんたる不覚……。
キツナさんに看病されながらわたくしは心底後悔しておりましたの、己の不甲斐なさを。
「……やっぱり、病院に行きましょう、坂の上にある大学病院だコンッ!」
キツナさんの提案にわたくし、首を横に振り続けますの。これ以上の醜態は晒せませんもの。
それでも、やはりわたくしの不調の原因は明らかでしてよ。このわたくしとしたことが……キッカケは何でございまして?……そうだ思い出しましたわ、あの日のことを。あの忌々しい出来事を……!
***
二年ほど前、わたくがとあるコンクールの公開審査を受けていた時のことでございます。
その年最も有望な若手音楽家を選ぶというテーマで行われたものですけれど……。
そもそも審査は3つの段階で区分されていまして、「予備」「一次」「二次」の三段階に分けられますの。
まず「予備」でふるい落とされる獣は話になりませんわ、さっさと人間に撃たれて天国に行って下さいまし。
次に「第一次」では課題曲を弾くことになりますの。
わたくし、この手のものが得意でして。いつものように難なくクリアしたのでしょう。審査員の方からも概ね高評価を受けられましたもの。この時点でわたくし、自分が天才と自惚れていましたわ。
問題は次でしてよ。「第二次」での演奏。自由曲による演奏で、ここで評価されるか否かが本選への分かれ道ですわ。
もちろんこの日のためだけに作曲したオリジナル曲を用意してきましたの。それも自信作。
それ故に「これなら絶対いけるはず」と確信めいたものさえありました。
結果発表までの僅かな時間、私は心臓の高鳴りを抑えられずにいたのを覚えています。ここまでのところはまず間違いなく合格水準に達していると分かっておりましたもの。
……そしてついに運命の結果発表ですわ……!エントリー番号28番クマゾーさん、エントリー番号31番クマネさん……あれ?29、……え?……何で?……どういう……?……ま、まさか……!
その時、私は全身の血が引くような感覚に襲われました。…………落選。……不合格?……どうして?
……私、一体何を間違ってしまったのかしら?……こんなに頑張ったじゃない、これまでずっと練習してきたんだから!……ねえ、教えて神様、どこで間違えてしまったの!?
「あ、ありがとうございました……」その言葉だけは何とか絞り出して、足早に舞台を後に致します。
もう耐えられなかったんです……。涙が溢れてきて止まりませんでした。悔しくて情けなくて、どうしようもなくて……。
それからのことはあまり覚えていません。ただひたすらに泣きじゃくっていたように思います。会場を出てすぐタクシーを捕まえて乗り込み……気が付けば家に帰って来ていたんですの。
しばらく何も手につかず塞ぎ込んでいたものの、数日後、知り合いの審査員の方に電話で落選の理由を尋ねましたの、わたくし、どうしても納得できなかったものですから。
そうしたら、「実はね、君の作った曲が盗作 で は な い か?って声が別の審査員から上がっていたんだよ。それで、みんなちょっと懐疑的になってね……、申し訳ないけど今回はそういう理由で選考からは外させてもらったんだ」
って言われた時は目の前が真っ暗になる想いがしましたもの……。
そこから先は記憶が曖昧な部分があります。わたくしはその日から一週間ぐらい引きこもり続けたみたいんですけれど……。
ベッドで横になっている時でしたかしら、
『オソレや、困った時はクロエの実家に行ってみなさい、スランプ脱出のきっかけが掴めるかも…しれませんよ』と、
お祖父様の声が頭の中に聞こえてきたんですの。
祖父は戦時中、軍艦に乗り込んで戦闘機のパイロットとしてあちこちを転戦したそうですわ。文月堂の創業者、キヌツキさんの妻の父とはその時に知り合ったそうで、今でも時々連絡を取り合っているらしく、祖父の人脈の広さには本当に驚かされますわ。
『いいかい、オソレーー』
わたくしのバイオリン『クロエ』もジュニアコンで大賞を取った折にお祖父様がキヌツキさんの父から贈って頂いたもののようで。
『お前もいずれは世界の舞台で活躍することになるだろう。だがどんなに優れた楽器でも使う者の腕次第では宝の持ち腐れになってしまうこともある。自分の音を信じろ、決して疑うんじゃありませんよ』って……。今にして思えば、この言葉こそが今の私の音楽を支えているものですわよね……。以来10年近く、クロエはわたくしの片腕のような存在になっておりますわ。今更かもしれませんけれども……
あのぉー、ちょっといいですか?……もしもし?」
子狐が何か仰っているようですけれど……わたくし、上の空でしてよ……。
ああそういえばあの日のことを思い出したら急に回想パートに……いけない、わたくしとしたことが。
「お父さんがほとんど話に絡んで来ないんですけお!」
うるさいですわこの小動物め。わたくしの心の中を読むとはなかなかやりますわねあなた。
「……やっぱり病院まで送りyましょうか?」
キツナさんが心配そうな顔でわたくしの顔を覗き込んできます。
「大丈夫だと申しておりますでしょう?しつこいと嫌われますわよ」わたくしはふぅっと息を吐いて心を落ち着けます。
「失礼、少し取り乱してしまいましたわ。ともかくそれ以来キヌツキさんに『クロエ』の調整をお願いしたり、しなかったり……あの方とは特別な関係を築いていますの。わたくし自身の調整も……(ボソッ)きゃあああっ!!」
わ、わた、わたくし、一体何を口走っておりまして!?「え、何ですその反応!?」
「コホンっ……何でもございませんわ。とにかくわたくし、そのコンクール以降人前で弾くのが怖くなりまして、演奏を控えるようになったというわけですの」
「あぁなるほど、そういうことなんですね」……あら、意外とあっさり受け入れられてしまいましたわ。
***
「それで一年ぶりに……そう、少し時期がずれましたけど七夕の織姫のような心地でお店に伺ったら……尻尾の青い小娘が店番をしてたんですわ~!」
(……サ、サイコベアー)
それがあたしの正直な感想だった、だっていきなり豹変するんだもん!……それにしてもこのクマ、親父の愛人か!?なんか全然イメージ違うぞ!!
「……キヌツキさんがどうかなさって?」
なんだ?父の動向が気になるらしい。
「えぇ……あ、はい、すみません、うちの父のことじゃなくて……」
んなこと言ってる場合じゃない……あれ?こういう時はどう対応するのがベストなんだ?
うちは探偵事務所じゃねーぞ?警察(ドッグ)に通報すればいいのか!?それとも適当な理由でお帰り願えばばいいんだろうか?判断に迷って思わずキヌコと顔を見合わせてしまう……
「どうしたんですの、せわしない……」
オソレさんが呆れ顔で注意してくる……どうすんだよこれ……。
その時、オソレさんのバックから携帯の着信音が鳴り響く。……おお、助かった……。
「……はい、……何ですって……!……分かりましたわ、映画の出演以来ぃ!?すぐに向かいますので……。……いえ、ごめんなさい、それはまた後程……。……承知致しましたわ、ではのちほどこちらに……」
オソレさんは通話を終えるとこちらに向き直って、
「申し訳ございませんでした、急用ができましたもので、わたくしお暇させていただきますわ。……キツナさん……でよろしかったかしら?本日はご挨拶に伺った、それだけですので。後日『クロエ』の修理にも参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。ではまた」
と言って帰り支度を済ませて応接ソファーから立ち上がる
「ちょ、ちょっと待ってくださいオソレさん」
必死に呼び止めるも、そのまま彼女は出口に向かって足早に立ち去ってしまう。
「『チュアー』はぜぇったいにもらいますからぁ!!!!」彼女は捨て台詞を残して店を飛び出していった。
「こっちはサインもらってないよおー!」それを追いかけるキヌコ。結構ガッツあるじゃん……。
それにしても……静かでおしとやかな感じの子だと思ってたんだが……。バイオリンのことになると見境無くなるタイプなのか?でもどうして親父にあんなにt執着してるんだろう……まさかとは思うが恋とかいうやつかい?
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