異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1800【翻弄】

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「お願いできますか」

「良いでしょう」

「では――お任せします」
 ベルが先頭へと移動したところで、

「来る!」
 強烈な熱からなる帯状の光線。
 対してベルの体が炎に包まれ、鞘からレイピアを抜いて――静かに振る。
 一直線に伸びる浄化の炎。
 迫る光線に触れれば俺を襲ってきた凶悪な光線とは思えないほど簡単にかき消されていった。

「やっぱりスゲえな……」
 ベルのこの力。
 リンの言うこの世界の理を無視したもの。
 この世界の事象の全てを浄化させてしまうという炎。
 ビジョンで見れば俺には見せる事のなかった驚愕の二文字を顔に貼り付けているメッサーラ。

「お見事」
 光線の消滅と共に高順氏が労いつつベルに代わって先頭に位置取れば、

「火矢」
 一言。これにロンゲルさんが角笛で応えて、その角笛に騎兵が応える。
 先端に火を纏った矢が一斉に放たれ、前方で陣取る者達を無視して背後のテントに突き刺さっていく。
 ――という報告をシャルナとジージーから聞く。
 ここからだと敵が壁になって見えないからね。
 徐々に後方から煙が上がってきたことで肉眼でも把握できるようにはなった。
 
 さてさて、

「メッサーラの登場で混乱していた相手側が落ち着いてきました」

「良き将器を持っていますね」
 余裕ある先生。
 ベルがゲロビをかき消したことでメッサーラは驚愕していたが、トールハンマーで対峙した時に受けたプレッシャーもあるからか、自分の攻撃を防ぎきっても当然。と、現実を受けいれて落ち着きを取り戻し、兵達に指示を出していた。
 背後のテントなんかに刺さった火矢の消火作業を急がせているということだ。
 これはハリエットからの報告。
 報告を耳にした先生は、

「火矢による攻撃がただならぬものとなれば、落ち着いてきた者達がまたも慌てふためくでしょう」
 言いつつ側にいる護衛のS級さんに連絡をお願いしていた。

 ――マッチポンプが見たかったんだけどな――というゲッコーさんの心の声が俺には聞こえてくるね。
 有り難いことにへっぽこ剣舞をしなくてすんだのは――ドォォォォォン!! と、大気を震わせる音を耳で確認できたことが理由。
 火矢を放った辺りで爆発が一つ発生した。
 ハリエットが仕掛けたC-4による爆発だ。
 相手からすれば火矢が引き起こした爆発と考えることでしょう。と、悪そうに笑みを浮かべ、

「実に素晴らし時宜での爆発でした」
 継ぐ先生の口端は更につり上がり、イケメンが台無しになっていた。

「これだからこの知者は」
 呆れつつも、実際にいいタイミングであるからか高順氏も絶賛。

「このまま敵陣中央を穿つ。我らは巨大な一本の矢である」
 言えば喊声。
 数が少ないこちらの声に相手は呑み込まれていく。

「気圧されるな!」
 こっちの喊声に負けずによく通る声で鼓舞するメッサーラ。
 たった一言で相手側の慌てふためきが緩和する。

「ふむふむ。これは参加してなくて良かった」
 前回の要塞戦に彼の者が参加していたならば、こちらは負ける事はなくても不要な手傷を負わされていただろう。と、先生。
 まず間違いなく、混乱からの逃散という失態は無かっただろうとのこと。
 それでも不要な手傷って言い方。
 そのくらいで済むと考えているのは、先生が高順氏を信頼しているからってことなんだろうね。

「それで、相手方は堅守な構えとなったが」

「あの程度で陥陣営殿は堅守と見るので? そして肝が冷えると?」

「戯れ言を」

「ええ、冗談ですとも」
 穂先を向けたまま真っ直ぐ。速度も落とさずひたすらに真っ直ぐ。
 騎射による牽制を仕掛けるも、相手方は怯みはするがメッサーラのお陰で下がることはなくなり槍衾の布陣。

「よい時宜。ゲッコー殿にもう一度お願いしますと伝えてください。次は連続で」

「了解」
 S級さんがバラクラバの奥で口を動かせば爆発が生まれる。
 爆発音に爆発音が覆い被さり回数は確認できなかったが、そこそこの爆発が相手陣営から発生。
 爆煙は離れた位置からも上がった。
 中心部分あたりになるのかな?
 この爆発にメッサーラが背後を見る。

「総領息子殿が心配といったところですかね。だが接近する我々にも対応しなければならない。前後を見る首が激しく動く度に集中が削がれてしまっているご様子。そしてそれは下の者達にも伝播する。将器があればあるほど」
 整ってきたところで再び慌てふためく相手陣営。

「陥陣営殿」

「本当に嫌な男だ」
 突撃手前で相手を瞬時に浮き足立たせるという手法をとらせれば、この世界で貴様に勝る者はいないと毒のある称賛。
 
 からの――、

「抉るぞ」
 と、一言。
 ワーグを駆って先頭を進む高順氏の穂先が隊列を乱した部分に突き刺さる。
 突撃から繰り出される刺突の衝撃だけで数人のオークが宙を舞った。
 肩越しに見れば、舞ったオークは後方の騎兵の波に呑み込まれてしまう。
 騎馬による激流には逆らえず、馬甲を装備した馬たちに押し潰されての圧死という運命。
 
 構えが疎かになった相手側の槍衾。
 向けられる穂先に恐怖を微塵も感じることのない高順氏が、恐怖を与える穂先で敵陣を切り裂いていく。
 
 それに続く俺は手綱を握りつつ、右手に握った残火を振るだけで手一杯だよ。
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