異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1801【支え合い】

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 ――……ぬぅぅん……。
 やはり騎乗での戦いは難しい。
 長物でないと馬上からの有利性はないし、何より刀を振るとなれば誤ってダイフクを斬ってしまうかもしれないという恐れから思いっきり振ることができず、ただ高順氏の後をついていき、仕損じた相手を通過する時に斬るだけ。
 へっぴり腰の俺と違い、常に行動を共にしているロンゲルさん達は思い切りがいい。
 ひたすらに手にした槍で突いていく。
 高順氏みたいに吹き飛ばすという派手さはないが、馬の突進力を利用しての突きにて相手を屠っていく。
 
 対して相手側の槍衾は及び腰になってしまい、突くことも出来ず、こちらに触れれば馬の勢いで槍が手から離れたり折れてもいた。
 武器破壊を可能としているのは、王都やアラムロス窟から派遣されたドワーフ達を中心とした職人達が仕立てた小札からなる馬甲のお陰か。
 高順氏のユニークスキルである【陥陣営】の効果も大きい。
 装備と効果付与によって相手の攻撃が通らないことで恐れを抱くことがなく、全身全霊の攻撃を振るえている。
 
 大胆な攻撃に見舞われ、自分たちの攻撃が通用しないとなれば相手は混乱するしかないわな。

「止まることなく駆け抜けましょう」
 と、先生。

「そこか!」
 指揮棒を振る先生へと狙いを定めるのは、飛行してこちらを見渡していたメッサーラ。
 先頭を進む高順氏や俺でなく、直ぐに騎馬軍の頭脳となっている存在を見極め直線を書いて迫る。

「にゃろ!」
 ダイフクの鞍に足を置き、そこから跳躍へと移ろうとしたところで、

「ぬんぅ!?」
 直線で迫るメッサーラが縦長の瞳孔を限界まで見開く。
 瞳孔には自分へと迫ってくる艶のある白い髪を靡かせた美女が映っていたんだろうな。

「速い!」

「そう言ってもらえると嬉しい限り」
 ベルによる迎撃。
 下方からの跳躍の速度に驚き、更には飛行で有利であるはずの自分が簡単に捕捉されていることに感嘆。
 レイピアによる斬撃には防戦とばかりに障壁魔法で対応。
 勢いのあった動きは完全に削がれ、

「背中を取らせてもらう」

「なんと……」
 二人が空中で止まる中を俺たちは通過。
 やっぱベルは凄い。
 正面に展開されたシルフィードに斬撃を防がれると、垂れてた尻尾を掴みロープ代わりに利用してから背中へとライドオン。

 完全に首を刎ねることが出来る間合いなのだが、

「それはしないのか」
 背を取られて振り払おうとしてくるメッサーラの背中に体を預けて乗りこなすことに注力していた。
 尻尾や翼を大きく動かしても振り払えないことにメッサーラは焦っている。

「殺してはならないと伝えておきましたので」
 乗るだけで仕留めない事を不思議がっていた俺に先生が一言。

 そして、

「主は次から次へと迫る者達に集中を」
 そう継ぐ。

「分かりました」
 ベルを見つつも馬上で残火を振るっていくのは止めない。
 高順氏やロンゲルさんたち騎兵に比べれば俺のはみっともないけども、みっともないなりに、

「マスリリース!」
 ダイフクに刃が触れるという恐れから思いっきり振れないのならば、遠距離で攻撃すれば良いじゃないの精神で三日月状の黄色い斬撃を放っていく。

「おお! 素晴らしい!」
 自分たちには出来ない芸当を羨んでくれるロンゲルさん。
 そのような芸当が出来ないから騎射と馬上槍術を磨きを上げるしかないと言いつつ敵を蹴散らしていく。

「各々がやれることをやればいいだけのこと」
 言いつつ高順氏は更に加速。
 メッサーラがベルに手間取る中で混乱に陥った敵兵をなぎ倒していった。
 駆るワーグも戦闘に参加。
 駆けつつ前足の爪を相手へと振るい、乗り手の攻撃を掩護している。

「強烈な鉄の爪での攻撃だな」
 チコにもこういった装備がある以上、ワーグのような巨狼にも当然ある。
 職人さん達が良い仕事をしている。

「このまま突き進むんですか? 突き進んで相手側のトップの頭を取るので? 勝つつもりはないと言っていたようですが」
 先生へと質問するのはコクリコ。
 取れるなら自分がとばかりに琥珀の瞳をぎらつかせながら制限高度のある飛行で先頭に躍り出ようとしているところを高順氏に再び止められる。

「取ることはしません。こちらの派手な登場を記憶してもらうだけです」

「ぬうぅぅぅぅ」

「口惜しそうに唸らず、ここまで温存していた一撃にて障害となる木柵を吹き飛ばしてください」

「いいでしょう」
 練りに練ったワンドから放たれる赫々とした球体。
 アドンとサムソンは今回、飛行に利用しているからかお休み。
 その代わりにシャルナが直上でファイヤーボールを掩護するようにアッパーテンペストを木柵の下方から顕現させる。
 爆ぜる火球と立ち上がる竜巻。
 混ざることで火炎竜巻となって木柵を薙ぎ払っていく。

「ああいったのを俺も完成させたいんだよな」
 右手の残火と右腰に佩いたマラ・ケニタルを一瞥。
 
「励む事だな」

「もちろんですとも」

「ならばまずはここを乗り越えよう」

「了解です」
 高順氏に応えつつマスリリース。
 うむ! これなら本当に余裕だ。
 俺みたいな騎乗スキルが低いのは遠距離をバシバシ放つのが楽でいい。
 三日月状の黄色い斬撃に同色の燐光が尾を引けば、斬られた相手の血しぶきと共に宙を彩る。
 あまり見たくない光景だけどもそういう考えのままに戦えばそれが隙となって一緒に行動する味方にいらぬ被害が出てしまうので冷酷に振っていく。

「勇者もいずれは自身の下半身だけで騎乗できるようにならないとな」

「修練します。今は姿勢制御に協力してくれているダイフクに感謝するだけです」
 高順氏だけでなく騎兵の面々は両手で槍を持って刺突。
 手綱を握ることなく安定した騎乗はそれだけ練度が高いから。
 練度の高さに加えてワーグや馬たちが体を支えてくれるからこそ、安心して両手で武器を持つことも可能。
 
 人獣一体、人馬一体。
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