異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1818【普及してるからね】

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 ――てなわけで俺もお世話になった練兵場に、対決する二人とラルゴ、モーリスのおっさん。ミルモンを伴って移動。
 
「立会人は不肖わたくし――遠坂 亨が務めさせていただきます」

「「十分すぎる立会人ですよ」」
 あら、息はあっているご様子。

 今回は俺が訓練しないと理解したのか、先に使用していた周囲の方々も退出することはなく、眺めるといった流れ。 
 そんな中で言葉をシンクロさせる二人がお互いに木剣を持って向かい合う。

「こうやって見ると小柄ですね」

「まあな。リーバイも細身だけどな。ちゃんと食ってんのか?」

「十分にいただいていますよ。あと気安いです」

「そりゃお前達の隊長になるからな。歩み寄るのは当たり前だろう」

「自分は認めないですから!」

「じゃあ――」

「う!?」
 おっ! 中々の闘気。
 ソドンバアムが木剣を正眼で構えたところでリーバイが背を少し反らせる。
 気圧されたな。

「認めてもらわないとな」
 言って俺を見る。

「後腐れがないようにきっちりとこの戦いで決めてくれ。では――始め!」
 二人の間に立ってから掲げていた手を勢いよく振り下ろす。

「いくぜぇ!」
 飄々としながらも裂帛な気を吐きつつソドンバアムが先手。 

「正面からとは生意気な!」

「生意気かどうかは対処してから言うこった」
 百五十とちょっとの小柄な身長が身を低くしての接近は石床を滑空するようなもの。
 加えて徐々に加速。
 コボルトのコルレオンに似た戦い方だな。
 体躯の利点と変則的な動きで捕捉を難しくしている。

「その程度の動きで!」
 迫ってくるソドンバアムにタイミングドンピシャで下方四十五度に向けての横薙ぎ。
 細い体だけどもいい風切り音を生み出している。

 まあ、

「風切り音だけじゃな」

「だね~」
 横薙ぎは当たらない。
 急加速からの急停止。バランスを崩すことない体幹はお見事だとミルモンも左肩からお褒めのお言葉。
 身長が低いからこそ重心がしっかりとしているってのもあるのかな。
 横薙ぎ直撃コースだったけども、切っ先に触れる手前で止まってからの、

「一本だな」
 低い姿勢から足のバネを活かし、体を起こす勢いで下方から鋭い突き。

「一本はまだ早いですよ!」
 気概ある声から見舞うのは右の裏拳。

「剛胆だな」
 刺突を拳で払われれば距離を取るソドンバアム。

「本物の剣なら今ので利き腕の右は使い物にならないぞ」

「刃ではなく側面を叩いているので問題ないですよ。それに――」

「それに?」

「自分は戦いの中で片腕を無くしても大丈夫なように両利きにしてるんで!」
 覚悟決まってるな。
 その決まった覚悟のままに今度はリーバイから仕掛ける。
 先手と違い、後手は身を屈めることなく木剣の切っ先を天井へと向け、その姿勢を維持しつつの驀地。
 握った柄の位置は自分の耳の高さに置く。

「八相――というよりは蜻蛉だな」
 まあそうだよな。

「キィエェェィィィィィィィィィィィィィィイ!!」

「なんだそりゃ!? 狂ってんのかよ!」
 全身全霊の振り下ろし。
 猿叫からの振り下ろし。
 王都兵だけでなく私兵もそう。下手すりゃ内のギルドメンバーの新人もそうかもしれない。
 俺が広めたなんちゃって示現流は王都で普及。
 二の太刀いらず。初太刀に全てをかける振り下ろし。
 正面から奇声を上げながら迫り、勢いよく振り下ろす。
 受ける側なら誰だって驚く。
 初見なら特にだろう。
 次の攻撃を考えることなく振り下ろす一撃は躱されれば隙に繋がるが、躱されなければ隙を気にすることもない。
 ただ一太刀で決めればいいだけ。
 失敗したら死ぬだけ。
 そういった思考で打ち込む姿は正に死兵。
 だからこそ受ける側は圧に居竦んでしまうってのもあるんだよな。
 示現流を使ってくる薩摩バーサーカーを相手にしていた人達はさぞ怖かったろうよ。

「うっ……おぉ……痛ぇ……」
 ガァァァン――と、木剣から生じたとは思えない激しい音が練兵場に広がり壁に当たって反響する。
 周囲で手を止めて見ている兵達も今の一撃には圧巻されたようで、目を見開いて驚きの声を上げる。

「やるじゃん」
 強烈な振り下ろしにミルモンも感心。
 と、もう一つの意味もあるんだろう。

「くそぉ!」
 悔しそうな声を出すのはリーバイ。
 渾身の一振りを受け止められるとは思っていなかったようだ。
 それでもソドンバアムを後退させることは出来た。
 全身全霊の一振り故に、回避や受けきってからの反撃が一番の驚異になるが、そういったことを許さない一振りだったようだな。

「細身の体からとは思えないな……。手が痺れるぜ……」

「小柄なのに受け止めるなんて!」
 悔しそうに再び蜻蛉の構え。

「一芸かよ」

「対峙する敵と戦場で何度も相見えるなんて稀でしょう。それに――確実にその場で屠れば一芸でも十分!」

「そりゃそうだが。物騒な言い様だ」
 リーバイによる再度の突撃。

「物騒だし――」
 身を低くしての迎撃姿勢から。

「全力過ぎるんだよ! さっきのは当たってたら死んでるぞ!」
 お怒りのソドンバアムだが、

「チィィィエェェェェェェェェェェェェェエ!!」
 お構いなしに初撃同様に全力で振り下ろすリーバイ。

「調子に乗りすぎだな!」

「なっ!?」
 こりゃお見事。
 リーバイの振り下ろしに合わせて、あえて前へと突っ込みそのまま股を潜ってみせる。
 小柄だからこそ出来る芸当だな。
 
 背後を取って決着――、

「おお!?」
 思わず声を漏らす俺。
 しなやかなリーバイの体。
 反転して対処するのではなく、背を大きく反らし背後から攻撃を加えようとしたソドンバアムの一撃を払ってみせた。

「柔らかすぎだろう」
 トリッキーな動きで対処してきたことに感嘆しつつ笑みを見せるソドンバアム。

 楽しんでるってことは余裕でもあるってことだな。
 
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