異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1829【要塞の南側へ】

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「コクリコの言うことは気にしなくていいですからね」

「いえ、事実でしょう。違うところをあげるなら、実力が本物というのは過剰な評価です。生中な存在だからこそ御せると判断したのでしょう……」

「う~ん気持ちいい」
 かなり陰湿な気を漏らしているようでミルモンはご満悦。

「暗くなるな! 生真面目なのはいいが度が過ぎればいつまでも引きずる!」
 初めて耳にしたかもしれないカトゼンカ氏の大きな声。
 次にはバシリと背中を叩く。

「実力は本物である。だからこそお前はこの地で少しでも勇者殿の役に立とうとしているのだろう?」

「その通りです」

「ならばそれを遂行せよ。国では新王がお前に負けじと動いている」
 自分よりも遙かに幼い王が励んでいるのだから前線のお前はそれ以上に励めとカトゼンカ氏。
 存外、熱い人物である。

「その通りですよ。操られた恥辱を拭いたくはないのですか? 先に進めば必ずぶつかる存在となるのが貴男を操っていた存在です。一矢報いてやろうと思うべきです。エルフなのですから文字通り一矢で」
 あら、格好いいことを言う。
 ヘコませたと思えば、姐御肌を見せて励ますコクリコ。
 この発言を受ければ顔を伏せての沈黙。

 ややあってからの、

「分かりました! やってみせましょう!」

「そうでなくてはな。同じ戦場へと立つ中でいつまでも落ち込まれていては、お前への気づかいに注力しないとならない。そうなれば必殺必中の矢を放てなくなる」

「心配をおかけして申し訳ありませんルミナングス様。これより戦場では一切の不安を与えないように励みます」
 快活でよし。
 前向きになってくれたのか。心配を与えないために実が伴っていない発言をしただけなのか。
 声音からして前者なのは分かってはいるが、こういった時に頼りになるミルモンへと目を向ければ、陽の気になっているということで若干だが不満げだった。
 ルーシャンナルさんの隠の気は美味だった模様。
 ミルモンの判定がそうなのであれば――、

「力を貸してください」

「微力ではありますが、かならず結果を出して見せます! この命を存分にお使いください!」

「気負わなくていいので出来るところをお願いしたいと思っています。以前にも言いましたが、悠久とも思える天寿を全うしてください」

「分かりました」

「では、芸達者なルーシャンナルさんにお任せしたいのは――」

「ゴブリン達ですね」

「理解が早くて助かります」
 ゴブリン騎獣隊はアルスン翁が担当。
 今後は指導役から指揮者として参加くれるようだが――言っても翁だからな。
 無理はさせられない。
 やはり指揮者と部隊を繋ぐ存在が必須となる。
 となれば実力と多芸を活かしてのルーシャンナルさんが適任だ。
 以前から考えていたし、本人もやる気に漲っているので託したい。

「前線指揮として騎獣隊をお任せしたいです」

「強行偵察という役割でしたね。自分もスカウトとしての経験を持っていますので、その能力を十二分に発揮させていただきます」

「有り難うございます。ということですのでルミナングスさん。ルーシャンナルさんを自分の私兵へと組み込んでもいいでしょうか」
 上役には筋を通しておかないとね。

「好きなだけこき使ってください。勇者殿の願いは実行可能なことならば聞き入れてほしいと新王からも言われています」

「有り難うエリス」
 エリシュタルトの方角に向かって一礼。
 実行可能ならばって無理強いさせないところにエリスの優しさが垣間見える。
 流石は我が弟子である!
 これで騎獣隊の戦力が大幅に向上したと考えていい。
 ルーシャンナルさんとゴブリン達の何人かはエリシュタルトでも交流があったしな。
 アルスン翁の負担も軽減できて言うことなしだ。
 
 ――。

「では皆々――行こうか!」
 要塞の門が開かれ王様が南側へと踏み入れば、よく通る声を発する。
 これに喚声が続けば、堅牢な要塞防御壁が震える。
 難攻不落なこの要塞を震わせる声とはね。

「心強い限り」

「その通りだな!」
 と、王様。

「戦いへと赴く訳ですからね。流石に上半身裸ってのは止めてくれましたか」

「次の拠点までは裸のつもりだったのだがな」
 つもりだったんかい……。
 隆起した筋肉を見せる事で兵達を鼓舞するという考えがあったようだ。
 この王様、脳みそも筋肉に支配されてしまったか……。
 ガリオンと一緒で筋肉至上主義になってる。
 みっともないからちゃんと鎧を纏うように! と、ロマンドさんからお叱りを受けたという。
 気迫ある諫言に圧倒されたそうで素直に従ったそうな。
 アンデッドに圧倒される大陸代表ってどうよ。
 まあ、ロマンドさんは強いからな。天空要塞でも精鋭のストームトルーパーを危なげなく倒しているし。
 そんな方を怒らせたら王様もボコボコにされるかもね。
 周りが止めようとしても大英雄であるリンの眷属による折檻となれば止めるのも難しそうだしな。
 加えて爺様がその光景を見ていれば、間違いなく必要な折檻と認定しそう。

「まずはここへと集った二十万で行ってみよう」

「後で残りの半分が合流するって感じでしょうね」

「そうなるな。兵糧も十分にあるが、それでも――」

「消費は抑えないといけないですからね」

「何があるか分からないからな。前線で兵糧が枯渇するのだけは避けなければならない」
 総勢が四十万だからな。
 当然ながら全投入となれば兵糧の消費は現状の倍になる。
 相手が三百万を超えるのだから消費の心配をするよりも、戦力で少しでも差を埋めたいところなんだけどな。

「戦力は逐次投入と考えています。最終的に全てを投入しますが、それは蹂躙王ベヘモトにではありません」
 と、先生。

「その後方にいる者にこそ投入するべき力ですので」
 と、荀攸さんが続く。
 四十万を動かすには動かすが、蹂躙王ベヘモトとの戦いが始まって全戦力を即投入ってのは余程のことが起こらない限りはないとのこと。
 
 そしてそんな事は起こさないと荀氏の二人。
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