異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1830【元気な老人たち】

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「でもなんと言っても三百万だからね。こっちの思惑で抑え込むのは難しいことだよ」
 ミルモンの言は正しいが、

「問題ありませんよ」
 と、簡単に言い切ってくれる。
 自信ある先生の返しに横にいる荀攸さんも鷹揚に頷く。
 荀氏二人の自信ある姿を目に出来れば――負けねえなってなるよ。

「そもそも三百万いたとしても――」

「こっちと同様、相手も全てを動員というわけにはいかないですよね」

「その通りです主。一族で領土統治を行っている。しかも家督を決めていないとなれば、世継ぎ候補たちはその時の為に力を蓄えておきたい」
 易々と自分の子飼いを戦場に出したくないというのはあるだろうとのこと。
 その中でも嫡子であるラダイゴロスは懸命になって力を見せているが、上手く行っていないから焦りもある。
 後継者としての資格を問われる焦りと、兵を損失して今後の為の力が削がれてしまっているという焦り。

 加えてガガドムサという存在。

 自身だけでなく、きな臭い周辺に苛まれれば平常心を保ち続けるのも大変だろう。
 ガガドムサを除いても候補はあと二人いるんだしな。
 四人が四人とも周囲に気を配るとなれば、いくら絶対的な権力を持つ父親である蹂躙王ベヘモトの命令が下ったとしても全力投入ってのは躊躇するだろう。
 先生と荀攸さんは相手方が抱くそういったジレンマを上手く利用するわけだ。
 以前、舌先三寸っても言ってたしな。
 相手方には大いに取り乱してほしい。
 そうすることで本丸である蹂躙王ベヘモトへの道を切り開きやすくなるだろうからね。

 ――。

「大したもんだ」
 王様たちと新たなる拠点に到着したのは薄暮に差し掛かる頃。
 一日半をかけての移動だった。
 拠点の側では篝火の薪をくべる準備を行っている者達もいる。

「短期間でまあ――」
 高度な土木建築技術を有している方々には頭が下がるというものだ。
 ゲッコーさん命名の黒鍬が中心となって拠点然としたものを築いてくれている。
 
 順来来という喊声でお邪魔した時は木柵程度の脆弱な拠点だったのにな。

 ――拒馬に空堀。空堀を作る工程で生まれた土を盛っての土塁。
 土塁の奥には放置された木柵をそのまま活用して強化した防御壁。
 短期間で大軍勢を収容できる規模の工事を完工するのは土台無理だが、それでも拠点として体を成しているのが凄い。
 使える物を活用して工程を短縮するのは職人達の妙ってところだ。
 木柵には等間隔で丸太の杭が追加で打ち込まれ、それと木柵をロープで括り付けて固定。強度を高めている。
 残った丸太で拠点の出入り口を守るために拒馬を製作して配置。
 拠点外周にも丸太を使用した障害物が点々と設置されていた。

「あれだな。ノルマンディー上陸作戦で海岸に設置されてた障害物を模してるな」

「ノルマンディーとな?」
 王様が首を傾げる中で、

「確か――チェコの針鼠と呼ばれるモノですね」

「その通りです」
 荀攸さんが答えを口にすれば、そうだと先生。
 先生はともかく荀攸さんもか。
 荀氏二人揃って近代、現代までの歴史を修得済みみたいだな。
 
 ――障害物を眺めつつ防御力の強化が施された拠点内へとお邪魔する。
 以前は木柵を開いて出入りしていたが、丸太による門へと進化していた。
 開いた先で眼界を支配するのは数多くのテント。
 木造や石造建築まで発展させるのは流石に難しいか。
 それでも王様やお偉方専用とばかりの大きなテントが用意されている。
 モンゴルのゲルみたいな円形構造。

「他のモノより大きいな。同じ大きさでよかったのだが」
 自分たちが無駄に場所を広く占拠すれば、それだけ兵達の休まる場所が狭まると賢君然とした発言。

「王だけで使わずとも家臣団や諸侯の方々と使用すればよいでしょう。そもそも軍議室としての役割もありますので我々も利用させていただきます」

「是非に使っていただきたい」
 先生たちは王様たちと一緒か。
 
 俺たちは――、

「トール」

「駄目だぞコクリコ。特別なのは駄目だ。皆と一緒じゃないとな」

「ぬぅん」
 残念そうに声を漏らす。
 ギャルゲー主人公の家を召喚したいのはやまやまだが、やはりここは皆と一緒のテントじゃないとね。

「コクリコは我々と同じテントを使えばよい」
 と、爺様。
 テントであってもそこいらの屋敷と比べても負けることのない特注品らしく、それを聞いたコクリコは快諾。
 孫娘みたいな立ち位置になっているから喜ぶ姿に爺様は顔を綻ばせている。
 
 って、

「ここまでついてきてるんですね爺様。無茶しないでくださいよ」

「心配無用。孫達の戦いをどこまでも見守ってやるぞ!」
 元気なのはいいことだけども、

「この拠点に居座ってもらいますので、今後の心配はご無用です」
 執事長のスティーブンスに言われれば綻んでいた顔が渋面となり、皺を深く刻む。
 爺様には俺たちが南へと移った時、南伐において重要拠点となるこの地で指揮を執ってもらう。
 最前線への兵員と物資輸送。前線にて回復魔法やアイテムでも難しい四肢の欠損などの負傷兵の治療。
 更には現状の拠点をより強固な要塞化へとするための陣頭指揮も執ってもらいたいというのが先生たちの考えのようだ。

「爺様にしか出来ない仕事だね」

「孫に私にしか出来ないと言われるなら実行するしかないな!」
 孫の発言は効果抜群のようで、駆け足で専用のテントへと向かう。
 手にした杖が役割を果たせないほどに元気だ。

「爵位をお譲りになって以降、活力が湧いて何よりです」
 呆れつつも嬉しそうなスティーブンス。
 俺たちに典雅な一礼をすれば高速移動で後に続く。
 元気な老年と中老である。
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