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PHASE-1840【諛言子爵】
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通信機の向こう側に進展があったことで、こちらも小休止とばかりに皆してお茶を口に含む。
「ふぃぃぃ~」
バリタン伯が長い呼気。
緊張で喉が渇いていたようで、カップの中身を一飲みで空にすれば御代わりを所望。
一杯目同様ぬるいのが欲しいとリクエストすれば直ぐさま次が用意される。
注いでくれるのは爺様の執事であるスティーブンス。
緊張で渇いた喉を潤すためにあえてぬるめのものを用意するという気配り。
爺様の側で補佐する人物だ。場の状況を把握する能力が高いのは当たり前。
バリタン伯が喉を再度、潤すころには他の面々も次を欲していた。
皆、緊張していたのは一緒か。
仕事が早く、欲している温度のお茶を出してくれるスティーブンスに皆さん満足といったところ。
「馬車の車輪音からして常歩での移動のようですね」
「そのようですね。警邏がいるのですから相手方の拠点はそこまで遠くはないと判断してよいでしょう」
荀攸さんと先生が言葉を交わせばそこにゲッコーさんが参加し、ハリエットの報告では警邏が見回る距離なら直ぐにこちらへと馬車が来るだろうということだった。
ざっと四半刻――三十分ほどとのこと。
わずかではあるが心身を弛緩させる時間が生まれれば、各々、腰を下ろして談笑を始める。
そんな中で、
「ミルトンめ! 腹立たしいが流石とは言っておかないとな」
「然り」
バリタン伯にナブル将軍が続く。
認めたくはないが認めないといけないという思いが二人からは出ていた。
「なんか気になりますね」
俺もそう言いたかったが先にコクリコが二人へと問うていた。
「あの者は口八丁だけで自分の立場を守り続けた男なのだ」
「口八丁ですか」
「そうだ。佞言を巧みに使用し相手の懐に入り込むのが上手い。武の実力は皆無。政に関しても下の下。だが口だけは上手くてな。おべっかで周囲の者を頼って動かすのが上手くもあった」
「なるほど。裏切りが明らかになるまであの者は皆さんと行動していたのですから当然、動かされていたのは皆さんということですね?」
「「「「ぐぬぅぅぅ……」」」」
鋭い一刺し。
話をしてくれたバリタン伯どころか王侯貴族の皆さんの表情を瞬時にして曇らせたコクリコ。
正鵠を射られてしまい、揃いも揃って顔を伏せてしまった。
良いように頼られて、あげく裏切られてもいるんだからたまったもんじゃねえよな。
「達者でよく回る舌によって子爵という地位にまで上り詰めたので?」
「コクリコ。それは違う」
と、爺様。
ミルトンの父親とは顔なじみだったそうだが、その父親が優秀だっただけ。
後を継いだミルトンの才能は平凡そのもの。
だが唯一、他者の懐に入り込むというのは上手く、その能力で家臣団での自身の立場を維持していたという。
「皆して巧言令色のミルトンや諛言子爵と揶揄していたものだ」
「当然それは本人の耳にも入っていたのでしょうね」
バリタン伯にコクリコが返す中で、
「知っていたからこそ、内心バカにしていたであろう陛下たちは見限られたのでしょうな」
「返す言葉もありません」
爺様に対して王様が深く頭を下げていた。
「王に責任はないでしょう。ああいった類いはどうやっても裏切ります。自分の尻に火の粉がついた程度であってもそれを払うことをせず、直ぐに敵方へと寝返る。自分の命が最優先ですからね」
と、先生。
だから爆弾首輪をつければ、今の状況から生き残る為に潜在能力を発揮してくれるだろうとのことだった。
事実、肝の据わった立ち回りだったしな。
「さて、そろそろじゃないでしょうか」
継いで発せば、先生のその発言に合わせたかのように馬車の動きが止まる。
『開門!』
ハリのある声が通信機から聞こえる。
次には重々しい音。
「鉄門って感じの重厚感ですね」
「ええ、次なる拠点はこのフレイヤの元となった拠点とは別物のようですね」
本丸とは違うみたいだけど、相手方前線の根拠地へといま正にミルトンのおっさんが入ろうとしている。
――蹄と車輪の音。これに周囲からのざわつき音も入ってくる。
人間が入ってきたことに疑問を抱いているようだった。
『まだですかな?』
『もうしばらくすれば主に会える』
『急な来訪でも謁見をお許しになってくれるとは――お心が広いようで』
『当然である』
誇ったように返してくる。
兵達がラダイゴロスに強い忠誠心を持っているというのがここでも伝わってきた。
誇らしく返せるほどには相手方の混乱は収拾できている模様。
今いる拠点は安心感を与えてくれるようだ。
――程なくすれば、
『お前が我が軍へと寝返った者か』
『はい。ミルトン・カザ・セークンと申します』
『それで――庇護を求めてきたと?』
『恥ずかしながら』
『ふんっ! 本当に恥ずかしい男だ!』
応対するのはラダイゴロス。
顔を合わせたことはないが、正々堂々としている存在だというのは理解できている。
だからこそミルトンのおっさんのような人物を嫌悪するのは分かっていた。
『しかしながら貴方様のお父上には……』
『黙れ! 父上が良いと判断しても俺が許可するものか!』
『なんと!? よもやお父上のご意向に逆らうとでも!』
『偉そうに! なにがご意向だ! 貴様如きがどうなろうとも父上は気にも留めん。そもそもが裏切り者である。こちらに置いておいても有害でしかない獅子身中の虫よ! 内部からむさぼり食われてもたまらん。とくに強欲で己の利権だけしか考えないような者なのだろうからな。さぞ悪食であろうよ』
『なんという言われようか! 今の発言は私を選んでくださった蹂躙王様への侮辱にもなりましょう!』
存外、強い語気で返すね。
リザードマンが指揮していた騎獣隊とは圧も違うだろうによく言い返す。
生きるために必死で決死な精神にて自分を奮い立たせている。
『なるものかよ! 裏切り者など我が眼界に入れることも我慢ならん。今すぐにでも塵芥と変えてやってもいいのだぞ!』
さしもの諛言子爵であっても、クソ真面目そうなラダイゴロスの攻略は難しいか。
裏切り者の佞言なんて端から耳にも入れないだろうから迎え入れる気もないようだ。
「ふぃぃぃ~」
バリタン伯が長い呼気。
緊張で喉が渇いていたようで、カップの中身を一飲みで空にすれば御代わりを所望。
一杯目同様ぬるいのが欲しいとリクエストすれば直ぐさま次が用意される。
注いでくれるのは爺様の執事であるスティーブンス。
緊張で渇いた喉を潤すためにあえてぬるめのものを用意するという気配り。
爺様の側で補佐する人物だ。場の状況を把握する能力が高いのは当たり前。
バリタン伯が喉を再度、潤すころには他の面々も次を欲していた。
皆、緊張していたのは一緒か。
仕事が早く、欲している温度のお茶を出してくれるスティーブンスに皆さん満足といったところ。
「馬車の車輪音からして常歩での移動のようですね」
「そのようですね。警邏がいるのですから相手方の拠点はそこまで遠くはないと判断してよいでしょう」
荀攸さんと先生が言葉を交わせばそこにゲッコーさんが参加し、ハリエットの報告では警邏が見回る距離なら直ぐにこちらへと馬車が来るだろうということだった。
ざっと四半刻――三十分ほどとのこと。
わずかではあるが心身を弛緩させる時間が生まれれば、各々、腰を下ろして談笑を始める。
そんな中で、
「ミルトンめ! 腹立たしいが流石とは言っておかないとな」
「然り」
バリタン伯にナブル将軍が続く。
認めたくはないが認めないといけないという思いが二人からは出ていた。
「なんか気になりますね」
俺もそう言いたかったが先にコクリコが二人へと問うていた。
「あの者は口八丁だけで自分の立場を守り続けた男なのだ」
「口八丁ですか」
「そうだ。佞言を巧みに使用し相手の懐に入り込むのが上手い。武の実力は皆無。政に関しても下の下。だが口だけは上手くてな。おべっかで周囲の者を頼って動かすのが上手くもあった」
「なるほど。裏切りが明らかになるまであの者は皆さんと行動していたのですから当然、動かされていたのは皆さんということですね?」
「「「「ぐぬぅぅぅ……」」」」
鋭い一刺し。
話をしてくれたバリタン伯どころか王侯貴族の皆さんの表情を瞬時にして曇らせたコクリコ。
正鵠を射られてしまい、揃いも揃って顔を伏せてしまった。
良いように頼られて、あげく裏切られてもいるんだからたまったもんじゃねえよな。
「達者でよく回る舌によって子爵という地位にまで上り詰めたので?」
「コクリコ。それは違う」
と、爺様。
ミルトンの父親とは顔なじみだったそうだが、その父親が優秀だっただけ。
後を継いだミルトンの才能は平凡そのもの。
だが唯一、他者の懐に入り込むというのは上手く、その能力で家臣団での自身の立場を維持していたという。
「皆して巧言令色のミルトンや諛言子爵と揶揄していたものだ」
「当然それは本人の耳にも入っていたのでしょうね」
バリタン伯にコクリコが返す中で、
「知っていたからこそ、内心バカにしていたであろう陛下たちは見限られたのでしょうな」
「返す言葉もありません」
爺様に対して王様が深く頭を下げていた。
「王に責任はないでしょう。ああいった類いはどうやっても裏切ります。自分の尻に火の粉がついた程度であってもそれを払うことをせず、直ぐに敵方へと寝返る。自分の命が最優先ですからね」
と、先生。
だから爆弾首輪をつければ、今の状況から生き残る為に潜在能力を発揮してくれるだろうとのことだった。
事実、肝の据わった立ち回りだったしな。
「さて、そろそろじゃないでしょうか」
継いで発せば、先生のその発言に合わせたかのように馬車の動きが止まる。
『開門!』
ハリのある声が通信機から聞こえる。
次には重々しい音。
「鉄門って感じの重厚感ですね」
「ええ、次なる拠点はこのフレイヤの元となった拠点とは別物のようですね」
本丸とは違うみたいだけど、相手方前線の根拠地へといま正にミルトンのおっさんが入ろうとしている。
――蹄と車輪の音。これに周囲からのざわつき音も入ってくる。
人間が入ってきたことに疑問を抱いているようだった。
『まだですかな?』
『もうしばらくすれば主に会える』
『急な来訪でも謁見をお許しになってくれるとは――お心が広いようで』
『当然である』
誇ったように返してくる。
兵達がラダイゴロスに強い忠誠心を持っているというのがここでも伝わってきた。
誇らしく返せるほどには相手方の混乱は収拾できている模様。
今いる拠点は安心感を与えてくれるようだ。
――程なくすれば、
『お前が我が軍へと寝返った者か』
『はい。ミルトン・カザ・セークンと申します』
『それで――庇護を求めてきたと?』
『恥ずかしながら』
『ふんっ! 本当に恥ずかしい男だ!』
応対するのはラダイゴロス。
顔を合わせたことはないが、正々堂々としている存在だというのは理解できている。
だからこそミルトンのおっさんのような人物を嫌悪するのは分かっていた。
『しかしながら貴方様のお父上には……』
『黙れ! 父上が良いと判断しても俺が許可するものか!』
『なんと!? よもやお父上のご意向に逆らうとでも!』
『偉そうに! なにがご意向だ! 貴様如きがどうなろうとも父上は気にも留めん。そもそもが裏切り者である。こちらに置いておいても有害でしかない獅子身中の虫よ! 内部からむさぼり食われてもたまらん。とくに強欲で己の利権だけしか考えないような者なのだろうからな。さぞ悪食であろうよ』
『なんという言われようか! 今の発言は私を選んでくださった蹂躙王様への侮辱にもなりましょう!』
存外、強い語気で返すね。
リザードマンが指揮していた騎獣隊とは圧も違うだろうによく言い返す。
生きるために必死で決死な精神にて自分を奮い立たせている。
『なるものかよ! 裏切り者など我が眼界に入れることも我慢ならん。今すぐにでも塵芥と変えてやってもいいのだぞ!』
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裏切り者の佞言なんて端から耳にも入れないだろうから迎え入れる気もないようだ。
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