異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1841【更に悪化】

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 裏切り者を受け入れたくないというのはラダイゴロスの性格上わかっていたことでもあるが、しかしこれでは――、

「いいですよ。今こそ高らかに吠えなさい!」
 俺が心配する中、なんの心配もないとばかりに先生が口を開く。
 その言葉が向こう側に伝わったかのように、

『この狭量――ラダイゴロスは世継ぎに能わず! ガガドムサ様こそが次の蹂躙王ベヘモトに相応しい!』
 張り裂けるような劈く声は所々で裏返っていたが、気概ある大音声だった。
 通信機からの声を最も近くで聞いていたゲッコーさんが片目を閉じて顔を歪ませるくらいに。
 ゲッコーさんでそうなんだからな。真正面から聞かされたラダイゴロスは驚いたことだろう。
 だからなのだろう、通信機の向こう側には静寂が訪れた。
 言葉をぶつけられた当人と忠誠心の高い者達は呆気にとられているようだが、それもわずかなこと。
 当人、そして忠誠を誓う者達の怒りから来る感情が体内で溜まりに溜まっていけば――、

『『『『貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!』』』』
 怒気の決壊。
 怒号の次にはシャンシャンといったキレの良い金属の摩擦音が聞こえてくる。
 間違いなく鞘から白刃を抜いた動作。

『ひぃぃぃ……』
 あ……。当然とばかりに心が折れた悲鳴を上げる。
 死を感じてしまえば流石にミルトンのおっさんの胆力では無理があるか。

「どうなりますかね」

「問題ないかと。もう一度、勇気を絞り出すことが可能であれば」
 後方には自分を守ってくれている目に見えない護衛という名の監視役がいる。
 それを頼りにもう一声と先生。

『す、直ぐに武をちらつかせる短慮な行動。愚かしい! そのような浅さが原因で何度も何度も王たちに煮え湯を飲まされるのだ!』

『ならばその煮え湯というのを貴様にも味わってもらおうか!』

『それは良い提案だな。我らが主を侮辱したことは許されん!』
 と、この声は道中で打ち解けていたリザードマンの声だな。
 相手側はミルトンのおっさんをる気満々。
 ここで言動を止めてしまえば直ぐさま実行に移るかも知れない。
 侮辱されたラダイゴロス本人もそれを止めようとはしないようだ。
 二心を抱く者を信じていないようだからな。さっさと処してしまいたいというのがあるのだろう。

『短慮! 短慮である! だからこそガガドムサ様が相応しいのだ! 蒼穹の如きお心を持っていらっしゃるガガドムサ様こそが最高! 短慮な総領息子は総領すべおさにあらず!』

『まだ言うかこの男は! 良く滑るその舌を切り刻んでから煮え湯を飲ませてくれる!』
 凄まれてしまえばここでも悲鳴を上げるおっさん。
 状況からして体を丸めているようで、その姿をラダイゴロスの兵達が馬鹿にしながらこちらへと伝えてくれる。

『覚悟せよ!』

『あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!』
 一帯にまで響き渡る悲鳴が上がったその時――、

『待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!』
 ドスドスという重々しい音と共に悲鳴をかき消す野太い声が罵詈雑言を打ち消す。

『何用だ!』
 と、ここへ来た理由を述べよ! という強い声を一人が発せば、

『無論その男を我らが主のところへと連れて行くのだ』

『何を言うか! この者は不敬罪でこれから処すのだ! トロールは引っ込んでいろ!』
 重々しい足音の主はトロールか。

『不敬罪? 真実を述べただけではないのか?』
 小馬鹿にした返しだった。
 この世界のトロールって俺の知っているのとは違って、結構、理知的に喋るよね。
 例外もあったりはしたけども。

『この者は明らかに怪しい。なのでこちらで処理をする』

『ラダイゴロス様。確かにこの地では貴方様の決定が絶対。ですが――耳障りの良くなかった発言だったからといって、命を直ぐに奪おうというのはいかがなものか。裏切り者ではあってもその者は今は蹂躙王ベヘモト様の軍門に降っております。貴方様に生殺与奪の権限はございません』

『なにが言いたい!』

『その男の所有権は貴方様の父君である蹂躙王ベヘモト様にあると言っているのです。よもや父君の所有物を奪おうとしているので?』
 凄いなこのトロール。俺が思っている以上に理知的だ。
 理路整然と語るもんだから、熱くなっているラダイゴロスと比すればどちらが説得力のある発言をしているのかは明白。

 だが――、

『去れ十四男様の配下よ。ここは我々の拠点である』

『我々も間借りをしているので権利は些かだがあるはず』

『そんなモノはない!』

『怒りのあまり分別もつかぬか。切っ先を向ける意味を理解しているのかリザードマン?』
 と、同時にガシャガシャという音。

『貴様ら!』

『そちらが先に向けたのだぞ』
 冷静なトロールがそう返す。
 どうやらトロールの援軍として、ガガドムサ側の駐留している兵達が駆けつけた模様。
 一触即発ってところか。
 前回から積もり積もっているからな。刃傷沙汰になってもおかしくはない状況。
 でもってこんな状況になっているのに、この場を収めることが可能な存在であるメッサーラが出てこない。
 この場にいたならここまで発展しないうちに止めていたはず。
 また何処かしらに気を揉んでいるってところか。
 
 ――俺が考えを巡らせる最中にも双方とも引き下がろうとする気配はない。

『本当にこのまま大事に発展させるので?』
 と、トロール。

『そのつもりはない。お前達がここより去れば問題は起きないだろう』

『ここより? それはこの場ですか? それとも――この地からですか?』

『一応はまだ共同戦線という体は保っている。いなくなればこちらも困るというもの。本音はこの地から立ち去ってほしいがな』

『なんだと! 生意気な!』

『控えておけ』
 血気盛んなガガドムサの兵達を押しとどめていると思われるトロール。
 総領息子に対しての言葉づかいではないが、そこを咎めないところからしてトロールにも思うところがあったようだ。
 で、一般兵の総領息子に対しての非礼な言い様から察するに、ラダイゴロスとガガドムサの関係性は以前よりも更に悪化しているのが分かる。
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