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視線は南へ
PHASE-1842【ヨイショ】
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相手方の兄弟関係と指揮下の兵達の険悪さが増していることを理解したところでチラリと側に立つ先生、そして視線を移して荀攸さんを見れば……。
「うわぁ……」
二人揃って悪魔のように口端を吊り上げている。
両陣営の関係性が最悪だということが通信機から伝わってきたのが嬉しくてたまらないようだ。
『立ち去れという発言は問題になりますが――これはここだけの話にしておきましょう』
『そうか。冷静な者がいてくれて助かるな』
『まるで貴方様は冷静であるかのような言い様ですね?』
『フンッ!』
『まあ良いでしょう。問題にしないかわりにこちらはこの男を連れて行きます。これ以上、面倒事も嫌でしょう』
言われればラダイゴロスは強めに舌打ちを一度、
『勝手にしろ!』
と、継いだ。
『ではミルトンといったな。我々に続け』
『は、はい! あの~』
『なんだね?』
『私はガガドムサ様に謁見できるのでしょうか?』
まるで期待に胸を膨らませるかのような喜びに満ちた声だった。
諛言子爵の本領発揮ってところなのかな。
耳心地の良くなる声音を耳朶へと入れれば、
『可能だろう』
トロールの返しに、
『なんと光栄な! あのガガドムサ様のご尊顔を拝見できるとは! 偉大なる次代の寵児にして現王を超越するであろう俊英!』
『おい、そのような発言をこのような場でしてはならん』
『申し訳ない。私を苦しめた暗君コールブランド。そして勇者とその仲間達を大いに苦しめたとされる御方だと捕らえられていた時に耳にしております。嫡子様では不可能なことを可能としてしまう戦略、戦術の天才奇才。そして皆様はそれに見事に従い見事な働きをした方々なのでしょう!』
おうおう……。なんか冒頭の俺たちのところは言葉に殺意が籠もっていて素晴らしい演技力だったな。
実際、本気で思ってんだろうけども。
まあその甲斐もあって、ガガドムサ派閥の連中はとても気持ちよくなっているようだ。
『場を弁えてほしいな。本当の事であってもそれを耳にして不愉快になる方々もおられるのだからな』
『――あ! これは失敬。偉大なる御方に会えると知り、舞い上がってしまいました! 英雄の物語を目と耳にし、思いを馳せる子供時代に戻った気分です』
『ハハハハハッ! 貴様は見所のある男のようだ。なるほど蹂躙王様が調略したのも頷けるというものですな!』
一人が言えば、
『確かにな』
冷静な声音でトロールが返す。
冷静な中にもわずかに愉悦を含ませた声の調子。
自分たちの主が褒められればそれで上機嫌になるのはラダイゴロスのところと一緒。
質はどうあれこちらも忠誠心は高い。
『それで――どれほどでお会いになれますか?』
『ここにはおられない。所領であるネグーサまではここよりその馬車で二日ほどとなるだろう』
『ネグーサですか。以前は風光明媚な地ということでしたな。私は行ったことはありませんが』
『今も変わらん。ガガドムサ様はあの美しい地を気に入っておられるのでな。汚すことを許さぬ』
『配下を愛し、自然も愛する。正に王の資質を持っている御方』
ここでもおべっかすれば、
『そうであろう! 次なる蹂躙王はガガドムサ様こそ相応しい』
『それもそうですが――』
ここでミルトンのおっさんは含みのある感じを演じているようで、
『なんだ?』
当然、気になったトロール。
『貴方様は身の丈が大きいので――』
『耳を貸せ――か?』
巨体を屈めているであろうその耳に向けてミルトンのおっさんは――、
『蹂躙王の称号もですが――次なる魔王の称号も――』
小声をしっかりと拾ってくれる単一指向性のマイクに感謝。
これに対して、
『ぬぐんっ!?』
驚きから唾を豪快に飲み込めばドズンッと尻餅をついたご様子。
『貴様――中々に剛胆な事を口にする』
『ですが万物を愛される慈悲ある御方こそが世界の統治者であるべき――そう思いませぬか?』
この言葉に静まり返ると、
『フッ――フハハハハハッ! 気に入ったぞミルトン! 貴様は本当に理解しているな!』
『真実を述べただけでございます』
『ますます気に入った! ガガドムサ様もお前に会いたいことだろう。暗君は有能な者を手放してしまったようだな』
『故に暗君なのでしょう』
『違いない! 我らが主の元で大いに励んでみせよ!』
上機嫌なこって。
冷静なトロールだったようだが自分たちの主がベタ褒めされれば気持ちよくてたまらないようだ。
主だけでなく自分たちのこともサラッと褒め称えているのが小気味よかったんだろうな。
――再び蹄鉄と車輪の音が通信機から聞こえてくる。
明るい声が飛び交っている。
ラダイゴロスの兵とは違ってガガドムサの兵は喜色に染まった会話をミルトンのおっさんと交わしていた。
佞言によって気持ちよくなった連中。
冷静な思考を有しているトロールでも嬉しくなっているわけだから、それよりも単純そうな連中はミルトンのおっさんのおべっかを自分にも自分にもと欲していた。
こんな調子でガガドムサのいる領地ネグーサまで二日か。
「あのおっさんの喉が枯れなければいいですね」
「問題ないぞトール」
お! ちょっと声に苛立ちを滲ませていますね。
民に暗君と言われても素直に受け止めるだろうが、裏切り者にボロクソに言われれば頭にもくるよな。
「それで、心配ないとは?」
「あの男は他者を喜ばせる言葉を語らせれば滔々と――それこそ丸一日程度なら話し続ける事が出来る」
「それは凄いですね」
巧言令色や諛言子爵なんて言われるだけはあるな。
ネグーサへと到着する二日後には同行する連中の親密度はMAXになっていることだろう。
「うわぁ……」
二人揃って悪魔のように口端を吊り上げている。
両陣営の関係性が最悪だということが通信機から伝わってきたのが嬉しくてたまらないようだ。
『立ち去れという発言は問題になりますが――これはここだけの話にしておきましょう』
『そうか。冷静な者がいてくれて助かるな』
『まるで貴方様は冷静であるかのような言い様ですね?』
『フンッ!』
『まあ良いでしょう。問題にしないかわりにこちらはこの男を連れて行きます。これ以上、面倒事も嫌でしょう』
言われればラダイゴロスは強めに舌打ちを一度、
『勝手にしろ!』
と、継いだ。
『ではミルトンといったな。我々に続け』
『は、はい! あの~』
『なんだね?』
『私はガガドムサ様に謁見できるのでしょうか?』
まるで期待に胸を膨らませるかのような喜びに満ちた声だった。
諛言子爵の本領発揮ってところなのかな。
耳心地の良くなる声音を耳朶へと入れれば、
『可能だろう』
トロールの返しに、
『なんと光栄な! あのガガドムサ様のご尊顔を拝見できるとは! 偉大なる次代の寵児にして現王を超越するであろう俊英!』
『おい、そのような発言をこのような場でしてはならん』
『申し訳ない。私を苦しめた暗君コールブランド。そして勇者とその仲間達を大いに苦しめたとされる御方だと捕らえられていた時に耳にしております。嫡子様では不可能なことを可能としてしまう戦略、戦術の天才奇才。そして皆様はそれに見事に従い見事な働きをした方々なのでしょう!』
おうおう……。なんか冒頭の俺たちのところは言葉に殺意が籠もっていて素晴らしい演技力だったな。
実際、本気で思ってんだろうけども。
まあその甲斐もあって、ガガドムサ派閥の連中はとても気持ちよくなっているようだ。
『場を弁えてほしいな。本当の事であってもそれを耳にして不愉快になる方々もおられるのだからな』
『――あ! これは失敬。偉大なる御方に会えると知り、舞い上がってしまいました! 英雄の物語を目と耳にし、思いを馳せる子供時代に戻った気分です』
『ハハハハハッ! 貴様は見所のある男のようだ。なるほど蹂躙王様が調略したのも頷けるというものですな!』
一人が言えば、
『確かにな』
冷静な声音でトロールが返す。
冷静な中にもわずかに愉悦を含ませた声の調子。
自分たちの主が褒められればそれで上機嫌になるのはラダイゴロスのところと一緒。
質はどうあれこちらも忠誠心は高い。
『それで――どれほどでお会いになれますか?』
『ここにはおられない。所領であるネグーサまではここよりその馬車で二日ほどとなるだろう』
『ネグーサですか。以前は風光明媚な地ということでしたな。私は行ったことはありませんが』
『今も変わらん。ガガドムサ様はあの美しい地を気に入っておられるのでな。汚すことを許さぬ』
『配下を愛し、自然も愛する。正に王の資質を持っている御方』
ここでもおべっかすれば、
『そうであろう! 次なる蹂躙王はガガドムサ様こそ相応しい』
『それもそうですが――』
ここでミルトンのおっさんは含みのある感じを演じているようで、
『なんだ?』
当然、気になったトロール。
『貴方様は身の丈が大きいので――』
『耳を貸せ――か?』
巨体を屈めているであろうその耳に向けてミルトンのおっさんは――、
『蹂躙王の称号もですが――次なる魔王の称号も――』
小声をしっかりと拾ってくれる単一指向性のマイクに感謝。
これに対して、
『ぬぐんっ!?』
驚きから唾を豪快に飲み込めばドズンッと尻餅をついたご様子。
『貴様――中々に剛胆な事を口にする』
『ですが万物を愛される慈悲ある御方こそが世界の統治者であるべき――そう思いませぬか?』
この言葉に静まり返ると、
『フッ――フハハハハハッ! 気に入ったぞミルトン! 貴様は本当に理解しているな!』
『真実を述べただけでございます』
『ますます気に入った! ガガドムサ様もお前に会いたいことだろう。暗君は有能な者を手放してしまったようだな』
『故に暗君なのでしょう』
『違いない! 我らが主の元で大いに励んでみせよ!』
上機嫌なこって。
冷静なトロールだったようだが自分たちの主がベタ褒めされれば気持ちよくてたまらないようだ。
主だけでなく自分たちのこともサラッと褒め称えているのが小気味よかったんだろうな。
――再び蹄鉄と車輪の音が通信機から聞こえてくる。
明るい声が飛び交っている。
ラダイゴロスの兵とは違ってガガドムサの兵は喜色に染まった会話をミルトンのおっさんと交わしていた。
佞言によって気持ちよくなった連中。
冷静な思考を有しているトロールでも嬉しくなっているわけだから、それよりも単純そうな連中はミルトンのおっさんのおべっかを自分にも自分にもと欲していた。
こんな調子でガガドムサのいる領地ネグーサまで二日か。
「あのおっさんの喉が枯れなければいいですね」
「問題ないぞトール」
お! ちょっと声に苛立ちを滲ませていますね。
民に暗君と言われても素直に受け止めるだろうが、裏切り者にボロクソに言われれば頭にもくるよな。
「それで、心配ないとは?」
「あの男は他者を喜ばせる言葉を語らせれば滔々と――それこそ丸一日程度なら話し続ける事が出来る」
「それは凄いですね」
巧言令色や諛言子爵なんて言われるだけはあるな。
ネグーサへと到着する二日後には同行する連中の親密度はMAXになっていることだろう。
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