異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,842 / 1,861
視線は南へ

PHASE-1842【ヨイショ】

しおりを挟む
 相手方の兄弟関係と指揮下の兵達の険悪さが増していることを理解したところでチラリと側に立つ先生、そして視線を移して荀攸さんを見れば……。

「うわぁ……」
 二人揃って悪魔のように口端を吊り上げている。
 両陣営の関係性が最悪だということが通信機から伝わってきたのが嬉しくてたまらないようだ。

『立ち去れという発言は問題になりますが――これはここだけの話にしておきましょう』

『そうか。冷静な者がいてくれて助かるな』

『まるで貴方様は冷静であるかのような言い様ですね?』

『フンッ!』

『まあ良いでしょう。問題にしないかわりにこちらはこの男を連れて行きます。これ以上、面倒事も嫌でしょう』
 言われればラダイゴロスは強めに舌打ちを一度、

『勝手にしろ!』
 と、継いだ。

『ではミルトンといったな。我々に続け』

『は、はい! あの~』

『なんだね?』

『私はガガドムサ様に謁見できるのでしょうか?』
 まるで期待に胸を膨らませるかのような喜びに満ちた声だった。
 諛言ゆげん子爵の本領発揮ってところなのかな。
 耳心地の良くなる声音を耳朶へと入れれば、

『可能だろう』
 トロールの返しに、

『なんと光栄な! あのガガドムサ様のご尊顔を拝見できるとは! 偉大なる次代の寵児にして現王を超越するであろう俊英!』

『おい、そのような発言をこのような場でしてはならん』

『申し訳ない。私を苦しめた暗君コールブランド。そして勇者とその仲間達を大いに苦しめたとされる御方だと捕らえられていた時に耳にしております。嫡子様では不可能なことを可能としてしまう戦略、戦術の天才奇才。そして皆様はそれに見事に従い見事な働きをした方々なのでしょう!』
 おうおう……。なんか冒頭の俺たちのところは言葉に殺意が籠もっていて素晴らしい演技力だったな。
 実際、本気で思ってんだろうけども。
 まあその甲斐もあって、ガガドムサ派閥の連中はとても気持ちよくなっているようだ。

『場を弁えてほしいな。本当の事であってもそれを耳にして不愉快になる方々もおられるのだからな』

『――あ! これは失敬。偉大なる御方に会えると知り、舞い上がってしまいました! 英雄の物語を目と耳にし、思いを馳せる子供時代に戻った気分です』

『ハハハハハッ! 貴様は見所のある男のようだ。なるほど蹂躙王ベヘモト様が調略したのも頷けるというものですな!』
 一人が言えば、

『確かにな』
 冷静な声音でトロールが返す。
 冷静な中にもわずかに愉悦を含ませた声の調子。
 自分たちの主が褒められればそれで上機嫌になるのはラダイゴロスのところと一緒。
 質はどうあれこちらも忠誠心は高い。

『それで――どれほどでお会いになれますか?』

『ここにはおられない。所領であるネグーサまではここよりその馬車で二日ほどとなるだろう』

『ネグーサですか。以前は風光明媚な地ということでしたな。私は行ったことはありませんが』

『今も変わらん。ガガドムサ様はあの美しい地を気に入っておられるのでな。汚すことを許さぬ』

『配下を愛し、自然も愛する。正に王の資質を持っている御方』
 ここでもおべっかすれば、

『そうであろう! 次なる蹂躙王ベヘモトはガガドムサ様こそ相応しい』

『それもそうですが――』
 ここでミルトンのおっさんは含みのある感じを演じているようで、

『なんだ?』
 当然、気になったトロール。

『貴方様は身の丈が大きいので――』

『耳を貸せ――か?』
 巨体を屈めているであろうその耳に向けてミルトンのおっさんは――、

蹂躙王ベヘモトの称号もですが――次なる魔王の称号も――』
 小声をしっかりと拾ってくれる単一指向性のマイクに感謝。
 これに対して、

『ぬぐんっ!?』
 驚きから唾を豪快に飲み込めばドズンッと尻餅をついたご様子。

『貴様――中々に剛胆な事を口にする』

『ですが万物を愛される慈悲ある御方こそが世界の統治者であるべき――そう思いませぬか?』
 この言葉に静まり返ると、

『フッ――フハハハハハッ! 気に入ったぞミルトン! 貴様は本当に理解しているな!』

『真実を述べただけでございます』

『ますます気に入った! ガガドムサ様もお前に会いたいことだろう。暗君は有能な者を手放してしまったようだな』

『故に暗君なのでしょう』

『違いない! 我らが主の元で大いに励んでみせよ!』
 上機嫌なこって。
 冷静なトロールだったようだが自分たちの主がベタ褒めされれば気持ちよくてたまらないようだ。
 主だけでなく自分たちのこともサラッと褒め称えているのが小気味よかったんだろうな。

 ――再び蹄鉄と車輪の音が通信機から聞こえてくる。
 明るい声が飛び交っている。
 ラダイゴロスの兵とは違ってガガドムサの兵は喜色に染まった会話をミルトンのおっさんと交わしていた。
 佞言によって気持ちよくなった連中。
 冷静な思考を有しているトロールでも嬉しくなっているわけだから、それよりも単純そうな連中はミルトンのおっさんのおべっかを自分にも自分にもと欲していた。
 
 こんな調子でガガドムサのいる領地ネグーサまで二日か。

「あのおっさんの喉が枯れなければいいですね」

「問題ないぞトール」
 お! ちょっと声に苛立ちを滲ませていますね。
 民に暗君と言われても素直に受け止めるだろうが、裏切り者にボロクソに言われれば頭にもくるよな。

「それで、心配ないとは?」

「あの男は他者を喜ばせる言葉を語らせれば滔々と――それこそ丸一日程度なら話し続ける事が出来る」

「それは凄いですね」
 巧言令色や諛言ゆげん子爵なんて言われるだけはあるな。
 ネグーサへと到着する二日後には同行する連中の親密度はMAXになっていることだろう。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...