異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1858【頼られると嬉しいもんだ】

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「野営!」
 豪快な声の主はバリタン伯爵。
 薄暮の中でテント設営。
 フレイヤの時とは違って簡素なもの。素早い設営と撤収が可能な軍幕と呼ばれるものだった。
 雨風をしのげるくらいで地面はむき出し。
 雑嚢を枕代わりにし、寝袋の代わりになるのは厚手のマント。
 正に背嚢枕に外套かぶりゃ――だな。

「トール」

「却下」

「まだ何も言っていないでしょう」

「前回と同じだからな。俺たちだけが特別ではないのだ。なので家は出さないぞ」

「ぬぅ……」

「コクリコ達は爺様が用意してくれた馬車があるだけ贅沢だぞ」
 頑丈な作りで夜風なんて入ってこない。地面と比べれば柔らかい座席をベッド代わりに出来るんだからな。
 周囲の兵士達の寝床と比べれば文句は言えないというのは分かってくれたようで、馬車の内部をより快適なものへとするために輸送用の幌馬車に積まれた厚手の外套を手にして馬車へと走って行く。

「兵達と同じ目線ってのも大事ですけど、王様や貴族の方々は荷物を出してスペースに余裕のある幌馬車を寝室にしたほうがいいですよ」
 トップ連中が風邪なんてひいて指揮に支障を来せばそれこそ兵達には迷惑だと伝えると、先生も俺の案を推してくれる。

「ではお言葉に甘えさせてもらう」
 王様達は何人かに分かれていくつかの幌馬車へと向かう。
 ナブル将軍と心の友が渋い顔をしているのはフレイヤ同様、バリタン伯とまたも同じ場所で寝ることになったからだな。
 高いびきによる寝不足に苛まれないように先に入眠できることを願っていますよ。

 ――。

「ゲッコーさん。潜入班からの報告はありますか?」
 JLTVの車内で紫煙を燻らせているところに話しかければ、

「いや、定時連絡だけだ。ミルトンは十四男にかなり気に入られているようだな」

「気に入られすぎて俺たちのことを裏切らないでほしいですよね」

「そこは問題ないさ」
 言いつつ自分の首をさする。
 裏切れば直ぐにでも首輪がボンッ! ってことだからな。
 ラダイゴロスの兵が欲していたくらいだから練度の低いガガドムサのところの兵なら欲望まる出しで首輪を欲しがりそうなもんだが、ガガドムサに気に入られているということもあって手を出してこないようだ。
 こちらとしては十四男の威光に大助かりだ。
 数少ない財産が首輪と護送馬車ということを不憫に思ったようで、宝石のちりばめられた首飾りをガガドムサ本人からも受け取っているという。

「あのおっさんやっぱりやりますね。すでに贈り物までもらえる関係性を築いているなんて」

諛言ゆげん子爵とはよく言ったもんだよな」
 これにはゲッコーさんも大いに感心。
 間者として扱っていれば成果を出してくれるだけの才能を持っていただろうとのこと。
 王様たちもこういった長所をもっと上手く扱えていれば、また違った結果になっていただろうとゲッコーさん。
 どのみち我欲が強いから結果としては同じ事になっていたかもしれないだろうけどね。と、ミルモンが横から述べればハリウッディアンなヒゲに囲まれた口角を上げて笑みによる肯定で返してくる。

「ハリエットからは?」
 背後が気になるので質問すれば、まだラダイゴロスに動きはないということだった。
 一日たっても仕掛けてこないとなれば侮辱と受け取って怒りのままに追いかけてきそうだな。
 このことは筍氏二人と王侯貴族にも報告済みだそうだ。
 後ろからの怒りの追撃となれば驚異なんだけど、先生と荀攸さんは落ち着き払っていたそうなので問題ないと信じたい。

「明日のことも考えてさっさと寝るんだな」

「うっす!」
 お休みの挨拶を交わして俺用の軍幕に足を運ぶ中。

「あれはあれで他の兵達は羨ましいだろうな」

「だろうね」
 ロイル領の精兵である騎鳥隊は自分たちの相棒であるリレントレス・アウルと一緒になって寝ている。
 体全体を預けるのは正に生きた羽毛。最高の寝心地だろう。
 チコやバジリスク・イミテイト達もこういった理由で人気がありそうだな。

「ミルモンはベル達のところで寝てもいいんだぞ」

「冗談、オイラは兄ちゃんの使い魔だからね。ロイル領では別部屋だったけど、ここでは一緒のテントで過ごすよ」
 嬉しいことを言ってくれる。
 これを素敵な女性に言ってもらえたら有頂天になるんだろうな。

「それは残念だな」

「おうベル!? 音もなく現れるとは」

「感知できなかったのはトールが上の空だったからだろう」

「ミルモンでも連れに来たか?」

「それもあるが、これからの事を考えていてな」

「これからの事?」

「大きな戦いになる」
 声のトーンが重い。
 自然と姿勢が良くなってしまう。

「俺の覚悟を心配してくれるのか?」

「そうだな。出会った頃に比べれば大きく成長はしているが」

「最初の頃は情けなかったからな。今は大分、慣れたよ」
 この世界に来たばかりの時は戦いで相手を手にかけるという忌避感からベルやゲッコーさんに頼っていたからな。
 慣れることでもないんだけども。

「問題ないよ。大規模戦闘ってのは経験もしているからな。今回は今まで以上の規模になるけど変わらず戦うだけ。俺たちが励めば励むだけこちらの犠牲は少なくなると信じて励むだけ。相手の亡骸に思うこともあるだろうけど、何よりも味方と自分を優先するさ」
 そう継げば、

「それでいい。死んでしまえば守らないといけないものも守れないからな」
 今度は違う意味で声が重いな。

「なんかあったのか?」

「私の力が開花するのが早ければな――」

「早ければ?」
 これは【ワルキューレ・クロニクル】のゲーム内設定の話のようだな。
 ゲームプレイする前に元の世界で死んでしまったから、ベルの生い立ちなどの知識は無い。
 そもそも敵側として出てくる最強の存在だから深掘りされているキャラクターなのか分かっていない。
 発売前からキャラ人気が高かったことが原因で、敵なのに特典でバニースタイルがあるくらいだからな。間違いなく深掘りされるキャラではあるはずだけど。

「早ければどうしたの?」

「いや、それはまた時間のある時、話す気分になったら話させてもらう」
 ミルモンの質問に柔らかな笑みで返す。

「話す機会があったら聞かせてもらうけど、今は力が開花しているじゃないか」

「ああ。火龍戦以降、十全ではないがな」
 赤い髪から白い髪へと変化。そこから一向に戻る気配がない。
 以前、一瞬だけ色が変化したような気はしたんだけどな。
 現状は弱体したままだが、月明かりが照らす中で白い髪が風に揺れれば、白銀だったり青みがかった光沢を帯びたりして神秘的で美しい。

「十全でないにしても俺たちサイドの最強ポジは揺るがない。この世界でこれからも多くの弱い立場の人達を救うだけの力を有した存在だ」

「弱体しているがな」

「だからこその俺たちだろう。ベルの届かない部分は俺たちがきっちりと補うよ。まあ、頼りないだろうけど」
 事実、ベルと比べるとあまりにも頼りないからな。

「いや、存分に頼らせてもらう」

「お、おう!」
 きつい発言による激励ではなく、本心から俺に頼ろうとしてくれている柔らかい声による台詞は素直に嬉しい。
 ロイル領で一緒に行動して支え合ったことで俺への信頼が強くなってくれているなら尚更に嬉しいね。
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