異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1859【朝霧】

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「明日は早朝から動くことになるだろう。少しでも休める時に休むんだな」

「おうよ!」

「あと、もう少し静かにな」

「おう」
 早朝に備えて寝ているメンツも多いからな。嬉しさからテンション上がってデカい声になってしまった。

 ベルの背中を見送りつつ、

「ミルモン。俺たちが圧倒的強者に頼られる時が来るなんてな」

「けっこう前から頼られていたとも思うけどね。ま、兄ちゃんのことだから気合い入ったんじゃないの」

「入りますとも! ミルモンも最高の力で俺と一緒に大立ち回りだな」

「もちろんだよ♪」
 敵をちぎっては投げちぎっては投げでの八面六臂の大活躍をベルだけでなく皆に見せて大いに士気を高めてみせませう!
 嬉しさから気分が昂ぶって眠れなくなっちまうよ!
 たまらねえぜ!

「おおトール殿、随分と遅かったですな」

「あ、うん。うん?」

「ささ、寝床の準備は整えていますよ」

「あ、うん」

「ロイルでの宿泊を思い出しますね」

「あ、うん……」
 ――……なんでジージーが俺の軍幕にいるの? 俺とジージーはペアなのかな?
 トールハンマーではこの三人で特訓していたからそういった流れで班が決まっているのだろうか?
 ――……ううん……。
 昂ぶっていたのにな……。
 すんっ――と冷静になっちまったよ……。

 うん……。まさか狭い軍幕にて至近でジージーの素顔を見ながら寝ることになるなんてね……。
 たまらねえぜ……。

 ――……。

 朝霧が支配する平原。
 風光明媚って言うだけあって景色は最高。
 右側には大きな湖が見える。
 朝日に照らされた湖を目にすることが出来ればもっと感動するんだろうけども、日が昇る時間はまだ先。
 というより曇天模様なので本日は絶景を目にすることは出来ないだろうね。
 初見だと海だと勘違いしそうな湖はエーリィ湖という大湖だとナブル将軍が眠そうな顔で教えてくれた。
 侵略が始まる以前は、暑くなるとこの地は避暑地としても利用され、貴族、平民が分け隔てなく涼を楽しむことでも有名な地であったという。
 そんな時期には多くの商人が露天を開いて様々な物を売っていたそうな。
 朝から夜遅くまで賑わいのある楽しい時間を過ごしたものでした。と、心の友ダンブル子爵が寝ぼけ眼で教えてくれる。
 やはりバリタン伯と同じ馬車で寝たこともあってか寝不足のようで、疲れをとるためにノーマルポーションを一飲みする両人。

「飲んだところで張り切って行きましょう!」
 かく言う俺もきっちりと飲んでいるけどね。トラウマを克服しても就寝中ずっとセミの頭が至近にあればろくに寝られないっての……。
 
 程なくしてポーションの効果が出てきたのか、

「我が弓で愚かなる侵略者共を射貫いてやりましょう!」
 領地がエルフの国――エリシュタルトと隣接していることから弓術と弓の製造技術を学んでいるダンブル子爵が高らかに発せば、自領の兵達もそれに続く。

「戦うのもいいですがほどほどにしておいてくださいね」
 と、ヒッポグリフに跨がった先生が後方からやってくる。

「なにせ相手は我々にとって、大いなる脅威となる存在。現蹂躙王ベヘモトをも超える存在なのですからね」
 と、先生の後ろに座る甥の筍攸さん。
 ほどほどにやりつつ、相手の疑念を更に強める。

「皆さんの準備は整っているようですね」

「もちろんだ荀彧殿」

「本日も王は快活でなにより。大きな背中を見せることで兵達にも活力を分け与えてください」

「任せておけ!」
 力強いね。

「本気は出さないように願います。まずは疑心を今以上に強めさせることが重要なのですから」
 ここでも念を押す筍攸さん。

「書けていますか公達」

「ここに」
 と、王都ではメジャーとなってきた紙ではなく羊皮紙。

「どんな内容が書かれているんですか?」

「どうぞ」
 荀攸さんに手渡された羊皮紙の内容にざっと目を通す。
 
 ――――ふむん。なんだろうかこの当たり障りのない文面は。
 社会人となった時、相手先に送るような内容で戦いを伝えるものだった。
 つまりはこの文を送ってガガドムサに宣戦布告するのかな?
 この羊皮紙の送り先を聞こうとしたところで、

「さて、動くか荀彧殿」
 王様に遮られる。

「もちろんです。陥陣営殿」

「問題ない」
 短い返事。

「先にも公達が口にしましたが――本気を出さないように」

「問題ないと言っている」

「では――」
 ここで王様へと目を向ける先生。

「よし! 最前列はこれより我に続け!」
 抜剣から切っ先を前へと向け、自身の勢いを馬にも伝播させれば勢いよく竿立ち。
 王様の騎乗する馬は、俺のダイフクやベルの黒馬のようなサラブレッド体型ではなく、一回り大きな農耕馬を思わせる恵まれた体躯の軍馬。
 馬甲は小札タイプではなく、ギムロンやキュクロプス兄弟たちを中心とした職人たち制作の一枚の鉄からなる繋ぎ目がない馬甲。
 重量がある分、装備する馬は限られる。
 重々しい馬甲を装備した軍馬が竿立ちから勢いよく前足を地面へとつければ――ズンッ! と大地を揺らす。
 振動がダイフクの蹄を伝って俺のケツにまで届いた。
 俺のケツに届いたと同時に駆け出す王様。

「いやいや!」
 心の友であるダンブル子爵が慌てた声。
 誰よりも前に立つとは言ったけども、単騎駆けとは聞いていないと自身の馬の横腹をトンッと蹴って追走。
 これに他の家臣団も続く。
 王侯貴族の面々が先陣をきっていく姿を目にし、

「負けてられねえぞテメー等!」
 ちょっと離れた位置から聞こえてくるのはカイルの声。
 見事な健脚を披露してみせるのは冒険者の一団。
 一般的な兵士と違ってマナを扱える連中は馬いらずとばかりにこちらの先頭と併走してみせる。
 こうやって離れた位置から見るとやはり冒険者って超人だね。
 馬に負けない脚力を有しているんだから。
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