異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1860【まずは東側】

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「皆して心強いね」
 先頭を突っ走る王様に貴族の面々。
 これに負けじと冒険者たち。
 そして後方には兵達が続く。

「どんな感じかなミルモン」
 後方を肩越しに見ながらの俺のこの発言だけで何を意味しているのか分かってくれたようで、

「問題ないよ。兵士の連中、皆して覚悟が決まってるね。負の感情が少なすぎて逆にオイラは不愉快なくらいだよ」
 とのこと。
 不安な気持ちに支配されないで行動できるなら混乱に陥ることもないだろうし、指示をよく聞き入れてよく動くことも可能だ。
 空を見れば悠々と大きな羽を上下に動かして前進するワイバーンと、その後方では黄色い羽毛に包まれた翼を羽ばたかせるリレントレス・アウルによる騎鳥隊が続く。
 先頭はエンドリュー候。これを守るようにジージーが横を飛んでくれている。
 ジージーが側にいるなら心配はないな。

「――ん? なんか向かっていく方向から派手に炎が上がってますね」
 火が柱のように空へと伸びている。

「意味合いは同じだが、狼煙ではなく火の場合は狼火ろうかって呼ぶか」
 と、ゲッコーさん。
 日が昇っていない朝霧が支配する薄暗い時間帯。
 狼煙を上げても煙はまず見えない。そういった時は煙ではなく火で周囲へと伝えるという。

「そら、合図を目にして出てきようだぞ」
 と、ゲッコーさん。
 車両から頭だけを出し、

「俺は相手側の情報に注力するが――いいか?」

「もちろんですよ。情報こそが戦いにおいて重要ですからね。ちなみに――いまはどんな状況で」
 ミルトンのおっさんの監視として忍び込んでいるコールサイン・レイモンドからの報告では、狼火を目にして相手は浮き足立っているということだった。
 やはりラダイゴロスの兵達と比べて練度が低い。
 なぜ南下してまずぶつかるはずのアイトガムはイラムではなく、南西に位置するネグーサはタインクを目指してくるのか!? と、困惑しているということだった。
 低い位置を飛行するヒッポグリフに騎乗する先生と筍攸さんはこの報告を耳にして悪い笑みを湛えている。
 主目標となるはずであるアイトガムを無視するというのは本来、有り得ないからな。
 そんな事をすればネグーサとアイトガム方向から挟撃することも可能。
 もしくはアイトガム方向から北上して奪われた拠点を再度、手にすることも可能だし、何より相手側――つまり俺たちの兵站線を断ち切ることだって出来る。
 あまりにも違和感のある攻め方にガガドムサも困惑しているとのことだった。
 ここぞとばかりにミルトンのおっさんがガガドムサへと進言しているそうで、アイトガムの御仁と繋がっているからこそ後顧の憂いなくこちらへと攻め込めるのでは? と、伝えることでガガドムサはますます疑いを強めているということだった。

「要塞の周囲を守る砦へと攻めるわけですが、皆さん――攻めるのは東側だけにしてください」
 指示棒を発した方角へと向ける先生。これに一糸乱れる事なく皆して東側へと向かう。
 砦の数は東側に多くあるということだ。
 この地から東に位置する存在を警戒しているというのが丸わかりだ。
 疑いを強める以前から警戒しかしていないようだな。
 
 ――馬を進める。
 程なくして目的としている東側の各砦からも炎の柱が上がる。

「ここでも狼火」
 東側の砦に迫っているというのを他の砦や中心である要塞タインクへと火柱で伝えている。
 ここでもレイモンドから報告が入り、なぜ最も守りの堅い東側から攻めてくるのか! と、ガガドムサが要塞軍議室で声を荒げているそうで、そのタイミングに合わせてミルトンのおっさんが静々と接近しては耳打ちによる進言。
 内容は先生が指示を出していた通りとのことで、東側の砦を陥落させることでアイトガムの御仁が攻めやすくなるからでは? と、伝えれば、先ほどの進言も相まって強ばった顔が怒りに染まっているそうだ。
 態度にも表れているそうで、恵まれた体を生かして金のかかっているであろう装飾の凝った豪奢な長テーブルを拳でたたき割ってしまったという。
 
 ラダイゴロスに対して強い怒りを抱いているね~。
 そもそも自分がトップに立ちたいのだから怒気どころか殺意を宿しているんだろうけどな。
 
 ガガドムサを窘めるのはギギンの仕事のようだが一切、耳を貸そうとはしていないとのこと。
 それどころかミルトンのおっさんに妙案はないか? と、問う回数が増えてきているそうで、この短期間でおっさんはガガドムサから信頼を勝ち得ているようだ。
 首飾りまで貰えてんだからな。
 目付役であるギギンよりも今ではミルトンのおっさんの方がお気に入りになっているようだ。
 面白くないのはギギンのようだが、目付役としての責務を全うするために諫言にてガガドムサを落ち着かせようとするも聞き入れることはなく、おっさんの甘言にばかりに耳を傾けているそうな。

「ギギンなる御仁には同情するところもある」
 と、高順氏。
 これには俺と先生は作り笑いで返していた。
 呂布に諫言することで正そうとしても最終的には煩わしい存在としてぞんざいに扱われてしまっていたからな。
 高順氏は自分と同じ立場になっているギギンを哀れんでいるようであった。

「同情で穂先が定まらないということが起こらないように願いますよ陥陣営殿」

「その実力を私の前でも見せてもらいたいものですね」

「知者その一とその二は黙って我々の後方に続け」
 二人の荀氏にすげなく返しつつ、跨がるワーグの横っ腹をぽんと踵で叩けばしなやかに伸びた四肢の動きが速くなる。
 面長な巨狼の下顎が地面すれすれになるほどの低い姿勢となってからの加速。
 これにロンゲルさんが角笛を吹いて続く。
 いつも通りの騎馬の軍勢による突撃。
 砦から迎撃として出てくる兵達を前にしても止まることはなく、突撃してくる同胞であるワーグの群れに対しても躊躇をすることなく高順氏の穂先とワーグの牙と爪が敵陣を切り裂いていく。

「穂先が揺れ動く心配はないようですが、だからといって本気でぶつからないでいただきたい」

「あのような武威を見せられれば相手が恐れてしまうだけすからね。適度に戦ってほしいものですね。叔父上」
 ラダイゴロスの兵達ですら恐れてしまうのに、それよりも練度が低い連中が陥陣営指揮する騎馬と正面からぶつかり合えば直ぐに体を反転させてしまう。
 心配を口にする先生と筍攸さんだが、その二人が跨がるヒッポグリフだって容赦ない。
 むしろ高順氏よりも容赦ない……。
 象ほどの大きさを有する幻獣が大きく翼を羽ばたかせるだけで突風を生み出し、風圧で相手側の動きを封じれば、鷲からなる頭部と前半身、馬からなる後半身が遺憾なく力を発揮。
 鋭い嘴と前足のかぎ爪で敵を引き裂き、後ろ足では踏み潰して蹴飛ばす。
 動作を一つ行うだけで数人が軽々と宙を舞う。
 落下したとしても後方に続く騎馬によって踏み潰されて助からないだろう。
 まあ、大抵は宙を舞っている時点で絶命しているけど。
 それほどにヒッポグリフの突撃は強烈。
 
 まさかまさかの知略担当である筍氏無双かよ。
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