異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
171 / 1,861
王族の湯治場クレトス

PHASE-171【モブの名前じゃねえ!】

しおりを挟む
 あれだろ、そこなモブよ。お宅が次ぎに口にするのは、ワック・ワックさんかゴロ太が、山賊に捕まったって発言なんだろう。

「どうしたのウェンセスラス」
 シャルナが発したモブの名前。
 
 ――……なんだよその無駄に格好いい名前は。
 お前なんて、ここだけの登場だろうに!
 
 人にはそれぞれの人生がある。なので名前だってあるし、格好良くてもいいだろう。
 だが、お前の名前は、ここで使用されるものではない!

「ワックさんが山賊たちに捕まった」
 ほら、はたして正にだし、どうせお前の台詞はこれにて終了なんだろう。
 ウェンなんちゃらめ! その程度の台詞数で、無駄に格好いい名前しやがって。
 
 でもって、これから助けに行くんだろ。

「場所は!」
 興奮気味のシャルナが、肩で息をするウェンなんちゃらの肩を掴んで揺さぶる。
 
 その間に、俺はアキレス腱を伸ばして、柔軟体操を始める。
 俺たちも行かないといけない流れだからな。
 走らないといけないからな。




「――――で、ここか」
 警邏をしていた人達とも合流。
 ワックさんと行動していた方々らしい。
 一瞬はぐれてしまって、その間にワックさんが捕らえられたと、シャルナに申し訳なさそうに説明していた。

 シャルナお手製の弓を装備した屈強な男達。
 力自慢。更に瘴気からの解放。
 俺やゲッコーさんが危惧していたように、緊張感が弛緩してしまったようだな。

 山道から離れた茂みに、草木を使った小屋が四軒。
 葉の屋根に、土壁。

 急ごしらえで作った見た目だが、十分に住める作りだ。

 クラーケンがいた島の海賊もそうだったが、賊と呼ばれる連中は、なんでこういう技術を世の為に使わないのか。

「こんなところに拠点を作ってるなんて」
 おいおいそれでもスカウト専門のエルフの冒険者ですか。と、言ってやりたいが、場が真面目な状況なので口には出さない。
 俺が勇者だって事は信じられないと、さんざっぱら言われ続けたが、俺は優しい男なので口に出す事はしない。
 さてと――――、どう攻めるか。
 車座でプランを考えていると、

「悪党ども出てきなさい!」
 以前の約束を全力で破ったな! このまな板娘!
 でっかい声出しやがって!
 
 隠密で行動できないのかね。俺たちに迷惑をかけたらパーティーから速攻で追い出すって事を忘れてますか?

 お前なんてな、パーティーから追い出されたら、それで終わりの存在だからな。
 追放された後に、TUEEEEEな活躍でチヤホヤされる主人公たちとは、違うんだからな! 
 スポットライトに照らされるポジションとは対極の存在なの!
 だから、俺たちに迷惑をかける行動をとるんじゃねえ!

「ファイヤーボール」

「だから暴走すんなや!」

「お前も十分にうるさいぞ!」
 なんで俺だけ叩くんだよベル!
 愛情の裏返しとして勝手に受け取るからな。
 俺ってポジティブ。
 などと思っているところではない。

「何してんだ!」
 俺同様に、村の方々に怒られるコクリコ。

「誰だ!」
 小屋の中から出て来ると、誰何する山賊。
 続々と残りも飛び出してくる。
 
 幅広の剣で統一された装備。
 重量がありそうだが、それを得物とする力自慢といったところか。

 レゾンの海賊たちみたく、もじゃもじゃのひげ面ばかり。
 つまりは――――、モブ。
 
 だが、油断はしない。
 
 モブでも、村のモブの名前は格好良かったからな。
 
 モブでも実力はあると判断するべきだろう。

「事ここに至ってはしかたない。戦闘準備! 相手が状況認識を終える前に一気に叩くぞ」
 抜刀してから先頭を走り出す俺。

「様になってきたじゃないか」
 ハンドガンをスライドさせながら続くゲッコーさん。
 ハンドガンは麻酔銃だ。

「俺が勇者だって事をあのむかつくエルフに分からせないといけませんからね」
 なんて返しながら、刀も返す。
 峰を相手に向けての胴打ち。
 急に茂みから飛び出した俺に対応できなかったようで、綺麗に胴に入った。

「ぶぇ……」
 と、クリティカルだと伝えてくれる苦痛の声。
 力なく崩れ落ちる賊の一人。

「ベルヘルトライヒェン!」

「は?」
 山賊の一人がそう叫ぶ。
 俺の攻撃によって倒れた男に向けて、確かにそう叫んだ。

 ここいらにいる連中は、モブっぽいのに、名前のくせがすげぇ!
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...