異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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増やそう経験

PHASE-334【有能のありがたみ】

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 ワインの価値は理解できないが、これは俺の元いた世界で飲めばとんでもない値段になりそうな気がする。
 そんなこと知らねえよとばかりに、ここにいるお歴々は無遠慮に、そして気品を持って飲んでいる。

「さあ、酒だけでなく、このニジマスの塩焼きを是非に」

「おお! これはバリタンが獲ったのか」

「ええ、手づかみで獲ったものです。随分と川の水も冷たくなってきました」

「見事だな。さあトールよ。バリタン伯が獲ったニジマスを食してくれ」
 え、王様。今、伯って言ったね。
 伯爵が川に入ってこのデカいニジマスを手づかみで獲ったの?
 大貴族が川で魚を手づかみ……。
 本当に逞しくなりましたね……。
 
 当のバリタン伯爵は、今は領地も無ければ髪もない伯爵ですが。と、禿頭をペチペチと叩きながら口を開く。
 すかさず王様が髪は昔から無かったと言い、周囲が大爆笑というノリである。
 
 ――――このバリタン伯爵。その昔、敵陣にて孤立した時、両手にする得物である鉄鞭を振るいに振るって敵中突破をしたという逸話を残しており、そこから狂乱の双鉄鞭という異名で呼ばれるようになり、敵から心底、恐れられた存在となったそうだ。
 悪いと思うが、正直、脇役のようなポジションの武勇伝はどうでもいいです。
 などと口にしたいが、まあ皆してバリタン伯に続けとばかりに、昔の武勇伝を語り出す。
 ここで話の腰を折ると、空気の読めないヤツだと思われるので、口は真一文字で閉じておこう。

 ――……隙あらば自分語りというのを生で見る事が出来るなんてな……。

 そんな武勇伝があるなら、なぜに最後の一兵になるまで魔王軍と雄々しく戦わずに城に籠もったのか! と、ベルがこの場にいたらな、それはそれは凍りつくような語調で語っていただろうな。

 武勇伝を聞き流しながら、目の前で切り分けられたニジマスの塩焼きに舌鼓。

「おお!」
 これは美味い。
 シンプルだからこそ、ニジマスの脂の旨味が伝わってくるね。
 調味料は乏しいが、これは塩のみでOKだ。
 ワインと伯爵が獲ったニジマス。王侯貴族の食事としては質素だろう。
 自給自足みたいなもんだし。
 民の恨みが表に出にくいのも、やはりこういう質素さが普段からあったからだろうな。
 恨みよりも慕う心の方が勝ったのだろう。

「うん! 美味い!」
 気品あるおっさん達が楽しく食事を取る光景に、ついつい声に出してしまう。
 勇者殿に喜ばれて何よりと、禿頭を叩きながら笑みを絶やさないバリタン伯爵。
 皆が皆、子供のような破顔だ。
 いい歳をした大人達。歳の数だけ皺も刻んでいるから、笑えばその皺が更に深くなる。
 黒パンをニジマスから出た脂に付けて食べれば、下手なバターよりも美味かった。
 すかさず渋みのあるワインで脂が支配する口の中をリセット。これはいいコンボじゃないか――――。
 
 俺の想像する王侯貴族の食事風景とは違うが、こっちの方が親しみが持てる。
 今回の食事で、俺の貴族に対する好感度がグンッと上がった。




「さっそく記念硬貨の製作に取りかかるそうで、造幣局も再開準備に入るそうです。本格的に貨幣が流通します」
 帰りの馬車の中にて、外の風景を見ながら先生の話を聞く。
 貨幣流通の内容の中には、王サイドからもポーション素材の採取依頼を冒険者達に出して欲しいと、食事会の中で俺が述べさせてもらったものも含まれていた。
 今後、貨幣がメインとなれば、王城からのクエスト報酬は、金で支払われることになるそうだ。
 クエスト報酬らしい報酬だな。物々交換よりやはり金だよな。
 金の方が宝物より出しやすいってのもあるだろうし。

 王様達の今の動きは迅速。俺たちの目の見えない所で国政に尽力している。
 そのサポートをする先生も、現在の王様達の仕事ぶりには感嘆していた。
 夕焼けに染まる街並みの中、それを眺める俺たちの頬も朱に染まっている。

「俺は恵まれてるな~」
 言葉尻が伸びた発言をポロッと出してしまうのは、酔いのためだろう。
 はっとなって、同席する二人を見れば、口角がわずかに上がっていた。
 思っていた事がついつい口から零れてしまった恥ずかしさで、俺の顔は朱から赤に変わったことだろう。
 
 ラノベなんかだと、良い王様と、嫌な王様の2バターンに別れるけど。
 この世界は前者だった。
 それだけでなく、周囲の臣下である貴族達もまともなんだからな。
 王様がよくても、貴族が足を引っ張ったり、両方とも主人公の邪魔をするってのもある。
 そんな作品を読んでいると腹も立つが、最終的にざまぁな状況に持って行ってくれる作家先生の技量で、俺の溜飲は気分良く下がる。
 
 そんな嫌な王侯貴族とは違い、今や俺は、両方から協力を得ている。
 周囲の面子なんて、有能の頭に、超どころか極がつく。
 本当にありがたいよ――――。

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