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極東

PHASE-366【屋敷へ】

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だがしかし。俺は覗き魔ラインブレイカー。この程度の間仕切りなど我が強靱なる爪にて――――、

「よからぬ事は考えるなよ」

「あ、はい……」
 間仕切りが少しだけ開かれて、そこから炯眼のエメラルドグリーンが輝けば、絶対遵守の力を有しているのか、俺は発言に対して、隷属することしか出来なかった。

 ゲッコーさんは以前の痛みを体験したくないからと、そそくさと眠りについた。
 まだまだここの人達に信頼されていない状況下であるのに、エロに浪漫を馳せていたら馬鹿そのものだ。
 
 現に、俺たちが使用している大広間の出入り口であるドアには、見張りの立哨がおり、窓から一階を見れば、俺たちの窓の直下では篝火が焚かれ、そこでも立哨が見張りをしている。
 こういう状況下だと、緊張して眠りにもつけやしない。
 ――――などとは思わず、俺たちを寝ずの番で守ってくれているんだとポジティブに変換。
 
 俺たちも長旅でここまで来たからな。しっかりと睡眠をとって体力を回復させておかないとな。
 ギャルゲー主人公の家のおかげで、長距離の移動であっても、ぶっちゃけ疲れ知らずではあるが。


 ――――うむ。何事も無く起床できた。
 窓から下を見れば、立哨は不動。
 ひたむきに任務に就いている姿は素晴らしい。
 一階から視線を正面へと戻せば、白む空。朝日はまだ出ていないが、空の明るさからして本日も快晴だな。
 起床から一時間ほど経過すれば、コクリコ以外は皆が起き、各々が好きに時間を過ごす。

 そんな中で、ドア向こうからカチャカチャとした金属音がする。
 立哨たちが動作をしているようだ。金属音は鎧が擦れる音だな。
 ――――俺、こういうのが分かる人になってきた。
 多分だが交代か、もしくは――――、
 コンコン――と、ノック音がするかのどちらかだろうな。と、思っていたよ。
 で、正解は後者だったわけだ。

「なんでしょう」
 と、ドア向こうの人物に返す。多分だが昨日に引き続き、美人団長殿だろうな。

「おはようございます。よろしいでしょうか」
 はたして正にだった。
 昨日もだったが、入室してこないのは、教養と常識ある人物だからだろう。
 こちらが肯定しないかぎり、開けるという事はしない。
 なので、

「いいですよ」
 言えば、ドアノブが可動し、昨日と同じ整った装備で入室してくる。

「昨日は多大なるご迷惑をおかけしました。部下たちの行動をお詫びします。私個人も勇者殿には無礼な発言。罰は団長である私だけに留めていただければと思っております」
 深々と頭を下げれば、金色のフィッシュボーンが軽やかに動く。
 部下の失態も全て自分がと、挺身の姿は、責任が取れる責任者。理想の上司であった。

「お気になさらず。一日寝たら解決です」
 と、和らげるために笑い混じりで返せば、そう言ってもらえると助かりますと、笑顔を見せてくれる。
 昨日までは厳格に騎士団長をやっていたが、本日は緊張がほぐれているご様子。
 ほぐれ具合から、これは良い報告をもらえると推測する。

「我が主がお会いになるとのことです。折角ですので、朝食も一緒にと」
 やっぱりな。侯爵が俺たちの事を信用していいと言ってくれたに違いない。だからこそ警戒をせずに俺たちへと接するわけだ。
 辺境候として、この極東を鎮護する人物といよいよご対面か。
 しかも朝食を一緒にとは、初対面なのに、俺たちを信用してくれていると考えていいだろう。

「お言葉に甘えて朝食をいただこうか」
 俺の発言に皆は頷いてくれる。
 朝食という台詞で、爆睡していたはずのコクリコが素早く起きる姿は流石だった。

 ――――兵舎を出る。
 この兵舎から侯爵の屋敷は近いそうだ。
 有事の際、兵と共に即対応するため、新たに屋敷が立てられたそうだ。
 城郭都市の中枢にある屋敷は、直ぐさま中央指揮所に早変わりというわけだ。
 でも、わざわざ新しいのを建てる必要あるの?
 
 侯爵が会うと言ってくれたが、ハンヴィーでの移動はいらぬ刺激を与えるからと、馬車で移動する。
 賓客として迎えるということのようで、専用の馬車が用意されていた。
 ティーカップのようなデザインからなる、光沢有る黒塗りの馬車。
 馬車の縁取りは金装飾。絢爛で有りつつ、瀟洒も同居するデザインは、大きな漆器を彷彿させる。
 輪島塗のようだ。

 白馬で統一された四頭立ての馬たちは、サラブレッドのような細身でありながら、全身が筋肉からなる逞しさ。
 力強さと俊足を両立させたのが、外見からでも窺える。

 ――――乗り込み走り出せば、車輪部分にはサスペンションでも備わっているのかと言いたくなるくらいに静か。
 道も綺麗に舗装された石畳。
 敷石と敷石の隙間も段差のない作り。

「いやはや、次々と王都を越えてくるね」
 感嘆しつつ、負けられないという思いも芽生える。
 大陸の中心である王都が、兵舎でも馬車でも道でも負けるのは悔しいからな。
 俺のギルドがある以上、ここよりも立派な都に復活させたいと馬車内で皆に述べる。

 ま、俺たちが王都に戻ると、凄い勢いで発展が進んでいるんだろうけどね。
 何たってこっちには先生がいるからな。

「王都もだが、我々の場合は周辺地域だろう」
 と、ベル。
 確かにそうだ。王都は最低限の生活環境とインフラが整えば、現状では十分と考えないとな。
 王都にだけに力を注いでも意味がない。
 大陸全体で考えなければならない。
 ついついこの城郭都市の素晴らしさに、対抗意識を持ってしまった。
 持つことはいいだろうが、優先順位を見誤ってはいけない。
 
 なんて考えていたら、馬車は格子門を潜る。
 大きな屋敷が見えてくる。
 視界が捉える外構は、ロータリーとその中心に噴水。
 ぐるっと道に沿って馬車が進み、屋敷の入り口前で、四頭は客車に振動を伝えることなく止まる。
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